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客人に披露(3)

 顔いっぱいに「?」マークを浮かべていたのだろう。

「魔力のないあなたにどう説明していいかが難しくて……すみません、なるべくわかりやすくなるようにしますね」

 そもそも魔力のない人間がいない世界だから、それは当然だろう。

 むしろ、こんなに悩むクヴァルト様を見るのは珍しいので、レアな気さえする。

 多分大変なことなんだろうけど、魔力の実感がないわたしは、結構のんきに考えていた。

「前にお伝えしたとおり、魔力は相手に渡すことができますが、実生活ではあまり使うことはありません」

 過去に説明されたからちゃんと覚えている。

 いわゆる魔法使いみたいなのは存在しないから、日常で使う魔力はそんなに必要がない。

 火をつけたり冷蔵庫みたいなのを冷やすために魔力を流さなきゃいけないけど、それはたとえばマッチをつけるくらいの労力ですむし、詠唱とかもない。

 正直、どうやってそういう道具をつくっているのかを知らないので、いずれ知りたいところではある。

「ただ、我々にとって魔力は身近なものであり、察知はできます」

 体力的に疲れたなというのと同じ感じで、魔力による疲労はわかるんだそうだ。

 なので、どこかから魔力の供給を受けた場合も、ひとによって感知の幅はあるけど、わかることが多いという。

「昨晩、あなたの演奏を聞いたあと、私の身に魔力があふれていることに気づきました」

 だから演奏後、ちょっと変な間が空いていたのか。

 でもクヴァルト様一人だけだったし、わたしに自覚もなかったので、確信が持てなかった。

 そこでちょうど医師から連絡もきていたしということで、観察術士に調べてもらうことにした。

 早朝にしたためた手紙には、そのあたりの事情を書いていたらしい、全然知らなかった。

「そして確認した結果、あなたから我々へ、魔力が送られていました」

 観察術士の見立てによると、そこそこの量の魔力らしい。

 勝手に送られて大丈夫なのか心配になったけど、難しい説明をもとの世界的なたとえにすると、一時的にエナジードリンクを飲んだ状態になるだけなので、そんなに問題にはならないそうだ。

 だからみんなかなり元気になっているらしい。魔力が増えることで、他の部分の能力が補強されるみたい。

「さらに問題がありまして……」

 え、まだあるの。思った以上にややこしいんだな。

「あなたから送られた魔力には、拒否反応が起こらなかったんです」

 拒否反応。また新しい言葉が出てきた。

 けど、これはなんとなく想像ができる。

 クヴァルト様と観察術士の説明によると、魔力はそれぞれ微妙に違うのだという。

 よくファンタジーでも属性があるけど、そういう感じのものかな。

 親子は結構似るし、近い属性のひとも勿論いる。

 そういうひと同士で魔力を受け渡すと(そんなことは滅多にないけど)送った魔力が10だとしたら、8~10受けとれる。

 でも、属性が違うと、10送ったとしても5以下しかもらえない。

 ところが、演奏を聞いたみんなの属性はばらばらだったのに、全員が10の魔力を受けとれた。

 これは観察術士が確認したから間違いないそうだ。

 ……うーん、神子の力なんて持ってないと思ってたのに、ちゃんと備わっているとは。

「あ……だから、あいつらは……」

「──ええ、あなたの魔力を望んだのでしょう」

 最高の供給源として。……なんてありがたくない話だ。

「それより先に考えることがあります」

 わざとだろう、クヴァルト様はすぐに話を続けた。

「このままでは、あなたの演奏を披露することが難しくなります」

 少人数なら、そんなに疲労もしないから問題ない。

 それは観察術士が断言してくれた。十人程度までなら、何十曲も弾かないかぎり大丈夫でしょう、と。

 けれどたくさんの観客に、同じように魔力を与えてしまったら、わたしの魔力が枯渇してしまう。

 おまけにその魔力の質がいいと知られたら、よからぬことを考える連中が他にも出てきかねない。

「それは……とても困ります」

 そりゃあピアノが弾ければ満足ではあるけど、でも、聞いてくれるひとも欲しい。

 誰かに聞いてもらえなければ、その価値は半減どころじゃない。

「そこで、もう一度ピアノ室に移動して、実験してみたいのですが……弾けそうですか?」

 色々一度に話しましたから、と心配されたが、行きます、と返事をする。

 日を改めてきてもらうのも悪いし、もやもやしたままにしておきたくない。

 解決する方法を一刻も早く探したい。

 わたしとクヴァルト様、フリーデさん、医者と観察術士の五人は、再びピアノ室へ移動する。

「なんの曲でもいいので一曲お願いします、ただし、弾く前に、力を与えないぞと念じてください」

「ね、念じるって言われても……」

 結構な無茶ぶりに、正直困ってしまう。

 だってわたしには魔力の実感がない。だのに、それを送らないようにしろなんて、空気をつかめってぐらいだ。

「魔法にこだわる必要はありません、そうですね……声に出してみてはどうでしょう」

 勿論クヴァルト様だってそれはわかっているのだろう、やりやすい方法を提示してくれる。

 要は、わたしが魔力を送らないぞ、という気持ちになるのが大事らしい。

 魔力の行使に大切なのはイメージなのだそうで、火をつける時は燃える炎を思い浮かべ、冷蔵庫の時は冷たいものを考える。

 思い込みで人間の傷ができるようなものなのかな。

 とりあえず方法も浮かばないので、クヴァルト様の提案どおり、声に出してみることにする。

「演奏はするけど、魔力は送らない……」

 何度か呟き、なんとなく頭の中で、余計なものを垂れ流さないよう気合いを入れる。

 演奏する曲は……そうだな、仕事で弾きまくってたジャズっぽいのにしてみよう。

 ここでの練習回数は少ないけど、毎回のようにリクエストされていたから手が覚えてる。

 これれくらいならリラックスして弾けるから、魔力を与えないようにって思いながらでもミスしないだろう。

 まあ、ノってきたらそんなの忘れるんだけど……

 三拍子のリズムだから、こっちのほうが馴染みやすいかもしれない。

「では──弾きますね」

 指を降ろせば、そこからはわたしの世界。

 軽やかに、どこか怪しく、けれどピアノらしい硬質な音をよく響かせて。

 この曲が持つイメージを、まったく知らないみんなにも伝えられるように。

 ゆっくり弾くのもいいんだけど、敢えてちょっと速度を上げて、どこか追い立てられるようにしてみる。

 そうすると途中の部分が難しくなるのだけど、そこは腕の見せ所だ。

 もともとが長い曲ではないしアレンジも加えられていた楽譜なので、三分少々で演奏は終わる。

「……あ。魔力のこと忘れてた」

 案の定途中から忘れてた。

 いい曲っていうのは、何度弾いても楽しくて夢中になれる。

 思わず呟いたら、クヴァルト様が小さく吹き出していた。

 その表情を見ると、さっきよりは明るい顔をしている、ということは……

 観察術士のほうを見ると、はっきりうなずいてくれた。

「大丈夫です、魔力は流れていません」

「じゃあ、これで弾けますね!」

 やった! と喜んだのだけど、

「試行回数が少ないですから、確実とは言えません」

 クヴァルト様にバッサリ切られてしまった。

 たしかに、まだ三回だから絶対ではないか……

「あ、なら、今からもう一曲」

「却下です」

 すぐにも鍵盤に指を降ろそうとしたのに、止められてしまった。

 医者も首をふってドクターストップをかけてくる。

 ……平気なのに。でもみんなが帰ったら練習はしよう。

「当面は様子を見たほうがいいでしょうね」

 気を抜いたら魔力を流すかもしれないし、他にも条件があるかもしれない。

 こういう方法で魔力を流した話は、誰も聞いたことがないらしい。

 王都へ使いを出して調べたりもしないといけないようだ。

 この場にいるみんなには口止めを約束してもらい、とりあえず先生たちは帰って行った。

 今回の曲も一応イメージはあります。

 ですが、イメージしている感じの正式な楽譜は多分存在しないので、

 活動報告のほうでこっそりネタばらししておきます。


 本当は公爵視点を入れたい箇所がいくつかあるのですが、

 もうちょっと一段落してから、割り込みしようかなと思います。

 一応読まなくても支障はないように書いている……つもりです。

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