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第2話

「今上天皇陛下の大喪の礼は、崩御された日から1月以上も先になるの」

 上里智子は、不思議そうな声を父に対して挙げた。

「通夜等の儀式は、すぐに皇室内で執り行われるけど、色々と準備が大変だから、いわゆるお葬式に当たる大喪の礼は1月以上先の話になるな」

 小学3年生の身では仕方ないと思いつつも、もう少し天皇陛下に対して、娘は敬意を示せないのか、と元皇軍士官として上里松一は内心でぼやきつつ、娘に対して説明することになった。


 1557年9月に崩御された今上天皇陛下、史実で言えば後奈良天皇陛下、この世界流にいえば、天文帝は大喪の礼には様々な準備が必要ということから、約1月余り先の10月末に大喪の礼が行われる旨、官報を始めとする様々な手段によって、国民に告知が為されつつある。


 松一にしてみれば、当たり前の習慣だが、それこそ官庁等に日の丸の国旗を掲げるという習慣、恒例は皇軍によってもたらされたもので、まだまだ国民の間に根付いているとは言い難い。

 そうしたことから、例えば、天皇陛下の大喪の礼に合わせて、官公庁(いうまでもなく公立の学校等を含む)においては、天皇陛下に対する弔意を示すために半旗を掲げるという、政府からの指示についても、半ば奇異の念を持って、国民の間からは受け入れられている有様だった。


 もっとも、上里家は国民の一人と言えるのかと細かく問い詰められれば、エトランジェ(異邦人)もいいところとしか言いようが無いのもまた事実だった。

 いうまでもなく、松一が皇軍の軍人であったことから、日本の国籍を当然に持っており、更にそれに伴って、夫婦同一国籍の原則、また、親子同一国籍の原則から、松一の妻子も日本国籍を持ってはいる。

 しかし。


 妻の愛子が、

「夫の松一が日本人だから、私も日本人なだけだし。細かく考えだすと、私はそもそも何人かしら。母方を辿れば琉球人だし、父方を辿れば敢えて言えば明人だろうけど、明人とは言い難いしね」

 という自分から言う有様だし。


(愛子の父の張敬修はマニラ生まれの華僑、また、母の安喜は琉球で生まれ育った身だった。

 そうしたことからすれば、愛子のそもそもの国籍は何処?ということになりかねない。

 更にややこしいことを言えば、皇軍の来訪によって、マニラは当時、日本領となっており、外地扱いされていたことから、張敬修も日本人になっていた)


 松一の子ども達に至っては、もっとややこしくなる。

 プリチャ(永賢尼)が夫のサクチャイとの間に産んで、松一と愛子との間の養子になった美子と勝利は、血統的には生粋のシャム人と言われても仕方ないが、日本人になっている。

 プリチャと松一の間の子、和子、正道、智子は、両親共に日本人の筈だが、プリチャが本来的にはシャム人であり、物心つく頃から日本で育った智子はともかく、和子や正道はシャム生まれ意識を未だに心の奥底では持っている。

 松一と愛子の間の子、清や敬子にしても生粋の日本人とは言い難いのだ。

(更に言えば、松一自身も日本人というよりも、自分は本来は琉球人という意識が抜けていなかった。

 何かというと、琉球王国に松一が肩入れしてしまうのも、そう言ったことが原因だった)


 こうしたことまで考えていくと、自分達は本当に日本人と言えるのか、とまで松一が時として考えてしまうのも無理が無い話だったが。

 表面上は、

「日本の国民として、今上天皇陛下が崩御された以上、弔意を示して、大喪の礼を執り行うのに協力するのが当然だ。先生もそう言われているだろう」

「うん、学校の先生もそう言われている」

 と松一は、娘の智子に語り掛け、智子もそれに同意するやり取りをするのが当然の話になるのは止むを得なかった。

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