この世界で唯一残った戦士という職業を持つおっさんのぼやき
アルセリウス…
この世界の事をいうらしい…。
誰が命名したのかもわからない…。
いつこの世界が創られたかもわからない…。
いえることは、この世界では【マナ】という魔力の元素が充実しており、それを使うことで【魔法】や【スキル】を扱うことが出来るってところだ。
俺は魔法は使えないけどな…
そして、この世界での文明開化により、多数の国が生まれた。
中でも【帝国】と呼ばれるくらいの大きな国は5つ…
俺はその帝国のひとつである【アルタイル国】のとある街で暮らしている。
職業は【戦士】
強固な防具で身を守り、様々な武器を駆使して戦場に向かう。
それがこの職業の主な内容だ。
俺の幼い頃は【戦士】という職業はとても人気が高く、憧れる存在であったのだが、新たな文明の開発や発展によって徐々に人気が薄れていき、今では俺が唯一の【生き残り戦士】といわれるようになってしまうくらい【戦士】という職業は廃れてしまった…。
まぁ、こればかりは時代だから仕方のないことではあるが、それでも俺は最期まで【戦士】として全うしようと思っている…。
そう結論付けているには長年それぞれの職業を観て感じたことがあったからというワケなのだが…。
それにはまず、俺の職業である【戦士】から書き記そうと思う…。
【戦士】について
【戦士】
それは、強固な防具で身を守り、最前線で敵の攻撃を受けつつ自ら選んだ武器で敵をなぎ倒す。
冒険者の界隈では通称【タンク】と呼ばれる役割を担っている。
生業としては主に冒険者ギルドでのクエスト報酬とモンスターを討伐した際の素材の売買だ。
あとは、国挙げての武闘大会の報酬もあるが、こっちは年に1回あるかくらいのことだから、特別報酬としか言えないだろう。
俺がまだ幼い頃は【戦士】という職業は人気があった。
大きな理由としては【勇者パーティの存在】だった。
【勇者】という事については後日書き記すが、とにかく魔王討伐するのに【戦士】という存在が欠かさなかった。
強固な防具で魔王の前に立ちふさがり、身を呈して攻撃に耐えるのだから命をかけた職業と云われても過言ではなく、その当時は無事に帰還するというのは難しいとさえいわれてきた。
もちろん、全滅したパーティも少なくない。
ちなみに、転生人から聞いた話では死んだら呪文やアイテム、教会に行けば生き返るとかあるらしいが、死んだら死ぬ。
死体は魔物の餌になるし、骨はいつしか風化される。
現実は甘くない。
話は逸れてしまったが、とにかく討伐して皆無事に帰還したって事がもの凄い事である。
その当時の【勇者パーティ】の像は今でも世界各地に存在しているが、最近は年々戦士の像は減っている…。
では、何故戦士という職業がここまで廃れてしまったのか?
それは、【戦士の短所】によるのではないかと考える。
それについても書き記そうとしよう。
【戦士の短所】
戦士の短所は【強固な防具】が全ての原因だと思う…。
魔物の攻撃を受けきるための強固な防具はそれなりに硬度を高くする。素材となる鉱石や皮を丹念に強化し緻密にし硬めてから各部所の防具に創り上げる。
こればかりは職人たちには頭が上がらない。
そのおかげで無事に生きられているのだから。
ただし、その強固な防具によっておこるデメリットも大きい。
まずは【重量】だ。
全身装備すると軽く50kgを超える。
体格や素材によっては100kg近くなる。
つまり、【動く鉱石】みたいなものである。
それらを着用して戦うのだから、必然的に足は遅くなる。
クエストに出る時もいつの間にかパーティに置いてけぼりにされる。
次に【臭い】だ。
生命を守る自分の大切な防具。時間がある時はしっかり洗って除菌や消臭もする。
それでも培った汗の滲み出る臭いは取り切れない。
特に長期間のクエストに出る時は街に辿り着くまで基本野宿となる。夜間の森はいつ魔物や野盗が現れるかわからない。
だから、常に戦闘体勢に入っても良いように防具は外せない。
防具を外す時はパーティのみんなからかなり離れたところで外さないといけないくらいこの臭いは強烈だ。
これも【戦士】としての宿命なのだ…。
【防具の値が高い】
昔、【転生人】から「自分がいた世界ではゲームでクエストをする際、新しい街の装備をすぐに買い替えるけど、君は装備を買い替えたりしないの?」と訊かれたことがある。
そんな事やっていたらすでに豪遊生活しているわ!!とツッコみたい。
現実はそんなに甘くない。
防具を買い揃えるとするなら、Aランククエストを5回以上達成しなければならないくらいの報酬額が必要となる。
Aランククエストは基本的に1ヶ月くらいの長期間やドラゴンクラスの強力な魔物の討伐なので、そう簡単にはクリア出来ないのである。そのクエストを5回以上達成しなければならないのだから相当な額だと思って頂きたい…。
何故そんなに高いのか?理由は2つある。
ひとつは【全てオーダーメイド】であること。
もうひとつは【アフターケアサービス】だ。
まずは【オーダーメイド】
戦士の防具は服とは違い、フリーサイズで作られない。鉱石は鍛錬して硬度を増し、皮は入念に且つ丁寧に鞣して衝撃を和らげるように創り上げる。伸縮性などないのだ。
だからサイズが僅かでも小さければ装着できないし、大きければ動きづらい。
だから、戦士の防具を購入する際は必ず各部位の細かな寸法を計ってから取り掛かる。
生命に関わるのだから採寸失敗など許されないのだ。
ただ、戦闘の最前線に出て戦うからすぐに防具は傷んでしまう。
そういう時のために【アフターケアサービス】が設けられる。
購入した鍛冶屋に持っていけば、メンテナンスや皮の張替えなどをして貰える。メンテナンスした防具は買った時よりも強度が増して戻って来る事もある。
大体、ひとつの大きな魔物の討伐クエストを達成したら鍛冶屋に行って防具をメンテナンスしてもらうくらいの高い頻度だ。
もちろん費用はかかるが、防具を買う事を考えると雲泥の差だ。
そういう事を含めての防具購入である事を解って頂きたい。
【魔法には弱い】
戦士の防具で課題となるのは【魔法耐性】にある。
素材となる鉱石や皮には少なからず耐性がある。その組み合わせによるのだが、期待できる程ではない。
だから、各部位に【魔力付与】を行わなくてはならない。
新しく購入した防具にはエンチャントは施されておらず、別で【魔術師】に頼んで施して貰う必要がある。
だが、そこに問題が発生する。
昔からではあるが、【魔術師】と【戦士】との相性が悪い。
これは後日【魔術師】について改めて書くが、とにかくエンチャントをお願いするのが大変で、大抵は諦めて素材の耐性頼りで頑張ってしまう戦士が多かった。
それによって、ほとんどの魔法は気合と根性で耐えきるのが戦士のセオリーになっていた。
それくらい防具にエンチャントされていないと厳しい世界なのである。ちなみに、俺の装備はちゃんとエンチャントされている。
大体は【戦士の短所】について書き記した。
【戦士】が俺一人しかいないくらい廃れた職業になったのは、他に職業の多様化とか、時代遅れとか色々あるだろうが、それでも俺は戦士として最期まで全うしようと思っている。