人生、山あり谷ありオカマあり!
「おっじゃましまーす――んッ!!?」
くるくると踊るようにギルマスから指定された部屋に辿り着いたオ・カマーは――最初に驚愕し、次いでクワワッと限界まで目を見開いた。眼前に立つのは、確かに美少女と呼ばれるに相応しい容貌を持つの少女が二人。そして顔立ちが多少整っている男子が一人。
「な、んてこと……ッ!!」
オ・カマーの熱視線はその男子に注がれていた。額から冷や汗がぶわっと吹き出し、頬を濡らす。何故なら――少女達は少年を挟み込むような配置で立っていたからだ。前後ではない。オ・カマーから見て、左右に、だ。
(……この子、出来る!!)
その歳で当たり前のように両手に華!? アタシがその域に達したのは確か十五、六の頃……!! と、一人戦慄していた。お前も大概人生エンジョイしとるやんけと無遠慮な毒電波が頭の中に飛び込んできたような気がしたが、悪質な誇大妄想として脳内運営に通報し、完全に遮断。ふぅぅ、と心を落ち着かせるように、大きく息を吐き出した。
――――何事も、初めが肝心だ。
「あなた達が、指導を請けたい子?」
「はっはいッ! よろしくお願いします!!」
「お願いします!!」
中央に立つ少年が真っ先に頭を下げ、少女達も急いで頭を下げる。各々の手は両脇にピシっと添えられていて、礼儀正しさを見事に演出していた。
「なるほど……悪くないわ。良い。とてもイイ。挨拶は重要よ。冒険者だからって好き勝手に生きていたら、その振る舞いの責任は必ず取らされるもの……」
なお、好き勝手に生きていても特段文句言われてないし、無理筋な責任なんぞ殴り飛ばしている極一部の例外が、少年たちの前に立つオ・カマーだとギルドマスターから既に伝えられている。
「誰に対しても同じように出来るようになりなさい。礼儀礼節はお金が無くても使える数少ない武器……さて、自己紹介が必要ね。アタシはオ・カマー。オッさんでも、カマー様でも、フルネームでも、好きなように呼びなさい」
「「「はいっ、オ・カマーさんっ」」」
ギルドマスターから色々と聞かされていたのだろう。忠告を素直に聞き入れる人間は得てして好かれやすい。だって他者の好意を無駄にしないから。なるほど、これは死なせるには惜しい。そして現実を叩き込んであげる必要があるだろう。
「んー……」
じろじろと三人をオ・カマーが見つめる。縦横凹凸、服装身だしなみ――そして。
「銀貨100枚、40枚、100枚――と、言ったところね」
「???」
三人がその言葉の意味を測りかねていると、オ・カマーは近くのソファに座るよう促す。直立不動の緊張から解かれて、いそいそと座ったところでオ・カマーは対面に位置するソファに腰を掛け、再び口を開いた。
「アンタ達が奴隷として売り払われた場合の値段よ。見てくれは悪くないもの。純粋な資産として価値。あなた達の外面に付随する価値。そして、襲われるだけに足る価値」
いきなり何を口にしだしたかと呆気に取られるも、オ・カマーの、オカマにそぐわぬその眼光に、三人は息を呑んだ。
「何の力も持たなければ、誰の言葉も素直に聞いていたら、たとえ何一つ悪いことをしていなくても――悪いオッサンに拉致られて、監禁されて、食い物にされる。そういう未来があり得る。世の中は絶対じゃないわ。言わばモテることは罪ってコ・ト。でもってアンタ達はモテる。襲われる可能性は高いわよ?」
そこで一呼吸置いて、
「何が起きても自分の責任。そんな冒険者になったからには、自分の身は自分で守らなきゃいけない。そしてパーティを組む以上、仲間だと一度宣言した以上、アンタ達は一蓮托生。いっしょに笑って、一緒に地獄に突撃しなきゃいけない間柄。それを可能とするためにも、ずっと笑っている為にも、力は必要……判るわね?」
「「「はいっ」」」
「元気でよろしい! あ、自己紹介は要らないわ」
「えっ?」
「で、でも……」
決して名前を覚えるのが面倒な訳じゃないわと、オ・カマーは優雅に脚を組む。
「アタシが師事する以上、アタシはアンタ達がこれからしでかす事に対し、一定の義務を負うの。仮にアンタ達がどこぞのバカの首を刎ねた、ぶっ殺しちゃった。でも、それは間違いだった。冤罪だった。そしたらどうなると思う? アタシがアンタ達のカマを堀りにイクのよ。抵抗するならタコ殴りにして簀巻きぐるぐる。力を与えるということは、そういうことなの。アンタ達が勝手にやったのよとか、アタシ知りませーんじゃ済まされない。済ませちゃいけないの」
だから今、名前は覚えない。今は覚える価値が無い。
泣いて逃げ出すかもしれない子供の名前を聞いた所で、何の意味があるの? と、
「アタシに名前を覚えて欲しければ、精々立派になることね。そしてこの依頼を請けるにあたって、アタシはギルドマスターとこう契約を交わしているわ」
―― 師事される側。つまり少年たちが一度でも一人でも“辞めたい”と口にしたら、その場で止める、と。
「弱音は好きなだけ吐き出しても良いけど、禁句をアタシの前で口にしたら即終了。アタシが教えるのは生き残る為に。泥水を啜ってでも、恥辱に塗れても、立ち上がる為に。各々の人生に勝つために――最後に笑う為に為すべき修行よ」