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公爵の事情

 お茶を煎れてもらい一息つくと、公爵様が口を開いた。

「ちなみに、これは皆知っている話なので、特に秘密にする必要はありません」

 最初に断りを入れられた。そんなにややこしいことなんだろうか。

 でも、みんな知ってるってことは、まずい話ってわけではなさそうだけど……

 領民も知ってるらしいので、たとえ喋っても問題ないらしい。

「まず、私の母は、先の国王の妹になります」

 ……最初からなんだかすごい発言が飛びだした。

 ということは、今の王様とは従兄弟同士なのか。それもあって仲がいいのかな?

 この国は基本的には長子相続で、男子が継ぐのが決まりらしい。

 よほど先に生まれた子供に問題……病弱であるとか、貴族の場合は正妻との子じゃないとか、そういう場合でなければ、例外はほぼない。

 なのでクヴァルト様のお母様には王位継承権はなく、ちょうど年齢の合う近隣国の王族もいなかったので、国内で結婚相手を探すことになった。

 そこで白羽の矢が立ったのが、とある公爵家の次男だった。

「それが、クヴァルト様のお父様……」

「……この公爵領は少々特殊な事情を持ちます」

 隣国との境に位置しており、今でこそ平和だけれど、昔は紛争が絶えなかった。

 そんな場所に能力の低い領主を置いておくわけにはいかない。

 しかし、状況によって武力に長けた者、外交が巧みな者……必要な能力も異なってくる。

 結果、ここの領主は子供が継ぐのではなく、その時代に合った人物がなることになった。

 なので養子をとることが多く、たまに何代か続くことはあっても、それは平和な時だけ。

 とはいえ流石にそれなりの貴族でなければならないけれど、能力があれば、公爵より爵位が下でも領主についたひとがいるらしい。

 当時は平和だったので、特出した能力は必要ではない。

 某公爵家の次男は学問に優れ、性格も穏やかで、領地を治めるにはむいている。

 王妹との年も近く、ぴったりだということになり、養子縁組をすませ、結婚し、領主となった。

 家督を継げないと思っていたのに、領主になれたのだから、逆玉というわけだ。

 たしかにずいぶん特殊な話だけど、それだけ昔は大変だったのだろう。

 ここは王都までの距離も近い、迂闊な人間を領主にして隣国に寝返られたら大変なことになる。

 それらを含めても、ここの領主を選ぶのは難しいわけだ。

 二人が結婚してほどなく領主は亡くなり、けれど温厚な新領主はよくこの地を治めていた。

 けれど数年後、流行病にかかり、息子の顔を見ることなく亡くなってしまった──


 お母様はそのショックもあり、また施政者としての力はないということで、修道院へ入ることになった。

 今は国境に問題もないので、ひとまず代理はお祖父様が務め、成人したらクヴァルト様が正式に領主になることに決まったのだという。

 代理ではなく新しい領主を立てるべき、という意見もあったらしいけど、王妹の息子という身分だったので、よそへ養子というのも難しかったらしい。

「迂闊なところへ養子にして、面倒が起きても困るという判断だったようですよ」

 身分が身分なので、養子になった先では嫡男扱いになる。

 となると、すでに男児のいる家ではもめごとが起きる可能性が高い。

 それならそのままにしたほうが、という判断だったそうだ。

 ……貴族の世界は、思った以上に大変なんだなぁ。

 臣籍降下したから、クヴァルト様に王位継承権はないけど、それでも王に近しい位置であることは間違いない。

 妻子と揉めても養子にして力をつけたい貴族がたくさんいたのだろう。

「そういうわけなので、私は独身でいても問題ないわけです。というより、そのほうが国王側は安心なんですね」

 ──そうか、公爵様に子供が生まれたら、国王の遠い親戚になる。

 結構血は薄まってるけど、それはそれで政略結婚とか、そういうのに使われる可能性もあるだろう。

 女の子なら問題ないだろうけど、そう都合よくはいかないし。

「国王本人は、結婚したい相手がいればするべきだと言いましたが……特に思わなかったので」

 ああ、王様はそういう考えだったんだ。

 友人でもあり従兄弟でもある公爵様のことを、損得抜きで考えてくれているんだろう。

 そういうひとがいてくれるのは、いいことだ。

 神子のわたしがきたことで、邸のひとたちが嫁に……と期待するかと思っていたけど、ほとんどそんなことがないのは、そういう理由もあるんだな。

「若いころはあちこちから煩く言われましたが、断り続けて今では変人扱いですよ」

「……でも、身分目当てでモテても、嬉しくないですよね」

「ええ、全く」

 結婚しろと言ってきたひとのほとんどは、公爵様の地位や領地が目当てだったんだろう。

 うわべはもっともらしいことを言ってたって、それじゃ普通は断るよなぁ……

「……あ、だから女性嫌いって思われてる、って」

「ええ、私から言ったことはないんですけどね」

 言ったことはなくても、ずっと独身で浮ついた話がなければ、そう判断されるだろう。

 もしかしたら腹いせ? とかに噂を流されたりしたのかも。

 クヴァルト様には都合がよかったんだろうけど。

「そのわりにわたしを避けたりしないから、なんでかなって思ってました」

 本当に女性嫌いなら、近づくこともしないだろうに、そういう感じはなかった。

 不思議だったけど、たしかに公爵様は「自分が女性が嫌い」とは言ってなかった。

 いやまあ、財産目当ての女性は嫌いかもしれないけど。

「あの時はそのほうがあなたも安心するかなと」

 ……別に女好きとかでないかぎりは、そこまで変わらない気もするけど。

 でも、それなら公爵様が結婚する可能性は低いから、わたしがしばらくここにお邪魔していてもいいわけだ、よかった。

 養子を迎えるなら、普通は奥さんがいたほうがいいけど、この場合、成人してから養子にするみたいだから、育成とかは考えないんだろうし。

「そういうわけなので、この地は信心深い者が多いですが、同じくらい血筋より実力という気風でもあります」

 相反するようだけど、領主の血が繋がってないのが当たり前なんだから、そうなるだろうなぁ。

 今は落ちついてるけど、昔は一触即発の中で暮らしていたんだろうし。

「わたしの元の世界では、結婚しないひとも、子供をつくらないひとも多いですけど、ここだと風当たりが強そうですね」

 現代日本でもそういうひとは口さがなく言われたりするのだから、この世界はもっとだろう。

 ましてや貴族なんだから……いや、あんまり貴族社会知らないけど。

 でも、昔の華族とか宮様の話をうっすら思い出すと、大変そうなことはわかる。

 その中で独身を貫いてきた公爵様は、結構凄い気がする。

 偽装結婚というか、完全に契約みたいな結婚をして誤魔化す方法もあっただろうに。

「そういう社会になればいいんですがね」

 まあ、なったらなったで人口減少とか問題が出てくるから、いいことばかりじゃないけどね。

 嘘はつかない公爵。

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