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散策の午前

「わあ、散策日和のいい天気」


 カーテンを開けたら、目に痛いほどの日が差していた。

 見事な秋晴れに、いっそ感心してしまう。

 これなら、今日の庭歩きは楽しくなりそうだ。

 案の定最初に目を覚ましたのは夜明けすぐくらいで、そこからもう一度寝たけど、それでも七時前には目が覚めていた。

 ここ数日のぎりぎり起床に比べれば、恐ろしいほど早起きだ。

 ……多少歩きやすい服のがいいのかな? 悩んでいるとフリーデさんがやってきて、よさそうなドレスを選んでくれた。

 庭仕事をするわけじゃないのだし、そんなに足場の悪いところもないから、いつもどおりでいいそうだ。

 たしかに、見た範囲では綺麗に整地されている。

 そうだ、アディさんに選んでもらった花の本を持って、下に降りよう。

 複写した楽譜はないから、今日は結構身軽だ。


 下に降りると、公爵様はまだだと言われた。いつもわたしより早いのに、珍しい。

 いつもこちらの体調ばかり気にするけど、クヴァルト様も結構忙しいし、大丈夫なのかな。

 仕事してない気楽な身と違って、領地を運営していかなきゃいけない。

 わたしの感覚からすれば、まだおじさんとまではいかないけど……それでも若くはないんだし。

 楽しみで降りちゃったけど、ちゃんと聞いて待っていればよかったかな。

 まあ、起きてはいるからそのうちくるらしいので、窓から見える花を眺めながら、図鑑を読んでみる。

 ……あんまりわかる気がしない、なにせ花には興味がないから。

 コンクールとかで入賞すると、お祝いに花束とかもらったけど、嬉しいとも思わなかった。

 賞をとれたということは、技術を認められたことだから、それは勿論喜んだけど。

 お姫様みたいなドレスと花をありがたがるかというと……あくまでピアノが優先だったからなぁ。

 嫌いじゃないし好きだけど、そこに時間を割くくらいなら、というやつだ。

 ……つくづく甲斐がなかったなぁ、両親にはちょっと悪いことをしたかも。


「すみません、お待たせしました」

 そう時間をたてずに、クヴァルト様が降りてきた。

 今日は仕事がないからか、きっちりした服じゃなく、少しラフな感じだ。

 いつもは詰め襟みたいなので首が窮屈そうだけど、今日はシャツにジャケット姿。

 ボタンも空いているから、ちょっと新鮮な気がする。

「……セッカ嬢?」

 ぼーっと見ていたせいで、怪訝そうな顔をされる。

「あ、なんでもないです。おはようございます、クヴァルト様」

「そうですか? ならいいのですが……おはようございます」

 まさか喉が見えるのが珍しいですねなんて正直に話すわけにもいかない。ちょっとセクハラみたいだ。

 そういえばいつもはしっかりまとめている髪の毛も、ちょっと乱雑だ。

 整っている状態だと、正直白髪っぽくて、年寄りっぽく感じるんだけど、このほうが年齢相応だ。

 ……これも口にしたら微妙だよなぁ。

 でも、あちこち普段と違うから、なかなか新鮮に感じてしまう。

 わたしも髪の毛結えばよかったかな。

 ……あ、後ろの毛、ハネてる、寝癖っぽい。

 食堂までの道すがら、後ろについたら見えてしまった。

 流石に教えたほうがいいかなぁ……

「クヴァルト様、後ろ、はねてます」

 悩んだ末に教えると、え、と気の抜けた声とともに、手を後ろにやるけど、いまいちわからなかったらしい。

 椅子にすわったところですすっと執事頭さんがやってきて、櫛で直してなにごともなかった顔で下がる。

「……楽しみで、ちょっと寝坊しまして」

 食事の終わりごろ、とてもか細い声で呟かれたけど、職業柄耳には自信がある。

 楽しみって、とまじまじ見つめると、ふいっと視線を外された。

 しかも、ちょっと頬が赤い。すごいレアなものを見ている気がする。

「義理、とかじゃないんですか」

 考える暇もなく口から言葉が滑ってしまった。

 公爵様はすぐ顔を正面にもどすと、今度は見慣れてきた拗ねた顔をする。

「嘘は好まないと言いましたよ」

 ……つまり、本当に楽しみで寝つけなかったのか。

 なんだかそれって、ちょっと子供みたいだ、いや、ひとのことを言えないけど。

 かわいいって感想そのままだと、絶対もっと拗ねるよなぁ。

 ええと……この場合ベストな受け答えってなんだろう。

「……ありがとうございます?」

 あ、微妙な顔をされた。失敗したらしい。

 でも、機嫌は悪くなさそうだから、いいことにしよう。

 にしても、なんだか周囲から微笑ましく眺められてて居心地が悪い……

「──行きましょうか」

 それはクヴァルト様も同じだったらしく、ちょっと椅子の音をさせて立ちあがった。

 わたしもいたたまれないので、そうですね! と妙に元気に同意してしまう。

 フリーデさんは公爵様がいるからついてこないみたいで、わたしたちは二人で庭へ出た。

 玄関側は、車を停めたりする都合上、一面石畳の道と芝生ばかりが広がっている。

 でも、窓から見える景色がそればかりじゃということなのか、芝生の縁には花壇……と言うには鉢植えじゃなく直に植えられているんだけど、そんな感じのが並べられていて、これはこれでかわいらしい。

 そっちは普段から見ているので、今日の目的地は反対側だ。

 バルコニーから見てはいるけど、間近に行くのは今回がはじめて。


 こちらも石の道がつくられていて、綺麗に等間隔で左右にぐるっと回れるようになっている。

 道の端には生け垣が設けられていて、その中に大きめの花がたくさん植えられていた。

 だから、上から見ると綺麗な絵みたいになっているんだろう。

 色もちゃんと考えて配置されているらしく、綺麗なグラデーションになっていたりと様々だ。

 生け垣の中の一部は芝生になっていて、ここでお弁当を食べたらとても気持ちがよさそう。

 真ん中の道をまっすぐ進むと、中には噴水が存在している。

 高さのあるものではなくて、地面から水だけ出てくる感じの噴水だ。

 全体的に素朴というか、派手さがないけど、落ちついていていい感じがする。

 一角では庭師のみんなが花の手入れをしていた。

「お疲れ様です」

「どのお花も、綺麗ですね」

 クヴァルト様がねぎらい、わたしも続ける。

 花の名前はよくわからなくても、綺麗なことはわかる。

 雑草も丁寧に抜かれているし、間引いたり? もしてるんだろう、たくさんの花が咲いているけど、ぎゅうぎゅうした感じはない。

 枯れかけた花も少ないから、まめまめしく世話をしているのは間違いない。

 庭師のひとたちは公爵様に頭を下げてから、わたしにいくつかの花の説明をしてくれた。

 忘れちゃ申しわけないので、持っていた本とてらしあわせて、栞を挟んでおく。

 公爵様は庭は好きにしていいと寛大らしいけど、特に希望もないので、庭師としてはちょっとつまらないらしい。

「セッカ様はどういう花がお好きですか?」

 にこにこ笑顔で初老の庭師に聞かれたけど、うーん……

 なにせあんまり詳しくないし、この世界の花もまだまだ勉強してないし。

 困っていると、おじいさんは笑いながら、

「なに、難しく考えることじゃないです、小さいとか大きいとか、色とか匂いとかね」

 そういうのでいいのか、それなら……

「白い花が、好きですね」

 わたしの名前に雪の文字が入っているから、選ぶものは白系統が多い。

 服は洗濯がめんどくさいから選ばないけれど、それ以外の文房具なんかはそうだった。

 花の中にもスノーなんとかというものはそこそこあるらしいし、やっぱりみんな雪が好きなんだろうな。

「では、今度の季節は白を多めにしてみましょう」

 いいですか? と公爵様に頼めば、勿論ですと快諾する。

 毎回庭師が勝手に決めていたらしく、腕のふるいがいがなかったらしい。

 今はピンク色の花が多いけど、今度は白になるのか、それも楽しみだ。

 まだ先のことになるのはわかってるけど、この調子ならきっと綺麗な花壇になる。

 わたしは庭師にお礼を言って、別の場所を見ることにした。

 次回更新はちょっと未定です。

 水曜日の12時更新もまにあうかどうか……申しわけないです。

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