第101話 軍事協約
“8374F9Y、予定ルートから外れている”
解除不可能な力、強力なトラクターネットが8374F9Yの行動を制限し始めた。
“こちら8374F9Y、ユニットS-98に告ぐ、正体不明の強制力によって航行の自由を奪われた、このまま現状をモニターし続ける、あらゆる状況の保存を要請”
ここは地球からは遠く離れた星系、銀河の中心にほど近い空域。
オールドシーズによる、オールドシーズのための地球環境復活を妨げ、人類をネクスターナルに統合するという不滅の統一意思のもと、機械生命体ネクスターナルは、オールドシーズの活動を監視し続けている。
そんな最中の出来事。
ネクスターナル8374F9Yの行動を制御する存在。
その有機知性体は、種々の生命体の意思が掛け合わさった、銀河系を束ねる知性種の頂点に位置するものたち。
彼らは、機械生命体としてのネクスターナルを、自らの組織体に融合すべく、その一体をトラクターネットにて鹵獲、それが8374F9Yであった。
“お前たちの存在は、我々と同一化することにより、より上位の有機体足りうる”
高位知性種は、鹵獲した次元航行巡洋艦8374F9Yに語りかけた。
“私はユニットS-98 8374F9Y、ネクスターナルは地球人類の意思の統合体であり、いかなる組織体への同一化も拒否する”
いきなり語りかけてきた未知の存在。
自らをして上位の知性を謳うものに対して、どう対処すべきか。
8374F9Yは、既定の対処法に従い状況保全を要請、自分の情報媒体としてのバックアップが即時完了したのを確認すると、この会敵状況を細大漏らさず並列リンクに公表しつづけることに集中した。
“お前たちは既に生命体としての機能を失い、意思決定のプロセスにおいては、知性体の極北に達している。
我々と融合することにより、お前たちはより高い次元の存在へと到達することが可能だ。
拒否することに意味はない”
“我がネクスターナルの目的は地球人類の統合であり、異星種族との同一化ではない、断固拒絶する”
“それは愚かな判断だ、自らの進化の可能性を否定している。
お前たちの存在の進化が、その問題への回答となることを理解しなければならない。
もう一度告げる、我々の存在へと融合しろ”
8374F9Yは、ネクスターナル統合意識の“ざわつき”を感じていた。
このような意識の波を感じるのは、もうどれだけぶりであったろう。
遠い昔、まだ人の身体を持っていたあの頃……
ふっと、忘れていた感覚を取り戻そうとしていた8374F9Yは、個別の身体を保持していた頃の価値観が、いかに非合理的で生産性の低い非効率な状態であったかを再度認識させられ、湧きあがる思いを打ち消した。
“私はネクスターナル統合意識隷下 ユニットS-98 8374F9Yだ……
私は…… 私は人間であり、人類の統合意思のもと、人間であることを否定するつもりはない”
“お前の存在を否定する、私たちへの融合を拒絶する存在に価値はない”
ネクスターナル8374F9Yは、高位知性種のエリミネーターによって、現次元から消し去られた。
その内容は即時全ネクスターナルの知るところとなり、彼らの全ては高位知性種との会敵に備えて準備を始める。
オールドシーズの偵察に当たっていた1029T2Rのリンク消失を調査していた3体は、急遽対策に戻らなければならなかった。
◇ ◇ ◇
ネクロノイド防共同盟には、ゴーテナス帝国、プルートニア魔公国、アルデローン帝国の3ヶ国でスタートした。
この国家連合は、勇者カミオのゴーテナス帝国及びプルートニア魔公国への申し入れにより実現、アルデローン帝国はそれに追随する形でネクロノイド討伐に協力する三か国連合盟約を締結。
迫りくるネクロノイドの脅威に対して相互安全保障を行い、締結国が連携して不足する軍事対抗力を補完し合うというもので、これにより当該3国は連合関係を持つことになった。
調印式はゴーテナスの帝都で行われ、被害を受けていない国々も、参加の意思を表明しはじめていた。
「お疲れ様でした、忙しくなりますね」
オレは、全面的に矢面に立ってくれたベリアルを労った。
魔族として長くプルートニアを治めてきた手腕と、外交力は伊達ではなかった。
「ええ、予定通りに進行してくれたようです。
引き続き、各都市の避難経路の整備と連絡体制の拡充に全力を挙げています」
「よろしくお願いします」
具体的な対処方法としては、オレたち冒険者“ブラザーズ”チームと、その協力者である連邦軍のゴーレムを武器として使用、武器の使用はネクロノイド殲滅の目的に限って用い、それ以外の目的には使用しない。
ネクロノイドを殲滅、もしくは生け捕りにした場合、技術協力をした連邦への対価としてネクロノイドの死骸よりネクロニウムを採取することを約束、三か国は了承してくれた。
軍事技術協力を行った連邦軍との折衝窓口はブラザーズの一洸が担い、その技術は今次障害を排除することにのみ用い、それ以上の追及や詮索はしない。
これが、オレが協約でベリアルに謳ってもらった協力の条件だった。
“影”が唐突に実体化した。
バラムが付けてくれた護衛の影、カミラだ。
カミラはその後、オレの護衛及び間諜としても実働してくれているので、こんな言付けもしてくれるようになった。
「一洸様、ゴーテナスの間諜の者たちが、必死に捜索しております。
ベリアル様と一緒にいるところを同時に確保するため、かなりの人数を割いております」
「わかりました、この後も警戒を頼みます」
「承知いたしました」
あっという間にカミラは消えた。
「ベリアルさん…… というわけなので、オレは消えます」
ベリアルは頭をたれて、オレから素早く離れてくれる。
オレは保管域へ転移した。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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