働いたら死ぬかなって、思っている……
仕事のうっぷんを短編で晴らす
僕の名はビデオ、貧乏農家の六男の十六才です
十五で成人した僕は、家を追い出され冒険者になりました
別に追い出された事は恨んでいません、逆に貧乏なのにここまで育ててくれた事に感謝すらしています
ただ、戦いの経験すらない農家の息子に冒険者家業は厳しかったです……
一年間僕は薬草採取等の簡単な仕事で食い扶持を稼ぎ、昨日初めて武器を買いダンジョンへ潜りました
そして、なんやかんやあって、現在ダンジョンの最下層に居ます
「なんやかんやって何?」
紹介します、目の前に居る銀髪の美人さんは、この最下層に封印されてる“月の女神が一柱のウサギちゃん”
餅と労働の喜びを司る神様らしいです
「誰に話し掛けてるの?」
因みに心も読めるらしく、さっきから僕がやってる現実逃避にも、的確に反応してくれます
心は読めても空気は読めないんですね
「空気って読めるの?それより、なんやかんやって何か教えてよ」
「…………ダンジョンで転移トラップに引っ掛かって最下層へ
目の前にはダンジョンボス兼封印の守護神たる巨大な神竜さんが
数千年間ウサギちゃんの神力で強制的に働かされて、死んだ目をして魔法道具を作ってました
神竜は僕に魔法剣を差し出し『殺してください、解放してください、自分では契約で出来ないのです』と泣きながら懇願して来ました
神竜に逆らえるはずがない僕は、魔法剣を眉間にサクっと刺して『ありがとう、これでやっとゆっくり眠れる……』と眠るように死んで行く神竜を見守りました
そして晴れて解放された神竜は
ウサギちゃんが蘇生させ、また労働をやらせてます……死は解放ではなく、絶望への入口でした」
パチパチパチパチ
「おおー、それがなんやかんやなんだね」
(T△T)
「あんたは鬼ですかっ!なんで蘇生させたんです、いくらなんでも可哀想ですよ!」
数千年間ボス部屋から出ることも出来ずに、毎日二十二時間勤務で魔法道具を作り続けてた神竜を解放してあげてよ!
あんたは、全てを諦めたような表情で黙々と魔法道具を作る神竜を見ても何とも思わないんですか!
「解放して欲しいの?
でもならなんで、一度死んじゃって契約は解除されてるのに出ていかないの?」
出れるの?
……僕は神竜と見詰め合う、神竜はハッとした顔をしたかと思うとパタパタと自分の体を触り……満面の笑みで泣き出した
嬉しいのは分かるけど、泣き笑いする竜って凄く怖いです
だけどそうと分かったら、こんな所に長居は無用です
「行こう神竜さん、外の世界へ」
僕は神竜の手(爪)を引き、一目散にボス部屋から駆け出した
こんな何もない場所じゃ労働ができないからね!はやく街に戻って仕事しなきゃ!!
☆☆☆
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ボス部屋を出た僕達は、速攻で神竜の転移魔法により隣の大陸の草原まで転移しました(万が一でもウサギちゃんが追い掛けて来ないようにだそうだ)
そして神竜は数千年ぶりの空に感動して吠えています……これ誰かに見付かったら、巨大なドラゴンが怒り狂ってると勘違いされそう……
僕もボス部屋から出たら正気に戻りました
どうやら、封印されてるボス部屋に女神の神力が溢れていて、それに当てられていたらしいです……恐ろしい
さてと、神竜さんはしばらく放っとくしか無いでしょう
数千年ぶりの感動を、人が恐がるから静かにしてと言うのは、流石に気が咎めますし
それに、確かめたい事もあります
「ステータスオープン」
言葉と共に、僕の前に半透明なプレートが浮かび上がります
これはステータスと呼ばれる、神様からの身分証明書みたいな物です
ビデオ
人間(神竜)
レベル 334
力:5963
体:5963
速:5963
器:5963
魔:5963
耐:5963
運:0
スキル:身体強化(神竜) 竜魔法 竜闘気 状態異常完全耐性(神竜) 超回復 眷属召喚 竜人化
称号:超越者 神殺し 竜殺し 神竜の救世主 神竜の友 神竜の代弁者 神竜を解放せし者 神竜の恩人 神竜の加護 女神の祝福(労働の喜び)
神竜の感謝で称号がヤバい
ボス部屋出るときにとんでもないスピードで走ってしまい、扉をぶち破ってしまったのに、怪我一つしなかったんです
ですから、かなりレベルが上がってると思ってたんですけど
神竜の感謝の念が重すぎて、他が霞んで見えます
いえ、確かにステータスの上昇は凄いですよ
成人のレベル1の平均が10とか言ってましたから
僕は超音速で走れる速度と、家くらい軽く持ち上げれる怪力を持ってる事になります……まったく実感が湧かないけども
だいたいレベルも能力も上限は99じゃなかったのですか!
それに人間(神竜)ってのも何でしょう?(神竜)って要らないですよね?称号の超越者だけで十分ですよね!
この表現だと、神竜が人間に擬態してるみたいじゃないですか……違いますよね?僕はまだ人間ですよね?
「……女神の祝福(労働の喜び)はいいのか?」
「神竜さん、そんなのは僕には見えません……」
もう気は済んだんですか?
すみませんけど、人が一生懸命スルーしてる物に触れないで下さい
「それは働き始めたら仕事が楽しくなりすぎて、死ぬまで労働を止めれなくなる呪……呪いだ」
「言い直すなら、ちゃんと言い直して下さい!!これ何とかならないのですか?神竜さんなら出来ますよね!出来ると言って下さい!!」
これは祝福じゃない!なんであの女神様が封印されてるかよく分かりました!あんなのが世に出て来たら人類と言わずに、この世界が滅びます!
「ビデオ現実見ようよ……出来るなら我が数千年も働いてるはず無いだろう」
「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「だが安心するんだビデオ、そうそう死なないように、体を作り替えといたから」
「ああ、人間(神竜)はやっぱり神竜さんのせいだったんですね…………死ぬのが長引くだけじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それフォローになってないから!ただ苦しみが長引くだけだから!
「余り興奮すると体に悪いぞ」
「誰のせいですか、誰の!?」
「誰のって、あのパープー女神」
「…………殺したら加護は消えますかね」
「近付いたら強制労働が待ってるけど行くか?我は絶対に行かないけどな!」
質が悪すぎる!
なんとか解呪出来る方法を探さないと、ふとした切欠で労働してしまい、そのまま……
「なんとか働かずに生きてく方法ってありますか?農業や狩りもアウトな気がするんですが……」
「お主は冒険者なんだろ?なら、偶然出会って倒した魔物を換金しに行くのはギリギリセーフだと思う、依頼受けるのは間違いなくアウトだろうがな」
なるほど、稼ぐ為に狩るんじゃなくて持ち物を金に替えるのは大丈夫なんですね……ギリギリとか思うってのはスルーします、どっち道ダメだったら積むのだから
「……近くの街って分かりますか?取り敢えずそっちに向かって…………そう言えば人化とか出来ないんですか?このままだと騒ぎに成りそうなんですが」
「我も行くのが確定しとるのか?」
「せっかくだから、一緒に行きたいなーと……それにあの女神様が何かしてきた時に、二人ならどうにかなるかと」
「よし、我も付いて行ってやろう、感謝するように!」
ハハハ……何かされる可能性があるんですね
あの女神より力ある神様お願いです、どうかアレをもっと強力に封印して下さい
「ありがとうございます、それで人化は…」
「ビデオ、質量保存の法則って知ってるか?」
「あっハイ」
出来ないんですね
街にどうやって入ろう、絶対に騒ぎになるよな……
☆☆☆
すっかりこの街の日常になった神竜さんがうたた寝しながら空を漂っている
街の外れで神竜さんと日向ぼっこをしていると、一人の女性が駆けて来た
この匂いは巨乳エルフの受付嬢さんか
「探しましたよビデオさん、お願いですから依頼を受けて下さい、もう貴方だけが頼りなんです!」
「えーやだー、俺は働いたら死ぬ呪いに掛かってるから~」
「そんな呪いあるはず無いでしょう!」
(有るんだよ!リアルで掛かってるんだよチキショー!)
この受付嬢さんも、なんで毎回懲りずに来るかね……まさか俺に惚れてるとか?
ふっ、モテる男は辛いぜ(現実逃避)
「神竜様からも何か言ってやって下さい、S級冒険者なのにまったく働く気がないこの宿六に!」
説明しよう『宿六』とは!宿のろくでなしって意味の略語だ
しかし、妻が自分の亭主へ向ける親愛の敬称でもある
つまり……この受付嬢は俺に惚れてる(現実逃避)
「おーいビデオー、野球しようぜー」
「遊びに誘えとは言ってません!」
「うるさいなー、どんな依頼だよ、聞き流すから言ってみ」
いい加減この態度にも慣れてきたけど、やっぱり心苦しいな
だって依頼を受けたら死ぬまで働く事になるんだよ!
もう傍若無人に振る舞って、依頼を持って来させないようにするしか無いじゃないか!
「ちゃんと聞いて下さい!北の山にドラゴンが住み着いたと報告があったのです、早急に…」
「おい神竜、お前の嫁候補かも知れないぞ!」
「何歳くらいだ?住み着いたと言うからには成龍なのだろうな!」
最近の神竜さんは婚活に勤しんでる
なんでも数千年間独り身だったから、暖かい家庭が恋しいらしい
思わず俺も、全力で協力すると言ってしまった
「あの……多分雄のドラゴンかと……」
「ビデオ行ってらっしゃい」
「急にやる気を無くすな!逆に考えるんだ神竜よ、雄が一人減ったら雌が一人 溢れると」
「ちょっと人の縄張りに勝手に入って来たカスを畳んで来る」
「待って下さい、まだ悪いドラゴンとは……」
話を最後まで聞かずに飛んで行くとは……
まさか適当言ったのを真に受けた?
「じゃあ俺も食後の散歩に行ってくる」
良いドラゴンだったらどうしよう?
冷や汗が止まらないぜ
「ハァー、行くなら神竜様にくれぐれも穏便にと伝えといて下さい」
「あー、覚えてたら言っとく」
さてと散歩だ、間違っても依頼じゃない
神竜さんがドラゴンと遊んでるだろうから、それを見に行くだけだ……
あっそうだ!そのドラゴンに雌ドラゴンを紹介して貰えばいいじゃないか
よし、その路線で神竜さんを説得しよう
「まったく、うちの宿六ときたら素直じゃないんだから」
後ろから受付嬢の憂いを帯びた呟きが聞こえた
これはもしや脈ありですか?
ふっ、神竜さんすみません、僕の方が先に結婚しそうです
もっとも、専業主夫も呪いで出来ないんですけどね
出来る事と言ったらヒモくらい……
……早くこの呪いを解く方法を見つけよう、主神様になんとか会えないかなー
ただ、受付嬢さんとの会話をさせたいだけに書き上げました……働きたくないでござる!
尚、住み着いたドラゴンは僕っ子のメスという設定