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第10話

 実際、毛利隆元の予感は悪い方向で当たってしまった。


 天文(後奈良)天皇陛下の大喪の礼の一環として行われた千僧供養に法華宗が参加したことは、地方の法華宗徒の多くに憤激をもたらした。

「何故に法華宗徒ではない天皇陛下の大喪の礼に参加した。不受不施という根本教義に背く行動だ」

「日本どころか外国にまで恥を晒した」

「イスラム教徒の国々は信仰を護ることを理由に、大喪の礼に参列しなかった。我が法華も同様の行動をとるべきだった」

 等々の憤りの声が、京周辺以外の地方から上がった。

 特に東上総を中心とする房総地方や西備前を中心とする備前、備中は、「上総七里皆法華」、「備前法華に安芸門徒」と謳われる土地柄であり、こういった地方での法華宗徒の憤りは強かった。


 更に言えば、法華宗がある意味、弾圧慣れしていた歴史もあった。

 宗祖日蓮大聖人以来、「鍋かむり上人」と仇名された日親等、法華宗の僧侶は、権力者に対して法華宗への改宗を迫って、法華宗に対する弾圧が行われたことが度々あった。

 そうした歴史に法華宗徒が思いを馳せた時、先祖同様に例え弾圧を受けようとも、自らの信仰を護るために大喪の礼の際に行われた千僧供養に、我が法華宗は参加すべきでは無く、参加を拒否すべきだった、という声が半ば自然と上がることになったのだ。


 こうして法華宗内部が混乱するようになったのを見て、本願寺(正確に言えば鎮永尼やその周囲)と延暦寺は留飲を下げることになったが。

 これはそれだけでは済まなかった。


 地方の法華宗徒が憤りの声を挙げている、その理由が大喪の礼の際に行われた千僧供養に法華宗の僧侶が参加したことだ、というのが他宗派の多くの信徒にまで広まった結果、法華宗はけしからん、天皇陛下を蔑ろにしている、という声が国民の間から上がり出したのだ。


 多くの国民にとって、自らの信仰する宗派の教えでさえ精確に理解されているとは言い難い。

 それが自らの信仰しない宗派の教えとなると尚更である。

「法華宗は、天皇陛下を敬わないのか」

「大喪の礼の際に行われる千僧供養に、法華宗の僧侶が参列して協力するのは、日本人である以上は当然の話ではないか」

「大喪の礼の際に行われる千僧供養に協力しないというのなら、法華宗徒は日本から出て行け」

 という過激な声までが、一部の国民から挙がるようになったのだ。


 そして、未だに戦国の遺風が色濃く残る時代である。

 法華宗徒の多い房総地方や備前・備中では、直接的な攻撃は余り無かったが。

(また、京周辺の場合、千僧供養に参加した多数派の勢力が強かったこともあり、千僧供養に参加したことを非難する声が法華宗内部からそう上がらず、半ば必然的に他宗派の住民からの攻撃も控えられた)

 それ以外の地域では、過激な国民の間から法華宗の寺や僧侶に対する迫害が多数起きる事態にまで過熱してしまった。

(これは学校教育の普及の中で、日本本土内では尊皇思想が徐々に広まっていたのも大きい)


 流石にここまでの事態が起きたことから、法華宗を困らせてやろう、あわよくば分裂させてやろう程度のつもりだったのに煽り過ぎてしまった、と本願寺や延暦寺は自省の念に駆られて、自らの信徒たちに自制を呼びかけると共に政府にも働きかけて、法華宗徒への迫害を中止させようと動いたが。

 日本国内で一度起こってしまった法華宗徒への迫害は中々鎮静しない、という事態となった。


 法華宗の多数派は自己弁明を行い、不受不施にも例外はあり、法華宗の僧侶が千僧供養に参加することはその例外に当たるとして国民世論の鎮静化を図り、それによって国民の多くも納得したが。

 このことは法華宗徒の一部を北米への移民に奔らせることになった。

 これで完結しますが、事実上は、

「法華宗不受不施派の北米移民とその余波」

 に続くことになります。


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