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想像と創造

 次の日、流石に先生がくるのに寝坊もよろしくないので、早めに起きて支度をする。

 おかげで余裕を持ってクヴァルト様と朝食も食べられたし、見送りもできた。

 準備万端なところへ、メイド長がフラウさんの来訪を告げる。

 玄関まで出迎えて、ちょっとしたことを喋りながら、三階へ上がる。

 今日のフラウさんは一冊の本を持ってきていた。

「これは特殊な本なので、あなたの国の文字は見えてきません」

 魔法かなにかがかかっているのかな?

 そんな貴重な本、わざわざ持ってきてくれたのか。

 さわって壊したら大変だと、ちょっと緊張しながら開いてみると……

「……見えない」

 本当に読めなくて、びっくりする。

 でも、これなら文字を覚えやすくていい。

「……あら、まあ」

 わたしの言葉に、フラウさんまでびっくりしていた。

「本当に見えなくなるなんて」

 ……どういう意味だろう?

「実はその本、特殊でもなんでもないんです」

「え……?」

 意味がわからなくて、ページを眺めるけれど、やっぱり日本語は見えてこない。

 フラウさんの手が伸びてきて、一度ぱたんと本を閉じる。

「読める、と思って開いてみてください」

 手渡された本を開ける前に、読める、読める……と頭の中で呟いてみる。

 そして開いたページは、いつものように、異国の文字に重なるようにして、日本語訳が見えていた。

 さっきは、全然出てこなかったのに?

「魔法の発現には、いくつかの条件があると言われていますが……その大きなものの中に、想像力と認知度というものがあります。今回は前者のほうに関してです」

 なにもないところからなにかを生み出す、というのは難しい。

 けれどそれをなしえてしまうのが、魔術師と呼ばれる一部の人々。

 それ以外のひとたちが使えるのは、あらかじめ魔力に反応するようにできている道具に、自分の魔力を流しこと。

 だけどそれも、頭の中で、自分の魔力を流せばこれが動く、と、想像していなければ難しいらしい。

 なので魔力の実感がなく、想像できないわたしは、いまだにお湯ひとつ湧かせない。


 そこまで説明したあと、フラウさんはわたしの話に入る。

「とはいえ、正確なことがわかるわけではないので、推測混じりですが……」

 その推測によると、わたしはこの世界で生きていくため、自動的に魔力を使っているらしい。

 それは、呼吸するように自然なものなので、察知することは難しい。

 例のご神木の加護と、自身の力によって、わたしが困らないように、言葉と文字を翻訳している。

 だからわたし自身が「読めない、聞こえない」と思い込めば、それらは一時的に消すことができるはず。

 ……というのが、実験を兼ねてのさっきの本の顛末だったらしい。

 もしかしたら世界を移動すると漏れなくついてくる能力かもしれないけど、それを実証することは残念ながらできない。

 もう一度、今度は読めない……と念じてから本を見る。……日本語が見えなくなっていた。

 ただ、気を抜くと文字が出てきてしまう。読めないと嫌だな、と思ってしまうと一瞬だ。

 でもこれなら、文字の練習がしやすくなる。

「ありがとうございます、フラウさん」

「いいえ、お役に立ててなによりです。それに、私一人で考えたわけじゃないので」

 学者である上のお姉さんと、下の妹さんと一緒に考えた結果らしい。

 凄い三人姉妹なんだなぁ、今度お礼も兼ねて是非会ってみたい。

 ともあれ、これで少しやりやすくなった。

 アルファベットみたいなのが重なって見えなかったのも、そのせいなんだろう。

 これはもとの世界での記号と同じ、と「わたしが最初に思った」から、一文字ずつの場合は翻訳が効かないわけだ。

 学生時代みたいに、まずアルファベット(面倒なのでそう表記する)を書き写して覚えていく。

 この世界は署名が大事だから、とにかく自分の名前を書けるようにならなくちゃ。

 自分のサインは、役所にとどけておくことで、なにかあった時に筆跡鑑定をしてもらえるらしい。

 そうして、相続などの時のトラブルを防ぐというわけだ。

 遺言状とかも役所で預かってくれるらしい、クヴァルト様の管轄する仕事って、結構色々あるんだなぁ。

 わたしが自分の意思でここにいることは、みんな知っているけれど、書面には存在しない。

 それは、わたしが名前を書けなかったからだけど、そのままだと奴らがつけこんでくるかもしれない。

 連れて行かれるのは絶対に嫌なので、今日はとにかく文字を書く練習をして、あとはちょっとずつ歴史などを教わった。


 お昼が終わってフラウさんを見送ったら、ピアノの練習時間だ。

 書き取りをしたせいでちょっと指が疲れていたけど、こっちも休むわけにはいかない。

 様子を見つつ、目星をつけておいた曲を弾いていく。

 段々思いどおりに指が動いていき、気にいらなかった部分をこなせるようになるのは、とても気分がいい。

 ここを越えられなくて、つまらなくなるひとも多いと思うけど、百回やって駄目なら千回やればいいだけの話だ。

 わたしはピアノに対しては、それが一万回でも我慢できる。

 だから、続けられるし仕事にできる。それだけのことだ。

 途中でちゃんと休憩もとって、でもそれ以外の時は夢中で弾き続ける。

 ただ、それをやってしまうと、クヴァルト様の出迎えができなくなるので、午後のお茶のあとは時計を確認して、あとどれだけ練習するかを考えておく。

 多少遅れたって気にしないかもしれないけど、お帰りなさいって言った時の、嬉しそうな顔を見るのが結構好きになっているのだ。

 いつもいつも穏やかな表情をしているけれど、その時ははっきり嬉しそうにしてくれる。

 仕事で疲れて帰ってきたクヴァルト様に、少しでもほっとしてもらえるなら、やっぱり遅刻はしたくない。

 それに、あんまり遅くなって、途中の曲を聞かれてしまうのも避けたかった。

 この部屋は完全防音でもないし、鍵をかけているわけでもない。

 音を控えめにする魔法? だかをかけてもらっているけど、あくまで小さくするだけで、聞こえなくなるわけじゃないらしい。

 本館にいるとほとんど響かないらしいけど、庭とかからならわかるくらいだろう。

 でも、働いているみんなも、なるべく聞かないようにしてくれているし、感想も言ってこない。

 ちゃんと披露するまで、それも一番最初はクヴァルト様にしたいとお願いしたら、快くうなずいてくれたから。

 だから今は、クヴァルト様への曲と、みんなへの感謝の曲、二つを同時進行で進めている。

 どちらももとの世界の曲だから、趣味に合うかわからないけど、この世界の小品集も、基本は同じっぽいから、多分大丈夫だろう。

 早く聞いてもらいたい気持ちと、まだ納得できない自尊心。

 弾いているだけで楽しいのも本当だけど、やっぱり聞いてもらってこそという思いもある。

 だから、慎重に、でも、着実に、もとの力をとりもどさなきゃ。

 ……と夢中になっちゃうと、また時間をオーバーしちゃうんだよな。

 今日はちょういいタイミングで弾き終えたので、どうにかなったけど。

 クヴァルト様との夕食後の話題はもっぱら本の話で、思い込みで変化すると教えたら、興味深そうに聞いていた。

 そして予定通り、明後日は休めそうだからと言われた。

 その後の休みはまだ未定だけど、多分同じくらいの間隔だろうとも。

 となると、明後日は外出でほぼ潰れてしまうから、残りの練習期間は三日くらい。

 ……うーん、まにあうかなぁ。

 自動翻訳って十分チートですよね。

 他のでもよく見かけるのですが、

 私なりの解釈というかはこんな感じです。


 明日の更新は無理な気配濃厚です。

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