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祭りの終わり

「ここで、当店ナンバー1嬢の登場にゃ!」


 ガラドにもらったお寿司を食べていたら、この店1番の騒がしい嬢がやってきた。


「ちょっと待って、もう少しで食べ終わるから……」

「ふにゃ! せっかくおめかししたのに、酷い仕打ちにゃ!」


 シャルルは機嫌を損ねたのか、耳と尻尾の毛を逆立て威嚇してきた。


「悪い悪い。浴衣、似合っているな。いつも綺麗だけど、今日はもっと綺麗だぞ」

「……なんだかすごい適当な感じがするのにゃ」


 するどい! あと3貫で食べ終わるから、つい適当になっていた。

 どれどれ……。深緑の生地に赤い椿柄の浴衣か。シャルルはモデル体型だから何を着ても似合うけど、(つや)やかなブルーグレイの披毛と合わさると、落ち着いた大人の印象を受けるな。

 まあ、本人は欠片も落ち着きはないんだけど。


「本当に似合っているぞシャルル。お前が着ている浴衣の柄、俺の住んでたところじゃ椿って言うんだけど、赤い椿は『控え目な優しさ』って意味があるんだ。優しいお前にピッタリだな」


 無言でじとっとこちらを見ているシャルル。

 なんだ? まだ機嫌が悪いのか? でも、尻尾はピンと立っているし、喜んではいるはずだけど。


「ほら、膝枕してやるからこっちこいよ。お前初めてあったときに、大好きだって言ってたもんな」

「……最近、グラムが女たらしになってきた気がするにゃ」

「なんだそれ? それより膝枕はいいのか? 感謝祭の今日だけ特別だぞ」


 シャルルは相変わらずのじと目のまま、無言で俺の膝の上に頭を乗せてきた。


「なんだか少し悔しいにゃ」

「まあ、そう言うなって。お前には本当にいつも感謝しているんだぞ」

「どういうとこにゃ?」


 少し機嫌が直ったようすのシャルルが、膝の上から俺を見上げる。

 そんなシャルルの髪を撫でていたら――


「酢飯臭いにゃ!」


 と、手を払われてしまった。ついさっきまでお寿司を食べていたからな……。


「シャルルは俺たちの中で、1番みんなのこと見てくれているからな」

「そうかにゃ?」

「ああ。シャルルは人の心の機微に敏感で、決して押しつけがましくなく、いつも自然にフォローしてくれるからな。シャルルがいてくれるだけで安心できるほどさ」

「それは多分違うにゃ……」


 横を向いて寂しそうに呟くシャルル。


「何が違うんだ?」


 俺はなるべく優しい声音で問いかけた。


「シャルルは昔、人間にいっぱい虐められたのにゃ。ちょっとしたことでぶたれたり、酷いこと言われたり、とても悲しかったし痛かったのにゃ。だからシャルルは、じろじろ見るようになったのにゃ。痛いのは嫌だから……」

「だから自分はそんな優しい人間じゃないと?」

「そうにゃ。ただの卑屈なダメ猫にゃ……」


 そう言うと、シャルルは力なく尻尾を伏せた。


「理由なんてそんな大事か?」

「にゃ?」

「きっかけが何であれ、お前は俺たちの誰かが傷ついていたら、寄り添うように癒してくれる。空気が重ければ、バカを言ってみんなを笑わせてくれる」

「……バカは余計にゃ」

「俺も、他のみんなもそんなシャルルに感謝しているし、そんな優しいお前が大好きだ。お前はどうだ? 俺たちに怯えているのか? それとも好きと思ってくれているのか?」

「大好きに決まっているのにゃ」


 シャルルはそう言うと俺の膝に頭を乗せたまま、腰に手を回して抱きついてきた。

 すんすんと鼻をすすりながら。

 俺はそんなシャルルが、少しでもいつもみたいに元気になればいいと優しく髪を撫でた。


「酢飯臭いにゃ!」


 どうやら元気になったようだ。


「グラムはなんでそんなに優しいのにゃ?」

「別に俺だけじゃないだろ」

「みんなも優しいけど、それはグラムがみんなに優しいからにゃ。グラムといると、みんなポカポカ優しくなるのにゃ」

「そんなこと言われたら照れてしまうけど、俺はただ、誰にも寂しい思いをして欲しくないって思っているだけだよ」


 シャルルは少しの間、何か考えたかと思うと、体を起こし真っ直ぐに俺を見据えた。


「シャルル本当は少し怯えているにゃ。みんなのこと大好きだから、嫌われないようにいつもおどけているにゃ。あと、1つだけ気を使っていることがあるにゃ……」

「何を気を使っているんだ?」

「気を使っていると言うか諦めているにゃ。でも、今日だけわがままを言ってみたい気分なのにゃ」


 獣人ということが、こんなにこいつを縛りつけていたんだな。こんなに思いつめた顔をして、何をずっと抱えこんでいたんだろうか。


「何でも言っていいぞ。そんなことで、お前のこと嫌いになんかならないから安心しろ」


 俺は少しでもシャルルの勇気になればいいと、笑顔で言った。

 すると――


「……シャルル、グラムのことが大好きにゃ。いつも冗談で言ってるけど、本当は好きで好きで仕方がないのにゃ」


 瞳を潤ませたシャルルが、ぎゅっと俺の手を掴んできた。


「グラム、獣人のシャルルなんかに、こんなこと言われたら気持ち悪いかもしれないけど、1つお願いがあるにゃ」


 ずっと俺から目を逸らさないシャルル。勇気をふり絞って言ってくれていることが、尻尾の動きからわかる。

 それだけ真剣なんだろう。でもそうであれば、先に伝えないといけないことがある。


「シャルル、よく聞けよ。この世界が獣人に対してどんな感情を持っているか知らないけど、お前すごい美人だからな。大きな瞳も、長い睫毛も、艶々と綺麗な毛並みも、しなやかな体も」

「嘘じゃないにゃ?」

「嘘な訳あるか、俺の顔を良く見てみろ」

「真っ赤っかにゃ」

「ああ、お前が美人すぎて直視できないんだよ。だから卑下したりなんかするな。2度と『シャルルなんか』なんて言うんじゃないぞ!」

「わかったにゃ。もう言わないにゃ」


 シャルルは涙を浮かべてそう言うと、俺の上にまたがり首に手を回してきた。


「えっと、シャルルさん……?」

「シャルルはグラムを愛しているにゃ……」

「ん!」


 俺の頬をくすぐるシャルルの髪から、甘い香りが漂ってくる。

 そして唇には、温かく柔らかい感触が……。


「んにゃ。ドキっとしたかにゃ? シャルルはすごいドキドキしているにゃよ」


 俺にまたがったまま、潤んだ瞳で首を傾げるシャルル。

 ドキっとしない訳がない。と言うか、愛しているって言葉がストレートすぎて、きゅんきゅんが止まらないんだけど……。


「にゃふふ、顔を見たらわかるにゃ。グラムありがとにゃ。シャルルはグラムと会えて幸せだにゃ」


 シャルルはそう言い残すと、真っ赤な顔で部屋を出ていった。

 いまだに残る太ももと唇の温もりのせいで、頭の中がシャルルでいっぱいになり、俺は少しのあいだ放心していた。


「……殿。グラム殿! 起きていますか?」

「ル、ルイーズ!」


 気がつくと百合の柄の浴衣を着たルイーズが、いつの間にか隣に座っていた。


「屋台の後片付けが遅くなって申し訳ありません。今日はもう休まれますか?」

「いやすまん、ちょっと考え事をしていたんだ」

「そうですか。ところでお寿司はおいしかったですか?」


 少し緊張した面持ちでルイーズが問いかけた。


「すごくおいしくって、あっという間にぜんぶ食べてしまったよ」

「そうですか、それは良かった。私、お料理なんて初めてしたんですよ」


 ふふふと楽しそうにルイーズは笑う。


「それだけじゃありません。剣を持つのも、魔物と戦うのも、馬車で長旅をするのも、友達と一緒に宿に泊まるのも、ぜんぶぜんぶ初めてなんです」

「そう言われると、ここ最近はなかなか濃い毎日だよな」

「ええ、とっても。でも、楽しいんです。毎日が新鮮ですべてが私の糧になるようで、眠るのが惜しいくらいです」

「ルイーズはずいぶん強くなったよな。剣だけじゃなく、精神的にも1回りも2回りも大きくなった気がするよ」

「ほ、本当ですか!? 尊敬するグラム殿にそう言ってもらえると、すごく嬉しいです!」


 両手を合わせてたいそう喜ぶルイーズ。相変わらずな真っ直ぐさに、少し照れてしまう。


「尊敬って……。大袈裟だなルイーズは」

「大袈裟なんかじゃありません。私は、私に多くをくれるあなたとの出会いに、心から感謝をしているのです。これからも沢山の初めてを私にくださいね」


 ルイーズは意味深な言葉を残すと、ペコリと頭を下げて去っていった。

 しまった。シャルルもそうだけど、髪飾りを渡すのを忘れていたな。まあ、後ででいいか。


「お待たせしました坊ちゃま。私で最後ですので、もう少しだけお付きあいしていただけますか?」


 ルイーズと入れかわるように、撫子(なでしこ)柄の浴衣を着たエルネが部屋に入ってきた。


「あれ? エルネで最後なのか?」

「ええ。エレインは今日ずっと坊ちゃまと一緒だったからって。ベルも明日、坊ちゃまとお祭りを回るときに伝えるらしいですよ。それにふたりとも、今は他のことで忙しいみたいですし」

「他のこと?」

「なんでも、シャルルに聞かないといけないことがあるみたいですよ。何があったんでしょうね?」


 そう言うとエルネは、ふふふと笑ってみせた。これはぜったい知ってて言ってるな……。

 と言うかどうしよう? ってどうしようもないけど、そわそわして仕方がない。


「みんなを泣かしたらダメですよ」

「は、はい……」


 まるで子供を諭すように言ったエルネの言葉に、返事をすることしかできない。

 これって3股になるのだろうか?


「なあエルネ、シャルルとのことは知っているんだよな?」

「いえ、今日は聞いていませんよ。でも、シャルルのようすを見ていたら、何かあったのだろうなってことはわかりますが」

「相談したいことがあるんだけど、こういうのって勝手に言っていいもんなのかな?」

「普通はあまり良くないかも知れませんね。でも、坊ちゃまが言わなくても後で聞きますけどね」


 エルネってお姉さんみたいで、みんなの相談に良く乗っているみたいだもんな。

 エルネは相手のペースを大事にして聞いてくれるから、話しやすいんだよな……。

 よし!――俺はさっきのシャルルとのことを、エルネに相談することにした。


「そうですか。シャルルは獣人であることを、そんなに気にしていたのですね」

「どうすればいいと思う?」

「今まで通り見守ってあげるというのはどうでしょうか?」


 やっぱりそうだよな。心の問題は第三者に言われて、どうこうなるものでもないしな。

 それに、シャルルにはシャルルのことが大好きなみんながいる。少しずつシャルルの中の卑屈な思いも、薄れていくだろう。


「ところでエルネはどうなんだ? その、シャルルみたいに思ったりはするのか?」

「そうですね。お陰様でみんなに対して気を使ったり、自分を卑下するようなことはありませんが、私のことを知らない人に対しては、怖く思いますしやはり警戒はしますね」

「エルネって好きな人はいるのか?」

「突然ですね。あまり乙女に不躾な質問をするのはどうかと思いますが、今のところはいませんよ」


 エルネは将来、好きな人に好きと言えるのだろうか?

 シャルルみたいに自分の種族のことを気にして、自分なんてって思ったりしないだろうか?

 エルネのお母さんは、エルネに恋をして幸せになって欲しいって望んでいるのに……。


「坊ちゃま、私との約束を忘れてしまったのですか? 俺がお前の世界を作ってやる。そう言ったのは坊ちゃまですよ」


 ひとり思い悩む俺を見て、エルネが言った。

 そうだな、俺が自分から言ったんだよな。そしてエルネは俺の手を取ってくれたんだ。

 そんなエルネのためにも、種族や出自の差なんてくだらないものに、縛られない世界を作ると決めたんだった。


「そうだったな。エルネが何も気にせずおもいっきり恋をすることができる世界を、俺が作ってやるよ」

「坊ちゃまのお気持ちは大変ありがたいのですが、坊ちゃまが3股をされている限りは、私も安心できないかもしれませんね」

「仰る通りです……」


 俺の言葉にエルネはくすくすと笑ってみせた。


「ところでシャルルの気持ちに何も返せていなんだが、何か言ったほうがいいのかな?」

「何て言うのですか?」

「それは……、なんだろうな?」


 自分で言ってて情けなくなってくる。

 シャルルは本当に綺麗だし、いい奴なんだよな。

 好きかと聞かれれば間違いなく好き。でも、まだ違う好きだよなあ。


「恐らく本人も、まだ答えは求めていないと思いますよ」

「そうなのか?」

「ええ。今日エレインが、みんなの分の髪飾りを買うように言ったのでしたね?」

「ああ。で、言われるままに買ってきた」

「エレインはまだ少女から女性になる途中なんです。坊ちゃまに恋する気持ちもありますが、ベルやシャルルやみんなのことも大好きなのです」


 なるほど、だからみんなの分も買えと言ったのか。でもなんで今その話をするんだ?


「エレインのそんな気持ちを、ベルやシャルルも知っていると思うんです。だからふたりとも待っているのではないかと」

「待っているって何を?」

「エレインが女性になるのをです。ベルやシャルルもエレインが大好きですからね。ですからふたりも今はまだ、エレインと一緒に坊ちゃまを好きでいる。そんな関係を望んでいる気がするのです」


 やっぱりエルネはすごいな! 思いつきもしなかったぞ、そんなこと。

 俺には、女心は複雑すぎて良くわからないや。


「もちろんすべての女性がそうする訳ではありませんけどね」

「どういうことだ?」

「今のうちにと、出し抜こうとする女性も少なくないということです。むしろそっちのほうが、多いかも知れませんね」


 ベルとシャルルはエレインよりも年上だから、エレインのこと可愛い妹のように思っているのかも知れないな。


「とりあえず俺は、今のままでいいってことか」

「でもちゃんと、みんなの思いに真摯に向き合わないとダメですよ。でないと、そのうち愛想を尽かされてしまいますよ」


 確かにその通りだけど、想像するとそれは怖いな……。

 ということは、やはり俺は3人に特別な感情を持っているのだろうか? うーん、わからん。

 顔を上げると、エルネが俺を見て嬉しそうに笑っていた。


「そうだエルネ。これ、プレゼント」


 俺は巾着袋から、一本挿しの花かんざしを取りだした。


「あら、とても素敵な髪飾りですね。これはどのように使えばいいのですか?」

「俺がしてあげるよ。ちょっと後ろを向いてくれるか?」


 言われるままに背を向けるエルネ。

 昔、妹にもこうやって髪をまとめてあげてたよな。

 なんて思いながら、俺はエルネの髪を3つ編みにし、器用にお団子を作ると、花かんざしでまとめてみせた。


「ほら、こんな感じだよ。……どうした、エルネ?」

「すみません。つい昔のことを思いだしてしまって……」

「悪い……。悲しませてしまったな」

「いえ、とんでもありません。それよりどうですか、坊ちゃま。似合っておりますか?」


 エルネはまとめた髪を触りながら微笑んでみせた。


「うん、似合ってるよエルネ。(あで)やかでとても綺麗だ」

「うふふ、ありがとうごさいます坊ちゃま。大事にしますね」

「待ってろよ。いつか、外でも気にせずつけることができるような、そんな世界にしてやるからな」


 俺は、エルネのあらわになった、綺麗な耳とうなじを眺めながら誓った。


「ええ。これからもよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくな」


 それから俺たちは、祭りのことや何でもないことを話し過ごした。


 そして翌日の夜――


「どうだ? 変ではないか?」


 牡丹柄の白い浴衣を着たベルが、裾を広げて俺に問いかけた。

 いつもは下ろしている(つや)やかなストレートの白い髪が、お団子にまとめられ美しいうなじがあらわになっている。

 祭りの熱気で上気した白い肌が、いつもより大人っぽく見せて魅了されたかのように、目が離せない……。


「ふふふ、その顔を見ればだいたいわかるが、言葉にしてくれても良いのだぞ」

「……目が離せないほど、美しいです」

「お前のために着てやったんだ。目を離さず、存分に見ていても良いのだぞ」


 ベルは唇の隙間から白い歯を見せると、俺の腕を取り妖艶な笑みを見せた。


「なんだ? 今日は少し変ではないか?」

「いや、ベルがあまりにも可愛いから、ちょっとドキドキしてな……」

「や、やめい! う、嬉しいけど、我も、緊張するではないか……」


 照れた顔を隠すように、俺の腕に顔を押しつけるベル。


「そっちこそやめろ。心を奪われそうになるじゃないか」

「むむ、なんだか、いつものグラムに戻ってきてはおらんか?」

「ふっふっふ、お前の照れてる姿を見ていたらちょっと余裕が出てきた」

「なぬ! なんだか気に食わんぞ!」


 可愛い目で睨みつけてくるベル。

 それを無言で見つめかえすと、ベルの顔が真っ赤に染まってきた。


「可愛いなベルは」

「ええい、うるさいうるさい! さっさと行くぞ」

「え、このまま行くのか?」


 腕にしがみついているベルに言う。


「当たり前だ! ほら、まずはあの屋台に行くぞ」


 そうして俺とベルは、腕を組ながら屋台巡りを始めた。


「ううーん、このかき氷とやらはおいしいのお」

「こっちのアプル飴もうまいぞ」

「どれどれ、1口よこすのだ」


 小さな口を大きく開けて、ベルが俺の持つアプル飴にかじりつく。

 祭りをするに当たって、俺がみんなに教えた料理のうちの1つである。


「おおお、この食感がたまらんのお。みんなの分も買えば良かったかのお?」


 恍惚の表情を浮かべながらベルが言う。

 みんなの分か……。


「ベル、もう少し待ってくれな。もうひとりのお前のお姉ちゃんも、必ず助けてやるから」


 次に方位磁石が指し示した場所はエルト海を渡った先であった。

 砦の築造とパブリックスクールでの任務を控えている俺が、海を渡ってあっちこっち探しまわれるのは、早くても3年後になるだろう。


「気にするでない、怠惰の姉は強い人だ。と言っても、優しいお前は気にせずにはいられないだろうがな」

「そりゃ気になるさ」

「正直に言うと、我もまったく平気というわけではない。しかし、グラムがいれば大丈夫だと、そう思えてくるのだ」


 本当はエルネのお母さんのことも、今すぐ何とかしてあげたいけど、フィルフォード卿には色々と援助してもらっているから、すべてを放りだす訳にもいかないんだよな。

 それに、俺たちの力で戦争を遠ざけることができるのなら、俺は何とかしたい。


「こら、お前がそんな顔をしてどうする」

「すまん。お前が頑張って気持ちを切りかえているのに、ダメだよな俺がこんなんじゃ」

「まったく、グラムはどこまでお人好しなんだか。まあ、あれだ。我が寂しくなったときは、またその、甘えさせてくれれば良い……」


 ベルはもじもじとしながら目をそらした。


「仕方ないなー。ベルは甘えん坊だからな」

「うるさい! す、好きな人には、甘えたくなるものなのだ……」

「あれ? そう言えば、お前からちゃんと言われたのは初めてな気がするな」

「誰にもちゃんと言っていないお前がそれを言うか……!?」


 俺を睨みつけ、お尻をバシバシと殴ってくるベル。


「待て、待てってベル。えっと、その、なんだ。俺もちゃんと好きだぞベル」

「ふん! お前のは少し違うではないか!」


 俺もまだ良くわからないけど、たぶん少し好きになっているな。でも今はまだ、黙っておくか。


「さて、そろそろ広場に向かおうぜ。エレインたちの店でたこ焼きと、ルイーズたちの店でお寿司を食べないといけないしな」

「コラト族の店のすき焼きと、ボルゾ族の店のから揚げも我は食べたいぞ」

「アイラとシャルルの店は、たぶんもう売り切れているだろうな

 。……どうしたベル?」


 話の途中でベルは急に、何事か考えこむように俯いた。


「シャルルのことだが……」


 やばい、その話か! また違う女とキスしたなんて、やっぱり怒るよな?


「グラム、シャルルを悲しませたら我は許さんからな!」


 と思いきや、ベルは真剣な表情で真っ直ぐ俺を見据えた。


「シャルルのこと、大好きなんだな」

「そ、そんなんではないわ! それよりちゃんとわかっておるのか?」

「大丈夫だよ。俺もシャルルのことは大切だからな。エレインもシャルルもベルも、悲しませたりしないよ」

「ほう、堂々と3股宣言をするとはのお……」

「いや、どうしろって言うんだよ! 今のは誘導尋問だろ!?」


 そんな風にじゃれあいながら、俺とベルは祭りの最終日を目一杯に楽しんだ。

 またしばらくしたら、砦築造の旅が始まる。

 そして、パブリックスクールの任務をサクッとこなし、ベルの仲間とエルネのお母さんを助けに行くんだ。

 俺は改めて貫徹を誓うのであった。

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