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来訪の訳

 早朝に庭先で素振りをしていた訳だけど、なんでこんなところに王女殿下とルイーズ嬢がいるのだ?

 そうかこれは白昼夢と言う奴か――


「グラム様、いかがなさいましたか?」


 目の前で、バターブロンドのストレートヘアをした青い瞳の少女が首を傾げている。

 えっと確かこの少女は……って!


「フェ、フェルメール王女殿下! お、王女殿下におかれましては、ますますご健勝のことと心よりお喜び申し上げ――」

「グラム様」


 あまりのできごとに、しどろもどろになりながら膝をつく俺を、フェルメール王女殿下が制する。


「は、はい!」

 

 その言葉に、体をびくりと震わす俺。

 なんだ? 何を言われるのだ?


「その様な他人行儀な話しかたをされては(わたくし)悲しいですわ。どうぞ、以前と同じ様にフェルメールとお呼びください」

「し、しかし王族のかたにその様な真似は――」

「グラム様、これは命令ですわ。言うことを聞いてくださらないのなら打ち首ですわよ」


 フェルメール王女殿下は、素敵な笑顔で首を斬る仕種をして見せた。

 なんと可愛い顔で恐ろしいことを……。

 でも、いくら命令とは言えさすがに呼び捨てはまずいだろ。


「フェルメール王女殿下、お気遣い頂きたいへん恐縮ではありますが――」

「エヴァルト、打ち首ですわ」


 ふたたびにこりと笑うフェルメール王女殿下。


「はい、王女殿下」


 フェルメール王女殿下の言葉を受け、後ろに控えていた黒い鎧を着た騎士が、スラリと剣を抜いた。

 え? マジなの?


「ふふふ、冗談ですわグラム様」


 両手を合わせ朗らかに笑う王女殿下。


「すまないなグラム君。このやり取りは、王女殿下の最近のお気に入りなのだ」


 そう言って申し訳なさそうに剣を納める、お付きの騎士。


「えっと……」

「グラム様、打ち首は冗談ですが、せめてここにいる間は、(わたくし)への言動も呼び方も、どうぞ以前と同じ様になさってください。あなたは(わたくし)の命の恩人なのですから」


 少し寂しそうな顔をするフェルメール王女殿下。


「……わかったよフェルメール。今日はよくきてくれたね」


 しかし俺の言葉で、フェルメール王女殿下の顔は、花が咲いたような微笑みに変わった。

 ちらりとお付きの騎士さんを見てみると、笑顔でこくりと頷いてくれた。

 どうやら間違ってないようで良かった……。

 そんな様子にひとまず安堵していたら――


「え、えっと……、お、王女殿下が……あのその……」


 俺の隣でルイーズ嬢が、今にも気を失いそうになっていることに気がついた。

 そうだった、ルイーズ嬢も来ていたんだった!

 と言うか、いったい何しに来たのだこのふたり?



「なるほど、そう言った訳だったんです――

 訳だったんだな」


 一瞬むすっとしたフェルメール王女殿下の顔が、俺が言い直したことでにこやかな笑顔に変わった。

 どうもなれないな……。


「フェ、フェルメール、本当に私も呼び捨てにして良いのでしょうか?」


 おずおずとルイーズ嬢が言う。

 ルイーズ嬢は見るからに真面目そうだから、また倒れそうにならないといいが……。


「ええ。その様にお願いしますルイーズ」

「どうか王女殿下にお付きあいください。王女殿下は今日と言う日を、それはもう楽しみにしていたのです」


 そう言ってお付きの騎士がルイーズ嬢に恭しく頭を下げた。

 普段フェルメール王女殿下は、王室で心休まることのない日々を過ごしている。

 王族たるものすべての国民の手本であれと、幼少の頃から厳しい教育を受け、10歳にしてすでに戦災地慰問などの公務もこなしていると言う。

 そんな中、エヴァルトと呼ばれていたお付きの騎士が、クロムウェル領に赴く用事があったので、俺に会えると思いなかば無理矢理ついて来たそうだ。

 ――ん? エヴァルト?


「あの、もしかしてエヴァルトさんって、父の知り合いだったりしますか?」

「ああ、フラックとはもう20年来の付きあいだ。君に会うのも初めてではないんだが、まだ2歳だったから覚えてはいないかな?」


 まじか! 父さんとそんなに古い付き合あいで名前がエヴァルトなんて、ひとりしかいないだろ!


「あなたがあのエヴァルト傭兵団の団長、エヴァルト・シュトラウスさんですか! お会いできて光栄です。って昔に会っているのでしたね」


 俺は興奮気味に握手を求めた。

 だってエヴァルト傭兵団と言えば、この国で知らぬ人などいない伝説の傭兵団だからな。

 その団長を務めていたエヴァルトさんは、父さんと並ぶほどの剣の使い手にして稀代の策略家。今は近衛兵長を務める程の人物なのだ。

 父さんからよく話を聞いていたけど、1度会ってみたいと思っていたんだよな。


「実は私も君に会うのは楽しみにしていたんだ」

「そうなのですか?」

「王子殿下がたいそう君のことを称賛していてね。それにどういった訳か、今まで以上に貪欲に剣の腕を磨くようになったんだ。君の影響だろ?」


 なるほど。アルブレヒト王子殿下の剣の師はエヴァルトさんだったのか。

 どうりで筋がいいわけだ。

 なんてひとり納得していたら、フェルメール王女殿下が不機嫌そうに見つめてきた。


「もう、エヴァルトばかりグラム様とお話してずるいですわ! グラム様も、こんな美女ふたりをほったらかしにして。ね、ルイーズ?」

「え、ええ。そ、その通りですよグラム殿!」


 突然話をふられてびっくりしながらも、話を合わせるルイーズ嬢。

 と言うか、いつまで庭先で立ち話をさせているんだ俺は。


「すまないふたりとも。とにかく中に入ってよ。昨晩作ったケーキがあるんだ」


 その言葉にルイーズ嬢がピクリと反応するも、俺は気づかないふりをしてみんなを案内した。



「まあ、この様なおいしいケーキ、王室でも食べたことがありませんわ」

「グラム殿の作るお菓子は、どれも極上の味わいなのですよ、フェルメール」


 昨晩アイラと一緒に作ったチーズケーキを、リビングで幸せそうに頬張るフェルメール王女殿下とルイーズ嬢。

 うちには貴賓室なんてないものでリビングなんかで申し訳ないけど、ふたりともずいぶん会話も弾んでいるようだ。

 フェルメール王女殿下はきっと、同じ年頃の友達というものに憧れていたんだろうな。

 ちなみに、エヴァルトさんは執務室で父さんと話しているところだ。


「では、フィルフォード侯爵令嬢は衛士候補生を連れてきてくれたのですね?」


 ルイーズ嬢から受けとったフィルフォード卿の手紙を読みながら、俺は確認する。


「ええ、先ほどヒュースさんと言うかたに会い預けて参りました。……あの、グラム殿。良ければ私のことも、ルイーズと呼び捨ててもらえないでしょうか? あと話し方も……」

「そうですわグラム様。仲間はずれはよくありませんことよ」


 確かに王女殿下を呼び捨てて、侯爵令嬢に敬語を使っていたらルイーズ嬢も気まずいよな。


「わかったよルイーズ。これでいいかい?」


 俺の言葉にルイーズ嬢は満足げに顔をほころばせた。


「そして、フェルメールは、衛士の訓練について相談したいと父さんに呼ばれたエヴァルトさんに便乗したわけか」


 さっきエヴァルトさんに聞いた話を再度確認する。


「魔物に襲われたと言うペイル領の視察も兼ねてですわ」


 なるほど、俺とベルで民家の再建はなんとかしたものの、畑に関してはいまだ復興中だからな。

 国の徴税に対応するのも難しいだろうし、それで視察か。

 しかし、自惚れている訳じゃないけど、恐らくそれは体裁を保つための方便だろうな。


「なんにせよまた会えて嬉しいよフェルメール、ルイーズ」


 そう言うとフェルメール王女殿下とルイーズ嬢は、頬を赤らめ微笑んだ。


「フェルメール、君が良ければだけど、俺もペイル領の視察に同行しようか? 俺もペイル領には用事があるんだよ」


 フィルフォード卿から、反開戦派の各領地に砦を築造するよう依頼されているからな。

 ちなみに経費と報酬もしっかり頂いているのである。

 俺とベルの力があれば、費用なんかたいしてかからないけどね。


「本当ですかグラム様!? (わたくし)、グラム様と少しでも一緒にいたいと思っておりますので感激ですわ」


 喜色満面の笑みを浮かべるフェルメール王女殿下。

 なんて胸をキュンとさせるのがうまいのだ王女殿下は……。

 危ない危ない、もし俺が童貞ならころっといってたぞ。

 童貞だけど……。


 なんてくだらないことを考えていたら、なにやらひそひそと話す声が聞こえてきた。


「おい見てみろエレイン。グラムの奴がまたどこぞの女をたらしこんでいるぞ」

「仕方ないよベル。だってグラムは女の子が大好きなんでしょ? 前にシャルルが言ってたじゃん」

「お前はそれで良いのかエレイン?」

「良くないけど……。でも私はもっと魅力的になって、グラムに振りむいてもらうって決めたから」

「健気だのお。でも、あの色欲魔はあっちこっち振り向きおるぞ」


 声のするほうに目をやると、ドアの隙間からふたつの目が覗いて見える。

 まったく好き勝手言いやがってベルの奴め。

 エレインも可愛らしいことを言っているけど、ナチュラルに女好き認定するのはやめてほしい……。


「おい、今日の授業は終わったのか? こっちで一緒にケーキでも食うか?」


 俺が声をかけると、ふたりは喜色をを浮かべ部屋に入ってきた。

 そしてフェルメール王女殿下を見て固まるふたり。

 俺は、ふたりがエルネに教えてもらったばかりの挨拶を、しどろもどろになりながら実践する様をニヤニヤと見守っていた。

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