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絶世怪傑のオ・カマー  作者: 漆黒の胡麻ゼリー
2/10

美少女、もしくは美少年を要求するぅ!!


「――で、どうだった?」


 整然と書籍が並び立てられた一室で、喉元まで伸びた髭を傭えた初老の老人(ギルドマスター)がオ・カマーに尋ねてきた。先の依頼(クエスト)――Cランク冒険者を諌めろ――の最終報告を当人の口から聞いておく為である。

 なお『なるべく穏便に』という単語が途中で挟まれていたような気がしたが、オ・カマーはちっとも気にしちゃいなかった。むしろ今回の被害者(Cランクども)が自発的に事を小さくさせるということで達成したと認識している。倫理観が完全に崩壊しているという点に目を瞑れば、このロジックは完璧だった。

 そも、依頼してきたギルドマスター当人が気にしちゃいないのだ。なんせ冒険者は力自慢の荒くれ者が半数を占めるロクデナシ集団。力で捻じ伏せないのであれば、気の遠くなるような時間を掛けて説法を続けるしかない。拳骨(いたみ)を伴わずして高潔な魂が脳筋(バカ)に芽生えるであろうか? いや、無い。無いのだ。可能性があるとするなら、好み弩ストライクな異性から忠告された時ぐらいだろう。


「ん~、そうねぇー。中々イキの良いのが入ってきたカ・ン・ジ?」

「ほぅ」


 オ・カマーが他人を褒めることが珍しいと揶揄するように、多少の驚きを以て相槌を打つ。


「Cランク上がりたてって聞いててたけど、あれならBランクの壁も超えられる芽はあるわね」

「ふむ」


 ギルドマスターは両腕を組んで、まっすぐな眼光で続きを促した。


「酔っていてもこなれてきた(・・・・・・)Cランク。アタシとの力量を図り間違えたのは痛いけれど、立て直し(リカバー)は早かったわ。アタシが脳天に酒瓶振り下ろす時と、聖癒術(せいいじゅつ)の精度を見て、敵対するよりも謝った方が得だと判断してたし。詫び代も要求したら素直に出しねぇ。その後も情報収集もシタんでしょうね。朝になったらまた謝りに来てたわ」


 酔いが覚めてもう一度詫びを入れに来る。頭で理解したとしても中々出来ないことだ。オ・カマーはその瞬間に立ち会った時、素直に感心していた。


「絶対に敵対するな、と、職員にはそう答えるようにと伝えたからな」

「その話の裏も取ったんでしょうね。情報屋に調べさせたみたいよ」

「報復するにしても、謝罪するにしても、まずは情報が必須――なるほど」


 納得するように、ギルドマスターは一人頷く。

 これはただ単に素行の問題ではない。その後の顛末(・・・・・・)を含めてが冒険者(・・・・・・・・)なのだから(・・・・・)

 問題(トラブル)は常々起こりうるモノであり、つまるところ如何にして解決に導いたかが焦点となる。

 ただ暴力を振るうだけで解決したと思い込む輩は論ずるにも値しない。権威権力をチラつかせる者でようやく三流。小さな出来事であろうと、多くが納得できる結果を出せてこそ二流。その後に起き得る一切のトラブルを未然に防いでこそ一流と称される。

 先の話を振り返れば、酔っぱらいとしては普通に起こり得る問題(トラブル)ではあった。が、すぐに不味いと感じ入り、謝罪した。そして有り金と謝意の表明という代償を素直に支払っている。更に言えば、オ・カマーが『実戦形式』と口にしたことからギルドが手を回したと察し、その後のトラブルを念入りに潰そうとしたのだ。今後の身の振り方を考えるために複数の情報を集めていたことも考慮したならば――。


「Bランクも掴める可能性は十分にあるな。やもすればAも――」

「はっ。Aランクぅ? 火竜単独討伐(ソロ)に匹敵する偉業積み上げないとダメでしょ。いくら冒険者つったって、崖から紐なし身投げ(バンジー)推奨の難易度とか最早職業じゃないわよ。自殺よ自★殺。過度な期待をおっかぶせるのは止めなさい」


 いつの間にか職員のお姉さんに頼んで貰ったメロンフロートをストローでぶくぶく泡立たせながら、オ・カマーは公然とギルドマスターを非難した。Cランクで既に熟達した冒険者である。というのが世間一般の認識。そこから先は一握りの成功者という、途方もない壁が存在する。

 なんとなく続けていても到達できるのはBランクまで。その上は正直言って正気の沙汰ではない。少なくともまとも(・・・)な頭をしていたら宮仕えの雇われ人(サラリーマン)の方を選ぶだろう。例えるなら勲一等を得て、一国一城の主になれたとしても皇帝にはなれない(・・・・)ように。

 人生のスタートライン以上に、資格が要る。覚悟を求められる。純然たる格差が存在する不平等で不公平で、誰もが入れて、そして過酷で死がつきまとう世界だから。

 それを己の身一つで乗り超えると決めたならば、最早正気では為し得ないことを自ずと理解するのだ。狂気にも似た感情に委ね続け、苦難に対し折れることなく戦い続け、そして生き残った圧倒的少数派がAランクという人外の領域である。大多数は、そこに辿り着く前に力尽きてしまう。

 だが、幾ら好きな人生を歩めと嘯いていても、簡単に力尽きて貰っては困るという見解も存在する。ココに居る二人がそうだ。少なくとも同業他者に死んで欲しくない。主に税収が減っちゃ()だから。からかい甲斐が無くなってしまうから()()だ――とゆー割と酷い理由だが、偽りのない本心だった。


「アタシ考えたんだけどさー。Aランク増やしたいなら、もーちょっとランク分け増やした方が良いんじゃね? 例えばAランクまでは凡人でも長年の実績とかで到達可。その上をスペ(S)ャルって制定するとか」

「そして下位Sと上位Sで分けろと?」

「ソコも明確に分けた方が無難よ。人外束ねるほどの逸材が出てきたなら、国家奉仕の実績具合で更にSSとでもしとけば良いでしょ? まぁ、国に一人居るか居ないかっていうレベルに制定しときゃ文句も出ないでしょうしねー」

「まさしく生きた伝説というヤツだな。それは……」


 しかし、考えておこうという言葉はギルドマスターの口から出てこなかった。今居る既得権益層(Aランク)に配慮しているという風体ではない。もうすでに聞いた話を振り返っているかのように瞳を閉じるだけで――


「丁度お前と同じ提案が以前から出ていてな。俺からも推薦しておくか」

「やっぱり今までのやり方だと認定厳し過ぎるって?」

「それもある――が、傍目からは同じBランクでも、実情を知っている奴らからすれば幅がとにかく広い。『上位Bランクと下位Bランクの境目は必要ではないか』という話は前々から出ていてな。戦闘能力が低めであろうと、功績を考慮すればAランクを与えても可笑しくない連中は居る。それこそ若手にだ」


 死んでしまったら意味が無いから慎重になるが、身投げ同然の冒険をしなければ最高の仕事人としては認められない。その他大勢と一流を分かつ分水嶺。それが現状のBとAの差。

 だが輝ける夢は必要なのだ。羨望を一身に背負える人間も。そうでなくてはのし上がろうとする人間は居なくなり、この世は絶望と戦うだけの退屈な世界に成り果ててしまうだろう。それは余りにつまらない(・・・・・)


「そう言えば爵位与えるとかって話があったわね?」

「Aランクは伯爵と同等の発言権と恩給が与えられるというヤツだな。Aランクの絶対数を増やす代わりに子爵まで落とし、名誉職扱いにするという話は既に出ていたぞ」

「貴族に真正面からモノ言える人間はある程度居た方が良いものね。……でも、タダ飯タダ酒手に入るようになったら、物好き以外は堕落するわよ~?」

「それならそれでも良いさ。食うに困らん金を払っても、それまでの功績を考えれば釣りが出てくる。後進を育てる礎になってくれれば、言うことは無い」

「じゃ、アタシそろそろ帰るわねー」

「待てぃ」

 ガシッとオ・カマーは襟首を掴まれる。何だか話の流れが悪い方向に来ていると、一瞬にして察知したが、逃さんとギルドマスターが本気になって捕まえに来たのだ。

「嫌! 離してッ!! アタイに酷いことするつもりでしょっ、薄い本みたいに! 薄い本みたいにっ!!」

「薄い本が何だか知らんが、お前以外に頼めそうなヤツがおらんのだ!!」

原石(いしころ)を磨くとか、それこそ暇してるAランクに頼めば!? アタシ請けないからねっ!」

「手加減出来ねぇんだよ!! アイツら本気で手加減しろっつっても一発で心へし折っちまうから!!」

半分は優しさに(バファリン)してあげなさいって言えば良いじゃない!」

「『田舎で土弄るほうがぜってー幸せだから、心を圧し折るつもりで往く。これが俺らの優しさだ』って平然と言うんだよ! 気持ちは俺にもわかるから止めらんねぇ!! だがそんなんしてたら期待のルーキーなんぞ一生入って来ねぇんだよぉ!!」

「だったら美少女、もしくは美少年を要求するぅ!!」

「安心しろ!!! 今回のは顔が良いぞ!」


 ピタッ、とオ・カマーの動きが止まった。

 不穏なオーラを全身から溢れさせつつ、騙したら酷いわよ? と呪詛の如き低音の声が部屋に響いた。


「大丈夫だ。問題ない」

「それ問題しかない時に聞くセリフよ」


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