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絶世怪傑のオ・カマー  作者: 漆黒の胡麻ゼリー
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死徒集結(デス・パレード)閉廷!

六本腕の鎧武者(ヘカトンケイル)が倒されたことにより、下の階に続く道を塞いでいた石壁が横方向にゆっくりとスライドしていく。そう、それは本当に、ゆっくりと―――


「遅い!!」


 が、オ・カマーはそれを許せず、 ズバァン!! と左手で無理矢理こじ開けた。

 毎秒1センチとかどう考えても遅すぎる。無駄にゴゴゴゴとか重厚な音出して雰囲気(かも)さなくて良いから。シュバッと開きなさいよ、シュバッと。

 そんな風に文句を口にしながらも、直径十数メートルはあろうかという円柱状の外壁に張り付くようにして形成された巨大な螺旋階段――正確には中央の虚空を見据えた瞬間――オ・カマーの片眉が跳ね上がった。後ろを付いてきている氷狼族の少女に向けて、口を開く。


「アンタは脚滑らせて落っこちないように、ちゃんと(・・・・)階段使い(・・・・)なさいよ?(・・・・・)。じゃ、アタシ()ぶから」


 片手を挙げ、少女にそう断ると――


「はいっ! ……えっ?」

「とうっ!!」


 オ・カマーは宣言通り、虚空に身を投げた(・・・・・・・・・)

 それも顔面から着地するような、完全なる加速体勢で。下に続く階段がどれほどの長さなのか、ロクに確認もせずに――少女には自然と、そう見えた。


「ちょっチョット待って下さいぃぃ~~~~~~っ!!!」


 少女は絶叫しながらも、言われた通り階段を全力疾走した。


「ふふっ」


 自殺同然の身投げをしながら、それでもオ・カマーは嗤う。

 それは嘲りの笑みではなく、称えるが故の笑みである。

 氷狼族の少女は自分に出来る事をやり遂げたのだ。


 それに応えられないようでは超越者(オカマ)が廃る。


 ダンジョンを逆走し、可能な限りの戦闘を回避しながらも、瀕死になりかけながらも情報を持ち帰った。そうして命からがら抜け出してきた死地を、仲間の為にもう一度戻るという“勇気”。差し出せと言われれば自らの(カラダ)でさえも拒む事は出来ない、報酬として提示された『ありったけ』の“覚悟”。有効であると言い切られたのなら、たとえ理解出来ずとも、恥ずかしかろうともやってみせる“度胸”。


「本当に、イケてる娘じゃない」


 オ・カマーには視えていた(・・・・・)

 ほぼ最短を走破しても、総てを救う(・・・・・)のは難しいと(・・・・・・)

 否、他の連中なら神速とも言える行軍ですら、間に合わない(・・・・・・)だろうと(・・・・)


 あの時あの場には“蒼炎”が居た。“嘲弄”(じぶん)が居た。だが、今、まさにこの瞬間――届かせたのは少女の意地だ。

 支払うべき対価(だいしょう)をケチり、無駄に交渉を長引かせ、仲間の命を天秤に掛けていたのなら。彼等は相応に手を抜いていただろう。

 でも……あの子はそんなコトはしなかった。自分を捨てて、張るべき場所(ところ)で意地を張った。何よりも大切な仲間の為に、己を(なげう)ってみせた。


 それはとても尊いもの。

 応える価値のあるもの。

 奇跡を(こいねが)うに値する。


 だから――――


「聞き届けなさい『 天鍵(ウルスラ) 』!!」


 ――――喜びなさい少女、アンタの願いは(ようや)く叶う。


 “嘲弄”の声に応えるように、握られていた奇っ怪な剣がギシリと音を立てて(きし)んだ。

 長さ(およ)そ一メートルの、青みがかった銀白色を宿した直剣。それは三種の希少金属を融結させた極上の魔剣だ。

 それを奇っ怪な剣と評した理由は――刀身に直線上の溝が幾重にも刻まれているから。

 生命樹(セフィロト)を奇想させる幾何学模様の溝は、所有者の血を吸って、刻む為の溝。

 気高き魂が傷付きながらも進み、主人が血を流してでも救うと値したならば “総てを与える魔剣”。


「さぁ、征くわよ?」


 主人(オ・カマー)に応えるように剣が指の腹を斬る。流れ出た赤の液体は、意思を持つが如く、刀身の溝目指して血疾走(ちばし)らせていく。

 血が幾何学模様の溝に滑り込み、古代文字を表すように留まると、強い光を発したのちに蒸発し(きえ)ていった。

 天鍵(ウルスラ)が供物を取り込んで、力に変えたのだ。その刀身に残した文字の通りに。

 次の瞬間――オ・カマーを中心に爆発的な風が巻き起こった。それを全身に纏わせ、剣と腕を交差するように構えた。

 その驚異的な視力は今もなお剣を取り、救援を託した少女が援軍を寄越してくれることを信じ、戦い続けていた彼女達を捉えている。いいや、実はその前から。闘気や生気と言った常人には視えぬ(オーラ)のゆらぎをオ・カマーは感じ取っていた。

 同時に、到達可能な冒険者が極端に少なくなる三十一階より下の階から、それこそ無限のように湧き出てくるモンスターの魔軍(たいぐん)を相手取り、彼女達(スレイプニル)は背水の陣で戦っていたのだと。

 ――けれどまだ、誰の目も死んでいない。死者も出していない。最悪の事態を防ごうと、リーダー格の女の子が叱咤激励し、パーティ全員が奮戦している。それでも確実に負傷し疲弊し、体力も気力も限界に近いのが見て取れた。


「人事を尽くして天命を待つ。良い台詞よね」


 上から失礼、と。巨大な刀を振るう牛頭の怪物を真横から一刀両断。そのコンマ数秒あと、あわや地面に激突するかと思われた瞬間――風の強烈な後押しを受けて、床を滑るように力学を制御していく。


「あの娘はよく頑張ったわ」


 何が起きたのかを認識し、スレイプニルのメンバーが目を見開くまでに二匹。リーダーの女の子がオ・カマーの折れることなく前へ突き進む金髪(スネ夫ヘア)を見定めて、誰なのかを判別するまでに五匹。そして、口が開いて叫ぶまでの合間に十匹が討滅させられていた。


「だから、天命(アタシ)が来たわよ」

“嘲弄”(オ・カマー)!!」

「この人が……っ」

「リーダーが言ってた、オカ……いえっ」

「別におこじゃないわよ? むしろソレで通ってるし」

「推定Aランクの冒険者!!」


 わざわざ言い直した。流石に援軍に来てくれた人をバカにする阿呆は居ない。でも、と。オ・カマーは評価を多少修正する。女所帯のチームは何かと気が張っていて常時ツンケンしている雰囲気があるけれど、こうしてみると可愛い所もあるじゃない、と。


「……喜ぶのは後。転移石は残っているわよね? 先に使いなさい」

「あ、ああっ」


 とりあえず目についた魔物(モンスター)を片っ端から斬り捨てて、怪物たちの返り血を横一文字に払い退ける。この剣は恐ろしいほどの偏食家で、持ち主に死力を尽くさせるような獲物にしか関心を示さない。だから血糊など刀身に残らず、勝手に滑り落ちていく。その癖、鞘の中に残っていると怒るのだ。

 

「みっみんなぁっ――あれ!?」


 遅れて氷狼族の少女が最下部まで降りてきて、先程まで感じられた気配が残らず消えたのがショックだったのか、信じられないものを見る目をしたまま固まってしまった。応援とか超頑張ったのに、再会を喜ぶ場面に遭遇出来なかった不憫さが涙を誘う。でもココはそういう場所じゃないし、オ・カマーは手を振って帰るよう促した。


「先に戻らせたわ。四十階層のボスの力は此処まで及ばないし、アンタも戻りなさい」

「……あ、はい。えっと……」

「これから大技撃つ予定なんだけど、アンタも巻き込まれる? ちなみに“蒼炎”はとっくの昔に退避済み」


 扉に入る前に見せた手信号を理解していれば、六本腕の鎧武者(ヘカトンケイル)のドロップアイテムを回収して、速やかに撤収している頃合いである。


「帰ります!! ありがとうございましたっ!!」


 少女の決断は早かった。

 転移発動までの時間を稼ぐと、“嘲弄”(オ・カマー)は奥に続く通路――大群の通り道に向かって、剣を構えた。反対の手の指を歯で噛み切ると、指の腹を刀身に撫で付ける。


運命(アンタ)なんか糞食らえ、ってね」


 ――――焼き尽くせ。蹂躙しろ。太陽に()まれるが如く。


 血によって刻まれた古代文字が輝き、刀身を包むように円環の光輪が三つ現れ、横方向に回転していく。


「ま、今回は諦めなさい」


 それはまるで、生命を圧縮して打ち出す極小の地獄。火竜の息吹(ドラゴンブレス)の前兆にも似ていた。だが、識る者が居たのならこうも思ったことだろう。

 火竜(アレ)よりも遥かに小さいのに、籠められている力の桁が一つ(・・・・・・)二つ違うと(・・・・・)


「生憎、くれてやる(モノ)なんて一つも無かったわ」


 無限に湧き出る地獄の軍勢に向けて、この階より下に立つ悪意(モンスター)に向けて。

 燃やし尽くすと言わんばかりに、緋色の輝きを纏った魔力が煌き――身の丈を遥かに超えた極光をぶちかまして、通路どころか下の階層もろとも()き払った。

 陽の光が射さないダンジョンの奥深くに太陽をぶち立てて、その光が届く総てを()み込んでいく。溢れ出るほどであった魔軍は塵と灰になって、残した宝物もろとも消し飛ばされていった。


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