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みんなやらかす

「おい、あいつ何者なんだ……?」

「わからないけど、クロムウェルと親しげに話しているぞ……」


 周りの注目を一身に浴びて、どうしたらいいのか困ったようすのガラド。

 あまりない経験のためか、困りながらも少し喜んでいるように見える。


「おい、何やってんだだよ……」

「す、すまん。ボーッとしててつい……」


 一応反省はしているようだし、次はしないだろうからよしとしておくか。

 つい先ほどのことである――

 短距離走の計測の順番で呼ばれたガラドは、俺を見て頷き、任せとけと意思表示をしていた。

 ここまでは良かった。しかしスタートラインに立ったガラドは、あることに気がついてしまった。

 少し離れた場所で、今まさにルイーズが走ろうとしていることに。

 その時点でガラドの頭の中は、ルイーズでいっぱいだったんだろう。きっと最近膨らんできたルイーズの胸に夢中だったに違いない。

 そして、スタートの合図に反射的に駆けだし、ルイーズに夢中のままゴールしてしまったのだ。

 周りの奴らがまだ数歩しか走っていない状態で……。


「気持ちはわかるが、あまりルイーズのほうを見ないようにしておけよ」


 俺もさっき、ばるんばるん揺らしながら走るエルネに見とれていたからな。


「なっ! そ、そんなんじゃねーよ!」


 真っ赤になって慌てふためくガラド。

 こいつはいまだに気づかれていないと思っているんだろうか?

 しかし一気に不安になってきたぞ。エルネはいいとして、他のみんなは大丈夫だろうか?

 ベルとシャルルなんて不安しかないぞ……。

 こうなったら魂力で感覚器官を強化して、聞き耳を立て、望遠ズームのように注視しながら、技能検定をこなしていくか。


 それからしばらくして俺の短距離走の順番が来た。

 向こうのほうで、ちょうどシャルルも呼ばれたみたいだけど大丈夫だろうか?

 念のためにシャルルを観察しながら、俺は走りだす。

 もちろんガラドのような真似はせず、平均より少し早い程度でゴールする。

 うん、シャルルもなかなか胸が成長したよう……。ではなく、ちゃんと力を隠して走ったようだな。

 他のみんなも特に問題なく短距離走の計測を終えていく。

 良かった、俺の心配しすぎか。なんて安堵しかけていたときに、それは起きた。


「力を加えれば加えるほど甘くなるなんて、変わった果物があるもんだな」


 中年の男性教師から手渡されたグレープフルーツに似た果物――グリップフルーツを手にガラドが言った。

 これを握りしめて出た果汁の甘みから握力を測るとのことだが、いったい誰がどうやって甘みを測るのだろうか?


「先生、握りつぶしてしまったらどうしたらいいんですか?」


 生徒のひとりがもっともな疑問を質問すると――


「このグリップフルーツの種は非常に弾力性に優れていてな、アウルコングでもそうそう握りつぶせるものではないから安心しろ」


 目つきの鋭い壮齢の男性教師が、自信ありげにそう答えた。

 なるほど、それならここにいる子供たちには不可能な話だな。

 アウルコングはD級の魔物の中でも上位に位置する膂力(りょりょく)の持ち主だからな。

 そう思っていたときが、俺にもありました……。


「ま、まさか、こんな女の子が!」


 パァン! と小気味の良い音がしたほうを見て、先ほどの壮齢の男性教師が目が飛びでそうなほど驚いている。


「すげえ! あんな可愛い顔して握りつぶしちゃったぜ……」

「あれフィルフォード候爵令状だろ? またクロムウェルの関係者かよ」


 俺も決定的瞬間をしっかり見ていたのだが、ルイーズがグリップフルーツに力を込めようとした瞬間、鼻先を小さな虫がかすめて飛んでいき大きなクシャミをひとつ――勢いあまってグシャリと握りつぶしてしまったのである。

 最近ルイーズは、ベルに作ってもらった特製巨大こん棒を、毎日欠かさず素振りしているからな……。

 しかし、あまり心配していなかったルイーズがやってしまうとは、すごく嫌な予感がするぞ。

 グリップフルーツの果汁を全身に浴びて、着替えに退出するルイーズを見守りながら、俺はひとり不安にかられていた。

 ――のも束の間、今度はベルがやらかした……。


 それは魔法の適性力を調べているときであった。

 魂力を込めると指先から石の魔弾が出てくる指輪を使って、いかにその魔弾をコントロールすることができるかというテストだった。

 指輪に魂力を込めて念じると魔弾を操ることができるみたいで、曲げたり途中で落としたりせず的を狙い打てたらいいらしい。

 俺はドキドキしながらベルのことを見守っていた。


「ふん、つまりおもいっきり曲げてしまえば良いのだな」


 指輪をはめて、ニヤリと笑みベルが囁いた。

 いいぞベル、ちゃんと分かっているようだな。

 なんて安心したのも束の間――

 曲げることに夢中になりすぎて、いつも通りの力を込め魔弾を放ってしまったベル。

 みんなが小石サイズの魔弾を必死にコントロールしている中、ソフトボールサイズの魔弾が弾丸のように射出され、壁に大きな穴を開けてしまったのだ。

 しまったと慌てて俺のほうを見た、ベルの顔はとても可愛かったが、やっぱりやってしまったか……。


 そしてベルに続くようにシャルルもやらかしてしまった。

 事前に針を取っておいた、蜂に似た小型魔物の攻撃をいかに回避できるかという、敏捷性を調べるテストのときであった。

 すでに3人もやらかしているため、端から避けるつもりのないシャルル。

 放たれた5匹の魔物は執拗にシャルルに突撃を繰りかえすが、針を取っているためシャルルはどうとなく堪えているように見えた。

 が、どうやら野生の本能が疼いてしまったらしく、シャルルは「ふにゃあ!」と叫ぶと、一瞬のうちに5匹の魔物を自前の爪で斬りきざんでしまったのだ。

 攻撃力は皆無なもののかなり俊敏な魔物らしく、それを一息で5匹もやっつけたものだから、教師はみんな驚愕している。

 このテストがシャルルで最後だったことが、唯一の救いである。


「グラム、ごめんなさいにゃ……」


 俺の元にとぼとぼと歩いてくるシャルル。


「済んだことは仕方ないさ、気にすんな」


 動くものに反応するのは猫の習性だからな。そう思い頭を撫でてやったが、そうとう反省しているのか俯いたままである。


「おい見ろよ、またクロムウェルだぜ……」


 離れた場所から男子生徒が俺を指差している。

 ってかさっきからなんだ?

  父さんの子どもだから注目されているのだろうか?

 疑問に思いながらも、シャルルがこれ以上落ちこまないよう、俺は気づいていないふりをしておいた。


 そして技能検定もいよいよ大詰め、最後の2対2の実践形式のテストが始まった。

 記録係りの人数上、俺の順番はまだまだかかりそうだな。

 そう思い俺は例のごとく、女子グループのほうに意識を集中した。


「確かにあんたのお友達はなかなかやるよーです。でも、あんたのご主人はただのすっかすかのカスッカスなのですよ」


 こちらから見て右側のサイドテールに黒いリボンをつけた、ラピスと呼ばれていた少女が、エルネに啖呵を切った。


「なんであんな弱々ヤローに、付き従っているのですか? あんたたちも、弱々だからラズリたちにやられるですか?」


 その隣では、左側のサイドテールに白いリボンをつけた、ラズリと呼ばれていた少女が、同じようにエレインに啖呵を切っている。

 えっ、俺めっちゃディスられてない?

 自分で狙って、ここまでの検定を超平凡な成績で終わらせているとはいえ、少し傷つくのですが……。

 でも、それはいいとして、彼女たちは大丈夫だろうか?


「……なあ、それってもしかしてグラムのことを言っているのか?」


 目を見開いたまま笑顔を見せ、木剣を構えるエレイン。


「……デスですね」


 エルネは何とも物騒なことを言っている。

 おい、ですですコンビ。ごめんなさいをするのだ。

 自惚れている訳ではないが、お前たちはエルネとエレインの地雷を踏みぬいたのだぞ。

 何て思っているうちに開始の合図が出された。

 と同時、魂力を込めた踏みこみで一瞬のうちに間合いを詰めるエルネとエレイン。


「「です!?」」


 ラピスとラズリは木剣を構えることもできず、鳩尾(みぞおち)に掌底をくらい地面に突っぷした。

 良かった。エルネとエレインも一応理性は残っていたようだな。

 エレインは言うに及ばず、エルネも1年前から剣の訓練を始めているから、本気を出せば木剣でも相手を貫きかねないからな。

 さて他のみんなはどうかな? と視線を外そうとしたその時――


「げほっげほ……。ラズリ、だ、大丈夫です?」

「かふっかふっ! こ、これが大丈夫に見えるですか?」


 ラピスとラズリが地面に手をつきながら、体を起こした。結構、根性があるじゃないか。


「そのまま眠っておけば痛い思いをせず済んだものを」

「あんたサイコパスです? 痛い思いならすでにしているですよ!」


 立ちあがろうとしているラピスに木剣を構えるエルネ。


「さっきのこと謝るなら許してやるよ」


 離れた場所でふたりを睨みつけるエレイン。


「うるさいです! ギー様のためにも、このまま引きさがってられるですか!」

「あんたたちもあんたのご主人も、クソ食らえですよ!」

「そうですか。ならベッドの上で後悔してください!」


 双子たちの言葉を受け、エルネはラピス目掛けて木剣を振りおろした。


 ――『『白黒乙女の秘密の穴(こらこらコラプサー)です!』』――


 エルネの木剣がラピスの肩口を捉えようとした瞬間――突如黒い穴が現れ木剣が吸いこまれていった。


「エルネさん危ない!」


 エレインが慌ててエルネの後方を木剣で弾く。

 その直後、エルネの腕は不可視の力で跳ねあげられた。

 なんだ? ここからは良く見えなかったが何があったんだ?

 恐らくラピスかラズリが固有スキル(ユニークスキル)を使ったんだろうけど、さっきの穴はなんだ?


「な、何者なんですかあんたたちは?」

「まったく、有りえない反射速度ですよ。でも……」


 よろよろと立ちあがるラピスとラズリ。エルネとエレインは警戒している。


「「このまま負けてられないです!」」


 眉根を上げエルネに木剣を振りおろすラピスと、エレインを逆袈裟に斬りあげるラズリ。

 ふたりが余裕を持って木剣で受けとめようとした瞬間、エルネの前にふたたび謎の黒い穴が現れた。

 いや、それだけなじゃない――これはブラックホールとホワイトホールか!


「きゃっ!」

「エ、エレイン!」


 後方からの衝撃を受け地面に片膝をつくエレイン。エレインがラズリの木剣を受けとめた瞬間、エルネに振りおろされていたはずのラピスの木剣が黒い穴に吸いこまれ、エレインの後方に出現した白い穴からエレインを斬りつけたのだ。


「トドメですよ!」

「トドメですか!」


 うずくまるエレインに斬りかかるラピスとラズリ。

 エレインはダメージが残っているのか、反応できない。


 ――『一陣の風(フウァールウインド)!』――


「「きゃぁあああ!」」


 しかしふたりはエルネの魔法により仲良く吹きとんでいった。


「坊ちゃまだけでなくエレインまでも……。許しません!」


 静かな怒りに身を震わすエルネ。射殺さんほどにするどい眼光をしている。

 しかしエルネさん、双子ちゃんたちは仰向けに重なって転がり、むきゅぅと声を出し伸びていますよ……。


「エルネさん、ありがと」

「エ、エレイン大丈夫ですか?」

「うん、ルイーズとの訓練に比べたらどうってことないよ」


 良かった、どうやらエレインは無事なようだ。

 しかし、見事にみんな力を出してしまったな。まあ、一通り終わったようだしこれ以上はないから、良しとするか。

 と思っていたら、部屋の入り口からルイーズが戻ってきた。そうか、着替えに行っていたんだったな。


「……グラム。おいグラム、呼ばれているぞ!」

「あ、俺たちの番か?」


 ガラドが俺の肩を掴み呼びかける。そう言えば俺の実践訓練がまだ終わっていなかったな。


「いつまで待たせるんだ、このノロマが」


 ギーが木剣を片手に俺を睨みつけている。そして隣には眼鏡の少年ヒューゴか。

 このふたりが俺たちの相手らしいな。


「グラム君、残念です。君はもう少しできる人だと思っていたのですがね」

「ちっ! 不可侵の剣士の子と言うからどれほどの者かと期待していたが、まさかこんなグズとはな」


 眼鏡をクイと持ちあげ吐きすてるヒューゴと、不愉快そうに舌打ちをかますギー。

 そんなに期待してくれていたとは悪いことをしたな。

 では少しは期待に応えてやらないといけないな。

 特にギーには、エレインの分をしっかりお返ししておかないといけないしな。


「御託はいいからさっさとかかってこいよ。俺が稽古をつけてやるよ」


 そう言って木剣を構えたそのとき――修練場に爆発音が響きわたった。

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