表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/124

枳になる夜

 キリのいい場所がないので七千文字一気に投稿です。

 お時間のある時にどうぞ。

「今日はどれにしましょうか、希望はありますか?」

 ルト様は機嫌よく棚を開けて、ちょうどいいものを見繕っているらしい。

 多分今日も、あまり強くないお酒を出してくれるんだろうけど、それでも酔いが回った状態でなにか大事なことを言う気にはなれない。

 とんとんと出された瓶はどれも綺麗だけど──その前に。

「あの、ルト様」

 堅い口調に、なにかあるとわかったのだろう、手を止めてこちらを見つめてきた。

 群青色の瞳は穏やかに続きを促してくる。

「ルト様はいいって言いますけど、やっぱり、わたしは、なあなあで続けるのはよくないと思うんです」

「……まあ、あなたは真面目ですからね」

 いや、真面目じゃなくてごく普通だと思うんだけど。

 貴族の感覚からするとってことなんだろうか、でもその場合はもっとただれた関係になる気がする。

「──だから、はっきりさせたくて」

 本当はもっと、雰囲気とか、言葉とか、飾ったりするものなんだろうけど。

 恋愛スキルのないわたしがやろうとしたって、失敗するのは目に見えているから。

 だから、震えそうになるのを叱咤して、ルト様がなにか喋る前に口にする。

「わたしは、ルト様が好きです」

 ──なんとか言えた。膝の上でにぎった拳は、大分汗ばんでいるけれど。

 単純な告白に、ルト様は数秒置いてから、優しく微笑んだ。

「私もあなたのことは好きですよ」

 穏やかなものいいは、間違いなく意味が違う。

「誤魔化さないでください」

 思わず、ちょっと尖った声になってしまった。

 これだけ緊張して告げたことが、単純な──家族に対してとか、そういう好きじゃないってことくらい、想像つくだろうに。

 ルト様はそれを、保護者的なものにすり替えようとしている。

 そんなこと、させない。わたしの決意を無駄にさせてなるものか。

 結果嫌われても、そばにいられなくなっても、宙ぶらりんで悩むよりよっぽどマシだ。

「恋愛的な意味でってことです。だから……ルト様がどうも思ってないなら、こういうのは、もうやめにします」

 一緒に寝るのは、と具体的な単語は、どうしても恥ずかしくて駄目だった。

 だけど、十分意味は通じるはずだ。

 これで煙に巻かれたら、フられたのだと判断するしかない。

 ものすごく時間が経った気がしたけど、多分実際は数十秒だろう。

 とりだされていたボトルが机の上に置かれて、ルト様がこちらに近づいてきた。

 そのまま優雅にわたしの前に膝をついて、同じくらいの目線になる。

「……嬉しいですよ、とても」

 静かな声は、いつもと違って押し殺した響きがある。

「ですが、その言葉は──私には勿体ない」

 自嘲気味の笑みとともに落ちるのは、予想していなかった言葉。

 もったいない、って、どういうことだろう。

 わたしの表情から読みとったのだろう、ルト様は低い声で続けていく。

「私はあなたに、大抵のものは与えられますが……」

 そこで一度言葉を切り、苦々しげに吐き捨てる。

「……あなたに女性としての幸せを、……子供を与えることはできない」

 社会的地位があって、資産もあって、だからピアノはいくらでも買えるけれど(いや何台もいるものじゃないけど)男としては役に立たない。

「だから、あなたには相応しくありません」

 ──子供、と、呆然と繰り返せば、ええ、とうなずかれる。

 今までの話の流れからすると、突然のことに思えるけれど、それはわたしの感覚だけらしい。

「あなたが眠れないなら、いくらでもそばにいます。ですが……その言葉は、いつか出会える男性にとっておいてください」

「そういう……ことを、頼んでるんじゃ、ないです」

 メサルズさんに他の家のことを聞いたのも、知っているんだろう。

 優しい、やさしい言葉は、どれだけ残酷か、このひとは自覚しているんだろうか。

 真綿で首を絞めるって、こういうことなのかもしれない。

「わたし……わたしは、そういうことをするのは、まだ恐いです、それなのに、いつかなんて」

 告白しておいて今さらだけど、たとえルト様と両思いになったとしても、そしてルト様が正常な男性だったとしても、恋人同士なら当然するであろう行為は考えられない。

 ルト様相手だってそうなのに、それ以外の男性となんて、そんなの、今は百パーセント無理だ。

「今は、でしょう? いずれ傷は癒えます。その時に私がいたら、邪魔になるだけですよ」

 ──だから私とあなたは、保護者と被保護者であればいい。

 淀みなく言葉を紡いでいくルト様に、迷いがあるようには見えない。

 添い寝をしてくれた時から、もしかしたらその前から、考えていたのかもしれない。

「異世界から無理矢理召喚されたあなたは、誰よりも幸せになる権利がある」

 そっと、壊れものを扱うように、にぎりしめた手にふれられる。

「優しい配偶者と、愛らしい子供、それらは……私では不可能ですから」

 だからこの話はおしまいにしましょうと、噛んで含めるように。

 ……なに、それ。

 身体のことがあるから駄目ですってフるのは、わからなくはない。

 でも、それでもいいって言ってるのに。

 だのに、どうしてそこに、当然のように子供がついてくるんだ。

「あなたの子供なら、きっととてもかわいいでしょうね」

 なんで、微笑みながらそんなことを言うの。

 表情の出ない子供がかわいいわけないだろう、目医者行ったほうがいいんじゃないか。

「親子でピアノを奪いあいそうではありますけれど」

 ……わたしは、一言も。


 ぱちん、と響いた音は、わりと間抜けだった。


 そんなに力を入れたわけじゃないから、頬は赤くもなっていない。

 だけど、ルト様は呆然と、叩かれた左頬を手で押さえて。

「……商売道具の手は、大切にしないといけないのではないですか」

 ごくまっとうだけど、この場にそぐわない指摘をした。

 じゃあ、と背もたれに置いてあったクッションをつかんで、ぼす、と身体に投げつける。

 これも力は入れていないから、すぐに床に落ちてしまった。

 ふつふつとお腹の中に怒りがたまっているけれど、どこから文句を言えばいいかわからない。

 だから床に落ちたクッションを手にとって、ばしばしと叩きつけた。

 抵抗というには軽いものだから、やりようはあるだろうに、ルト様はなすがままだ。

「……わたし、……わたし、が、いつ」

 ようやく切れ切れの単語が浮かんできたので、はたきながらこぼす。

「いつ、子供がほしいって言いました!?」

 ばしっとクッションを床に投げ捨てて、目の前の顔を睨みつける。

「それは…………言っていません、が、普通は欲しいものでしょう?」

 不思議そうに問いかける顔と声の調子は、素だ。

 つまり、本気でそう考えている。

 昼間のフラウさんとのことがなければ、実感がわかなかっただろうけど、今ならわかる。

 一定以上の階級の人々には、この心理が根強いのだろう。

 もとの世界にも存在したけど、わたしには薄れてしまった、子を残さなくてはいけない、という義務感。

 血筋を絶やしてはならないという、呪いのような心理。

 けど、そんなものは、わたしには関係ない。

 わたしは一度も、そんなこと言ってない。

 だのにどうして「それ」が当たり前だからって理由で、告白そのものをなかったことにされなきゃならないんだ。

「わたしは、べつに子供がほしくてルト様を好きなわけじゃないです!」

 考えれば考えるほどむかついてきて、自然と語調が荒くなってしまう。

 そりゃ友だちの中にはそういう子もいた。

 彼氏との子供がほしいと、好きな相手との間に子供がほしいのは当然だと。

 多分それは、ひととして当然の心理なんだろう。

 だけどわたしは。

「わたしは、ルト様と一緒にいられればいいんです」

 友人には「本当の恋をしたことがないからよ」なんて言われたけど、龍也の時も、それ以外の恋人の時も、特に子供がほしいとは思わなかった。

 今好きなのは相手なのに、どうして子供のことまで話題が飛ぶのかが、わからなくて、それは今も変わらない。

「普通がどうとか、そんなのいらないです。ルト様がどう思ってるかが大事なんです」

 そもそも「普通」なんてものは存在しないと言ったのは誰だったか。

 普通に勉強して普通に就職して普通に結婚して?……そんなの前提からもうわたしはその範疇にない。

 ピアノ馬鹿で恋人を捨ててもピアノに夢中で、おまけに異世界に飛ばされて。

 もう「普通」なんてどこにもないんだから、今さら当たり前の幸せをなんて言われてもと思ってしまう。

「わたしはルト様が好きなだけなんです、だから、だから同じなら、それだけでいいじゃないですか」

 ありがちな幸福なんていらない、普通じゃなくてもいい、ただわたしは、ルト様と恋人同士として、一緒にいたい。

 恋人同士になったって、添い寝に変化があるわけじゃない。

 それっぽいことはなんにもできない。

 でも、ちゃんと隣に立って言い張りたい。

 このひとは、ただの保護者じゃないんですと、わたしの好きなひとなんですと。

「って、ルト様には迷惑になりそうです、けど……」

 なりそうというか──絶対なる。

 勢いこんで喋りはじめたものの、最後は小さな声になってしまった。

 ルト様は自分ばかりに難点があると主張したけど、わたしだって大概だ。

 身体に問題がなくても、そういうことはできないし、異世界人だから上流階級のマナーはまだまだだし、ピアノがあったら一直線だし……

 わたしこそ、そういう意味では、ルト様には相応しくない。

 だけど、そんなのとりあえず置いておいて、とにかく気持ちを伝えたかった。

 子供みたいなわがままだと怒られても、言わずにいるよりきっといいと、勝手に決めつけて。


 まとまらない言葉たちを、ルト様はいつかと同じように、静かに聞いていてくれた。

 そこには、いつものような微笑はない。

 怒っているわけではなさそうだけど、でも、段々顔が見られなくなってうつむいてしまう。


 ……やがて、はーっと深いため息を落とされた。

 そのあまりの長さに、下げていた顔を上げてしまうほど。

 片手で顔を覆ったルト様は、緩く首をふっている。

 ……これは、フられるフラグだろうか。

 それならさくっとやってもらったほうがいいんだけど。

 けれど次の瞬間には、

「──降参です」

 低い呟きが聞こえたと思ったら、ぐいっと身体を引っぱられた。

 椅子から落ちる、と慌てたけれど、痛みとかはなくて。

 その代わり、間近に感じるわたしのじゃない体温と、とても速く刻んでいる鼓動がとどく。

 抱きしめられているのだとわかって、わたしの心拍数も跳ね上がった。


「──好きですよ、セッカ。一人の女性として」


 ……うわ。

 望んでいた科白は、耳もとで聞いたらとんでもない破壊力だった。

 がっと身体中が熱くなったのがわかる、多分赤面もしているだろう。

「ああも言われたら、もう手放せませんよ。……いいんですか?」

「──はい」

 未来のことなんてわからないけど、少なくとも今は、この手を離してほしくない。

 恋人としてそばにいてほしいのは、ルト様だけだ。

「たとえ子供がつくれるようになっても、きっと私は、それを望みません。あなたは私といるかぎり、子を持つことができなくなる──それでも、ですか?」

 真剣な声で告げられる確認事項は、わたしにはやっぱりぴんとこない。

 どうしてそれが拒否する理由になるのか不思議でならないままだ。

 でも、それはわたしの常識であって、ルト様の──この世界のものではない。

「ルト様が、子供が残せないこととかを気にするのは、しかたないと思います」

 三十年以上、それが常識の世界に生きてきたのだ。

 なら、思いこんでしまうのは当たり前で、ばかばかしいと責めるつもりもない。

 欲しくないと心から思って、それが身体に出ているルト様なのに、気にしてしまうのは、世の中に根強く意識があるからに他ならない。

「逆にわたしは、そういうのを気にしない世界で生きてきました。だから、ルト様が気にしたら、毎回わたしが反論します」

 そういう意味では、ちょうどいいんだろうと前むきに思うことにする。

 簡単には変えられないだろうけど、そのうち中和されるかもしれないし。

「嘘偽りなく、わたしは子供が欲しいわけじゃないです。何度だって言いますから、安心してください」

 胸を張って宣言することじゃない気もするけど、でも、繰り返してやっとルト様の表情が穏やかになった。

 これから何百回口にすることになるんだろうか、数えてみたらさぞうんざりできそうだ。

 でも、本当にそう思っているし、それでルト様がわたしの手を離さないでくれるなら、いくらでも言い続けられるだろう。

「……きっと、何度もあるでしょうけれど、愛想を尽かさずよろしくお願いしますね」

「もちろんです、なんなら誓約書に署名しますよ」

 先のことはわからないけど、今の勢いならいける。

 でもルト様はくすりと笑って、

「署名するのは結婚証明証にしてください」

 さらりととんでもないことをのたまった。

 うぇ、と変な声をあげてしまったわたしに、いずれの話ですよ、と微笑む。

 ……微笑む顔は、見慣れたやさしいルト様の顔だ。

 いつか、という表現に安心したような残念なような心境になっていると、ルト様は腕をほどいて、わたしを立たせてくれた。

 ……そういえば、ずっと床だったっけ。

 すわり直してお酒を飲むのかと思ったけど、そのままベッドへ誘導される。

 毛布をのけられて、どうぞ、といつもの場所をすすめられた。

「酒を飲んで忘れては勿体ないですからね」

 微笑んで甘ったるく囁かれては、晩酌しないんですかなんて口にできるわけもない。

 わたしとしてはちょっとお酒でも入れて、恥ずかしさを緩和したいくらいだけど。

 とは口にできず、昨日と同じように、まずは距離を開けて寝転ぶ。

 けれどいつもなら伸びてくる手はなくて、

「……もう少し、近づいてもいいですか?」

 代わりに静かに問いかけられて、はい、とうなずいた。

 恋人同士、になったのだ。手を繋ぐだけなんて味気ないとはわたしも思う。

「でも、……恐くなったら、ごめんなさい」

 だけど、物理的な距離が縮まった時に、大丈夫かどうか、正直自信がない。

 両思いになったからって、すぐになにもかもが解決するわけじゃない。

 むしろ、見ないふりをしていた問題にとりかからなきゃいけなくなる。

「恐かったらすぐ言ってくださいね、時間はこれから先もあるんですから」

 ……そっか、明日からは、悩んでドアをノックしなくていいのか。

 恋人、だから、毎晩お邪魔してもいいわけで。

 今日が駄目でも、明日があるなら……ちょっと気が楽かも。

 緊張が解けたところを見計らったかのように、ルト様の両腕が伸びてくる。

 ふわ、と抱きしめられて、一瞬息がつまるけど、思ったほど恐くはなかった。

 さっきもされていたわけだから、不思議ではないかもだけど、場所が違うとどうなるかわからなかったし。

 ゆっくり息を吸うと、同じ石けんの匂いがする。

 おずおず手を伸ばして背中に回そうとするけど、残念なことにとどかなかった。

 置き場所に困って、ルト様のシャツの胸あたりに位置を決める。

 眠れるようにだろう、隙間はそこそこ空いているけれど、顔を少し斜め上にあげれば、ルト様の顔が至近距離にあって。

 間近で見る群青色の瞳は、前に買ったアクセサリーなんかより、断然綺麗だ。

「……明日はまず、棚を撤去しましょうか」

「棚……?」

 ルト様は片手を動かして、ゆっくりわたしの頭をなでている。

 子供扱いというには、表情やら声やらが甘ったるくて、ちゃんと恋人扱いなんだなと照れてしまう。

 同時になんだかなじんでいる感じがして、ちょっと不思議だけど、それより棚、ってなんのことだろう。

「そうすれば、人目を気にせず部屋を行き来できるでしょう?」

 ──あ、と声をあげる。

 部屋の間に通行止めとして置いてある棚のことだと、やっと思い出した。

 たしかに、あれをなくして、鍵を開ければ、好きな時に遊びに行ける。

 ウェンデルさんに報告もしなくていい。──まあ、移動したことはバレるだろうけど。

「本来、夜這いは男がするものですしね」

 楽しそうな声でとんでもないことを告げられて、また頬が熱くなる。

 夜這いって、いや、たしかに男性がすることが多いけど。

 よく考えなくてもわたしのこれは、夜這いだけど。

 あれ、そうなると、明日からはどっちがどっちへ行くんだろう……相談するものなのかな、よくわからない。

「それから出かけるのもいいですし、あなたのピアノを独占するのも贅沢ですし」

 どちらも魅力的な提案ではある。

 同じ場所へ出かけても、明日からは関係が違うから、陳腐な表現だけど、感じかたも変わりそうだし。

 恋人に披露するピアノというのは……うん、色々、別格だし。

 でも、わたしは──

「あの、ルト様、わがまましほうだいしていいですか」

 毒を食らえばみたいな気分でねだると、ルト様はなんでしょう、と興味津々に聞いてくる。

「棚をどかすのはもちろんしてほしいんですけど、その……とりあえず、明日は、こうやってたい……なぁと……」

 いちゃいちゃしていたいです、とは、恥ずかしすぎて無理だった。

 こうしてくっつていると、幸せだけど、すぐ眠くなってしまう。

 今も大分あやしくなってきているのだ。

 本当はもっと、この状態でいろんなことを話したいのに。

 だから明日は、できれば昼間も、こうしてごろごろしていたい。

「……それは我が儘に入らないと思いますが」

「……そう…ですかね?」

「まあ、仕事のある時だと我が儘になるかもしれませんね。でも明日は休みですから」

 頭をなでていた手が動き、わたしの髪の毛を一房つまんで、見える位置に運んでいく。

 なにをするのかと思ったら、そのまま──キスを、した。

 群青色の瞳はいつものやさしげなものじゃなく、ぶっちゃけるなら流し目をしていて、恋愛経験値の低いわたしには強烈すぎた。

「怒られる時は一緒にお願いしますね?」

 髪の毛を自由にしたあと、イタズラっぽく囁かれる。

 はい、とか細い声でうなずくのが精一杯で、キスはまだ恐いかもしれないからっていう気遣いがあったんだろうと思うことにしつつも、でも恥ずかしさに勝てず、顔を伏せてシャツの胸もとに目を落とす。

 いつもよりボタンは開いているけど、鎖骨が少し見える程度なので、そこは眺めてもまだ恥ずかしくない。

「──お休みなさい、セッカ」

 ちゅ、と軽い音が頭のてっぺんから聞こえた。

 つむじあたりにした感触がなにかくらいは、流石にわかる。

 もう恥ずかしさのゲージを何度もふりきっていて、声の出しかたも忘れかけていたけど……

「おやすみなさい、ルト様」

 それでも、挨拶だけはちゃんとしようと、喉からふりしぼる。

 やたらかすれてしまったけれど、ルト様はからかうことはせず、代わりにまた頭をなでてくれた。

 一定のリズムのそれは気持ちよくて、すぐに睡魔が襲ってくる。


 ──恋人同士になったってだけで、まだまだこの先色々なことがあるだろう。

 いいことも、悪いことも、めんどうくさいことも。

 ルト様の身体のこととか、わたしの男性恐怖症気味なところとか、解決もしてないし。


 でも、これからは一緒にいられる。

 たくさんの問題は、二人で解決していけばいい。

 たとえうまくいかなくたって、折り合っていく方法を探せばいい。

 そうして、なんとなく、でもちゃんと幸せになれればいい。

 朝起きて覚えていたら、そう言おうと思いながら、わたしは満たされた気持ちで眠りについた。


 明日からの日々を、楽しみにして。

 これにて本編完結です。

 後日談やら番外編やら書くかもしれませんが、

 ひとまず両思いになってめでたしめでたし、ということで。


 ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました。

 少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手
 設置してみました。押していただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ