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迷宮創造《ダンジョンメーカー》の応用 その2

「ようしやるぞ! 我はこんなただの箱で満足する程度の存在では、断じてないのだ!」


 俺ひとり盛りあがっていると思いきや、どうやらベルもやる気に満ち満ちているようだ。


「そうですね。住居なのであれば、もう少し華やかさが欲しいところですね」

「ふっ、わかっているではないかエルネ」


 何、その謎の上から感。

 お前「我は大工ではないぞ!」とか言ってたじゃねーか。


 まあでも、昨日も強欲のダンジョンに攻めこまれているとき、無駄にレリーフなんか作っていたもんな。

 ベルにはベルなりの拘りがあるんだろうきっと。


「じゃあベル、まずは外観をもっと家っぽくするか」

「ならば、まずはこうだな!」


 ベルが手を振りかざすと、素っ気ない土の箱が見るまに、レンガ作りの倉庫のような姿に変わっていく。

 焼く行程はどうしてるんだとおもったけど、確かNASAが火星移住計画の一環で土を高圧縮して、鉄筋コンクリートよりも固いレンガを作っていたな。

 なんでベルがそんなことを知っているのか不思議だけど、ダンジョンの本能的なものだろうか?


「すごいですベル。じゃあ次は屋根と煙突を作ってみたらどうでしょうか?」

「造作もない。我にまかせておけ」


 すっかりノリノリのエルネとベル。

 物作りってのは男女問わず楽しいものだから仕方ない話だ。


 こんな調子で3人であれやこれやと盛りあがっているうちに、


「これはまた、想像以上のできだな」

「ええ。素晴らしいものができましたね……」

「ふっ、これぞ我らの結束力の賜物だ」


 目の前には三角屋根から煙突が伸びた、ウッドデッキ付きレンガ造りの家が建っていた。

 いや、家ではなかったな。

 これはドアという入り口がついた、1部屋タイプの小型ダンジョンである。


 そして、こだわったのは外側だけじゃない。

 簡素ではあるけど、実は内装まで仕上げているのだ。


 自然な風合いを残したデザインが特徴の机と椅子とベッドは、もともと生えていた雑木を迷宮創造(ダンジョンメーカー)で加工して作った逸品だ。

「これは入り口じゃない」とベルがブツブツ言いながら作った窓には、ガラスは入っていないものの木製の窓ふたが付いており、自由に開閉が可能になっている。

 更には暖炉にキッチン、配水管まで完備してある優良物件。

 すぐにでも住める1DK(ダンジョンキッチン付き)なのである。


「ダンジョンだと思えば、色々作れるものですね」

「しっかりとルールは守らないといけないみたいだけどな」


 試しに、この地上は1つのダンジョンだとベルに思いこんでもらって、外で机を作ろうとしたけど迷宮創造(ダンジョンメーカー)は発動しなかった。

 なんでも思い込みさえすれば作れるって訳じゃなく、あくまでダンジョンの定義に当てはまるものに限るってわけだ。


「しかし、よくこんな方法を思いついたのお。まさか人間に力の使い方を教えてもらうとは、夢にも思わなかったぞ」

「ほんとに、坊ちゃまの発想には驚かされるばかりです」


 美女と美少女に誉めてもらうとはなんとも心地よい物で、もっと浸っていたいんだけど、実は俺の実験はここからが本番なのである。


「ふたりとも、誉めてくれるのは嬉しいんだけど、これだけだとまだ美味しいお菓子は量産できないぞ」

「なぬ! 菓子をいっぱい作るために家を作ったのではなかったのか!?」

「そんなわけあるか!」


 もしかして迷宮創造(ダンジョンメーカー)の応用について色々と思いつかなかったのは、単にベルが残念なだけだったのではないだろうか……。

 なんて考えていたら、エルネがはっと何かを思い出したように手を叩いた。


「どうしたエルネ?」

「お菓子の量産のためと言うのはもしかしますと、ルドルフさんにお願いしようとしていた件ではないでしょうか?」


 ここまでの流れで察するとは、さすがエルネだな。


「ああ。自動製粉機って言って、小麦を効率良く綺麗に粉にする機械なんだけど、これをベルに作ってもらえないかと思ってさ。小麦粉が手に入れば、もっと色んな種類のお菓子が作れるから」

「色んな種類とな! よし、すぐ作るぞ、そのじどーなんとかを!」

「自動製粉機な。実は設計図があるんだけど……。ほら、こんな機械なんだ」


 俺は持ってきていた設計図を広げ、ベルに見せてみた。


「な、なんだこの、魔方陣をいくつも組み合わせたような、訳のわからん図は! それに、1、2、3、4……。いったい何枚あるのだ!?」

「数が多いのは、全体図と各部品ごとの拡大図があるからだよ。この全体図の通りに作れたらそれでいいから心配すんな。どうだ、できそうか?」


 そう言われ、改めて全体図を眺めるベル。

 その目付きは真剣そのものである。

 と思いきや……。

 なんだ? なんかぷるぷるしてきたぞ?


「できるわけあるかー! なんだこれは、我への嫌がらせか!?」


 思わず設計図を放りなげるベル。

 駄々をこねる子供みたいで少し可愛らしい。


「確かにちょっと複雑だけど、あんな精巧なレリーフを彫ってたんだから、できないことはないだろ?」


 そんな駄々っ子をなだめてみるものの


「ちょっとではない『かなり』複雑なのだ! それにあのレリーフは、我が作りたいままに作っただけだ。こんな初めて見る訳のわからんもの、いくら見よう見まねでも、ややこしすぎて作れるわけあるか!」


 どうやら本当にできないらしい。

 でもベルの言い分も確かにそうか。

 自分が知っているものやイメージして作るものなら、緻密な細工も思いのままだろうけど、そもそも何かもわからないものなんだから難易度は跳ねあがるよな。


「うーん、でも困ったなー。となるとやはりルドルフさんに相談するしか……」

「あの、坊ちゃま。各部品をベルに作ってもらって、設計図を元にルドルフさんに組みあげてもらうのはいかがでしょうか?」

「それだ! ベル、こっちならどうだ? ほら、この歯車とかシャフトとか、部品単位ならできるんじゃないか?」


 ベルが放りなげた設計図を拾い集め、色々な部品を見せていく。


「ふむ、その程度なら問題なさそうだのお」

「おお、さすがベルだな! エルネもありがと。これで小麦粉の安定生産の目処がたちそうだよ」


 いつものように胸を張ってふふんと喜ぶベルと、くすりと微笑むエルネ。


「お役にたてて良かったです。あともうひとつ……。昨日色々とあってすっかり忘れていたのですが、実は報告したいことがありまして」

「確かに色々あったもんな。で、報告ってなんだろ、いいことかな?」


 色々の原因をちらりと見てみると、まだ胸を張り嬉しそうにしている。


「はい。坊ちゃまにも私にもベルにも、とーってもいいことです。実は昨日、坊ちゃまに頼まれていたサトウキビ、そのものかはわかりませんが似たものを発見しました」

「え、あったのかサトウキビ!? よし、小麦粉と砂糖が揃ったらなんだって作れるぞ」


 ってことは、また設計図を書かないといけないぞ!

 サトウキビのエキスを抽出するための圧搾機に、煮詰める大型のボイラー、糖液の攪拌機(かくはんき)に、遠心分離機もいるか……。

 これはしばらく大忙しだな。

 なんてテンション上げまくりで妄想していたら


「さ、砂糖とな! 噂に聞いたことはあるが、あ、あの砂糖を食べられるのか!?」


 ベルが興奮ぎみに俺の服を掴んできた。

 それも無理はない、この世界じゃ王族や有力貴族しかお目にもかかることもできない、超レア食材なんだからな。

 今から、みんながどんな反応をするか想像すると……。

 うおお! これはたぎってくるぞ!


「ああ、もし俺の思った通りのものなら、いくらでも食べさせてやるさ。それだけじゃない。プリンももっと美味しく作れるし、他にも甘くて頬っぺたが落ちそうなお菓子をたっぷりとな!」

「え! あのプリンがもっと美味しくなるんですか!?」

「そ、そうなのかグラム!?」


 目をキラキラ輝かせているエルネとベル。

 うんうん、ふたりとも実にいい反応だ。


「エルネ、そこはここから遠いのか?」

「ヘルマとプルスに乗っていけば、1時間とかからない場所です」


「ならまだ時間は平気だな。エルネ、ヘルマを呼んで案内してくれ。ベルは俺の後ろに。さあ、あまーい砂糖が待っているぞ! 」


 俺は意気揚々と、近くの木に繋いでいたプルスにまたがった。


「あいわかった!」

「はい!」


 ――夏の夜の夢(フェイズコミック)』!――


 俺が乗るプルスにベルが飛びったのを確認すると、エルネはもう待てじとヘルマを駆けさせた。


 しかしこの時の俺は、あまりの嬉しさにとても大切なことを忘れていた。

 つい先日、自らみんなに語っていたことなのに……。


 それは、貴重な小麦粉と砂糖をどう流通させるのか、ということ。


 まさかそのことが元で、俺が反開戦派の盟主補佐になろうとは……。


 しかしその話は、まだまだ先のことであった。

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