第129話 突然のステージ
オレたちブラザーズは、翼を消して擬装したリロメラとともにギルドに来ていた。
この世界の街中を、人間の目線で初めて見たリロメラには全てが新鮮だったようだ。
「リロメラ、もういちど確認するがいいか?」
オレはまるで遊び気分のリロメラに、襟を正してもらうつもりで聞いた。
「大丈夫だって、俺ぁ遠い国から来た魔物と人間の混血で唯一無二の存在、人里に降りてきたのは初めてでまだ何にも知らない、だろ?」
「リロメラ、あんまり羽目をはずした態度だと、一洸さんに迷惑がかかるのよ」
そう諫めてくれるアンナだったが、耳には入っていないようだ。
「へーきだろ一洸、おめぇはここでも顔なんだしよぉ!」
一体誰から聞いたのだろうか、顔とはなんだ。
ミーコだな……
オレはミーコを見たが、ニヤケながら顔をそらしてしまった。
「リロメラ…… この地上では出来るだけ目立たないようにした方が動きやすいんだ、わかってくれよ」
「ヘマはしねぇよ、心配すんなって」
イリーナが水晶に手をかざしたリロメラを見ている。
とても人間とは思えない整った顔の造作、その驚きはリロメラを見る彼女の表情から伺えた。
「属性は…… 無属性ですね。たまにあります」
直後、イリーナが見せるにはふさわしくない“は?”という驚愕の表情。
年齢???
桁の表示が3つということは、少なくとも3ケタの年齢ということらしい。
体内魔素はほとんど見受けられない。
そして性別は?であった。
つまり、男でも女でもない。
魔物との混血ということで納得してもらったが、本来ならあり得ないデータだそうだ。
「リロメラ…… その、聞きにくいんだが」
「おらぁよ、人間とかと違って生殖して増えねぇんだ。
だから雌雄はなくてよ、その、どちらにでもなれんだよ、必要に応じてな」
アンナとレイラは口を開けて驚くばかりであったが、飛び上がったのはミーコだ。
「すごいよリロメラ! じゃあ女の子になろうよ! あたし服選んであげる!」
そういうことじゃないだろう。
だがアンナもレイラも“そうか!”の表情で、乗り気なようである。
また工数が増えるのか……
「……この後武器屋だからね、それはまた今度」
「一洸心配すんな、おらぁ武器はいらねぇよ。
相手をふっとばすのはこれだけだからよ」
そう言って、自分の右手をオレに差し出して見せた。
仕方ないので、はしゃぐ彼女たちに連れられて、いつもの洋品店に行った。
元々薄いローブを羽織っているだけの姿だったが、これでは確かに性別不明だな。
この子たちのコーディネイトで、リロメラが女の子になる……
無粋ながら、オレは少し興味が湧いた。
きゃあきゃあと騒ぎながら服をあてがわれるリロメラは、それほど悪い気はしていないようだ。
オレは、“おほん”と咳払いをすると、娘たちに言った。
「リロメラはさ、これから魔物と戦うんだから冒険者用の服で頼むよ。
そんなヒラヒラはいらないだろう」
オレが何を言っても無駄なようだ、彼女たちはこのヤンキー天使をアキバのメイドにする気満々である。
ふぅー……
買い物から解放されたのは、それからしばらく経ってからだった。
見た目の限りでは、無難な女性冒険者である。
ショートパンツでもなくミニスカートでもなかったので、彼女たちはオレの言葉を少しは汲んでくれたようだ。
馬酔木館の裏からダンジョンの入り口に転移したオレは、いつものように彼女たち?を前にルールを説明する。
「ヤヴァそうになったら一洸に収納してもらう、お前らから離れない、単独行動はしない、だろ?
でもよぉ、もしお前らの誰かが攫われでもしたら、オレは単独全開でぶちかますぜ」
そうなるだろうな、でも前置きは必要なんですよリロメラさん。
オレは、前回のポイントに転移した。
それは突然現れた戦闘ステージだった。
ダンジョンのポイントでトロールが戦っていたのは魔物ではなく、人間サイズのネクロノイド。
ネクロノイドがダンジョンに?
そのネクロノイドは、立ち向かってくるトロールの投擲を避ける動作すらしなかった。
トロールが何かの魔法を発動。
巨大な光源が空中に発生し、トロールが光源玉をネクロノイドに振り投げるように放った。
が、ネクロノイドは軽く身体をくねらせ薙ぐような仕草をしただけで、光源玉は破散してしまう。
まるでうるさい蠅を払うように、ネクロノイドの存在には全く影響を与えていない。
トロールが岩を持ち上げたままネクロノイドに突進して行く。
ネクロノイドは軽く息を吐くように身体をうねらせ、何かのエネルギーを放った。
トロールは岩ごと完全に消滅してしまう。
「アンナ、レイラ!」
オレは本能的にまずいものを感じて、近くにいたアンナとレイラを収納、ミーコとリロメラを保管域に戻すべく警告した。
リロメラが暴走しはじめてネクロノイドを攻撃、ダンジョン内に光の爆発が起こる。
リロメラを収納しなければ、転移するわけにはいかない。
そんなオレを守るべく、ミーコがオレを抱えて現場を離れようとした。
「リロメラ、自分で外出れるよねっ、あたしおにいちゃん連れて逃げるからー!」
「おぅ、まかせろや!」
そんな勝手なやりとりをネコ娘とヤンキーは交わし合って、オレはミーコに強く手を引かれて洞窟を走った。
「ミーコっ!」
オレは引いているミーコの手を止めた。
「ミーコ、ボックスに入るんだ!」
無理やりミーコをボックスに入れようとしたが、
「いやっ! ダメ!」
「ミーコ! リロメラを収納するまでオレは入れないんだ!」
オレは強く言ったが、ミーコは素早くオレを抱えると凄い速さで走り始め、あまりの素早い動作と俊足に声も出ない。
ダンジョンの洞窟を抜け、ネクロノイドの気配から遠ざかるのを確かめると、ミーコは走る速度を落として岩陰に隠れるように止る。
呼吸はほとんど乱れていない。
「ミーコ……」
こんな時、オレは何といえばいいのだろう。
自分を守るために必死になっている、目の前の女の子に……
「おにいちゃん…… あたしわかるんだ、本当に危ない時と、そうでない時って」
「……」
ミーコがオレをつかむ腕がピクッとする。
「あたし、そんな時はおにいちゃんの言うこときかないから」
オレは今しがた見た彼女の力と俊足を全身で感じた直後だけに、もはやその言葉に抗う気持ちもなかった。
「……ミーコ」
「あたし、強くなるって決めたの! でないとおにいちゃんを守れない……」
強くオレの手を握って言うミーコは、鳴きながらオレの帰りを待っていたあのミーコではなかった。
【 恐れ入ります、下記お願いいたします 】
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