第127話 通じるもの
オレは保管域に戻った。
“一洸…… その、ありがとう”
アールはそれだけ言った。
オレにはそれで十分だった。
“アール…… こちらこそだ。
アールがいなかったら、連邦とネクスターナルの対話は、決して実現しなかったろうよ”
「一洸、お前ぇ大丈夫なのかよ……」
「リロメラ、本当に助かった」
オレはアンナとレイラの様子を確認した。
「君たちは…… その、身体は大丈夫なのか?」
すぐ後ろで、ネフィラが笑顔でうなずいているのを見て、少し安心する。
それほど重症ではないようだが、いずれにしろミーコと彼女たちを連れて平常空間に戻らなければならない。
オレは、今までにないほどの体調の変わりようだった。
ミーコと抱き合っただけだったが、それでも身体がおかしくなってしまうのではと思うほどの状態が続いている。
休憩ブースとして使っている、ベッドの置かれたパーティションで横になったオレとミーコに、ネフィラは静かに術式をかけてくれている。
二人分の魔法行使を同時にやっているネフィラに、オレは申し訳ないと同時に、この人に返してあげられるものはなにか考えていた。
ネフィラは、まるで全てを悟っているかのような微笑みをたたえて、オレとミーコに手を充てている。
その美しい手から流れ出る魔法は、大量の魔素を浴びたオレの身体をゆっくりと落ち着けてくれていた。
「二人で乗った機体はどうだった?
一緒になって発動した魔法の印象、伺いたいわ」
じっとオレの方を見ているミーコが、まるで堰を切ったように話し出した。
「ネフィラ先生、あたし我慢できたよ!
おにいちゃんに襲いかかったんだけど、ギューッとしただけでそれ以上何もしなかった!」
通信できないくらいキスの嵐だったのは言わないのか……
ネフィラは、オレの首筋にあるキスマークを見たのか、微かな微笑みが笑顔に変わった。
「一洸さん、初めての試みだったけど、あなたは大丈夫だったの?」
「え、ええ…… その」
そこまで言った時、アンナとレイラが仕切りの向こうから入ってきた。
「……具合、どうですか」
自分たちがそれほど重篤でなかったのもあるのだろう、様子を確認しにきたようだ。
「ちょっとひと暴れしたい感じ!
バトルしようよ! いいよね先生?」
「いってらっしゃい」
ミーコは、オレの方を見ながらブースを飛び出していった。
ネフィラは、ミーコたちが走り去っていくのを見届けると、充てていた手を下げて、オレの胸に触れた。
「……大変だったみたいね、私に気兼ねしなくていいのよ」
「いえ、気兼ねだなんて。
あんまり濫用はできない、それがわかっただけでも良かったです。
注意深く運用していけば、結果はだせそうですし」
ネフィラは、オレの胸に覆いかぶさってきた。
「私で発散してもいいの…… ミーコちゃんみたいに生きているわけじゃないんだし。
彼女も許してくれるわ…… だって、こうして二人にしてくれたんだもの」
やはりそういうことなのか。
ミーコがオレを気遣っているのか、ネフィラのためなのか…… それはわからない。
「そんな動機であなたに触れたくないんです。
今まで何度もネフィラさんに抱きしめられて…… オレは助けられました。
こうして今も助けられています」
しばしの間があったが、しくしくと胸に感じる軽い嗚咽。
「……私の事、ちゃんと見てくれてるのね。
でもあなたに、あなたの優しい気持ちに触れるたびに、私…… 私、生きていたかったって……」
ネフィラはオレの胸の上で泣き始めた。
オレは今までとはちがった力の入れ方で、彼女を受け容れる。
ネフィラはしばらく、オレの胸で泣いていた。
馬酔木館の部屋で安静にしているオレに、ミーコは優しく寄り添ってきた。
「おにいちゃん、我慢しなくていいんだよ…… あたし、これくらいしかできないけど」
ミーコは、オレの二の腕に胸を押し付けてくる。
それはいつもとは違い、性的な欲求に満ちていない思いやりを感じさせた。
気持ちというのは言葉ではなく、こうして触れ合っただけで通じてくる。
本当に不思議だ。
「ミーコ、君とそうなる時は、ちゃんとそう言うよ。
こんな流れでじゃなくてね。
その時は、お願いします」
オレはミーコを抱きしめた。
ミーコは涙を流して、オレの抱擁を受け容れてくれた。
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