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第6話

 さて、その謀略の内容と相手だが。


「本当にあの宗派に謀略を仕掛けるのですか」

「私としては、あの時のことは未だに赦せない話なのです。実の祖母、後見人の言葉に逆らうの」

「いえ、そのようなことは申しませんが」

 本願寺顕如は、(内心に止めたが)実祖母の鎮永尼の剣幕に黙って溜息を吐かざるを得なかった。

 確かに実の祖母が、未だにあの時の事を根に持って、今上(後奈良)天皇陛下の葬儀をこれ幸い、と謀略に活用しよう、としている気持ちは分かるが。

 気持ちは分かるであって、自分としては幾ら何でも、と思わざるを得ない話だった。


 さて、あの宗派とはどこか、という話に戻るが。

 法華宗徒の面々が、あの宗派、鎮永尼の怒りの矛先だった。


 この時代、法華宗徒と本願寺門徒は犬猿の仲もいいところだった。

 その発端は何かと言えば、遡れば幾らでも遡ることができる話になりかねないが、鎮永尼の激怒、未だに赦せない話、となると直接には1532年の天文の錯乱が該当する。


 この時、(主に京在住の)法華宗徒は、細川晴元や六角定頼と同盟を組んで、山科本願寺を焼き討ちにしたのだ。

 このために、鎮永尼の実の息子、顕如の実父の証如は17歳にして命辛々、母の鎮永尼と共に山科本願寺から逃げ出して、(正確に言えばこの後に改名したのだが)石山本願寺に逃げ込む有様だった。

 更にこれによって、京近辺の本願寺の講組織等は壊滅したといっても良い惨状となった。


 鎮永尼にしてみれば、この時に17歳の証如と共に行った逃亡行は未だに屈辱極まりないこととして、骨身に刻み込まれているといっても過言ではないことだった。

 だが、顕如にしてみれば、自分が産まれる10年以上前の話である。

 何で祖母が、天皇陛下の大喪の礼を逆用するということまで行う程の恨みに思うのか、今一つ理解しかねる話になるのは半ば当然の話だった。


「大喪の礼で謀略を行うのは、幾ら何でも不敬極まる話になりませんか」

 顕如の諫言に鎮永尼は微笑を浮かべながら言った。

「何を言うのです。不敬をするのは、法華の面々です。私達は天皇陛下の供養を盛大にしたい、と敢えて言上するのです。称賛されこそすれ、不敬と叩かれる心配は万に一つもありません」

「確かにそうかもしれませんが、延暦寺が応じるでしょうか」

 顕如は疑問を浮かべたが。


「延暦寺には覚恕様がおられます。父上の今上天皇陛下の葬儀を盛大にしたい、と積極的に音頭を取られて当然でしょう」

 鎮永尼は建前を言ったが、顕如がジト目になったのを見て、本音に切り替えた。


「延暦寺も、法華の面々には腹立たしさを覚えています。それこそ街角で延暦寺の僧侶に宗教問答を仕掛ける有様ですからね。しかも、僧侶ではない一般信徒がです。延暦寺の僧侶を侮辱するにも程がある、と延暦寺内では憤懣が高まっています。しかし、皇軍によって武装解除されている延暦寺は、かつてのように京を火の海にするような武装攻撃はできなくなっています。それを見透かして、法華の面々は延暦寺を挑発しているのです。法華の面々を懲らしめる、というこちらからの意向に、延暦寺は乗るでしょう」

 鎮永尼の言葉に、とうとう顕如は折れた。


「分かりました。そこまで祖母上が仰せならば、延暦寺に書簡を送り、今回の件についての協力を仰ぎましょう。しかし、それ以上のことはしませんよ。後々で問題になって、火の粉がこちらに降り注いでもかないませんから」

「それで構いませんとも。延暦寺が乗れば良し、乗らねばそれまでで。しかし、延暦寺は乗る、と想います。そして、法華の面々は頭を抱え込むでしょう」

 鎮永尼は孫の顕如の説得に成功したことから機嫌を直した。

 一方の顕如は溜息しか出なかった。

 細かいことを言えば、史実では山科本願寺の焼き討ちの際に、鎮永尼はいなかった可能性が高いようですが、この世界の歴史線では鎮永尼も山科本願寺にいたということでお願いします。


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