異世界人とハーフエルフとダンジョン娘のよくある日常
なんやかんやとありまして、ダンジョン少女は家に住むことになりました。
昨日、ダンジョンを出て少し歩いたところで、俺たちを助けようと慌ててやってきた父さんたちと遭遇。
ガラドとエレインは、親からたいそう怒られていたけど、最後は仲良く帰っていった。
そんなふたりをなんとなしに見おくるダンジョン少女を見て、父さんが俺に当たり前の疑問を投げかけてきた。
「この子はどこの子なんだ?」と。
最初はなんと言ったものかと少し悩んだけど、俺は正直に話すことにした。
これ以上、父さんに隠し事をしたくなかったって理由と、危険を伴う可能性もあるのでちゃんと説明すべきだと判断したのだ。
父さんもダンジョンと人間の合いの子なんて初めて見るようで最初は戸惑っていたけど、ガラドとエレインを守ってくれたことと俺への信頼から、ダンジョン少女を家に住まわすことを許してくれた。
と言うか、母さんと一緒に娘が増えた――ひとり目はエルネのこと――と喜んでさえいる。
昨日の夜なんて母さんに無理やりお風呂に連れていかれ、その後、髪の手入れまでされていて、なんとも言えない顔をしているダンジョン少女が非常に面白かった。
「おい、何をニヤけておるのだ。しっかり考えんか」
そんなダンジョン少女が、俺の作ったプリンを美味しそうに頬張りながら文句を言ってきた。
母さんから話を聞いたらしく、自分にも食べさせろとせがんできたので、今朝作ってやったのだ。
そしてダンジョン少女の隣で、エルネも幸せそうに頬張っている。
父さんは昨日のダンジョンのこともあり見回り強化中で、母さんはダンジョン少女の服を買いにいってくると、嬉しそうに今朝一番で出かけていった。
使用人のみんなはお仕事中なので、今リビングにいるのは俺たちだけである。
そんな俺たちが、今何をしているかと言うと、ダンジョン少女の名前を考えているところである。
ずっとダンジョン少女やお前って呼ぶのもなんだしね。
と言うか名前を聞いてみたら、呼ぶものがいないからない、とか言っててビックリした。
なんともないように言ってたけど、いったいこいつはどんな人生を送っていたのか。
そんなところにエルネも共感できるのか、エルネにしては珍しく、気軽に話しているように見える。
で、肝心の名前だったな。
「自分でつけたい名前とかないのか?」
「そう言われても人間の名前など我はわからん。グラムが考えたもので良いぞ」
うーん、迷宮のメイちゃんとかひねりもないしなあ。
かといってダンジョンから名前を作ってもダン子とかだし、ネネ……、は人妻だし。
「そう言えばお前、暴食のダンジョンって言ってたよな?」
「ああ、そうだが。暴食を名前にするのか?」
「さすがにそれは可哀想ですよ」
と、プリンを暴食しているエルネ。
言ったらぜったい怒られるから言わないけど。
「いやそうじゃないんだけど、9つあるって言ってたよな。他のってもしかして、『強欲』『憤怒』『傲慢』『欺瞞』『嫉妬』『恐怖』『邪淫』『怠惰』だったりするのか?」
「ほう。確かにそうだがよく知っておったな」
「いや俺の住んでた世界にも似たような話があってな、9つの大罪って言うんだけど」
ちなみにダンジョン少女にも、俺がどういった存在かは説明している。
普通の子供じゃないってことは、すでに気づかれていたしな。
その上で、他のみんなには秘密にしておくようお願いしておいたのである。
この世界のために一緒に戦ってくれるかどうかは、まだよくわからない。
「はぁ? この我が罪とな!? だいたい我らは、人間の根本的な欲求に根付いているものだ! ほれ、先ほどからエルネも、プリンを暴食しているではないか!」
おい! 何、いらないこと言ってるんだよ!
「――ッ! ぼ、坊ちゃま……、私、暴食していますでしょうか……?」
ほら、こっちに飛び火したじゃねーか!
「えーと、ぜんぜんそんなことないさエルネ。ほら、俺も自分で作ったのを、いっぱい食べてもらえて嬉しいしさ」
「や、やっぱり、いっぱい食べすぎていましたか……」
さっきまでの幸せそうな顔はどこへやら、しゅんと落ちこむエルネ。
すまない。
女心がわからないと定評がある俺には、これでいっぱいいっぱいなのだ。
「と、ところでさ、お前の名前だけど『ベル』ってのはどうだ?」
そんなものだから、慌てて話題を変えてみる俺。
「ベル? 響きは悪くないのお」
「俺の世界では暴食を司る存在のベルゼブブって、すごい力を持ったやつがいてな。そこから名前をとってベル。どうだ?」
「ほう、そうかそうか。それは我にぴったりの名前だのお。『ベル』うむ、気に入ったぞ!」
「そうだろ、いい名前だろ! エルネもそう思うよな?」
「ええ。とても素敵な名前だと思いますよ。ベル、良かったですね」
力を持ったものかーと喜ぶベルを、優しい笑顔で見つめるエルネ。
ふたりとも機嫌がなおったみたいで何よりである。
ベルゼブブは暴食を司る『悪魔』なんだけど、それは黙っておいたほうがいいだろう。
またうるさそうだしな。
「ところでベル。お前の能力について、もう少し詳しく教えてくれないか?」
「ほう、我に興味があるのか。よかろう、我の偉大さを改めて知るが良い」
ベルは頬っぺにプリンをつけたまま、偉そうに語りだした。
そして語ってくれた内容をまとめるとこうだ。
1. ダンジョンは己が支配する領域を、魂力を使ってその地形や地質を元に、形を自由に組みかえ生成することができる
2. 但し生成できるのは生物や食物以外の無機物に限り、またダンジョンの定義に基づくものとする
3.定義とは、外部から全容がわからず、入り口が1つあり、全ての部屋全ての通路に立ち入る手段があるものとする
4.ダンジョンの支配権を放棄すると、その形を維持したままただの洞窟となる
5.ダンジョンコアが破壊されるとダンジョンは支配領域と共に消滅する
6.ダンジョンは他のダンジョンコアを取りこむことによって、更に大きな力を手にいれることができる
他に細かいことも色々あるけど、重要なのはこんなところだろう。
あと個人的なことだけど、どうやらベルは過去に何かあって、ダンジョンコアが不完全な状態になってしまっているらしい。
だから今はこんなちんちくりんな姿だけど、昨日少しだけ見た大人の姿が本来のものとのことだ。
何かあっての部分が少し気になるのだけど、敢えてベルがさらっと流した気がしたので、深く追求はしなかった。
いつかその内に教えてくれた時には、何か力になれたらいいんだけど。
「しかしすごい能力なんだなベル。まるで、異世界スローライフのチート主人公じゃないか」
「むむ? ちーとしゅじんこう?」
「ああ、すまん。俺の世界にあった物語のことだ。ところでベル、そんな素晴らしいお前に、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「お願いとな? 我は面倒ごとは好きではないぞ」
「面倒なんてとんでもない。なんの危険もないし、どっちかと言うと、楽しいことだと思うぞ」
昨日あんな面倒ごとがあったばかりだから、その気持ちはわからないでもない。
しかし、これは恐らく俺の野望に、大いに役に立つはずなのだ。
「そのあやしい笑顔が信用ならん」
「坊ちゃまはたまに、何かよからぬことを企んでいるように笑いますよね」
「……そんなことを言っていいのか? せっかく手伝ってくれたら、魂力を吸わせてやろうと思ったのに」
確かに以前アリアンナにも、気持ち悪いって言われたことがあったけど、どんな顔なんだ……。
と思いながらも気にしていないふりをする俺の、なんたる小物感。
「それはまことか!?」
「ああ、しかもそれだけじゃない。もしその実験がうまくいったら、美味しいお菓子を、もっともっといっぱい作ってあげられるかも知れないぞ」
「今すぐ始めましょう!」
俺の言葉に、勢いよく席を立つエルネ。
そのあまりの食いつきっぷりに、ベルがびくりと反応したほどである。
と言うかこの反応、もしかして、エルフも9つ種類があったりするんじゃないだろうな。
だとしたら、エルネは間違いなく暴食!
いや邪淫も捨てがたいかも知れない……。
はっ! これがよからぬことを考えている顔ってやつか!?
「さあ坊ちゃま、ベル、早く立ってください!」
「ふふ、エルネ。この我を見くびってもらっては困るぞ。準備などすでにできているわ!」
また気持ち悪いと言われたらかなわないと、はっと顔をあげる俺。
その先で、いつの間に立っていたのか、ベルが両手を腰にあてえへんと胸を張っている。
そして顔を見あわせ、頑張るぞい! と気合いを入れるふたり。
仲が良さそうで何よりである。
じゃあふたりも協力してくれるってことだし、ぼちぼち始めるとするかな。
ベルの『迷宮創造』を使った、『異世界産業革命計画』を!
読んでいただきありがとうございます。
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