ギー・オーギュストとふたりの従者
「つまり、みんなをパブリックスクールに通わせたくて、嘘の婚約を結んだってことだ。もちろん相手の親にも本人にも了承は得ている」
俺はラピスとラズリに、ルイーズとの婚約について真実を話した。このままギーに伝わって、印象を悪くしてしまうことを危惧したのだ。
「仲間たちのためにということですか?」
ラズリが俺に問いかける。
「俺が一緒に通いたいって気持ちも大きいけどな。とにかく、このことはできれば内緒にしておいて欲しいんだけど」
「……わかったです。ラピスもそれでいいですか?」
「仕方ないですね。その代わり、さっき私たちが言ったことも内緒にしておくですよ」
「ああ、もちろんだ。じゃあこれで仲直りってことで」
俺は左手を差しだし、ラピスとラズリと握手を交わした。
最初に会ったときは何だこいつらって思ったけど、話がわかる奴らみたいで良かった。
「ところでギーさんは、何で坊ちゃまに素っ気ない態度なのでしょうか? 話を戻すようで申し訳ないのですが、どちらかと言うと好意を持っているのですよね?」
エルネが問いかけると、ラピスとラズリはビクリと体を震わせた。
もしかして、まだ怯えているのだろうか?
「ギー様は幼少の頃から、あんたの父親に憧れを抱いていたです。終の大戦やエヴァルト傭兵団の物語を読んでは、興奮して木の枝を振りまわしたりしていたですよ」
「そんなこともあったですねラピス……」
ラピスとラズリが遠い目をしている。
ギーの幼少時代がそんなに可愛らしかったとは、とてもじゃないが想像できないな。
「あの愛想のない男が、そんなふうには見えないがのお」
どうやらベルも同じ意見のようである。
でもそれも仕方がない。だってギーは美形だけど、目つきが鋭くプラチナブロンドのオールバックなんて、迫力のある髪型をしているからな。
「確かにギー様は無愛想で口下手でありますが、とても優しいお方なのです。何も知らないのにバカにするなですよ!」
「す、すまん。我が軽率であった」
ベルはラピスの言葉に素直に頭を下げた。
これだけ慕われているってことは、本当にいい奴なんだろうな。ギーよ、すまん。
「わかればいいのですよ。とにかく、ギー様はあんたの父親に憧れ、そしてあんたにも興味を持っていったのです」
そう言ってラピスは続きを話してくれた。
その話によるとギーはある日、俺が10歳にして魔物を討伐していることを、誰かから聞きつけたらしい。
それ以来、さすがは不可侵の剣士の子だとたいそう興味を持ち、その後も色々と動向を調べていたそうだ。
そして、俺がC級の魔物の討伐に成功したことや、エヴァルトさんやヴァネッサさんと剣の試合をしたとか、フランチャイズビジネスを立ち上げたとか、その他色々とおヒレがついたような話を聞き、すっかり俺のファンになったそうだ。
エヴァルトさんとヴァネッサさんと剣の試合って、ただ稽古をつけてもらっただけなんだが……。
「でもさ、なら何で初対面のときあんなに冷たかったんだ?」
俺たちが道をふさいではいたのは悪かったが、第一声が「邪魔だ」だもんな。
「さっきラピスも言いましたが、ギー様は口下手なのです」
「あんたが前にいるのに気がついて、早歩きして追いついたものの、何と声をかけたものかと緊張したですよ」
まじか! ってかギャップが可愛いな!
わざわざ早歩きしたとか、一気に憎めないキャラになったわ。
「ちなみにお前らが冷たかったのは何でだ?」
「ただムカついていたですよ」
「です!」
何となく気になったから聞いてみたら、なんたる理不尽か。
「正直ラピスとラズリは、あんたのことぜんぜん信用していなかったです。魔物のことだって他のことだって嘘っぱちと思っていたですよ」
確かにラピスの言い分ももっともだ。まさか10歳の子がC級の魔物討伐なんてって疑問に思うのが普通だもんな。
「それに、許嫁がいるのに女の子をはべらかした、いい加減な奴って思っていたですからね。そんな奴をギー様に近づかせてなるものですか! って」
それであんな態度だったって訳か。
で、俺が技能検定で超平凡な記録ばっかりだすもんだから、ギーは落胆し、ラピスとラズリはほれ見たことかとなった訳だな。
「ギーは今どっちなんだ? 俺に失望しているのか?」
「やっぱりあいつは凄かったって、昨夜喜んでいたですよ」
ラピスはやれやれといったふうに、かぶりを振った。
ということは、さっき舌打ちをして帰って行ったのも気恥ずかしさからだろうか。
「ラピス、ラズリ、色々教えてくれてありがとな。お陰ですっきりしたよ」
なかなかに収穫はでかかったな。もっと気難しい奴だと思っていたけど、まさかそんなに可愛らしい奴だとはな。
「待つです」
ひとりうんうんと納得していたら、ラズリが声を掛けてきた。
「ラズリたちも、あんたやあんたの仲間たちのように強くなれるですか?」
俺が顔を向けると、真剣な表情でラズリが問いかけた。
「そうだな。ギーの実力はまだわからないけど、お前たちふたりはかなり素質があるぞ。魂力のコントロールを訓練したら、もっと強くなるんじゃないかな」
動きや度胸はかなりいい。ただ、まだ魂力のコントロールに無駄が多く、感知能力も低いため視覚ばかりに頼って、俺たちの動きについてこれていないのだ。
と言っても、俺の仲間たちは俺とずっと一緒にいることで、魂力の総量も増えているみたいだから、すぐに同じ強さってのも難しいだろうけど。
「だったらラズリたちやギー様に、訓練をつけてくれませんか?」
「ラ、ラズリ!」
突然のラズリの提案に、ラピスが驚いている。
そして俺の隣では、なぜかベルが俺を睨みつけている。
「ラピス、私たちは強くならないといけないです。ギー様もそれを望んでいるのではないですか?」
「……わかりましたです。まだ、このすけこましのことを完全に信用した訳ではないですが、ラピスもギー様にご恩返しがしたいですよ」
顔を見合わせ力強く頷いているふたり。
えっと、これはもう引き受ける流れになっているのか?
ギーと親しくなれるチャンスだから、願ってもないことだけど。
「ベル、エルネ、一応聞いておくがいいよな?」
「仕方なかろう。それに何やら訳ありのようだしな」
「私は坊ちゃまのご判断にお任せします」
他のみんなも反対することはないだろうし、ならいいか。
開戦派の子とは言え、同じアイレンベルク国民だしな。
「そう言うことだそうなんでよろしくな。で、いつからするんだ?」
「もちろん今日です。幸い昨日のごたごたのせいで、今日は授業がないですからね」
「となればラズリ、いったん帰ってギー様に報告ですよ。クロムウェル、昼過ぎにまたここにくるので頼んだですよ」
そう言うと、ラピスとラズリはペコリと頭を下げて去っていった。案外礼儀正しい奴らなんだな。
「さて我らも帰るとするか。エレインとシャルルに報告せんといかんからのお」
「そうですね。婚約者のルイーズにも話しておかないといけませんね」
じとっとした目で俺を睨みつけてくるベルと、いつものように嬉しそうなエルネ。
俺は悪くないだろと思いつつ、無言で帰路についた。
そして昼過ぎ、俺は仲間たちを連れてふたたび修練場に来ていた。
どうやらギーたちはまだ来ていないようである。
「ベル、今のうちに修練場の修復をお願いできるか? お前が壊した壁も含めてな」
「む、いちいち言わんで良いわ!」
なんてニヤニヤしながらベルに指を差しだしたら――
「痛っ! 何すんだよ!?」
ベルの奴が指を噛んできやがった。
「ふっふっふ、色々のお仕置きだ」
「色々って……。やきもち焼くなよ、俺の気持ちはわかっているだろ?」
そう言って頭を撫でてやると、ベルはふんと鼻を鳴らし頬を赤らめ、修練場の修復を始めた。
「坊ちゃま、良ければ少し見てもらえませんか?」
しばらくして、修練場の修復が終わったのを見はからい、エルネが声をかけてきた。そう言えば今朝は結局エルネのこと、見てあげられなかったもんな。
「ああ、じゃあどれくらい使えるようになったか、見せてくれるか?」
エルネは返事をすると、フランベルジュのように刀身が波打った剣に魂力を込めた。
実はこの剣は普通の剣ではなく、ちょっとした仕掛けが施されている。
もちろん普通の剣として使うこともできるのだが、刀身に細く丈夫なワイヤーが埋めこまれており、細かな刃が幾つも数珠繋ぎに繋がっている。そこに魂力を込めることで、刃が分裂し鞭のようにしなり、刃先を魂力で操ることができるのだ。
わかりやすくいえば、通称、蛇腹剣と呼ばれるものである。
「へー、だいぶ良くなってきたな。少し前までじわじわ動かすのがやっとだったのにな」
「ええ。坊ちゃまに魂力を流してもらってから、だいぶコツが掴めました」
エルネはそう言うと少し頬を赤らめた。ポーカーフェイスのエルネにしては珍しいけど、きっとその時の感覚を思いだしてしまったんだろうな。
「ただ、剣を操ることを意識しすぎて、少しぎこちなくなっているな」
「そうなんです、どうしても力が入りすぎちゃって。どうしたら良いでしょうか?」
「一気に全部やろうとするから難しいんだよ。まずは肩の力を抜いて、剣を伸ばすことだけに意識を集中してみるんだ」
「こ、こうですか?」
エルネはふぅと息を吐くと、ゆっくりと刃が付いたワイヤーを伸ばしていった。
「そう、それでまず1分その状態を維持してみる。それができたら2分3分と増やしていき、それもできたら頭の中で他のことを考えたり、反対の手を動かしたり、歩きながらとか試してみるんだ」
しばらく見ていると、真っ直ぐ伸びた蛇腹剣が一瞬力を失い崩れかけたが、すぐにまた元の位置に戻った。
恐らく何か考え事をしたのだろう。
「慌てず基礎からひとつずつ身につけること。土台が歪んでいたら上に行くほど歪みも大きくなるからな。またコツが知りたくなったらいつでも言ってくれ」
「はい、有難うございます坊ちゃま」
お、今のはそのままの状態を維持できていたな。
エルネは種族がらか、魂力のコントロールがうまいな。
「グラム殿! 次は私にもご教示お願いします」
「グラム、その後は私もお願いー」
何て思っていたら、ルイーズとエレインが俺に向かい手を振ってきた。
そんな調子でみんなの訓練を見てやりながら、俺はギーたちが来るのを待った。
【後書き】
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつではありますが、PVもポイントも増えてきて嬉しく思っております。
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