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絶世怪傑のオ・カマー  作者: 漆黒の胡麻ゼリー
8/10

死徒集結(デス・パレード)終了!


「はいコレ、疲れたら飲んどきなさい」


 ダンジョンの入り口に辿り着いた時、氷狼族の女の子はオ・カマーから薬の入った小瓶を手渡された。それは疲労軽減特化の、それも高価な強走薬(スタミナ・ポーション)。彼女の表情は一瞬、「良いのかな」と迷っていたが、すぐ必要なのだと納得し、腰の薬瓶入れ(セカンドバック)に仕舞った。


「オカマもぉん、ボクには無いの?」

「ドラちゃんには自前の心臓と脚があるでしょ? ダイジョーブ、ダイジョーブ、心配ナイワー」

「ちぇー。まぁ、薬に頼るような柔な鍛え方はしてないけどさぁ」

「じゃ、イクわよー。は~い、スタート」


 三人は、いや前を歩く“嘲弄”と“蒼炎”の二人は床に罅割れを残して、ダンジョンを爆走した。刹那、氷狼族の女の子は意識を硬直させたが、即座にその背を追い駆ける。


(―――疾ッ!? ウッソでしょう!!)


 まだ“嘲弄”(オ・カマー)は理解出来る。白のローブのようなモノを纏っている。見た目軽装だ。腰に剣を挿していても、まだ疾いのは解る。

 だが“蒼炎”は全身鎧(フル・プレート)だ。しかも身の丈にも届きそうな大剣を背負っていて、腰に長剣も挿していた。

 自分とて軽装、関節部位を重点的に守る鎧しか着ていない。武器も棘付きグローブを拳に装着している程度。この中では最も身軽だと言っても過言ではない。


(こっちは全力で疾走っているって言うのにぃ……!!)


 脚にはそれなり以上の自信があったのに、ものの数秒で見事に粉砕されていく。野郎二人は氷狼族の女の子を引き剥がさない程度に速度を抑えているのが目に見えて判ったからだ。

 いや、それについて文句を言うつもりは毛頭無い。確実に自分以上の実力を持っている冒険者が助けに来てくれたのだから。それでも、Bランクチームとして邁進してきた自分達との余りの差に絶句する。これがAランクの冒険者と、推定(・・)Aランクの冒険者なのかと。


「今回の騒動、死徒集結(デス・パレード)が起きてると見たほうが良いわね」

「各階層の階層主(ボス)が同時に復活。表層の五階以降の全階層が閉じ込められる現象か」

「しかも階層主(ボス)は全て最強種確定(・・)。あらやだ、大変ねぇ~」

「十階までの冒険者はどうする?」

「無視よ無視。……って言いたい所だけど、ん~~目が届く所に居て、死にそうだったら助けてあげましょ。階層主(ボス)をぶっ殺せば後は何とでもなるわ」


 氷狼族の女の子は息を整えるので精一杯で、喋るだけの余裕なんて無い。何とか引き剥がされないよう、無言で懸命に走っていた。

「血の匂いだけ嗅ぎ分ければ良い」と前もって通達されてはいるが、全力疾走している状況で冷静に行えるかどうか不安で仕方がない。そうこうしている内に地下二階、三階、四階とどんどん降りていく。

 道中、脅えたように引き返す冒険者達が居た。地下五階でようやく転移石が使えることを安堵するように、真っ青になった顔に血の気が戻っていく様を何度も見た。


 そして地下六階に到達し、“嘲弄”(オ・カマー)が再び口を開く――。


(カラダ)は温まってきたわね? ここからが本番よ?」


 “嘲弄”(オ・カマー)は腰にぶら下げていた長剣を鞘から引き抜いて、右手に握った。既に血の匂いが空気に紛れて漂ってきている。ここからはもう、転移石を使おうとすれば無残に砕け散る修羅の道。誰かが階層主(ボス)を倒さない限り永遠に続く地獄の一丁目。

 そして識るのだ。ダンジョンに潜るということは、果てのない戦場に身を置くことと同義なのだと。戦い続け、勝ち残り続けなければならない。さもなくば、呆気なく死ぬということも。

 そうした苦難と引き換えに、財宝と、栄誉を得るのが冒険家業なのだと――。


「基本、真っ直ぐに。最短を突き進む。そこで拾える奴は拾うわ。まだ生きてて、何だか死にそうだったら教えなさい」

「――ハッハイぃッ!!」


 悲鳴にも似た、その返事を皮切りに。

 “蒼炎”を左、“嘲弄”を右に。少女はその後ろを追従するように疾走った。鼻や耳を使い、前へ前へと索敵していく。そしてまた驚愕するのだ。戦闘速度が、異様だと。それこそ瞬きする程の時間でモンスターの命が散らされていく。自分達も、やろうと思えば出来なくは無いだろう。だが、これほどまでに迷い無く、笑いながら武器を振るえるかと問われれば否だと答える他無い。

 すれ違いざまに剣が閃いたと思えば、モンスターの首がゴトリと落ちた。前を疾走る二人は長剣を片手に、断末魔を残させずに首を刈り取っている。それは十階に立ちふさがる階層主(ボス)ですら例外ではなかった。

 仲間を呼び寄せる間も無く、また与えず、風のように舞い、死神のように命を断つ。速度が速度だからか、上層のモンスターでは反応が間に合わないのだ。一方的な蹂躙劇が通り過ぎていった痕には、道標のように財貨や宝箱が置かれていた。


 その動きは―― 十一階に辿り着いてからも、まるで精彩を欠かない。

 

 表層を歩くように、十分に引き絞られた強弓から放たれた矢のように、真っ直ぐに、真っ直ぐに突き進む。前を疾走る二人にとって、一桁台の階層も十階層も二十階層も同じだった。歴代でも最強であろう強さを持った階層主(ボス)が丁寧に関節を切り刻まれ、動きを完璧に封じられた所で首を落とされる姿は、まるで赤子と大人の差であるかのように思えた。

 漸く脚を止めたのは三十階層への到達地点。Bランクの冒険者達(チーム)“スレイプニル”が籠城戦を決意せざるを得なかった悪寒の元凶。氷狼族の女の子が隠形を駆使して、命からがら抜け出してきた階層主(ボス)の住処……!!

 疾走って、血の匂いと、人の息遣いのあるなしを口にしてきただけだというのに。少女の(カラダ)は異様に重かった。貰っていた強走薬(スタミナ・ポーション)を一気に飲み干して、口元を乱暴に拭い、強固な意思を感じさせる瞳で禍々しい意匠の扉を睨めつける。

 援軍である二人は息も切らさず、少女の決断を待っていた。


「お願い、します……っ」


 彼等は静かに頷き、扉の前に立つ。

 すると侵入者を招き入れるように、扉は仰々しく、音を立てながら大きく開いていく。

 眼前に立つのは三十階の階層主(ボス)、血の色の装具を纏う、六本腕を持つ鎧武者(ヘカトンケイル)。ご丁寧にも、六本の腕総てに武器を装備していた。

 全員が部屋の中に入ると、扉は不愉快な軋み音を立てて再び閉じられていく。


「アレ、ボクが()っても良いかい?」

「左手に注意なさい。真ん中に持ってる短槍(アレ)、雷撃が付与されてるわよ?」

「良いねぇ」


 オ・カマーは少女を守るような立ち位置で腕を組み、“蒼炎”は長剣を腰に戻して、背負っていた大剣を両手で握りしめる。たった一人で戦うつもりかと、少女は不安げにオ・カマーを見上げた。


「い、良いんですか!?」

「だってドラちゃん、一人で殺るって言うんだもの。……ま、見てなさい。多分、二人で戦うより疾いわよ?」



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