第115話 ごめんなさい
始まった。
カウンターの数字が踊りはじめる。
広域の対象表示が緩やかに動き始め、エイミーがリロメラと激しくぶつかっているようだ。
現場を観ようと、オレは焦点を絞る。
拡大される映像、エイミー機、リロメラ機の攻撃をかわしながら、見事な反転動作を繰り返し、リロメラ機の片腕を切り落とす。
その傍らを、ミーコの機体が物凄いスピードですり抜けていく。
目的は別にあるようだ。
こんな映像がすぐに見れるのはシュミレーションゲームならではなんだが、もしこれがリアルだったと思うと、ちょっとビビるな。
オレは広域表示の２か所で近づいてくる光点を確認し、小惑星の影に身を潜める。
そのうちの一つが、スラスターのターボをかけてオレの機体に近づいた。
エイミー、突如オレの前に躍り出て、正面から斬り付けてくる。
オレは素早く避けて、振り向きざま粒子ビームで撃ち返す。
エイミー、かろうじて避ける。
突然ミーコ機、エイミー機にレーザーソードで、まっすぐ突き込んでくる。
エイミー機、右脇腹を掠められて被弾。
“おにいちゃんを殺ルのは、あたしよっ！”
ミーコ、容赦ない攻撃をエイミーに向ける。
被弾したリロメラ、自由の利かない状態で、全く気配を感じさせずに忍び寄ったレイラに、背後からとどめを刺される。
“リロメラ、ごめんなさい……”
“お前よぉ、ミーコよりえげつねぇな……
あはははは。
人間は見かけじゃ判断できねぇ、俺もわかっちゃいたんだけどよ”
“……あの、わたし、ラビートだから”
激しい討ち合いを続けるミーコとエイミー、なかなか勝負がつかない。
オレは、まるで観戦するかのように、二人の斬り合いを見ていた。
間合い、詰め、無駄のない動き、全てが洗練されているように見えた。
さすが正規の軍人、抜群の運動神経のキャティア相手とはいえ、見事な体捌きだ。
“おにいちゃんは…… おにいちゃんは、あたしが倒すの！”
“ふふっ、あなたも一洸と斬り合いたいのね、
でもわたしも、きちんと一洸を倒さないといけないのよっ！”
そんな、罵り合いに近いやりとりを、臨場感を持ってコミュニケーターは伝えてくる。
そうだよなぁ、エイミーはオレを倒したくてうずうずしてたはずだ。
エイミー、ミーコの片腕を切り落とすが、その瞬間、ミーコに背中のスラスター部分を破壊され、戦闘不能となる。
“ちっ、私としたことが……”
などと言ってはいるが、エイミーの声は存外楽しそうである。
連邦の訓練では、きっとこんなノリでは楽しめないのだろう。
ミーコはエイミーの機体をスラスターの噴射圧で吹き飛ばすと、そのままオレに切りかかってきた。
“おにいちゃーん、ごめんねぇーーーー”
叫びながら、オレを殺すために、身体ごと全速力でぶつけてくるミーコ。
この子はどこでこんな激しさを覚えたんだろう。
まだ離乳食前の、ミルクしか飲めなかった頃のミーコ……
この子ネコはオレが守らなきゃ、死んでしまう。
そんな愛しい気持ち一杯で、この子の成長のひとときを一緒に過ごしたオレの思い出は、目の前にいる戦闘少女に、見事なまでに上書きされた。
ミーコが信じられない程のスピードで、オレに剣を突き立ててくる。
照準をずらしたつもりだったが、その動きすら読んで、微妙に位置を変えてきている。
まるで、いつかのニュータイプも真っ青だな。
ホントに討ち取られるのか、ミーコに……
ミーコがオレのボディに剣を突き立てようとして、オレはすんでで身体を避け、その刃を脇で挟んだ。
まるでミーコの機体を正面から受け止め、キスするかのような状況だ。
ミーコ機は、オレの機体に抱き着いたまま離れない。
“ミーコ、ざーんねん”
オレがそう呟いた瞬間だった。
え？
モニターは、オレとミーコが同時に“Death”されたことを表示している。
どこに…… うしろ？ まさか、ミーコの？
ミーコの機体に影のようにぴったりと重なったレイラの機体は、２体の身体を重ねて剣を突き立て、ミーコとオレの機体を串刺しにしている。
オレとミーコは、二人そろって止めを刺された。
“……あの、ミーコちゃん、一洸さん、ごめんなさい”
“レイラちゃん、ひどいよぅ……
ほんとにすごい、あたし死んじゃった。
でもおにいちゃんと一緒だからいいや”
ミーコはオレに抱き着いたまま、離れる気はないようだ。
なんか、色々凄いな……
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