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力を合わせて

「もう一度言ってみろグラム……」


 練兵場で延々と腕立て伏せを繰りかえす兵士を背に、ヴァネッサさんがサーベルの柄をかつかつと指先で叩き、俺を睨みつける。


「俺に最前線の砦の増強と、兵器開発を手伝わせてください!」


 俺は怯むことなく、真っ直ぐにヴァネッサさんを見据えた。


「……それがお前の答えか?」

「答えはまだわかりません。でも、大切な人が傷つくのは嫌です!」


 俺の言葉にヴァネッサさんは無言で思案している。

 その強烈な圧迫感に、息をすることを忘れてしまいそうだ……。


「マチアス、砦を案内してやれ」


 ヴァネッサさんは吐きすてるように言うと、俺を一瞥しその場を去っていった。


「ふぅ、また斬りかかられるかと思った……。お前、俺の後ろに隠れるんならついて来るなよな」

「あ、あれは仕方ないだろ! 男ならしっかり守らんか!」


 開きなおったようにベルが言う。

 まあ確かにヴァネッサさんとベルは、端から見たら猛禽類と小動物だからな。


「わかりにくいでしょうが、あれはヴァネッサ様の優しさなんですよ」


 マチアスさんの言葉に、ベルはもの言いたげな顔をしている。

 少し前までなら、きっと俺も同じ反応をしていただろう。

 でも最近になってわかってきた。ヴァネッサさんが厳しいのは、俺たち子供を戦争に関わらせたくないからだ。

 だからフィルフォード卿の手紙を見せたときに、あんなに怒ってくれたんだ。


「はい、感謝しています。でも、やはり私は傍観者ではいられませんから」


 俺の言葉に、マチアスさんは一瞬嬉しそうに微笑んだ後、何とも言えない複雑な表情を見せた。

 それから俺とベルは、マチアスに連れら最前線の砦を視察した。


 その日の晩――俺は宿泊させてもらっているゲストハウスで、みんなと今日の成果について話しあっていた。


「グラムさん、ちょうど良さそうな魔物の情報をギルドで聞いてきたよ」


 アイラがポケットからメモを取りだし、俺に手渡してくれた。


「どれどれ、川や湖に生息する魔物カンディール――獲物の耳や口、お尻の穴から体内に侵入して中から食いやぶる……。なんともえげつない魔物だな」

「あ、あんたがそういうのを探してくれって言ってたんだろ!」


 アイラが頬を膨らませ、トレードマークのツインテールを揺らしながら、抗議の視線を送ってくる。


「悪い、あまりに字面が凄かったもんでな。ちゃんと近くの目撃情報までまとめてくれたんだな。助かったよアイラ」


 そう言って頭を撫でると、アイラはふんと鼻を鳴らしながらも機嫌を直してくれた。


「あら、あまりアイラちゃんを誘惑したらダメよ」


 するとそれを見ていたウィステリアが、メッと子供をしかるように近づいてきた。


「別に誘惑なんかしてねーよ。それよりもそっちはどうだったんだ? ちゃんと回収できたのか?」

「ええ、ガラドちゃんが力持ちで助かったわ」


 ウィステリアには、封鎖したダンジョンをもう一度掘りおこしてもらい、3階層の土を取ってきてもらった。

 ゴーレムを数体作って欲しいと頼んだんだけど、自らの魂力を長い間流した上質な土でないと難しいのだそうだ。


「まったくウィステリアさんは人使いが荒くて参ったぜ」


 相当に体を酷使したんだろう、ガラドがあちこち痛そうにしている。


「あら、それならマッサージでもしてあげようかしら?」

「い、いいって! もう平気だから!」


 しなを作りゆっくりとガラドに近づくウィステリア。ガラドにはまだ刺激が強すぎるのだろう、一目散に逃げだしてしまった。


「まったくガラドは情けないにゃね。男たるもの、グラムくらいスケベじゃなきゃいけないのにゃ!」

「風評被害が激しいな! ……ところで、そっちはどうだったんだ? 目ぼしいものはあったのか?」

「それはお任せください。グラム殿の希望に添えそうなものを、見繕ってきましたから。ね、シャルル」


 ルイーズはシャルルに目配せすると、麻袋を取りだし俺に手渡した。中には幾つかの魔法スクロールと、魔石が入っている。


「ほうほう、ちゃんとどんなものかメモしてきてくれたんだな。うん、確かになかなか良さそうだ。ありがとルイーズ、シャルル」

「にゃふふ、やったにゃルイーズ」


 シャルルはそう言うと、気持ち良さそうに喉をごろごろと鳴らし、ルイーズに抱きついた。ルイーズも嬉しそうにシャルルの頭を撫でている。


「さて、次は私たちだな」

「そうですねエレイン」


 待ってましたと言わんばかりのエレインとエルネ。

 ふたりにはマチアスさんを通して、兵器工場と教会図書館で調べものをしてきてもらったのだ。

 俺はエレインとエルネから、メモを交え説明してもらうと、砦増強の計画書をまとめていった。

 さて、明日ヴァネッサさんに目を通してもらい、了承してもらえたらいよいよスタートだ。


 それから数日後――


「本当にお前がこれを作ったのか……?」


 いつも動じることのないヴァネッサさんが、驚愕の表情を浮かべて言った。


「正確には私と私の仲間たちで作りました。どうやって作ったとか詳しいことは、気にしないでいただけると助かります」

「何か事情があると言うわけか。いいだろう、お前のことは信用している」


 そう言うと、ヴァネッサさんは微かに口角をあげた。


「ありがとうございます。それでは、設備についてひとつずつ説明していきますね」


 俺はヴァネッサさんの言葉に誇らしい気持ちを感じながら、作ったものについて説明して回った。



「クロムウェル領がどんなところか楽しみだわ」


 膝で眠るアイラを撫でながら、ウィステリアがうっとりとした表情で言った。

 俺たちは今、クロムウェル領の帰路についている。


「みんな優しくて、とてもいいところですよウィスティー」


 ネッケの糸を通して、御者台に座るエルネの声が聞こえてきた。

 エルネが嬉しそうに、クロムウェル領を誇る。それだけで、つい顔が綻んでしまう。


「グラム、嬉しそうにどうしたんだ?」


 俺に寄りそうように座るエレインが、首を傾げた。


「すべてうまくいって良かったなって思ってな」

「まさかワーグナー卿が、あんなにグラム殿のことを気に入られるなんて驚きです」


 後から聞いたのたけれど、ルイーズは、ワーグナー卿と自分の父親が話す姿を何度か見たことがあるそうで、怖い印象だけが深く刻みこまれていたらしい。


「ほんとにゃよ。シャルルなんて初めてあったときは、ちょっとだけおしっこちびってしまったのにゃ」

「お前、ちびるかと()()()って言ってたじゃねーか!」


 ってか女の子なんだから、さらりとカミングアウトするんじゃねーよ!


「仕方ないのにゃ! ガラドもちびっていたからセーフなのにゃ!」

「またお前は適当なことを言って。……ん? ガラド、どうした?」


 何やらうつむき思い悩んでいるようすのガラド。まさか本当にちびっていたのか?


「なあ、これでヴァンヘルムの兵は、あまり攻めてこなくなるんだよな?」


 なんて考えていたら、ガラドは真剣な表情で呟いた。


「ああ、きっとそうなるさ」


 直ぐにはそうならないだろうけど、少なくとも俺たちが作ったものを目にすれば、ヴァンヘルムの兵も思いしるはずだ。

 ワーグナー領を落とすことは不可能だろうと。


 俺たちが作ったものは色々とあるが、まず砦の前に広がる平原に、大きく深い堀を作った。

 その中に水を入れ、アイラに調べてもらった魔物、カンディールを放流した。カンディールを捕らえるのは、ウィステリアに1度使役してもらうことで難なく行えた。

 そうして作った堀は、実は敵兵の侵入を防ぐだけが目的ではない。

 ウィステリアに作ってもらった2体のゴーレムに、敵兵の死体を堀に落とすようプログラミングすることにより、人の手を使わず死体処理できるようにしたのである。

 堀に落としさえすれば後は勝手にカンディールが食べてくれるので、これで八日熱の感染リスクを激減することができるのである。

 ちなみにゴーレムには藍晶石が埋めこまれており、定期的に魂力を補充することで、半永久的に活動してくれる仕組みだ。


 次に、ルイーズとシャルルに買ってきてもらった、スクロールと魔石を元にカノン砲を作った。

 ベルの力で鋳造(ちゅうぞう)用の型枠を作り、鋳鉄で砲身を作り組み立てたものだ。

 型枠の砲身の中には、『爆発魔法(エクスプロージョン)』の魔方陣が刻まれている。

 俺がコピーして魂力の光で描いたものを、ベルにトレースしてもらったのだ。

 こうすることで、魂力を込めるだけで誰でも発射することが可能になった。

 弾は、魔石の力を使った炸裂弾になっている。

 魔石の活用方法はエレインとエルネに調べてもらっていたので、特に迷うことはなかった。

 しかし、これが多くの命を奪うのだ、ということについての迷いは今でもある。

 きっとそれはずっと、背負っていかないといけないものなのだろう。


「帰ったら、ウィスティーの歓迎会をするのにゃ」

「歓迎会ならもうしただろ?」


 重い空気を感じとったのか、急にシャルルがとぼけたことを言う。


「でもクロムウェル領のみんなとはまだやってないのにゃ」

「じゃあさ、お祭りをするのはどうかな?」


 そんなシャルルの気持ちに気づいたのか、エレインが話に乗っかってきた。


「お祭り?」

「うん。クロムウェル領も新しい人が増えて、どんどん賑やかになってきたじゃん」


 なるほど、結束を深めるためにもみんなで騒ぐのはいいかも知れないな。なになにの日みたいに祝日にするのも面白そうだ。


「それはいい考えだなエレイン! 会場作りなら我も手伝うぞ」

「私もベルちゃんと一緒にお手伝いするわ」

「シャルルはアイラとお菓子を作るのにゃ」

「そう言うことならプリンは欠かせませんね」

「グ、グラム殿! 私はお刺身が食べたいです!」


 だんだんと盛り上がってきたようすの女子たち。

 エルネとルイーズはただ食べたいものを言っているだけだけど。


「そう言うことなら俺はお寿司が食べたいぞ!」


 どうやらガラドもみんなにつられ調子が戻ってきたようだ。

 やっぱりこいつらはこうでなくっちゃな。


「よし、じゃあ帰ったらクロムウェル領のみんなで盛大に騒ぐとするか」


 俺の言葉にみんなの元気な返事が、馬車に響き渡った。

 そして、その声に飛びおきキョロキョロと辺りを見回すアイラを見て、みんなが笑い声をあげたとき、重い空気はすっかりどこかに消えていた。

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