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念願の冒険者ギルド

「はい、こちらがギルドカードです。再発行には500ゴルドが必要ですので、なくさないよう気をつけてくださいね」


 お団子髪の受付のお姉さんから、念願のギルドカードを受けとる。


 免許証よりも2回りくらい大きくて材質不明のカードに、名前や生年月日、発行日などが魔法によって掘られている。

 本人認証の機能をつけるために、血を一滴垂らしたんだけど、遺伝子解析的な魔法でもあるんだろうか。


「見よグラム! このひときわ光輝いて見える我のカードを!」

「みんなEランクなんだから一緒だよ! って、静かにしろよ、笑われてるじゃねーか」


 受付のお姉さんたちが、これは微笑ましいとベルを見ている。

 最近ローゼンで奴隷狩りの目撃情報が相次いでいるから気をつけてねと、隣のカウンターのお姉さんにまで心配される始末。

 完全に子供扱いされている……、ってまあ子供なんだけど。


 しかし一か八か試してみたけど、ベルもちゃんとギルドカードを作れてよかった。


 血を垂らした瞬間、何か起きないかどきどきしたよ。


「なあなあ、さっそく依頼を受けていこうよ」

「俺、討伐依頼がやりたいぞ」


 エレインとガラドが目を輝かせる。


「討伐ってお前なんの武器も持ってないだろ。ってか、魔物と戦えるのかよ?」

「じゃあ、グラムがやっつけてるとこ見せてくれよ」


 まあそれくらいならいいけど、ただ俺にはちょっとした作戦があるのである。


「その前に採取の依頼でも受けて、装備を揃えるのはどうだ?」

「私それがいい! 頑張って集めて剣を買いたい!」


 服を買ったとき以上に前のめりなエレイン。

 最近ぐんと女の子っぽくなってきたと思ったけど、剣に目がないのは相変わらずらしい。


「おいおい、ガキが採取で剣を買うって、料理包丁でも買うつもりかぁ」

「なんだとお!」


 依頼ボードを物色していた、スキンヘッドの壮年冒険者の冷やかしに、お約束のような反応をするガラド。


「坊ちゃま、笑っていないでとめてください」


 そうそう冒険者ギルドと言えばこれだよ、とかひとり喜んでいたら、エルネに呆れ顔で注意されてしまった。


「まあ落ちつけってガラド。こんなとこで()()()()()()()()()()、依頼でもこなそーぜ」


 わざわざ視線を合わせ当てつけてそう言うと、スキンヘッドの男は舌打ちを1つして去っていった。


「坊ちゃま、もっとスマートな対応ができないのですか?」

「それは違うよエルネ。こう返すのがお約束ってやつなんだ」


 訳もわからぬと言ったようすでため息をつくエルネ。


「ふふふ、では見返してやろうではないか? なあ?」


 まるで、悪役のような笑みを見せるベル。

 どうやら俺が採取の依頼と言った意味を、理解しているようである。


 それからしばらくして、採取依頼を受けた俺たちはサイディアリィルの丘近くにある林に来ていた。


「なあグラム、解熱草と薬草それぞれ5本で1束、100ゴルドと200ゴルドだぞ。こんなんでほんとに剣を買えるのか?」


 言われるままについてきたものの、計算ができるエレインが不安そうに聞いてきた。


「まあ、見てろって」

「そうそう、我とグラムに任せておけばいいのだ」


 そう言って突然ベルに向けて指を差しだす俺と、それを当たり前のように咥えるベル。


「な、なにしてんだよ!」


 そんな俺たちの寄行を見て、非難の声をあげるエレイン。

 まあ普通は何ふざけてんだよって思うわな。


「エレイン、あれは違うのです。ほら、以前ダンジョンで見せた」


 こっちへ駆けよろうとしたエレインを引きとめるエルネ。

 ベルは周りの安全を確認すると、すかさず迷宮創造(ダンジョンメーカー)を発動させた。


 辺りが微かな振動に包まれ、少しずつ地面が沈んでいく。

 そして20センチほど下がったかと思ったら、地面はまた元の位置へと浮上していった。

 もちろんただ上下させたわけではない。


 その証拠に辺り一体の草という草は、すべて不自然になくなっている。


「この依頼の草だけ識別できるか?」


 ギルドで見せてもらった、解熱草と薬草の絵を複写したものをベルに見せる。


「ああ、我のダンジョンに取りこんだものは、すべて見えているも同然だ」

「なら、他の草はすべて元の位置に。解熱草と薬草も1割ほど元に戻して、あとは回収できるか?」

「ふっ、造作もない」


 ベルが返事をすると、地面から草がにょきにょきと生えていき、しばらくすると大量の解熱草と薬草が、ぺっと地面から吐きだされ……、


「「えええええ!」」


 辺りにエレインとガラドの驚きの声が響きわたった。


 そして……。


「ええ……、解熱草が51束で5100ゴルド、薬草が32束で6400ゴルド……。えっと、こ、こんなに沢山、どうやって集めたんですかあ!?」


 戦利品を持って帰ったところ、今度はギルドに受付のお姉さんの声が響きわたった。

 カウンターに積まれた大量の草を見て、周りもざわめきたっている。

 いつのまにギルドに戻ってたのやら、あのスキンヘッドの冒険者も、アゴが外れんばかりに驚いている。


「まあそれは企業秘密ってことで。ところで、今回の依頼ポイントってどうなるの? みんなで分配したいんだけど」


 依頼ポイントが一定値たまるとギルドランクが昇格するシステムなんだけど、ギルドランクによって受注可能な依頼が増えたり、特別な施設に入れてもらえたり、ある店では指定のギルドランクにだけ売ってもらえる商品があったりと、ギルドランクを上げておくことは何かとお得がつきまとうのだ。

 そんなことで、ベルとエルネも含めみんなで冒険者ギルドに登録しておいたのである。


「ポイントが分割されますが、共同受注をしたってことで処理できますので可能ですよ。それでよろしければ、皆様のギルドカードを提示していただけますか?」


 それは良かったと、自分のカードを手渡すみんな。

 受付のお姉さんはそれらを受けとると、魔方陣の上にカードを置き、ぶつぶつとなにか唱えだした。


「はい、ポイント付与完了です。それと、こちらが依頼達成の報酬です」


 カードが光ったかと思ったら、もう終わったみたいだ。

 この手軽さは、まるで電子マネーのチャージだな。

 そんなことを考えながら、ゴルド袋の中身を確認する俺。


「あれ? 500ゴルド多いよ?」

「沢山採ってきてくれたお礼と、初めての依頼達成のサービスです。みんなには内緒ね」


 受付のお姉さんは小声でそう言うと、素敵な笑顔で目配せしてみせた。


「ありがとう、お姉さん」


 俺も負けじと素敵な笑顔を返し、俺たちは冒険者ギルドを後にした。


「さて、剣が欲しいんだったよな? このまま武器屋でも覗いていくか?」


 みんなに報酬を分配しながら、エレインに確認をする。

 ちなみに1万2000ゴルドになったので、ひとり2400ゴルドずつだ。

 参考までに、串肉1本10ゴルド、海猫の翼亭1泊350ゴルドである。


「ううん、やっぱりやめとくよ」

「いいのか?」

「うん。初めての自分の剣は、お父さんが作ったの持ちたいなって思って」


 なんともいい娘である。

 ルドルフさんもきっと喜ぶだろう。


「みんなは何か欲しいのはないのか? せっかくローゼンまで来たんだし、何かあるなら今のうちだぞ」


 みんなに確認してみると


「坊ちゃま。これは坊ちゃまの成されることに、役立てていただけますか?」


 エルネはそう言って、受けとったばかりの報酬を差しだしてきた。


「いや、これはエルネの取り分だから、エルネが自分のために使ってくれ」


 気持ちはありがたいけど、これを受けとると今後もずっとそうなってしまうだろう。


「私のためと言うことでしたら、ぜひ受けとってください。先ほどの依頼も坊ちゃまとベルが採取したのですから」

「確かに採取できたのは俺とベルの力だけど、そのあと束にまとめたのも、ギルドまで運んだのもみんなの力だ。だからこれはエルネの本当に欲しいもののために使ってくれ」

「ですが坊ちゃまは私のために……。いえ、わかりました。ありがたく頂戴いたします」


 エルネはしぶしぶながらと、差しだしたお金を引っこめた。

 子供の頃にできなかったこととかに使ってくれたら、きっとエルネのお母さんのアルネラさんも喜ぶと思うんだけど……。

 今のエルネには、少し難しい相談なのかも知れないな。


「グラム、我は母君に何か買って帰りたいのだが、何がいいだろうか?」


 エルネが引きさがったのを見て、今度はベルが声をかけてきた。

 母さんのことだからベルが買って帰ったらなんでも喜ぶと思うけど、どうせなら少しでも喜ぶものをあげたいんだろうな。


「そう言えば、花壇が1つ空いていて何を植えようかって迷ってたぞ」

「そうか! なら、花の種でも買って帰れば、喜んでくれるかの?」

「ああ、ベルからもらった種なら、母さんきっと毎日世話するのが楽しみになるはずさ」

「そうかそうか、何を買って帰ろうかのお」


 実に楽しそうな様子のベル。

 俺も父さんにお酒でも買って帰ってあげようかな。


「そういうことなら、私もついていっていいですかベル? 私も奥様にはお世話になっていますので」

「なら私もついて行こうかな。あとでエルネさんと一緒に服屋さんも覗きたいし」

「ふたりともついてきてくれるのか! ではせっかくだから、あとで一緒にお茶でもするとしよう」


 どうやら突発的な女子会が始まることになったらしく、女子専用と言わんばかりの空気が漂っている。


「俺たちはどうするガラド?」


 さすがにあの中に入る勇気はない俺。

 ――ん? なんか様子が変だな?


「おい、ガラド聞いてるのか?」

「あのよおグラム、欲しいものがあるんだけど、ちょっと付きあってくれないか?」


 そんなこんなで女子組と男子組に別れ、俺とガラドは防具屋さんに来ていた。


 思い悩んでいたから、てっきりエレインにプレゼントでも買うのかと思ったんだけど、防具屋か。


「で、ガラド。何を買うつもりなんだ?」

「実は盾が欲しくってさ」

「へぇ、お前は大剣でも振りまわしたいタイプだと思っていたけど」


 体格もいいし間違いなく似合うと思うけどな。


「エレインの傷……。あいつ何も言わないけどほんとはすごく気にしてるんだ」


 なるほど、そのことを気にしていたのか。

 そして、ぶっきらぼうに見えてしっかり見ているんだな。


「今日は少しましみたいだけど、それでも周りの目を気にしてるみたいだ。あれ、俺のせいだろ」

「エレインはお前を助けたかったんだか――」

「わかってる! わかってるけど……、もうごめんなんだ」

「ガラド……」

「あいつ剣士になりたいって。グラムに教わってるしセンスもいいし、あいつぜったい剣士になる。で、あんな性格だから、きっとガンガン前にでて……。だから俺はあいつより前にでて、あいつを守ってやるんだ!」


 ふふ、かっこいいじゃないかガラド。

 幼馴染みであり兄妹のように育ってきた、エレインとガラド。

 ガラドはそんなエレインを傷つけてしまったことが、ずっと許せなかったんだな。

 そう言えば、俺に剣を教えてほしいって言った来たのはガラドからだ。

 で、こいつ、たぶん自分じゃまだきづいていないけど、きっとエレインに……。


「よし、わかったガラド! そう言うことならいい盾買って帰ろうぜ」

「お、おお!」


 そんなオレたちの話を聞いていた髭面の店主が、鼻をすすりながら格安で盾を売ってくれた。

 後に『銅牆鉄壁(どうしょうてっぺき)のガラド』――何者にも壊すことのできない――と呼ばれる男が、初めて盾を買った店と大繁盛するのはずっと先の話である。

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