それでも僕はやっていない
なんてことがあったわけだけど……。
悠長に思いだしてる場合じゃないな。
とりあえず、この訳のわからん誤解をとかないと。
「ヒュ、ヒュースさん落ちついてよ」
「言われるまでもないさグラム。そう、仕事をするときはいつも冷静でおらんとな……」
なんの仕事だよ!
ダメだ、今は俺が何を言っても耳に入らなさそうだ。
「そ、そうだアンナ! アンナからもヒュースさんに説明してよ。ただ一緒に遊んでいたんだよな、なっ」
「わかった、おにいちゃん。えーっと……。あのね、パパ」
「ん、どうしたアンナ?」
愛娘から声をかけられた途端さっきまでの殺気はどこへやら、これ以上ないってくらいに目尻をさげるヒュースさん。
なんだか釈然としない気持ちもあるけど、うまくいきそうだしよしとしておくか。
「おにいちゃんはあそびだったの」
ちょっ!
何を言っているのですかアリアンナさん⁉︎
その言い回しは完全に火に油でしょ!
「ほう、うちのアンナとは遊びだったと……」
やはり!
「ちがっ! ア、アンナ、『遊んでいた』だよね?」
「あ、そうだった。おにいちゃんにあそんでもらってたの」
「そ、そうそう。ふたりで遊んでたんだよな」
かなり特殊な絵面ではあるけど10歳と7歳の子どもがやっていたことだ。
このまま遊びってことで押しきるぞ。
「そうかそうか、遊んでもらっていたのかアンナ。それはよかったなぁ。で、今日は何をして遊んでたんだい?」
何をって、スキルのこととか魂の欠片のこととか、いろいろ説明できないことばかりなんだけど……。
けど考えている時間もないし、こうなったら話しながら流れでいくか。
うん、俺ならできるはず。
「じ、実はふたりで――」
「グラム。俺は……、アンナに……、聞いているんだ……」
「――ッ!」
はい、一蹴されました!
というかなんだこの圧は!
普通の10歳児なら思わず失禁してしまうぞ。
まずい、事態は何も好転していない。
なんだかとてもまずい気がするぞ……?
「で、アンナ。ふたりで何をして遊んでたのかパパに教えてもらえるかな?」
こうなったらアリアンナにかけるしかない。
頼む!
「えっとねー、おにいちゃんがおしりをたたいてくれっていったの」
「ほう、お尻を……」
おいー!
「アンナさいしょはいやだっていったんだけど、おにいちゃんがどうしてもっていうから、えい! っておもいっきりたたいたの」
「ほう……。嫌がるアンナに無理やり……」
言った!
ああ言ったさ!
「でもね、えい! ってしたらおにいちゃんがすごくよろこんでくれて、もっともっとっていうの。なんだかアンナもいやじゃなくなってきて、とってもうれしかったんだよ」
「ほう、グラムはすごく喜んでいたのか……」
なぜあえてそんな言い回しをチョイスする!
お前ほんとにただの7歳児だよな⁉︎
「あ、でもそれはね、おにいちゃんがためしたいことが……。あっ!」
「どうしたアンナ?」
「ないしょなんだった。ううん、なんでもないよパパ」
「ほう、事前に口止めまで……」
はい、完全に事案です。
魂の欠片あげるからお兄ちゃんといいことしようか、てなもんです。
「でもね、すっごくたのしかったよパパ」
「そうかそうか、それはよかったなアンナ。そうだアンナ、パパはグラムとお話しがあるからちょっとここで待っていてくれるかな?」
「うん、わかったよパパ。はやくしてね」
「ああ、すぐ終わらせるから……」
そう言うとヒュースさんは、ギギギと音がでそうなほどにゆっくりと振りかえり、優しく声をかけてくれました。
とても素敵な笑顔で。
「じゃあグラム……。あっちで逝こうか……」
あっちに行こうかの聞き間違いですよねっ⁉︎
いくら親バカなヒュースさんでも、10歳児に何かするわけはないと思いたいけど、これはかなりまずいかもしれない……。
くっ、こうなれば、ありあまる魂力で感覚をフル強化して思考を加速させるしかない!
何か、何かいい手はないか……。
……。
…………。
………………。
って、まてよ。
よく考えたらなんでここまで必死になる必要があるんだ?
確かに特殊な趣味をもった人たちが喜びそうな状況ではあった。
可愛い自分の娘が、そんな変態たちの毒牙にかかったとなると我を忘れもするだろう。
俺にも妹がいるし気持ちはよくわかる。
だけど今日のことは、まだ年端もいかない子どもたちの話だ。
中身は25歳だろという細かいツッコミは無粋ってものだから受け付けないとして……。
そう考えると別にセーフだよな?
むしろそんな可愛い子供たちの遊ぶ光景を見て、変な想像をするほうが心が穢れていると言えるのではないだろうか。
人は自分を写す鏡だという。
きっとヒュースさんは夜な夜なマリアーニさんとそういうプレイに興じているのだ。
そして恐らくヒュースさんが受けなのだろう。
うん、きっとそうに違いない。
むむむ、まさか変態に変態よばわりされるとは少し腹がたってきたぞ。
いい言い訳も思いついたし、そろそろこの茶番を終わらせてやるか。
「ねー、さっきからヒュースさんなにか怒ってる?」
よし、中身は大人な名探偵もびっくりな、子供らしさを最大限に利用したいい演技だ。
「ほう、俺にそれを聞くとはいい度胸だなグラム」
とても10歳児を相手しているとは思えない凄みを見せているけど、相手は尻を叩かれて喜ぶ変態だ。
怖くないぞ!
「もしかしてゲイズオウルの討伐にアンナを連れてきたことを怒ってる?」
「そんな些細なこたぁどうでもいい。おおかたアンナが勝手について行ったんだろうし、ゲイズオウルに後れを取るお前ではないのはわかっている」
「まあもちろん余裕でやっつけたよ。でも、ちょっとだけ失敗しちゃった」
「失敗? そんなことよりもお前は――」
「ゲイズオウルは5匹いたんだけど、アンナに100数える間に全部やっつけてやるって見栄をきっちゃってさ」
もちろんそんな話は嘘である。
でも本当のことを言うわけにはいかないし、やましいことがなかったのは事実だからよしとしよう。
大事なのはいかにこの場をとりつくろうかだ。
ここはヒュースさんにあまり思考をさせないで、どんどん俺のペースでいくぞ。
「1匹逃げようとしたからそいつに手間取って約束を守れなかったんだ。あーあ、あんなこと言わなかったらお尻を叩かれないですんだのになー。アンナは罰ゲームなんて別にいいって言ったんだけどさ、約束を守れなかったのは確かだし、俺も男だしね」
「へ?」
らしからぬ間抜けな声を上げ、目をくりくりとさせるヒュースさん。
ふっ、勝ったな。
「強くなった気でいたけど俺もまだまだだね。ところでヒュースさんどこいくの?」
「えっ、あ、いや……。そ、そうだぞグラム! 強くなったといえお前はまだまだ経験が浅いんだ。これからも精進しろよ」
ほー、そういう方針でいくのね。
何事もなかったかのようにハハハーと笑っているけど、ごまかそうとしているのは明らかだ。
「ヒュースさん、そのことを怒っていたの?」
「も、もちろんだ! 俺はお前のことを思ってだな」
「でもヒュースさん見てなかったよね?」
「えっ?」
再び間抜けな声を上げるヒュースさん。
「だってヒュースさんが来たのって、俺がアリアンナに罰でお尻を叩かれているときでしょ?」
俺の勝利は確定したけど、なんだか釈然としないので少しイジメてみることにする。
本当の理由は隠しているも、やましい気持ちなんてこれっぽっちもなかったのだ。
これくらいは許されるだろう。
「そ、それはだな……」
俺はその後しばらく、普段は見ることのできないもごもごと口ごもるヒュースさんの姿を堪能し、満足するのであった。
グラム・クロムウェル(10歳)
――所持スキル――
風斬り LV1
空中制御 LV1
忍耐 LV1




