あべこべ世界(1001人の為に999人死ぬ的な)は物凄いスピードでギュンギュン廻る
僕、四月一日 圭太は日本の平行世界的な場所に転生しました。
この世界は男女比は変わらずハーレム出来ちゃったりする世界でないですよ。
でも、ちょっと面白い機構を備えています。
完全な優生学の導入。
昔のドイツがやっていた事を平然とやっているのです。
あ、一応ここは日本です。
要するに完全実力主義ですね。
DNAやら何やら弄れるようになってて身体の障害を持つ人間は壊滅だそうです。優生学の恩恵なんだとか。
この世界には少子高齢化はありません。
というのも、老害は『無能駆逐部隊』により駆逐され、追加人員は移民で補っているからです。
で、全体の人口としては前世の日本より少ないのです。面白いでしょう?
それもそのはず。
この世界には仕事の絶対数が圧倒的に少ないのです。
人員に対してキャパが間に合わない現状にアジャストしてまたまた『無能駆逐部隊』がしゃしゃり出てキャパに合うように無能を吊るのです。
無駄にコストをかけるくらいなら殺せ、がこの世界の普通。
まぁ、子供時代から支払った金を考えれば収支はマイナスですが。
が、です。
世界は仕事により回っています。
逆説的に仕事により世界が支配される構造、と言えるでしょう。
ならば、その仕事に支障を来す因子は悪であり因子を潰す全体のプラスと個人に掛けた金のマイナスのどちらが優先かは自明ですね。
正しく仕事が人間を殺している。
前世のダラダラとした被害者意識に苛まれた鬱による自殺も、全く起きません。
世界はこれ以上無く円滑に回っています。
そう言えば人びとは口々にこう言います。
『努力が正当に報われる唯一のユートピアである』と。
そうなのでしょうね。
当人が努力すれば生き残れる上に良い生活と安寧が約束されます。
退職したら『無能駆逐部隊』による安楽死が待っていますがね。
反対運動は起きません。
反対運動が起きたらその場で全員吊りです。
世界を敵に回すのと同義なので愚策の極みと言えましょう。
1001人の有能の為に999人の無能を笑顔で殺しましょう。
有能を生かすことこそな無能の最期の喜びなのだから。
話が逸れましたね。
先ず、現状の把握をしましょう。
『無能駆逐部隊』が僕たちの周りを取り囲んでいます。
就活の風物詩、無能吊りです。
高望みしてブランドに縋った馬鹿やら、現場で活躍出来ない人間はこの場で死ぬのです。
リクルートスーツはさながら喪服のようです。
隣人の死とは淡々としたもので何も感じません。
僕たちは産廃、ゴミクズ、負け犬。
僕たちは死ぬために生まれた木偶人形。
祈れる神がいなければ、縋れる藁も無い。
人間失格で御免なさい。
ブランドで仕事を選んで御免なさい。
塵芥が仕事を選り好みして御免なさい。
仕事のキャパを考えないコスト潰しをお許し下さい。
異世界転生だから楽勝だと考えた驕傲と傲慢をお許し下さい。
無能が生きてて御免なさい。
僕たちは必死に懺悔します。
さあ、あなたも謝りましょう。
そして無能で御免なさいと土下座して地を舐めるのです。
ーそして、懺悔の機会をありがとうございます。
◆◆◆
「どうしてこの世界に転生すると他の世界に転生した途端自殺するんでしょうか。酷い例だと無能だからと中世の世界で五歳の子供が両親を殺害、その後自分の遺伝子を悔いて自殺…訳が分かりません」
女神は独りごちる。
「大好きな俺強いが出来るのに自殺する意図が読めませんよ…」
それにと女神は続けた。
「私的にこの世界が怖いんですよね。思想は統一され、実力主義による上下しかない世界がどんどん他にも伝播していってるんですよね。これが人間の極みってやつですか…?」
誰かの足音がした。
振り向けばそこにはー。
「どうも、無能駆逐部隊です」
件の世界から死んだ人間が銃口を向けていた。
「無能な女神よ。世界を変質させるその異能は貴女に不釣り合いです。よって大いなる優生学に基づき異能を剥奪した後殺害します」