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二人の夕食

 探索に区切りがついたころにはお昼時をすぎていて、朝食が遅かったのもあったからちょうどいい具合だった。

 フリーデさんが持ってきてくれた軽い食事をもらい、おやつの焼き菓子までもらってしまう。

 食後はベランダに出て、椅子に腰かけてのんびり日向ぼっこをした。

 周囲に見える景色はすべて敷地内らしく、他に大きい建物はなく、すっきり整備された庭が見える。

 右のほうにでっぱって見え隠れする建物は、離れというやつだろうか。

 温室みたいなものもあるので、そのうち行ってみよう。話によると生け垣の迷路もあるのだとか。

 西洋のお城に存在しているとは知っていたけど、実物ははじめてだ、こちらもぜひ挑戦したい。

 半分うとうとしながら、日が暮れるまでの時間をそこで過ごし、寒くなる前に撤収する。

 さて、乱れた髪の毛を整えたら、公爵様を待つべく下に行かなくちゃ。


「お待たせしました、ご一緒しますね!」

 フリーデさんと準備をしていたら、ウェンデルさんが元気よく入ってきた。

 なんだか久しぶりに会う気がする。そんなことないんだけど。

 二人に両脇をがっちり固められた状態で、階段を降りていく。

 そこまでしなくてもと言ったけれど、全然聞く耳持ってくれなかった。

 下りはそんなに苦労もなく、無事に一階に到着する。

 一階には食堂、談話室、客室(と言っても泊まる部屋ではなく待っている場所? のようなものらしい)などのメインの場所と、厨房や風呂場などの使用人の場所があるらしい。

 二階は客室が多くて、なのであまり使われていない。

 三階が主の部屋と書斎など、という構成で、もとの世界の洋館と、大体同じような気がする。


 食堂も二カ所あって、大人数をもてなすためのものと、家族だけの場所。

 公爵様は普段小食堂で食べているらしい。

 でも、折角ならドアあたりで出迎えたいので、玄関からすぐの大広間の横にある、小さな部屋……と言っても大きいけど……で待つことにした。

 食事までの間にくつろぐスペースらしい、お金持ちの家ってこういう控えの間がたくさんあるのがお約束なんだろうか。

 色々な彫刻やらが置いてあるのかと思ったけど、全然ない。

 理由を執事頭さんに聞いてみたら「邪魔なものは置かない」のだそうで。

 公爵様の代になってからは、美術品は一部を除いてしまわれているらしい。

 たしかにあんまり飾りすぎは鬱陶しいけど、装飾の施された建物なのに、絵画もほとんどかかってないし、花も生けていないから、ちょっと殺風景な気がする。

 ものを置くために空いているだろう柱の隙間がぽっかりそのままなのは、結構間が抜けている。

 あんまり詳しくないからなにを置けばいいのかわからないけど、今度試しに置いてみたい。

 こんなことなら洋館でのコンサートの時、もっとちゃんと見ておけばよかった。


 そのうちに執事頭さんが知らせにきてくれて、わたしは玄関に移動する。

 門から邸が遠いと、出迎えるのはやりやすくていい。……結構待つけど。

 大きな両開きのドアが開いて、朝見送りした公爵様の顔が見えた。

「お帰りなさい、クヴァルト様」

 笑顔のひとつも出すべきなんだろうけど、あんまり得意じゃない。

 それでもクヴァルト様は嬉しそうに微笑んで、ただいま、と挨拶してくれた。

「すぐに行きますから、先に食堂へ行っていてください」

 案内されるままに食堂へ行くと、想像以上に小さな机と椅子が置いてあった。

 普通の家のリビングに置いてあっても違和感のない、四人分くらいのテーブル。

 勿論上にかかっているテーブルクロスは裾に透かしが入っていたりと手がこんでいるけど、大きさはごく普通だ。

 椅子は当然というべきか、二脚しかない。

 ……って、でも主人が先にすわるものじゃないのかな、これ。

 迷っていると、ウェンデルさんがさくさく椅子を引いてすすめてきたので、すわらざるをえなくなる。


「お待たせしました」

「あ……すみません、先に席についてしまって」

 時間を置かず現れた公爵様に謝ると、そんなこと、と首をふった。

「正式なマナーも学んでもらいますが、ここでは面倒なことはなしで構いませんよ」

 鷹揚な言葉と共に、公爵様は自分で椅子を引いてすわってしまう。

 知らないわたしに合わせてくれているなら、ちょっと申しわけないけど、誰も驚いた顔をしていないから、多分いつもこうなんだろう。

 それならちょっとは気が楽……かな。

 運ばれてきた料理も、コース料理みたいなものではなく、何皿かまとめてやってきた。

 料理長さんがひとつひとつ解説してくれて、どれが気にいったか教えてほしいと頼まれる。

 なんでも異世界人が伝えた料理のレシピの写しを、王城からもらったらしい。

 でも、その中の調理法はかなりばらばらなのだとか。おそらく、各地の異世界人が伝えたから、世界中のものが集まっているんだろう。

 なので、どれがわたしの国のものかわからないので、一品ずつメニューに組みこむつもりらしい。

 どれが自分の国のものか教えましょうか、と申し出たけど、これはこれでレパートリーが広がるので、練習兼ねてすべてつくってみたいのだそうだ。

 そんなわけで今日の異世界メニューは魚のムニエルだった、これは……どこだろう。

 バターを使うものだから、日本でないことはたしかだけど。

 でも、食べたことのある味なので、これはこれでおいしくいただけた。

 公爵様も知っていたらしく、もともとはあなたの世界のものなんですね、と感心していた。

 これくらいの料理はこの世界にも流通しているなら、そのうち料理本も読んでみよう。

 つくることはできないけど、なにが人気なのかは知りたいから。


 公爵様は食事の合間に、今日はなにをしていたか訊ねてきたので、部屋を探索したことを話した。

 アクセサリーはもともとつけていなかったので、見るだけになりそうですとも。

 ピアノを弾くのに邪魔だからと言い添えておいたので、やたらと買うことはない……と思いたい。

 あとはフリーデさんがドレスの直しを頼んでいたとか、そういう内容だった。

 公爵様はなにをしていたのか反対に聞いてみたけど、基本的に書類にむきあったり、各地からの報告を聞いたりのデスクワークで、面白いことはなかったですよとのこと。

 留守にしていた間にたまった案件を片づけて、なかなか忙しかったようだ。

 気が咎めるけど、数日留守にするのはよくあることらしい。

 王都に近いし、王の友人だしという理由で、ちょいちょい呼びつけられては雑用を押しつけられているそうだ。

「断りたいのですが、王妃のほうが上手なんですよね……」

 やれやれと嘆いてみせるが、本当に嫌そうには見えない。

 国王夫妻に会っていないから判断しづらいけど、友情は本物なのだろう。

 そんなこんなで緊張するかと思ったはじめての一緒にした夕食は、拍子抜けするくらい順調に終わった。

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