表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/151

レイスの呪い

 小部屋を出て30分ほどたっただろうか。

 俺たちはアンデッドどもから3回の襲撃を受けたものの、危うげなく撃退し順調にダンジョンを進んでいた。


「スケルトンもゾンビもたいしたことねーな!」


 前衛の役割を十二分に発揮し、満悦な様子でガラドが言う。


「バカ、調子に乗るな。その慢心が仲間を傷つけることになるかも知れないんだぞ」

「す、すまん……」


 ガラドは俺の言葉に素直に反省の色を示し、パシッと自分の顔を叩き気合いを入れた。パーティーを守る前衛としての責任感が、芽生えてきたようだな。


「ところでベル。俺たちの探している人物はここにいそうか?」

「いや、何も感じんな。恐らくここは、我らと関係のないものが作ったダンジョンだな」


 辺りをつぶさに観察しながらベルは答える。なにか特徴でもあるのだろうか?

 そんな俺の疑問を感じとったのかベルは続けた。


「我らは皆、嗜好も思考も異なるが、ことダンジョンに関してはそれぞれに拘りがあってな。この貧相な様相は我らではあり得ん」


 貧相かどうかはわからないけど、このダンジョンは確かにただの地下道って感じだもんな。

 それとは違い、以前ベルが精巧なレリーフを作っていたように、深紅のコアを持つダンジョン娘たちは拘りががあるんだな。


「グラム、君たちはいったい何者なんだ?」


 アルが不思議なものでも見るような目で、俺たちにたずねてきた。俺とベルの会話を聞いていたら疑問に思うのも無理はない。


「普通の人より少しダンジョンについて詳しいだけさ」


 行きずりの人間にベルのことを話すわけにも行かず、誤魔化すような返事をする。さっき『迷宮創造(ダンジョンメーカー)』を使って見せたせいで、強引な言い訳になってしまっているけど。


「いや、それだけじゃない。なんで君たちはそんなに強いのだ?」

(わたくし)も気になりますわ。皆様、(わたくし)と同じくらいの年齢とお見受けしますが、とても戦いに慣れていらっしゃるように見えますわ」


 そっちのことだったか。魔物との戦いに手を抜く訳にもいかないから、みんな普通に戦っていたもんな。同じ年頃ならよけいその差が気になるか。

 さて、なんて言い訳をしたものか……。


「グラムに鍛えてもらってるからだぜ」

「そうにゃ、グラムはすごいやつなのにゃ」


 と悩んでいたら、ガラドとシャルルが自分のことの様に誇りながら答えた。


「そうなのかグラム? グラム、良ければ普段どんな鍛練を積んでいるのか、僕に教えてくれないだろうか?」


 うっ、なんだこのキラキラした目は……。

 こんな綺麗な目をした少年に嘘をつくのは心苦しいんだけど――ってなんだ!?


「止まれ!」


 ちょうど通路から広間に出ようとしたそのとき、5メートルほど先の空間に違和感を覚え、俺は慌てて制止を促した。

 目を凝らしてみると空中が、砂糖を水に溶かしたときの様に、透明に揺らめいている。

 間違いない、レイスだ!

 俺は即座に右手をかざし(スキル)を発動させた。


火弾(ファイアボール)!』


 グゥオオォアアアァァ……


 俺の放った火弾(ファイアボール)が透明の揺らめきに着弾し、ボロボロの法衣をまとった骸骨の魔物レイスの姿を炙りだした。しかしレイスは意に介した様子もなく、ゆらゆらと揺らめき不気味にこちらを伺っている。


祝福(ブレッシング)


 それなら先手必勝だと、俺は即座に祝福(ブレッシング)をかけた。

 それとほぼ同時、打ちあわせどおりにシャルルが矢を放つ。

 祝福(ブレッシング)の効果で淡い光に包まれた矢が、レイスの眉間目がけて空を切り裂いていく。


 そのまま射ぬけるか! と思ったすんぜん、レイスが低く唸ると、矢は見えない力に弾かれてしまった。


「にゃ! なんで当たらないのにゃ!」

「レイスの念波だ。やばい! もう一発でかいのがくる、みんな散れ!」


 大気の揺れを感じ、俺は慌ててフェルメールを抱え横に飛びのいた。

 その直後、レイスが唸り声をあげ衝撃が通りぬけていく。


「ふにゃっ!」

「うわあ!」


見ると俺たちの立っていた地面が無残に削られている。しかし、どうやらみんなも無事に避けたようだ。


「グ、グラム様、ありがとうございます」


 俺に抱えられたフェルメールが、こらを見上げ礼を言う。


「ガラド、フェルメールを頼む」

「ああ、まかせろ」


 フェルメールの前に立ちヒーターシールドを構えるガラド。まったく頼もしくなったもんだぜ。さて懸念はなくなったしそろそろ止めといきますか。


「 ベル、シャルル。俺がもう一度念波を撃たせるから隙をついてくれ!」

「にゃー!」

「まかせろ!」


 言葉足らずな作戦で理解してくれたふたりが、射線を通すため左右に広がる。

 その動きを受けもう一度姿を隠そうとするレイス。


「させるかあ!」


 俺は剣を薙ぎ『風斬り(かざきり)』を放った。


 見えない斬撃がレイス目掛けて飛んでいく。

 レイスはそれを迎え撃たんと、三度不快な唸り声をあげた。

 風斬り(カザキリ)の斬撃がと念波の衝撃がぶつかり大気を震わせる。

 その直後――ベルの石の弾丸(ストーンブレット)とシャルルの光の矢が、無防備なレイスを貫いた。


「ふう、今度こそやったかにゃ?」


 穿たれた穴を中心に、レイスの体にゆっくりとヒビが広がっていく。

 そしてヒビは全身に広がり、レイスは乾いた音を立て粉々に砕け散っていった。


「ふっ。我らの連携の勝利だな」

「にゃー!」


 ベルに飛びつき喜びを表すシャルル。ベルも満更でもない表情だ。

 さて、みんな無事なようだし先に進むか。そう思い足を踏みだそうとしたとき、アルが驚愕の表情を浮かべ固まっていることに気がついた。


「グラム、まだ大量にいるぞ!」


 見てみると広間のあちこちで空間が揺らめいている。その数ゆうに20は超えている……。


「ベル、迷宮創造(ダンジョンメーカー)は使えるか!?」

「通路の支配権なら持っているぞ!」


 さすがにこんな広間で、大量の見えない敵相手に戦うのは分が悪すぎる。って、言っているうちにレイスのやつ向かって来やがった!


「みんな通路にさがれ!」


 急いで通路に戻りベルに指を差しだす。


迷宮創造(ダンジョンメーカー)!』


 広間の入り口に見るまに重厚な石の扉ができていく。


「ふう。ひとまずこれで――」

「グラムだめにゃ! 抜けてきたのにゃ!」


 石の扉をすり抜けた3体のレイスが、口を開き唸り声をあげている。

 ――まずい!


大地の尖槍(アーススパイク)!』


 その声とともに地面から円錐形の岩が飛びだし、レイスたちを貫いた。俺の指を咥えたまま、ベルが魔法を唱えてくれたのだ。

 俺は危機を回避したことに安堵すると同時に、無防備にやられたレイスを見てひらめく。そうか、扉が視界を遮断しているから、すり抜けて来たレイスにしたら不意打ちになるのか。


「みんなこのままここで迎え撃つぞ」


 アンデッドだけにあまり頭が良くないのか、そのあともレイスはところてんの様ににゅるっと出てきては、俺たちに斬りきざまれていった。


「ふにゃあ、しばらくレイスは見たくないにゃ」

「まったくだな……」


 シャルルとアルがうんざりといった様子で呟いた。骸骨なんて元々見ていて気持ちのいいものでもないうえに、あんなにわらわらと出てきたらな。


「でも、皆様無事で本当に良かったですわ」


 フェルメールが両手を合わせ気色を浮かべたそのとき、横の壁からレイスが体を半分出し呪いの煙を吹きだした。


「フェルメール!」


 俺は魂力全開でフェルメールに飛びついた。


「ぐあぁあああ!」


 フェルメールに覆いかぶさった俺は呪いの煙の直撃を受け、全身にただれるような痛みが走った。


石の弾丸(ストーンブレット)!』


「グ、グラム! 大丈夫か!」


 慌ててベルが駆けよってくる。


「そ、それより、レイスを……」

「もうやっつけたわ! それよりお前大丈夫なのか? 服を脱げ!」


 俺がくらってしまったのは、体を徐々に焼かれていくレイスの呪いのブレス。少し冷やした程度では焼け石に水だ。

 ベルもそれをわかっているのだろうが、必死の形相で俺の服を脱がしていく。

 気がつけばみんなが俺を取りかこむ様に立っていた。

 みんなの前で服を脱がすなんて大胆な奴だなベルは。

 こんな非常時でもバカなことを考えてしまえるなんて俺は本当に――あれ? 痛くないぞ?


「なんともない!?」


 ベルが俺の裸体を凝視しながら唖然としている。


「な、なんで無傷なのだ?」


 さらにペタペタと体に触れ念入りに確認するベル。

 いや、ほんとなんで無事だったんだ? ブレスを浴びた瞬間は激痛が走ったんだが。そう言えばその直後、胸のほうから何か暖かいものが流れこんできたような……。


「良かった……。本当に良かった……」


 一通り俺の体を確認したベルは、安堵の涙を流し抱きついてきた。


「ずるいにゃ! シャルルも抱きつくにゃ!」


 どさくさとばかりにベルごと抱きついてくるシャルル。その横でガラドが「さすがグラムだな」と嬉しそうに呟いている。


「グラム様、どこかおかしなところはありませんか?」


 フェルメールが心配そうに問いかける。


「ああ。なんでかはわからないけど、どこも悪くないみたいだ。フェルメールこそ大丈夫か?」

「はい。グラム様が庇ってくださったおかげでこのとおりです」


 そう言うとフェルメールはその場でくるりと回って見せた。こんなオチャメな一面もあるんだな。

 しかし、よくわからないけど本当に無事で良かった。俺はみんなの笑顔を見て改めてそう思った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ