王都二日目(1)
──朝、目が覚めると、身動きができなかった。
最初のころはびっくりしたけど、今はそうでもない。
コアラよろしく絡みついているのは、ルト様の腕だ。
一体いつ帰ってきたのかわからないけど……起こすの悪いかなぁ。
こうやって寝る時は、ふてくされている時がほとんどだ。
多分、パーティーが嫌だったんだろう。
気持ちはわかるんだけど、このままだとわたしは動けないわけで……
でも疲れてるだろうしじたばたしちゃうのも……うーん。
悩んでいるとノックの音がして、ついでジャンさんが入ってきた。
最近はノックしてすぐ入ってくることが多いけど、中の様子は気配で察しているらしく、それで困ったことはない。
「おはようございます」
「おはようございます、ジャンさん、昨夜はお疲れ様でした」
「ありがとうございます。まあ、毎年のことですからね」
今日は朝から仕事モードらしく、丁寧な言葉遣いだ。
護衛兼色々で、ジャンさんは王都ではほぼルト様につきっきりになる。
休みもあってないようなものだ。
いつものことです、ってフリーデさんは言っていたけど、大変なのに変わりはない。
「今剥がしますから」
にっこり笑顔で言い放つと、言葉どおりべりっとルト様をひっぺがす、凄い力だなぁ。
でも寝起きの悪いルト様は、それくらいでは起きなかった、これもすごい。
わたしはありがたく、隣の部屋に行って着替えやらをすませてしまう。
今回は量販品よりはちょっと質のいい、でも、儲かってる商家の人間でも着られるくらいの服を選んで持ってきた。
わざわざ名乗らずに、この見た目で相手に判断してもらえばいいだろう、ってことらしい。
堅苦しくない服装なのはありがたいけど、お祖父様の格好次第では、メイド服に着替えて出かけたほうがいいかもしれない。
まあ、その時はそのときだと、とりあえず普通に着替えて下に降りて、朝食の支度をしているフリーデさんに手伝いを申し出ようとしたけど、あらかた終わってて。
洗い物くらいしますねって言ったけど、させてもらえるだろうか。
ただでさえひとが少ないし、わたしだって皿洗いくらいは割らずにできるから、役に立ちたいんだけど。
せめてと食器にスープをよそったりして食卓の準備を整えていると、まだ眠そうなルト様がやってきた。
全員で食卓を囲い、祈りたいひとだけ祈りを捧げて、朝ご飯にする。
「……あなたに起こしてほしかったのに」
拗ねたように呟くルト様に、なんと答えたものかと悩んでしまう。
正直、寝てるルト様を起こすのは結構大変だし、そのままベッドに逆戻りされそうになったこともあるので、誰かにまかせてしまいたいところなんだよなぁ。
でも、そのまま言えば絶対もっと拗ねるし……
「だったらもうちょっと寝起きをよくすればいいだけですよ」
答えを探していると、ジャンさんがばっさり切り捨てていた。
うぐ、と詰まったルト様は、視線をそらしてパンをちぎっている。
……そのとおりなんだけど、しゃっきり起きるルト様は、あんまり想像つかないな。
朝食を終えて洗い物を手伝って、一息入れたちょうどのころに、お祖父様がやってきた。
いつもの登庁時間を見計らってきたらしく、ルト様も支度を終えたところだった。
「では、午後のお茶には帰りますね」
「わかりました」
午後のお茶も外でしなきゃいけないんじゃ、と思うけど、男性の場合はそうでもないのかな?
わたしがうなずくと、ルト様はにっこり笑っていってきますのキスをした。
それから、お祖父様のほうを見て、
「お祖父様も年齢を考えて、無理をしないでくださいね。ライマー、見張りをよろしくお願いします」
「はい、かしこまりました」
お祖父様は一応うなずいて、ルト様はジャンさんと出ていき、ほどなく馬車の音がする。
すると、お祖父様はぱっとはしゃいだ顔になった。……殊勝げな顔は演技だったのか……
「さてじゃあセッカちゃんや、出かけるとしようかの!」
今日のお祖父様は一見すると大貴族には見えない、つまり、わたしと同じくらいの服装だ。
かもしだす雰囲気がわたしよりよっぽどちゃんとしているので、どこかいいところのご隠居、って感じだけど。
ライマーさんもそこまで重苦しい従者の格好じゃないから、やっぱりいいところの商家風味でいけばいいかな?
わたしのほうのお供はウェンデルさんで、こちらはメイド服ではなく、私服を着ている。
諸々の都合がいい、と笑顔で喋ってたから……スカートの中に何種類ナニが入っているのか、とても恐い。
多分続きも二日くらいで投稿できるはずです。




