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絶世怪傑のオ・カマー  作者: 漆黒の胡麻ゼリー
7/10

嘲弄と蒼炎と氷狼ムスメのダンジョン出撃!!


「―――出撃して下さる方はいらっしゃいませんかっ!?」


 緊急性のある依頼、それもBランクという高位チームの危機。

 オ・カマーと優男は受付嬢に目線を合わせ、確認するように口を開く。


「場所は?」

「この街のダンジョン、地下三十一階です。そこで持ちこたえていると」

「知らせてきた子は?」

Bランクチーム(スレイプニル)所属、信頼度は相当高め。氷狼族、女性です」


 亜人種の中でも、狼の銘を持つ種族は自分が所属する組織への帰属意識が高い。脚の速さと種族故の信頼性を見込まれてメッセンジャーを託されたのだろう。


「どのぐらい持ちこたえられそう?」

「今すぐならば……恐らく、と」

「懸念事項は?」

「同様の“閉じ込め”があったと、複数の冒険者から連絡がありました」

「報酬は?」

「先のスレイプニルからありったけ(・・・・・)、と。それと今、ギルドマスターに追加報酬の裁可を頂きに参ります!」

「行きましょうか」

「ああ」


 二人はそれだけ聞くと腰を挙げて、各々の武器を確かめるように触れてから歩を進めた。

 受付嬢が追加報酬の裁可を取るまで待つ必要も無いと、片手を軽く振ってダンジョンに向かうのだ。


「後はギルマスとよく相談してくれ。“ 蒼炎(ボク) ” と “ 嘲弄(カレ) ” が往く」


 ぱぁ、と輝くように受付嬢の表情が明るくなる。

 それは此処に居る二人がギルドにどれほど信用され、重宝されているかの証左でもあった。

 だが、オ・カマーはそれでも気に入らないと(おど)けるように首を竦める。


「アタシその二つ名、気に入らないんだけどぉ」

「それなら性格を改めるしかないな。これって他人からの印象銘だよ?」

「ホホホ。ちょーっとからかいが過ぎたかしらね。それなら楽しい楽しい汚名返上と参りましょうか」


 これからBランクでも助けを求めなければならない死地に向かうというのに、他愛のないことだと言わんばかりに二人は嗤った。


「必要な道具は持っているのかい?」

四次元ポケット(ふしぎなふくろ)完備よ。中にギッシリ、必要なモノは詰まってるわ」

「ボクもそれ欲しいんだけど、中々手に入らないんだよね。後で解毒剤と高級回復薬(ハイ・ポーション)譲ってくれよ」

「要るの?」

「ボクを一体何だと思ってるんだい。ただの人間だよ? 血を流しすぎれば普通に死ぬさ」

「なら結構。死ぬリスクに酔ってるなら連れてはいけないからね」

「フッ、精々期待に応えることにしよう。……って、何処に往くんだい? そっちは――」


 一階に降り立つと同時に、オ・カマーはソファに寝かせられている氷狼族の女の子に向かって歩を進めた。全身傷だらけだが、簡易的な手当は受けている。その姿を見て、オ・カマーは腰に下げた袋から最高級回復薬エクストラ・ポーションを取り出すと、蓋を外して女の子に向かって中身を振り掛けた。

 更にぺちぺちと頬を叩いて、気付けを行う。反対側の手で持続回復の魔法を一瞬掛けて、さらなる覚醒を促す。すると五秒も経たない内に少女は目を覚まし、上半身を勢いよく起こした。キョロキョロと周囲を確認するように見渡すと、オ・カマーが仁王立ちしているのが嫌でも目に入る。

 

「起きたわね。まだ、ヘタって良い場面じゃないわよ?」

「お、おい」


 此処にたどり着くまでに相当疲弊していたんだ、寝かせておいてやれよ。そんな言葉を視線で投げ掛ける有象無象を意に介さず、オ・カマーは言葉を続けた。


「アンタの仲間を助けるついでに、他の連中の命も可能なら拾ってくわ(・・・・・)。鼻が利くアンタの力が必要よ」 

「え、あっ――はいっ」

「どうせ此処で待っていても、時が経てば居ても立っても居られなくなるでしょう? だから付いてきなさい。戦いはアタシ達に任せて、アンタは耳と鼻で諸々の位置を確認する探索機(レーダー)の役割を果たすの。良いわね?」


 言葉短めに話を打ち切ると、さっさと背を向けてダンジョンに向かってしまう。そんなオ・カマーを小走りでその背を追い掛けた氷狼族の女の子は、顔色を伺うようにペコリと頭を下げた。


「あ、あのっ、ありがとうございます!」

「全員助かってから、その言葉を改めて貰うとするわ。今は緊急事態よ、シャキッとしなさい」

「はいっ! すみませんっ」

(良いのかい?)


 小声で優男――蒼炎はそう尋ね、オ・カマーは瞑目しながら応える。


(さっき言った通りよ。それに――あのまま放っておいたら、良からぬ取引を持ちかける阿呆がでないとも限らなかったしね)


 朦朧とする意識の中、不公平な取引を持ちかけられても是非が分からず、了承の意を告げてしまうことが無いとは言えない。衆人環視の中でもヤる奴はヤる。だが火急の時にそんなこと(・・・・・)を許すようであれば、冒険者ギルドは悪の天秤に傾き、たちまち不正の温床となるだろう。些末な事ではあるが、防げる悪意は防ぐ。これも冒険者の頂点に立つ者としての務めだ。もっと言えば、ギルドマスターの怒りを買う確率は低くければ低い方が良い。

 もし仮に――そんな事態になったなら、この建物(ギルドハウス)が三分持たず全壊する羽目になる。止められるのに止めなかった全員が連帯責任を負わされて、もれなく屍に強制転職(ジョブチェンジ)だ。文字通り、命で帳尻を合わせられるのは流石に御免(ごめん)こうむる。

 ギルドマスターは人望は元より、腕っぷしがそんじょそこらの冒険者相手じゃ比較対象にもならない。敵対すれば命が危ういし、生き延びた所でお尋ね者だ。問題児ばかりの組織を牽引する人間というのは、内実共に半端者では務まらない。ゆえ、苛烈な決断も時には下す。そして――その裁決の代行者は決まって高ランクの冒険者である。

 だから今回、ある意味においては絶好の機会だと言えた。面倒な仕事をサボる口実は多くて悪いということは無い。今回頑張って、後々楽をさせてもらうわ。そうオ・カマーは嗤う。まさしく打算120%。冒険者とは仕事に対し誠実であれ、狡賢い立ち回りを求められる職業であった。



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