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シフティエイプとの戦い

 家を飛びだした俺は、身体強化をフル活用し村中を走りまわった。

 すれ違う人たちから目撃情報を聞きながら探しまわったが、有益な情報は何ひとつえられなかった。


 そして考えた。

 最悪は何なのかと。

 最悪はエルネの身の危険。


 そしてこの辺りで危険とは何か。

 そんなもの決まっている、魔物に襲われることだ。


 その可能性が実現しないことを願いながら、魔物の集まる場所をひたすら駆けまわっていくつもりだった。

 そしてふと思いだした。

 今日が満月であり、さらに1年で1番大きく見えるスーパームーンの日であることを。


 父さん母さんから、この日は絶対にナジャモジャの木の丘に近づかないよう注意されている。

 飢えた魔物たちが集まってくるからと。


 しかしエルネはそのことを知らない。

 でも、まさか1年で1番危険な日にそんな場所に行ってしまうなんて偶然はそうそうないだろう。

 なんてエルネの身の安全を祈りつつ駆けつけてみたけど……。


「間にあってよかった」


 どうやら結構ぎりぎりの状況だったみたいだ。

 エルネの無事な姿に取りあえず安堵する。


 しかし気を抜くのはまだ早い。


 固まっていてくれたおかげで『風斬りカザキリ』の一太刀で端から4体やっつけることができたが、敵はまだ2体残っている。

 仲間が攻撃されたのを見て瞬時に飛びのいたので今は離れた場所にいるが、手に持った武器でいつ襲いかかってくるかわからない状況だ。


 ウ、ウギ?

 ギギィ……


 と思ったけど、もう大丈夫か?


 残されたシフティエイプ2体は、俺と距離を開けたまま尻尾をたらし動けないでいる。

 ボス猿を前にしたほかの猿たちは怯えた様子で尻尾をたらすと見たことがあるけど、どうやら力関係を理解したのかすっかり戦意を喪失させてしまったようだ。

 まあ、一瞬で仲間4体の首が飛ぶ光景を目の当たりにしたら無理もないか。


「エルネ、ケガはない?」


 かと言って警戒は解かず、怯えるシフティエイプたちを視界に入れたままに声をかける。

 可哀そうに相当怖い思いをしたのか、エルネの体はいまだ小刻みに震えている。


「立てる?」


 言いながらそっとエルネに手を指しのばそうとした、その時――


 1体のシフティエイプが、突如現れた大きな何かに叩きつぶされた。


 途端、大気を揺らすほどの激しい炸裂音が突きぬけていく。

 その衝撃は凄まじく、大地を爆ぜ散弾銃のごとく礫を飛散させた。


 こ、これは、避ければエルネに!

 俺は慌てて魂力で身を包むと、力いっぱいエルネを抱きしめた。


「――ウッ!」


 あめあられの石の散弾が、容赦なく俺の体を打ちつけていく。


「ぼ、坊ちゃま!」


 俺の体を通り抜けて伝わる尋常じゃない衝撃から、エルネが心配の声をあげる。

 ナジャモジャの大木がどんどん削られていくほどの威力なんだからそれも当然だろう。


「だ、大丈夫だから、動かないで」


 俺の身を案じ抜け出そうとするエルネを安心させるため返事をする。

 しかし大丈夫と言ったものの、1つ1つが骨を軋ませるほどの威力。

 こんなものいつまでも食らっていたら意識を持っていかれるぞ……。


「――そうだっ!」


忍耐(エンデュランス)


 少しでもましになればと唱えてみたそのスキルは、予想外の効果をもたらした。


 もちろん激しい痛苦がなくなったわけじゃない。

 でも、ほんの少しましになった。

 このほんの少しの違いが、痛苦で弱っていく俺の心に安心感を広がらせていったのだ。


「…………ふぅ。何とか、やり過ごせたな」


 ほどなくして礫の飛散が止んだ。


 しかし、身体強化と『忍耐(エンデュランス)』がなかったら動けなくなっていたかもしれないな。

 俺は昨日取得したばかりのスキルに感謝しながら、土煙に覆われた爆心地のほうに目を凝らした。


 少しずつ視界が開けていく。

 するとそこには、他の個体の2倍はあろう巨躯なシフティエイプが、丸太のような巨大棍棒を手に大地を踏みしめていた。


 間違いない。

 群れのボスだ!


 グウァオオオオオオオオ!


 巨躯のシフティエイプが、怒気を露わに咆哮をあげる。

 おおかた、俺たちが無事でいたことに腹をたてているのだろう。


「ひぃっ……!」


 大気の振動を受けエルネが短い悲鳴を上げた。


「エルネ! 木の後ろに隠れていて」

「で、でも坊ちゃまが――」

「いいから早く!」

「わ、わかりました」


 俺の言葉にエルネは渋々ながらに身を隠した。

 一連のことで俺が普通の子供とは違うと、感じ取っているのだろう。


 あとで何と説明したらいいかという問題は残るけど……、


「よし、これで自由に戦えるぞ」


 呟くと、俺は腰の剣帯からショートソードを抜き構えた。

 そして慎重に巨躯のシフティエイプを観察する。


 シフティエイプ。

 人間ほどの大きさだけど、比べ物にならない膂力の持ち主。

 人間から奪った武器を巧みに使いこなし、また、命中率と威力に補正のある『投擲』スキルを使ってくる魔物。

 E級に分類されているけど、それはあくまで通常個体の話。


 こいつのサイズと先ほどの一撃から考えるに、同じ枠に収まるなんて舐めてかかるのは止めておいたほうがいいだろう。


 というか凄まじい跡だな……。

 まるで小さなクレーターじゃないか。

 潰されたであろうシフティエイプは赤黒いシミとしてしか残っていないぞ。


 あんな一撃を食らったらひとたまりもないな。

 でもまあ、デカい図体しているから動きは早くなさそ――ッ!


 ドヒュンッ!


 慌ててバックステップした俺の眼前を、丸太のような棍棒が横薙ぎに通りぬけていく。

 その風圧により、俺は吹き飛ばされるように後方に着地した。


「あっ、ぶなああああ!」


 確かにスピードはそこまでない。

 ないけども、長い腕と大きな武器のせいで間合いがとんでもないことになっているぞ。

 そしてからぶった勢いだけで吹きとばされるこの威力。


 うん、これは無理なやつだ。

 こんなものかい潜って攻撃なんてできるか!


 心の中でひとり愚痴ってみたけど、そんなことかまってくれるはずもなく、巨躯のシフティエイプは力一杯に棍棒を振りおろしてきた。


 いやいや、ほんと無理だろこのリーチの差は……。


「まあ今のままでは、だけどね」


 俺が呟いたほぼ同時、巨大棍棒が力の限り振りおろされた。


 ふたたび辺りに凄まじい衝撃音が響きわたる。


 しかし、先ほどのように礫の散弾が飛散してくることはなかった。


 それもそのはず。

 斜め前方にかわすと同時に、巨躯のシフティエイプの手首を俺が斬ったからだ。


 グゥオオオオォ……!


 巨躯のシフティエイプは低いうめき声を上げながら、手首から大量の血を滴らせている。


 さて俺が何をやったかというと、今までよりも一段階難しい魂力のコントロールをやってみせたのである。


 具体的に言うと、今まで全身にまんべん無く循環させていた魂力をまず目と脳に集中させた。

 そして敵の攻撃を見切るや否や、瞬時に足に集中させ踏みこみそれをかわす。

 更にそのままそれを、腰に、肩に、腕に、手首に、と流れるように移動させ相手を斬り、足に腰にと移動させ着地の衝撃を吸収したのである。


 とまあ言葉にしたら簡単そうだけど……、とんでもなく難しいぞこれ!


 昨日、木の上から見下ろしていたゲイズオウルをやったときみたいに、ただ魂力を足に集中させて飛びついただけのとは難易度が段違いだ。

 おかげで、手を斬り落とすつもりだったのに巨躯のシフティエイプの手首はしっかりと繋がっている。


 グゥオオオオオオオ!


「おー、これは怒っていらっしゃるな……」


 巨躯のシフティエイプは手首から流れる血など構うことなく、ぶんぶんと棍棒を振りまわしている。

 少し威力は落ちているだろうが、攻撃することには問題はないようだ。


 一方俺はと言うと……。


「左足首と、右腕か」


 魂力を一点集中させたことで威力やスピードは段違いに増すけど、その分体への負荷も段違いだ。

 魂力の移動をスムーズに行えなかったせいで、その力から体を守ることができず、あちこちと痛めてしまったようである。


忍耐(エンデュランス)』をオンにしているので多少はなんとかなるけど、この2か所についてはフルで使えるのはあと1、2回というところだろう。


 でも次はうまくやれる。

 次に棍棒で攻撃してきた時に、一気に首でも斬りおとしてやる。


 なんて考えてた時が俺にもありました……。


 しかし、俺の体の事情を知ってか知らずか、巨躯のシフティエイプが取った次の行動は、俺の予想をはるかに超えるものだった。


 シフティエイプの得意とするスキル『投擲』。

 しかしまさかこんなものを投げてくるなんて予想できるか!


 巨躯のシフティエイプが投げてきたもの、それは剣を片手にした子分のシフティエイプ。

 その子分のシフティエイプが、玉砕覚悟の表情をしとんでもないスピードで俺に迫ってくる。


 くっ……。

 嫌らしい笑みを浮かべやがって。


 きっと、俺が右に避けたら右を、左に避けたら左を、こいつを斬って落とそうとしたらこいつごと、その棍棒で俺を叩き潰すつもりだろう。


 となるとここはバックステップで巨躯のシフティエイプの射程外に出つつ、迫りくる子分を斬って落とすか……。


 いや、ダメだ。

 そんなことをしたら次にまともに動けるかわかったものじゃない。

 ならどうする……?


 って俺にできることなんてたいして選択肢もないか。


 俺は覚悟を決めると、足に魂力を集中させおもいきり前方に踏みこんだ。


 巨躯のシフティエイプとの距離は凡そ10メートル。

 子分のシフティエイプと接触するまで3メートル踏みこめたとしても、残り7メートル。

 俺のショートソードの間合いがいいとこ2メートルとして、残り5メートル。


 昨日の5倍である。


 だけどな――


 ――『風斬り(カザキリ)』!――


「俺は成長期なんだよおおおおおお!」


 残った距離などお構いなしに、俺は全力でショートソードを振りぬいた。


 俺のショートソードが子分のシフティエイプをたやすく切断する。

 その奥で巨躯のシフティエイプが大きく棍棒を振りかぶっている。

 そして、巨躯のシフティエイプがニヤリと笑みを見せ、今まさに棍棒を振りおろそうとしたしたその時……。


「坊ちゃまああああああぁぁぁ!」


 エルネの叫びともに、目に見えぬ斬撃が巨躯のシフティエイプの首を斬りおとした。

読んでいただきありがとうございます。


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