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休日の二人(2)

 三十分くらい訂正前の文章を載せてしまいました。

 申しわけないです……

 到着して馬車を降りると、前と同じように馬車はべつの停めておける場所に行ってしまった。

 店構えからして、今回も高級店みたいだ。

 外から中は見えないけれど、いくつかディスプレイ窓がある、そこに配置されているのは……

「さあ、行きましょうか」

 誘われて中に入れば、かっちりした服装の店員に出迎えられる。

 そのまま、この手の店に標準装備されている、仕切りで区切られたテーブル席に案内された。

 机の上には事前に知らせてあったのだろう、すでにいくつかものが置いてある。

「こういうものがいい、などあれば、遠慮なく仰ってください、探して参ります」

 綺麗な布の上に鎮座しているのは──たくさんのネックレスたち。

 ただ、デザインはどれもそんなに派手じゃない、宝石がちりばめられてるとか、そういうのはひとつもなかった。

「この間のことを気にしてるなら……」

 王都に持っていってもらったペンダントの代わりなら、本当に気にしなくていいのに。

「ああ、それはきっかけです。派手すぎて使う気にならないと言っていたでしょう?」

 たしかにはじめのころ、お母様のコレクションは豪華すぎてとこぼしていた。

 残されていたドレスからしても、普段着からわりと豪華だったみたいだから、派手なアクセサリーでもよかったんだろう。

 でもわたしはそういうのを着たいとは思わないから、買ってもらったドレスにつけてもちぐはぐだ。

 今まではペンダントを隠すこともあって、装飾品が必要な服をあまり着なかったけれど、首もとのあいたものも当然ある。

 冬になったら寒くないのかと思ったけど、このあたりはあまり温度が下がらないらしく、冬服といっても我々の秋服くらいの感じだ。

 値札がついていないのがとても恐ろしいけれど、ここでお金の話をしたら、クヴァルト様の面目丸つぶれになるくらいはわかる。

 おとなしくいくつか選ぶのが、一番カドが立たないだろう。

 わたしにはどれがなんの石かわからないけど、だから今日はフリーデさんがついてきたんだなと納得する。

 彼女は衣装部屋のドレスを把握しているから、どれが合うかわかるはずだ。

 代わりにする気はないというのは本当らしく、音楽モチーフをわざわざ集めた感じはしない。

 綺麗な石が一粒ついたシンプルなものや、小さい石がこぢんまりしたモチーフにはめ込まれている程度で、いかにも宝石です、というものは見当たらない。

 わたしだって、アクセサリーはあんまりつけないからって、嫌いなわけじゃない。

 どれもかわいいし、綺麗だから、見ているだけで楽しくなる。

「でも、たくさんあって、どれにしたらいいか……」

 普通の買い物なら、予算とか考えるものだけど、そういう限度がないものだから、逆に選択しづらい。

「気に行ったものはすべて選んで構いませんよ?」

 さらっと言われて、店員の前なので我慢したが悲鳴をあげたくなる。

 言うんじゃないかと思ったけど、そんな恐ろしいこと、できるわけがない。

 大体首はひとつしかないのだから、たくさん買っても使い切るまでどれだけかかるか。

 いやでもお金持ちの話とかで、店丸ごとお買い上げとか聞いたことあるから、ありえるのかな……

「……あの、持ってきてもらうんじゃなくて、見て回ってもいいですか?」

「ええ、勿論です」

 こっちの世界にかぎらず、こういう店はあんまり入ったことがないから、興味もある。

「クヴァルト様は待ってていいですよ、退屈でしょうし」

 男性は女性の買い物につきあうのって、結構苦痛らしい。

 だとしたら、あんまり長時間にしたら申しわけないかな……席を外してもらうべきだろうけど、勝手にいくつも買うのもだし。

 気を遣って言ったのだけど、クヴァルト様は明らかに拗ねた顔をした。

「追いださなくてもいいじゃないですか、ご一緒しますよ」

 いや、追いだすつもりはなかったけど……と言う前に席を立たれてしまったので、一緒に見て回ることにする。

「飽きたら席にもどっていいですよ」

「大丈夫ですよ」

 にっこり笑うけれど、女性の買い物を舐めてるんじゃないかなぁ。

 わたしはめんどうだから時間をかけないけど、店のおねえさんたちは一度デパートに行ったら一日中出てこないって話だし。

 よく足腰痛くならないなぁ、と感心したら、方向がおかしいとこづかれたっけ。

 店員は少し離れてくれたので、ガラスケースの中身を端から見て回る。

 ケースの上にも商品が並べられていて、そっちには値札もついている。

 上に置いてあるものは、思ったよりは安価だった。何百万もするようなものではない。

 そこそこ高級だけど、普段使いのためのアクセサリーショップみたいだ。

 指輪のコーナーはつける気がないので、さっと見て次へ進む。

 細い鎖のブレスレットなどは、もといた世界と遜色ない見た目で、技術の高さが伺えた。

 三重の鎖のところどころには、雪の結晶のモチーフがついている。小さな石も填まっていて、照明を受けてきらきら光っていた。

 じっと見つめていると、すかさず店員が蓋を開けて、どうぞ、と出してくる。

 それをつまみあげたのはクヴァルト様が先だった。しげしげと、物珍しそうに眺めている。

「雪の結晶って人気なんですか?」

「ええ、雪が降りませんからね、珍しいのでよく出ますよ」

 店員に聞いてみると、淀みない返事、全部覚えているんだろうか。

 このあたりのひとは、雪に対して憧れみたいなものがあるのだろう。

「つけてみますか?」

 ネックレスを見ていたクヴァルト様に問いかけられて、うっかりうなずいてしまう。

 雪のモチーフはわたしの名前の由来だ、しかも綺麗な細工だから、気になるのは当たり前。

 微笑みながらクヴァルト様が手を伸ばしてきて、手首をとる。

 ブレスレットなんだから普通の行動だ、だけどその瞬間、そのまま拘束される想像に、ざっと寒気が走った。

「……っ」

 ぱっと手を引いてしまい、一瞬の沈黙。

 どうしよう、と悩んでいると、そっとブレスレットが手渡された。

 金具を外して腕につけてみると、しゃらっと微かな音がする。

 気持ちを落ちつけてくれるような、静かな響きだった。

「…………綺麗、ですね」

 どうにかそれだけ口にすると、そうですね、と変わらぬ穏やかな声。

 馬車の乗り降りでエスコートしてもらうことには慣れたから、さっきも平気だと思ったのに。

 気を悪くしていないか、顔を見るのが恐くて、視線を上げられない。

 わたしはブレスレットに夢中なフリをすることにした。

「……でも、演奏には、引っかかっちゃいますから」

「普段つける分には問題ないでしょう?」

 急いで外して店員に渡したけれど、そのまま包んでくださいと流れるように言われてしまった。

 うぅ……と思いつつ、ちらりと見た横顔は、怒っている感じはなくて。

 声もいつもどおりだったし、店員の前で口にできることでもない。

 ぎくしゃくしながら、他の商品も眺めていくことにした。

 他の雪のモチーフはちょうど売れてしまったらしく見当たらなくて、ちょっとがっかりする。

 演奏時にはつけないし、今からの季節は流石に長袖が主だから、ブレスレットはひとつでいいかな。

 あとはネックレスなわけだけど……最初に出されたものを思い出しつつ、陳列されているものを眺める。

 こちらの世界でもハート型は人気なのか、結構な数があった。

 流石にそれはいいかな、と候補から外し、目についたのは紺色の石がついたもの。

 細い輪っかの中にぶら下がっていて、なんとなく惑星みたいな感じを受ける。

 なにより石の色が、クヴァルト様の瞳によく似ていた。

「あの……これを見たいです」

 指をさすと、すぐ店員がとりだしてくれた。

 なんの石かはわからないけど、石の価値はどうでもいい。

 この店にある時点で安価なものではないだろうし。

 石とクヴァルト様を代わる代わる見つめて、……うん、やっぱり似ている。

 フリーデさんを見やると、にっこり笑顔でうなずいてくれたので、服とも合うのだろう。

「クヴァルト様、これもお願いしていいですか?」

 とはいえ支払うのはわたしではない、なんでもいいと言っていたけど、許可は必要だろう。

 お伺いを立てようと改めてクヴァルト様を見ると、顔を覆っていた。

 表情が見えないので怒っているのかと慌てたけど、どうやら違うらしい。

「……そんなに駄目ですか?」

 それともNGな石だったりするんだろうか。

 もどそうかと手を動かすと、いえ、とくぐもった声。

「ちょっと……いえ、なんでもないです、買いましょう」

 よくわからないけど、問題ないらしい。

「同じ石を使ったものでしたら、こちらなどはどうでしょう?」

 ネックレスを受けとった店員は、すかさず別の商品を持ってきた。

 小さめの石を使ってつくられたブローチと、シンプルなイヤリングがいくつか。

 どれも控えめな感じで、敬遠したくなるようなごてごてしさはない。

 指輪は除外しましたと言う店員は、流石だと感心する。

 この石はいわゆるサファイヤとかみたいなものではなくて、どちらかというと天然石? っぽく、微妙に色味が違う。

 並べられた石の中から、なるべく似た色で、これなら使うかな、というのを選んでいった。

 その間ずっとクヴァルト様は顔を覆いがちだったけど、全部買いますからと断言してくれたし、フリーデさんが放っておいて大丈夫ですと言うので、選ぶのに集中させてもらった。

「セッカ様、もうひとつかふたつ、ドレスに合わせてネックレスは選びましょうか」

 瞳の色に似たアクセサリーを選び終えてからのフリーデさんの提案に、そうですね、とうなずく。

 紺色ってわりと無難だとは思うけど、暖色系にはいまいちだろうし。

 白い石のとかなら、なににでも合わせやすいかな?

 フリーデさんと眺めていたら、いつのまにかもどってきた店員が、でしたらこちらとこちらと、とてきぱき選んでくれた。

 はじめにあった分と合わせて選ぼうということになり、最初のテーブル席にもどることにする。

 そのころにはクヴァルト様も普通どおりになっていて、でも、口を挟むことはせず、にこにこ見守っているだけだった。

 わたしのほうも、クヴァルト様に好みはどういうのですか、とは聞きづらかったので、フリーデさんに頼りきりだった。

 結局、きっとダイヤモンドなんだろう石のついたものと、琥珀みたいなものを選んだ。

 ダイヤのほうはいかにもっていうデザインで、琥珀のほうはちょっと変わった形にカットされているのが気に行った。

 それだけ選ぶのも大分時間がかかってしまって、少なすぎるかなと思ったけど、これ以上は精神力がもちそうにないので買い物は終了になった。

 ……あれを何時間もできるひとは凄いなぁ、もう一刻も早くピアノにもどりたい……

 かわいらしい包みに煎れてもらったアクセサリーをフリーデさんが持ち、では帰ろうかというところで、店員から「少々お待ちいただけますか」と頼まれた。

 なんだろう?

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