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散策の午前(2)

 さらに奥のほうには森が見えた。馬で狩りをしたりするためらしい。

 貴族のたしなみにあった気がするけど、この世界でもなのかな。

 クヴァルト様はあんまりそういうのに興味がないらしく、自分ではしないと言う。

 でも、王都から王が鷹狩りにきたりとか、そういうこともあったのだとか。

 今の王様は文系で、狩りにくることはないらしい。

 ちょっとした大会みたいなのも開いているのだとか。このあたりの貴族や豪族が参加するらしい。

 今年は終わってしまったので、来年見られたらいいかな、という感じだ。

 ……来年の話なんて、全然予測ができないけど。

 森にはそこまで危険な動物はいないし、定期的にひとは入って最低限の手入れしてるのだとか。

 キノコなんかもとれるらしい、……ちゃんと食べられるんだよね?

 小さいけど滝と池もあるから、そのうち遊びに行きましょうと誘われた。

 管理はしているけど、基本的には自然そのままにしてるというから、こことはまた違った印象になりそうだ。


 森を見つつ、今度は左へ曲がって行く。

 そこには果樹やハーブやらを植えた場所と、菜園があった。

 大体もとの世界と同じものが多いけど、暑くもならないから、南国系のフルーツはないみたいだ。

 ハーブは料理に使うためのものだそうで、料理人が希望して植えている。

 細々と区画分けした場所にたくさん生えているけど、そんなに料理をしなかったわたしには、なにがなんだかわからない。

 そもそも調味料として使う場合って、乾燥してたり粉になってるし。

 木々に隠れるようにして建っているのが、使用人の棟。

 外から見ると地味だけど、結構綺麗な建物だ。

 執事頭たちは小さいけど一軒家を持っていて、それも近くにあるらしい。

 ぐるりと回ると邸の裏口へと続く道へ行けるようになっている。

 こっちは使用人用スペースということで、庭師としての手は入っておらず、でも趣味で植えた花などが咲いていた。

 みんなが勝手に植えるのでかなりごっちゃだけど、それはそれで悪くない。


 ぐるっと回って正面にもどってくると、今度は逆の横側を見に行くことにした。

 こっちはイギリスとかで見るような、たくさんの花や樹が所狭しと植えられているゾーンだ。

 ここにピアノの置いてある別棟があるのだけど、その壁にはびっしりと蔓科の植物がある。

 男性陣が部屋の中で遊ぶ代わりに、女性たちは外でお茶を楽しんだりしたそうで、植物のアーチに小さな東屋と、女性好みのものがたくさんある。

 小さな道を進んで行くのは、先がわからなくてかなり楽しい。

 東屋は植物に隠れていて、ぱっと見てもどこにあるかわからないのもいい感じだ。

 日本の東屋は木でできているけれど、ここのは白い石材でできている。

 外での結婚式の時に使うような、あんな感じで、屋根もドーム型だ。

 本当は別の名前だったはずだけど、思い出せないから東屋で通させてもらう。

 到着したそこには、なんとお茶のセットが置いてあった。

 魔法瓶みたいなのの中には紅茶があり、レースやフリルで縁取られた食器の上にかぶせるホコリ避けの中には、クッキーやらが入っている。

 椅子にはちゃんとクッションも敷いてあって、チリも見当たらない。

 いつのまに用意していたんだろう……フリーデさんはなにも言ってなかったけど。


「これ、クヴァルト様の手配ですか?」

 折角だしと休憩することにして、椅子にすわり、入れるだけならわたしでもできるからとカップに注ぐ。

 このカップも草花の絵が描かれたしゃれたものだ。多分、場所に合わせて選んだんだろう。

「いいえ、特に命じてはいません」

 つまり、メイド長のアディさんあたりの采配だろうか。

「仕事が凄い……」

 一流の給仕係はみんなこうなんだろうか。

 気がつけば結構歩いていて喉も渇いていたらしく、お茶はとてもおいしく感じられた。

 まあ、上手に煎れておいてくれたからだけど。

 わたしはせいぜいティーバッグのお茶しか用意しないし、しかもつい忘れて渋くするのがいつものことだった。

「あとは迷路でおしまいですね」

 生け垣の迷路は表側の外れた場所にあるらしい。

 色々なジャンルの庭があったけど、使用人ゾーン以外はしっかり手入れがされていた。

 かかる人員も経費も時間も相当なものだろう。

 除草剤とかあるんだろうか、なかったら雑草とりだけで気が遠くなりそうだけど……

「こういうのを維持するのって大変なんですよね」

 日本の一軒家の庭だって、最低年に二回は業者を入れる家が多い。我が家もそうだったし。

 その時の金額は、狭い庭でも万は超すし、大きな庭となればそれ以外に庭師への食事やお菓子の準備もいる。

 そこを踏まえれば、庭師数名が毎日手入れをしなければ、とても綺麗に保てないはずだ。

「そうですね、ですが、技術を守るためにも、誰かがこういう庭を持っていなくてはなりませんし」

 ……そうか、職を斡旋するのとノウハウをあとに残すためという側面もあるのか。

 こういう職業は、実際にやってみなければって面が多いだろうし。

 楽譜だって譜面に書いてあるだけじゃよくわからなくて、作曲者の弟子とかが伝えてる面もある。

 生垣迷路なんて、一般家庭じゃまずつくれないから、残しておかなきゃいけないわけだ。

「……わたしももう少し、ひとの手を使ったほうがいいんですかね」

 着替えはほぼ自分でやってしまっているけど、本当の貴族はそれも一人でしない。

 やってしまったら、着替え担当がクビになってしまうからだ。

「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ、私も概ね自分ですませていますしね」

 ここは歴史と立地の都合上、地元の貴族というのか豪族というのか? が結構いるので、就職率はそんなに悪くないらしい。

 職を求めて王都へ行くのも、遠くないから簡単だから、問題ないのだとか。

 じゃあ、今までどおり、できることは一人でさせてもらおう。

 一服したわたしたちは、もときた道を帰り、いよいよ迷路のあるほうへ行くことにした。

 ちなみに茶器はそのままでいいらしい。どこかから見てるんだろうか……

 邸の中だから警備はそんなに厳しくないけど、ちゃんと気にされているんだろうな。

 ほどなくして、背の高い生け垣が見えてきた。

 明日も投稿します。

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