第126話 助け合う心
「衝撃波、来ます!」
第7航行群旗艦のオペレーターが言うや否や、ズシンという衝撃波が空間全体に波打つように押し寄せた。
「第二波、来ます…… 続けて、第三波です」
微かに輝いた光点は、とてつもない破壊の証であると同時に、あるポイントの消失を物語っていた。
「大佐…… 杉本一洸の機体の反応が、消失しました」
衝撃波による振動から身を支えるため、コマンドブースの背もたれに手をかけていたホワイト大佐は、一瞬表情を凍らせた。
「機体信号の再確認をしろ…… エイミー少尉、一洸に連絡だ」
エイミーは、了解を言う前に一洸に通信を試みた。
“一洸…… 一洸、応答して、一洸……”
オレはミーコとしっかり抱き合いながら、エイミーの通信を受けた。
“一洸、応答して、一洸……”
“……連絡遅れましたが、今あの敵機械惑星を排除したところです。
こちらの被害は…… 提供していただいたラウンドバトラーを破壊されてしまいましたね”
“バカ、あんた生きてるのよね…… もぅ”
オレはエイミーの普通の女の子らしい声を初めて聴いた気がして、少し嬉しかった。
ミーコが、話しているオレの唇を塞ごうと躍起になっている。
“エイミーさん、もう少ししたらすぐ連絡します、今ちょっと後処理にかかってまして”
“大変なの? 手を貸すわよ”
オレの唇はミーコに完全に奪われてしまい、その先を話すことが出来なかった。
「未知の知性体デバイスの破壊映像、出ます」
第7航行群の技術スタッフが、司令室のホワイト大佐以下、尉官たちに確認できた機械惑星破壊の状況をモニターで説明している。
「弾跡反応からわかる限りですが……
あれは、光子エネルギー弾です。
それに、量子魚雷も。
同時に成分不明の実体弾が複数種類、粒子ビームからの制御で収束されて放たれています。
どういった制御方法なのか、エネルギーのコントロール方法も不明です」
彼の説明が、それ以上続くことはなかった。
「現在の、我々の技術であれを再現するのは…… 不可能です」
ホワイト大佐の唖然とした表情、今の彼はおじさんなんだろうか、それとも……
エイミーは、大佐の横顔を心のファインダーに収めていた。
一洸、やったわね……
あなたのせいで忙しくなりそう。
でも次のゲームでは、絶対負けないわ。
エイミーは、誰にもわからないように不敵に笑った。
“一洸、忙しいところ度々ごめんなさい。
ネクスターナルから公開通信が入っているのよ。
あの攻撃の立役者である、あなたの所在を確認して話がしたいそうなの……
一洸…… ね、聞いてるの?”
しばらくして、またエイミーからの通信だった。
内容からすぐ応答が必要なようなので、オレはしがみつくミーコを抑え込んで、返答した。
“わ、わかりました、今大丈夫です”
公開通信か。
みんな聞いているわけだな、いいだろう。
“イチコウスギモト、先の6734G4H救出の件では大変世話になった、ユニットを代表して深く感謝を申し上げる”
“いえ、当然のことをしたまでです。
大事に至らなくてよかったです。
先に攻撃を受けて破壊された艦は、残念ながら救えませんでした”
“その心配には及ばない。
我々ネクスターナルは、意識媒体のバックアップを常に走らせているので、組織体が物理的に消滅しても、本質的な死に至ることはないのだ”
なるほどそういうことか。
だとすると、今回の戦闘も行方不明状態のアールも意識媒体は本体に保存されているということか。
色々凄すぎだなネクスターナル。
“イチコウスギモト…… あなたは、本当にオールドシーズなのか。
いまの質量攻撃、我々ネクスターナルの持ちうる常識では理解不能だ。
一体どうやって……”
“話すと長くなりますが、これも多様性の一つです。
先ほどあなたがたが見た光は、多くの個性を持った仲間たちとの協力の成果、一つの形に過ぎません。
オレ一人の力ではとうてい成しえない成果なんです”
ネクスターナルは、沈黙してしまった。
同時に連邦も同じく押し黙ってしまう。
“手を取り合える部分を、少しづつ増やしていけばいいと思いますよ。
だって、オレたちは人間じゃないですか”
ネクスターナルも連邦も、黙ってオレの発言を聞いてくれている。
オレは続けた。
“……ある人の力が、この成果に大きく関わっています。
今その人の名前を言うわけにはきませんが、あなたたちにとって、心強い味方となる人です。
その人の力なくして、あの横暴な連中を退けることは出来ませんでした。
彼は失われた文化を感受することを希望しつつ、長い年月を過ごしてきました。
ネクスターナル、その生き方が間違っているなどとオレが言うことは出来ません。
オレは人間です、人の多様性や個性は、人の数だけあるということ、これくらいはわかっているつもりです。
人類の…… 人間の形がいくつかあっても、いいと思いますよ”
高位知性種、奴らはそう言った。
この銀河系において生物としての形態を捨て、精神生命体としての究極の状態を得た存在。
あの機械惑星、恐らくはまた現れるであろう。
横暴な上位存在を自称する彼らがやっていることは、ネクスターナルがオールドシーズに押し付けていた考え方と、そう大差はない。
オレは、連邦とネクスターナル双方に対して語りかけた。
“我々は人間です。
姿、形は変わってしまっても、その心は、人の心は失っていない。
それは理解し合い、助け合う心です。
私はあなたたちの生きる時間の人間ではありません。
ですがその心は、私の生きた20XX年の人たちとなんらかわらないことがわかりました。
もちろんあの時代でも争いは絶えませんでしたし、戦争もありました。
ですがそんな中でも、互いの多様性を認め合って、生きていこうという人たちに支えられて、あの時代まで脈々と種を保存してきました”
すすり泣く声だろうか。
なにか、掠れたような声がかすかに聞こえたような気がした。
オレは続けた。
“今、私たちには共通の敵が生まれました。
人間は手を取り合って、この難局を乗り越えなければならないと思います。
お互いの主張はあるでしょうし、譲れない部分もあるでしょう。
多様性を認め合って、手を取り合える部分は協力していきませんか。
数百年前の、ただのちっぽけな人間にすぎない私ですら気づくのです、あなたたちがわからないはずはない”
繋がっているコミュニケーターから、なにか熱い想いのようなものが伝わってくる。
言葉にならないそれは、とても機械が発するものだとは思えなかった。
“……オールドシーズイチコウ、連邦の若者よ。
我々ネクスターナルとオールドシーズは、互いの主義主張により人の道を岐れて久しい間柄だ。
君の言うことはもっともだ、我々もそれはわかっている。
君の意見を受け入れる用意も、素地も、またその心も、私たちは持っているつもりだ”
「私も…… 多様性の一つなんだよね」
涙ぐんだミーコが、呟くように言った。
オレは返答するように、再び彼女をしっかりと抱きしめた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白い、続きが読みたい!」と思われた方は、
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つで
評価をお願いします、大変励みになります!
ブックマークも頂けると本当にうれしいです。
↓ ↓ ↓
引き続きお読みいただきますよう、
よろしくお願いいたします!




