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恐いこと※

※セッカがキツイ目にあっています。

 直接的な暴力などの表現は抑えめですが、気分を害するかたもいるかもしれません。

 嫌な予感のするかたは、

「セッカは悪夢を見た」だけ把握して次回更新を読むか、

 後ほど投稿する公爵様サイドのほうがまだ読みやすいかと思います。

 そして、広い寝室に一人きりになった。

 寝る支度を整えたあとで医者がやってきたりしたけど、診察してもらった結果は特になし、だった。

 遅くなったのは、急患があったかららしい。本当は到着する時間にきている予定だったとか。

 今後も往診にきますと言われて、偉いひとは凄いと何度目かわからない感心をした。

 いちいち医者に行って待たなくていいのは楽だけど、呼びつけるとなると、よっぽどじゃないとという気になってしまう。

 高貴なひとの、使って当然という思考には、到底なれそうにない。

 それからフリーデさんが寝るまでそばにいましょうかと申し出てくれたけれど、断った。

 そこまで甘えるのも気が咎めるし、ここはもう安全なんだし。

 昨夜だってなにもなかったんだから、大丈夫ですよと。

 側に控えている状態で眠れる気もしないし……そういうのも、高貴な身分だとできるんだろうか。


 ふかふかのベッドに、多分羽毛っぽいやっぱりふかふかの毛布。

 もといた世界の布団なんか目じゃないくらいの高級品だろう。

 でも、安いアクリルやフリースも、あれはあれでいいものなので、ちょっと恋しくなる。

 ねだったら、やっぱり微妙な顔をされるだろうか。

 ひとによっては気に入ると思うんだけどなぁ……あ、でもどっちも合成繊維だっけ?

 この世界だと無理だろうか、フェルトくらいはありそうだけど。

 そんなことをつらつら考えていると、段々瞼が重たくなってきた。

 うとうとしていたその──時。


 ぎぃっと、ドアの開く音がした。


 そんな馬鹿な。

 だって、執事頭さんとメイド長さんが約束してくれた。

 日中の緊急時以外、まして夜中は、無断で入ることはしませんと。

 警備の者はいるけれど、二人一組で巡回しているし、異常がないかぎり決して中は見ないって。

 だのに、ドアはひどくゆっくりと、開いていく。

 ……逃げなきゃ。

 わたしはベッドから起きようとして、……それができないことに気づいた。

 いつのまにかわたしの両手両足は、それぞれ神官がつかんで拘束していた。

 肩から下がる布の色は、中級を表すもの。

 やつらは「怪我をさせたくありません、お静かに」と窘めてきた。

 あんたらがこんなことをしなければ、暴れたりしない、と叫ぼうとしたけど、口は布で塞がれているから、くぐもった音が出るばかりだ。

 身動きとれないわたしの前に、ゆっくりと歩み寄ってきたのは、上級の神官のしるしを肩から下げた壮年の男性。

 にこにことした笑みは、優しさなんて微塵もなくて、ただひたすら気持ち悪い。

『神樹の子よ、今日は私どもに慈悲をお願いします。昨日は青のほうでしたからな』

 鮮やかな金の刺繍のついた、赤い布と青い布。金の刺繍は、どちらも上級の神官にしか許されていないものだ。

 位が上がるにつれて、無地のそれには、神樹と同じ金色の縫いとりが混じっていく。最高位ともなれば、芸術的なまでの刺繍の肩布になる。

 今はこの二色が大きな派閥らしく、わたしのところへきたのは、はじめは赤が多かったけれど、青いほうがそれを知り、今では一日交替になっている。

 わたしの知らないとりきめがあるらしく、反対の色の神官たちが、わたしを拘束すると同時に監視しているらしい。

 男の後ろには、ぞろぞろと同じ赤色の男性が続く。……あの全員に、あいつらの言うところの「慈悲」を与えなければ、わたしは解放してもらえない。

 わたしにできることは、目を閉じて、はやく終わるように願うことだけだ。

 嫌だと言いたくても口は利けないし、蹴飛ばしてやりたくても足も動かせない。

 準備は全部あいつらがするから、わたしはただ横になっているだけだ。


 こんな……人形みたいな扱い、ふざけていると最初は思った。

 はじめは暴れたし、拒絶したし、おかしいと訴えた。

 けど、今では、もう、どうでもいい。

 おとなしくしていればいつか終わる。

 そうしたら身体は綺麗にしてもらえるし、食事ももらえる。

 嫌がればそれだけ時間が長引くし、変な薬を使われるし、いいことなんてひとつもない。

 かといってひどい暴力をふるわれるわけじゃない、避妊だってしてくれている。

 我慢さえしていれば、そのうち一人にしてもらえる。

 ……だから、待つしかない。

 とっくにあきらめたはずなのに、無駄な力は使うべきじゃないと知っているのに。

 どうせとどかないとわかっているのもあって、時々耐えきれずに声を出してしまう。


 もうやめて。

 苦しい。

 たすけて。

 許して。

 こないで。


 でも、どんなに泣いても、なにをしても、救いなんてない。

 だって、召喚されたこの世界に、わたしの家族はいない。

 わたしがこんな目に遭っていることを、誰も知らない。

 たすけてくれるひとなんて、だれも存在しない……


 存在、しない?

 だれも、いない?


 ほんとうに?

 つい、一日前に、約束したひとが、いなかったっけ?


 ……そうだ、公爵様だ。

 公爵様は約束してくれた。

 万一またさらわれたら、必ずたすけると。

 神殿に火をつけたっていいって。

 そんなことしたら大変だろうに、本気の調子で断言してくれた。


 どうして、それなのに、公爵様はいないんだろう。

 やっぱり、神殿に対抗できなかったんだろうか。

 負けてしまったんだろうか。そんなの嫌だ。

 はやく、たすけて、公爵様……


『──お待たせしました』


 ……すると、どこからか聞こえた低い声。

 それとともに、両手両足の拘束が解けた。

 のしかかっていたのも、いつのまにかいなくなっている。

 公爵様? と呟いた声はきちんと言葉になった。

 覆われていた口も、自由になっていることに気づく、いつのまに?

『──ええ、私ですよ』

 顔はなぜかぼやけて見えないけど、間違いない、低い声。

 なにか盛られてたんだっけ、目隠しされたみたいに、まったくあたりの様子がわからない。

 でも、声とともに優しい微笑みが頭に浮かんで、ほっとして涙が出た。

 よかった、公爵様、ちゃんときてくれたんですね。

『──クヴァルト、と呼んでくださいと、言ったでしょう?』

 少し拗ねたような調子で文句を言われる。そうだった、まだ慣れなくて、ごめんなさい。

 謝ると、しかたないですね、とやわらかく許された。

 それと同時に右手に暖かいぬくもりを感じて、手をにぎられているのだと気づいた。

 でも、嫌な感じは全然しない。それどころか、とても安心する。

『もう大丈夫ですよ』

 おまけにぽんぽんと、子供をあやすように頭をなでられた。

 ああ、公爵様……じゃなかった、クヴァルト様が言うなら、本当なんだろう。

 わたしはもう安全、心配することなんて、なにもない。

 もしもまたあいつらがきても、追い払ってくれる。甘えっぱなしで申しわけないけど……

『いいんですよ。だから私に任せて、あなたはゆっくり眠ってください』

 はい、そうさせてもらいます。すごく眠いし。

 おかげでぐっすりねむれそうです。

 ありがとうございます、クヴァルトさま……

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