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フラグ8 終わりの“XYZ”を“ZYX”に逆転させる遺物

「レイネ──お前は、俺のパートナー(モノ)になったのだから、何か質問があれば──」


「あの、エレクトラさんはどこへ?」


 いつの間にかゴミ防壁から微かに見えていた姿は無く、家事ができない精神ダメージを負っていた球体関節ダメイドはいなくなっていた。


「ああ、きっと地下格納庫だな」


「ち、地下もあるんですか!? この探偵事務所!?」


 俺は魔術防壁が施されたエレベーター扉を指差す。

 一見するとただの頑丈そうな金属扉だが、関係者以外は起動できない地下500メートル直行便となっている。


「あそこからだが、今はまだ行かなくてもいいだろう」


「格納庫って、車でも置いてあるんですか?」


「ああ、車もあるぞ。あとは射撃場と──いや、残りはお楽しみとしておこう。俺の宝物庫だからな」


 レイネは驚きで眼をまん丸にしているが、実に常人らしい反応だ。

 好ましく思う。


「あの……そういえば、昨日も銃を使っていましたよね……。人を撃っていたし……」


「問題無い。俺は特別な“発砲所持許可証”や“殺人許可証”を持っている」


「それって……昨日の人達も撃ち殺したってことですよね……?」


「ああ、そうだ。もちろん元から魔術師なりの科学的な未来視の証明も終わっているし、戦闘データもエレクトラが都合良く提出しているので罪には──」


「いえ……。確かに殺してしまう理由はあったのかもしれません。ですが、本当に殺してしまってよかったのでしょうか……?」


 たぶんレイネが投げかけてきたのは、非常に面倒くさい問いかけだ。

 長い年月、キリスト様とやらが生まれてからもずっと答えを出せない類の──。


 俺は溜め息の後に返事をした。


「わかった。なるべくは殺さない」


 ──レイネの前だけでは、だが。

 見ていないところでは容赦なく殺す。


「悪い人だとしても、誰の命でも尊いものですから……」


 コイツ、もしかして博愛主義者ってやつか?

 人類皆愛しましょうみたいな。

 そうだったら見込み違いかも知れない。


「もちろん、ブレイカーさんの命も尊いので、必要とあれば誰かの命を奪うのも仕方が無いですけどね! 野山のルールとして学びました!」


 そうきたか。

 ……最近の女子高生っていうのは楽しくイカれてやがるな。


「あの、それと魔術というものに詳しくないのですが、魔術師の皆さんは炎とか水とか氷とかを出したりできるんですか?」


「いいや、この世界の魔術師は、魔力を得ても器用なことが苦手って話だ。まだ手品師(マジシャン)のイリュージョンの方がそれっぽいぞ」


「ええと、具体的に魔術師さんは……どんなことができるんですか?」


 俺は少しだけ思案し、悩んだ末にストレートに答えてやった。

 ──例えば、1917年にアインシュタインが提唱した宇宙定数に端を発した、DarkEnergyを応用して創ったのが魔力理論で──とか話し始めても理解不能だろうから。


「──何も出来ない」


「え?」


「魔術師単体では、基本的に何も出来ないんだ」


「湖を飲み干したりも?」


「無理だ」


 魔術師をおとぎ話のキャラクターと勘違いしているのは意外と多い。

 なにせキチンとした魔力精製ナノマシンは、本来なら一部の機密なのだ。


「ようするに魔力はエネルギー。

 それを何かに変換するのが、外部の機械の役目──つまり“魔銃”や、“魔動式電磁ボディアーマー”が現代の杖や鎧ってことだ。

 それにより魔力でしか防げない矛、魔力でしか貫けない盾の発生が可能となる」


「ブレイカーさんの未来死の魔眼(バッドエンドアイ)とかはどうなんですか?」


「俺は天然の魔術師だから特別だ。

 他の奴らは撃つと守るくらいしか……いや、弱い力ならいくつか発症例があったな。そう、例えば催眠術とか」


 俺はこれから起こるバッドエンドのことを思い出しながら口にしていた。


「催眠術って、相手の目を見た瞬間に命令できちゃうアレですか?」


「……そこまで強力だったら俺が欲しいくらいだ。精神耐性の低い人形(やつ)なら効果抜群だろうな」


 以前、エレクトラにこの類の能力を使われて大変な目にあったな。


「だが、普通の魔術師が使えるのは、日常的な準備催眠を入念にやって、それで暗示を実行できる程度だろうな。……これでもかなりの才能が必要だが」


「それって身近な人にしか、かけられないってことですよね。魔術師って案外、大変なんですね……」


 さて、レイネに魔術師というものを理解させたし、世間話は切り上げよう。

 ママのスカートの中に隠れている卑怯者(はんにん)を殺しに行こうではないか。


「──あの、最後に一つだけ聞いてもいいでしょうか?」


「なんだ?」


「人の死……バッドエンドとやらは、ブレイカーさんにとって何なんでしょうか?」


「何度も言わせるな。趣味だ。お前達の死はいつ視ても楽しいぞ?」


 最低、とレイネは小さく呟いた。




* * * * * * * *




 某アニメの怪盗が乗っていたのと同型車の丸っこいフィアット500で、レイネが通っている高校にたどり着いた。

 高校としての規模は大きくもなく、小さくもなく。グラウンドや体育館、プールなどが揃っている。

 今から死者3人が出ようとしている場所とは思えないくらいの普通さだ。


 まだ時間的に陽は落ちきっていない。

 それでも人影がほとんど見えないので、何かの期間中なのだろうか。

 あるいは人払い済みか。

 正直、俺としては学校というものは、ほとんど覚えていないのだが。


「それじゃあ、レイネ。車内で打ち合わせた通りに頼むぞ」


「……わかってますよ。アナタのモノになったのですから、詳しくは知りませんが言うことは聞きます」


 校門の警備には、事前に偽造していた身分証明書を使い、レイネの親戚という嘘を吐いて通してもらった。

 既に彼女なしでは実行できない計画だ。

 存分に役立ってもらおう。


「──でも、私はブレイカーさんのことは嫌いですから。

 人の死を楽しみ、喜ぶなんて……絶対に許せません。

 助けてくださることは感謝していますが、それだけは絶対に、これからも譲りません……」


「ああ、それでいい。俺はお前の行動を縛るかもしれないが、心だけは自由でいろ」


「ええ、約束します。ずっとずっと自由にブレイカーさんを嫌いでいつづけます。

 私や桃花達が死ぬ場面を見たいようですから!」


 早速、嫌われてしまったようだ。

 俺は気にせず学校敷地内を進んで行く。


「さてと、それじゃあ俺も校舎内に付いていくが──」


 レイネはこちらに嫌悪感を向けながら、


「知り合いに見られたら怪しまれますし、私1人で大丈夫です!」


 学校の中に入っていった。

 やれやれだ。


 さて──この時間の延長線上。未来死の魔眼(バッドエンドアイ)で視た内容の通りに進むのなら、ここから見える体育倉庫で3人組が“家庭科室から持ち出した包丁”で刺し合い、生き残った桃花が扉から出てくる。


 そして──あの土産モナカのように切腹だ。


 それを思い出しながら俺は校庭で待機。

 校舎の壁に寄りかかり、スマホを取り出していつものスタミナ消費に(いそ)しむ。


『そんな態度を取るから、いつも異性から嫌われてしまうんですよ?』


 イヤホンから聞こえてくる、エレクトラの通信。

 事務所の地下格納庫で待機しているはずだから、こちらの会話でも聞いて暇を潰していたのだろう。


「なんのことだかわからんな」


『御主人様の最低最悪な趣味もおありだと思いますが、同時に死を視るということは、手元に置いておけば彼女を助けやすいのでしょう?』


 俺は何も答えられず、ゲームのスタミナを黙々と消費していく。


『今回わたくしを連れて行かなかったのも、敵が計画的犯行なのと、あの異能(・・・・)を警戒してのことですね。この(あわ)れな人形の身を案じて──』


「また服を汚したとか、文句を言われるのが面倒なだけだ」


『そのような性格だから、良い事をしている割に嫌われるのですよ』


「俺は、俺が嫌われるような世界が大好きなんでな」


『……では、わたくしも今まで通り、愛すべき御主人様を嫌い続けましょう。

 それがアナタの望みなのですから』


 俺は苦笑しながら、乱暴に通信が切られる音を聞いていた。


 ……それにしても学校か。

 俺は楽しい想い出があまりない。

 あそこは良い人間であっても、悪い人間であっても出る杭は叩かれる。


 クラスカーストという、くだらない集団リンチの基準。

 それが世界の縮図に思えて、何事にもやる気が出なくなった。

 そんな灰色の生活に彩りを添えてくれたのが幼なじみの2人だ。


 誰に対しても優しく、見下さず。エレナと導賢(みちまさ)はそんな善性な奴ら。

 今の俺に人間的な部分が若干でも残っているのは、2人のおかげだろう。

 いつか不確定領域(ラヴィリンソス)のダンジョンから導賢の死体を見つけられたら、エレナを助けられなかったことを詫びたい。


「……チッ。俺としたことが昔の事を思い出すとはな。夕日のグラウンドが感傷的にでもさせたのか?」


 時間を見ると、もうそろそろ事態が進展しそうだ。

 未来死の魔眼で見た壁掛け時計が間違っていなければだが。


 ──と、そのとき。少女達の話し声が聞こえてきた。


「ねぇ、(あね)さん。あたいら、なんでレイネに突っかかっていたんでしたっけ?」


 顔を向けると、校舎からグラウンドに出てきた3人組だった。

 どうやらこちらには気付いていないようだ。

 俺はそのまま観察することにした。


 ……レイネがうまくやってくれていれば、この3人の死は回避されるはずだ。


「んん? そりゃあ、お前……アレ? なんでだっけ?

 ええと……確か、男を取られそうになったからとかお前らが……」


「そのことなんですけどね、まーくんに聞いたら、レイネのことを知らなかったみたいで……。なんでうちが勘違いしてしまったのかわからないんですよ」


 たしか担任の男性教師(・・・・・・・)から頼まれて、体育倉庫に向かっているんだったな。

 そこで唐突に3人は“家庭科室の包丁”を取り出して、お互いを刺してバッドエンド。


「なんだよそりゃ。勘違いであんな大ごとになったのかよ」


「それに、あの偽ブレイカー先輩とも親しくなかったはずなのに……なんで電話なんてしたのか……」


「むしろ姐さんは、転校してきたレイネのことを気にかけて、最初は色々と世話を焼いてましたよね。よく先生に相談もしてましたし」


 以前は親しかったのに、ここまでの行動に移らせるとは──。

 本性を隠している犯人(やつ)は、やはり身近で入念な準備をしていたのだろう。


「ば、ばか! 別にあいつのことなんて気にしちゃいねーよ! ……けど、確かに悪くは思ってなかったはずだよな……あたし達……」


「です……よね……。何か不気味に思えてきましたよ」


 たぶん、本来は桃花の父親を失脚させるため。

 それを前日の偽ブレイカーの罪で処理させようとしたのだが、本物であるブレイカーの俺に邪魔をされた。

 そして、あせってこの惨状を引き起こしたと予想する。


「ま、まぁ、あいつも許してくれたし、これからは仲良くやっていこうぜ!」


「ですね!」


「うんうん!」


 3人組は文字通り仲良く、今から殺し合いをするそぶりを見せずに体育倉庫に入っていった。

 俺はそちらを見ずに、周囲を観察する。

 あの場所で起きる殺人の結果を確認するであろう──犯人を捜すために。


 大体の予想はついている。

 犯行現場に視線が届く校舎の窓か、そこらだ。


「──いた。やはりアイツか」


 一瞬だけ見えた人影。

 感じられた魔力のニオイ。


 どうやら、いま体育倉庫から出てきた桃花を確認したようだ。

 赤い液体をまき散らして、未来視の通りに倒れている桃花を──。


「今回は予備弾薬もちゃんとあるな」


 俺は愛銃の確認をする。

 前回は……エレクトラに渡してある遺物“32次元ポケットの転移装置(タルタロスゲート)”で、強制転移で抜き取られていたためである。

 今回はアイツの機嫌がいいため、そういうことはされていないようだ。


 逆に、不測の事態に備えてアレを転送してもらう準備すらしている。

 ──アレは、不確定領域の超大型モンスターの大群とやり合うのに使っていたくらいで、最近はろくな調整もしていなかったのだ。

 まぁ、後処理が面倒なので、使わないで済むのならそれが一番なのだが。


「ブレイカーさん! やりましたね!」


 校舎から出てきて、こちらに走ってくるレイネ。

 計画は成功したようだ。

 3人組の死因がわかっているのなら、その凶器をなんとかすればいい。


 事前に用意してあった“血糊袋付き撮影用包丁”を、本来の凶器である“家庭科室の包丁”とすり替えて置いたのだ。擬似的に刺して引っ込んだ瞬間、スタンする仕組みの。


 なので三人組は倒れているが、血糊に汚れて気絶しているだけ。


 それを1人でやり遂げたレイネはしたり顔だ。


「ああ、初仕事にしちゃ上出来──だ──」


 レイネの虚ろな瞳、近付いてきて初めて気が付いた。


「ブレイカーさん。犯人は私です。おわびに自殺します」


 レイネはそう無気力に呟くと、回収していたであろう本来の包丁を取り出した。

 俺はしまったと思った。

 確かにそう。この事態は想定しておくべきだった。


「さようなら──」


 自殺のモーション。

 レイネは勢いよく、自らの首に包丁を突き出す。

 飛び散る鮮血。


 ──レイネの美しい顔を、死化粧のように赤く染める。


「……馬鹿か」


「なんで……? 私を……たすけ……?」


「俺の前で、もう死なせるわけねーだろう」


 間一髪、レイネの首に包丁を到達させることは防いだ。

 俺の右手のひらに、包丁を貫通させて。

 傷口が熱い、血が腕を伝ってスーツに染み込む。


 本当はもっとスマートに対処すべきだったが、レイネの腕を掴み損ねる危険性より、包丁の進行方向に手をかざした方が確実だったのだ。


「だって……ブレイカーさんは、バッドエンドが好きなんでしょう……?」


未来死の魔眼(フィクション)のバッドエンドは好きだが、現実のバッドエンドは糞喰らえだ。

 だからレイネ。お前を死なせない」


「……ブレイカーさん。逃げて……ください……。私のことは放っておいて……」


「右手くらいでギャアギャア騒ぐな」


 そう言った瞬間、レイネが空いている方の手に包丁をもう一本持っていることに気が付く。

 そして知らない男の声が聞こえてくる──。


「動かないでくださいね、そこの人。

 動けば、レイネ君に舌を噛み切らせましょう。

 すぐ死ななくても、喉に舌が詰まってオモシロイことになると思いますよ?」


 ──本当の犯人の声。

 最初からレイネが犯人ではないとわかっていた。

 俺が見かけた人影は男だったからだ。


 たぶん動揺させるために、三人組と同じように準備を仕込んでいたレイネに色々と言わせたのだろう。


「よう、やっぱりセンコーってのはろくな奴がいないな」


「失礼な。私は真面目で勤勉ですよ。この計画もアナタがいなければ、桃花君の父親である伊藤首相の失脚に繋がったものを」


 予想通りだな。

 今回の突発的な3人組の行動からして、アレは催眠術──。


 魔術師が使う催眠術は、そこまで強力なものでは無い。

 身近にいて、警戒心をときほぐし、十分に準備催眠の影響を与え続けなければならない。

 1人だけなら親兄弟、その他の候補は大勢だろう。


 だが、今回は3人同時だ。

 すべての条件を満たして、3人組に横やりが入らない体育倉庫に行くように指示した人物──それは担任教師(コイツ)だ。


「レイネ君。律儀に動かないでいる彼の──もう片方の手のひらを突き刺してあげなさい」


「や、やだ……やめてください先生……。私は……したくない。ブレイカーさんのことを誤解していた……本当は良い人で……」


 俺は無傷の左手を差し出す。


「ククク……。レイネ、俺を嫌いになるって約束しただろう? 俺はそれが心地良い、遠慮をするな」


 レイネの意思とは無関係に、包丁が俺の左手のひらに突き刺さる。


「うぐッ、キリスト様もびっくりの聖痕だな……ハハハ!!」


 俺は嗤いながら、その場を後ずさった。

 ──包丁を左右の手のひらに刺しながら。

 下手に抜いてしまうと出血その他でさらに面倒になる。

 だが結果的に、これでレイネから包丁を奪い去ることができた。


 レイネは催眠術が解けたのか、そのまま体勢を崩して意識を失った。

 それを見てニヤニヤとする男性教師。


「聞いていた話より、どうやらお優しいようですね。ブレイカー」


「へぇ、俺のことを知っているのか」


「ええ、最強の魔銃を使わせたら、誰も敵わない無敵の魔術師。魔都東京の切り札、バッドエンドブレイカー。話は彼から聞いていました」


 悪い予感が的中だな。

 ここ最近、普通は出回らない魔力精製ナノマシンが流出しているということは、裏に何かがあると思っていた。

 どうやら意図的に誰かが流し、そいつが俺の情報もコイツに渡していた可能性が高い。


「両手を使えなくした時点で私の勝ちですが、念には念を入れましょうか。せっかくのもらい物もありますし、それに──」


 男性教師は、聖職者である仮面を脱ぎ捨て、その醜い獣性を帯びた享楽の表情を見せた。

 カジノでブラックジャックを確定させた客のように。


「それにねぇ! 私はムカついているんですよ!

 大胆かつ綿密に計画を立てたというのに、それをこうも邪魔立てされて!!

 ええ、いわゆる腹いせというやつです! 巨大な鋼鉄に潰されて死になさい!」


 男性教師の背後の空間が歪み、6メートル程の存在が出現する。

 それはこの前戦ったロボット──二足歩行機械(ZYX)。いや、違う。

 前回のは作業用。


 これは軍用だ。

 重厚なシルエット。大口径のバルカン砲や、大型の対魔力電磁アーマー装備。

 しかもそれを空間転移させてきている。

 どちらも、この男が元から持っていたとは思えない。


 特に空間転移に必要な遺物は、世界に数個というレベルだ。


「どうですか!? この私の力は!! 文字通り手も足も!

 右手も左手も出ないでしょう!

 魔銃を握れない魔術師など、戦闘能力は皆無に等しい!」


 もらったばかりの力だと自分で白状していた割に、もう自分の力だと錯覚しているようだ。


「──それだけなのか?」


「な、なんですか突然……」


「──それで本当に、軍用の二足歩行機械(ZYX)はたった一機だけ?

 もしかして冗談か?

 俺を殺そうとするのなら数十、数百機は用意してあるんだろう?」


「こ、この窮地で何を笑っている? 武器が使えなくなり気でも狂いましたか……」


 確かに俺は笑っていた。

 だが、それは狂ったのではなく、期待外れからの失笑だ。


「元々、その機械は俺が発掘してきたある遺物(・・・・)を量産化したものだ。

 どんな窮地でも逆転させる機械。

 もう後が無いという意味の“XYZ”を“ZYX”に逆転させる機械。

 ──となると、そのオリジナルを俺は所有していることになるよなぁ?」


「ま、まさか──」


 こちらをモニターしていたのか、エレクトラからの通信がタイミング良く入る。


『座標確認、“転移装置(タルタロスゲート)”作動。

 オリジナルZYX(ジックス)──“雷鎚(ミョルニル)

 ──3……2……1……0……転送致します。御主人様、踏まれないでくださいね?』

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