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第7話

 如春尼が出家したのは、史実では夫の顕如の死後ですし、この世界でも出家した後の名で呼称されているのはおかしいのですが、実名不詳ということもあり、如春尼と呼称しています。

 平にご寛恕を願います。

 鎮永尼の前を去った顕如は、気持ちを切り替えようと、婚約者である如春尼の下を訪れた。

 折よく如春尼の下を永賢尼も訪れていた。

 この際、腹に溜まったモノを吐き出そう、と考えた顕如は、二人に少し愚痴をこぼすことにした。


「天皇陛下の大喪の礼の際に、延暦寺を介して千僧供養の提言をしようと思います」

「千僧供養ですか」

 本をたどればシャム人である永賢尼は、何のことか分からなかったが、如春尼は目を輝かせて言った。

「凄い。1000人もの僧侶が集うの。日本が仏教の国であることを世界に広めることになるわ」


「ええ。本願寺からも100人規模の僧侶を出し、天台・真言・律・禅・浄土・時宗・法華の各宗派にも参加を呼び掛けて、僧侶1000人が参加する供養をするつもりです」

 顕如の答えに、少し暗さがあるのに気づいた永賢尼は口を挟んだ。

「余程の屈託がおありのようですが。何か問題があるのですか」

「ええ、隠れた大問題が」

 この女人は本当に聡い、上里松一が妻に迎えたのも無理はない。

(誤解が多分に入っているが)顕如はそう考えつつ、言葉を継いだ。

「法華を呼ぶべきではないのです」


 その言葉を聞いた瞬間、如春尼は怒った。

「法華は今上天皇陛下に大恩がある身でしょう。千僧供養に呼ばないとは許されない話です。何故にそんな話をするのですか」

 ああ、一般の反応はこうなるな。

 顕如は頭を抱えたくなった。

 だからこそ、祖母の鎮永尼は謀略を巡らせたのだ。


 一方の永賢尼の方が、逆に事情を察してくれた。

「ああ、確かに法華を呼ぶべきではありませんね。むしろ、そっとした方が」

「そうなのです」

 顕如は我が意を得たり、と思って言ったが、如春尼は不思議そうな顔をして言った。

「どうしてそうなるの」


「私から言っていいですか」

「どうぞ、言葉が足りねば、私が補足します」

 永賢尼は顕如に断りを入れ、顕如はそれに同意した。

 永賢尼は如春尼に、法華の事情を説明した。


 法華宗は伝統的に「真言亡国、禅天魔、念仏無間、律国賊」と他宗派を排撃している。

(流石に法華宗は天台宗からの分かれであるので、直接に天台宗を法華宗は排撃していないが、それこそ宗教問答を天台宗に法華宗は仕掛ける等、天台宗にも排撃的態度を執っている)

 そういったこともあり、法華宗は「不受不施」を唱えている。

 法華宗以外の他宗派の者からは布施を受けず、供養も施さない、という主張であり、それを受け入れては法華宗徒ではなく、仏法を謗る者であるとするのだ。


「従って、法華宗徒ではない天皇陛下の大喪の礼の千僧供養に、法華宗は参加してはならないのです」

 永賢尼はそう説明したが、如春尼は納得しない。

「法華一揆で京の都から追放された法華の寺の再興を認めたのは、それこそ今上天皇陛下よ。そんな大恩がある天皇陛下の千僧供養に参加を拒否する等、法華宗徒は恩知らず、と言われても仕方ないわ」

 如春尼はそう言い放った。


「そう一般の人は捉えるでしょう。だから厄介なのです」

 如春尼の言葉に対し、顕如はそう口を挟んで事の経緯を想い起こした。

 1536年の法華一揆の結果、京は法華禁制の地になった。

 だが、皇軍の来訪により延暦寺が武装解除され、六角氏が族滅されたこと等から、法華宗徒は今上天皇陛下に奏上して京の法華禁制を解いてもらい、今では15本山が復興しているのだ。

 その際に法華宗徒の宗教問答は禁止になる等、それなりの制約が課せられたが、かなり緩んでおり、流石に僧侶は未だに慎んでいるが、京では一般信徒が宗教問答を仕掛ける例が起きているらしい。


 だからこそ延暦寺は法華宗への苛立ちを募らせており、我々の提言に乗るだろう。

 できる限り穏便に済めばよいが、顕如はそう願った。

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