表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

フラグ5 JK三人組BADEND

※三人称視点

 レイネとブレイカーが出会ってから一日が経った。


「なんだったんだろう、あれ……」


 レイネは高校の休み時間、昨日のことを思い出していた。

 3人組に絡まれて、喫茶店でエレクトラさんと話して、廃ビルに呼び出されて、酷い目に遭いそうになったところをブレイカーさんに助けられた。


 それも普通の助けられ方では無い。

 いくらダンジョンみたいな不確定領域(ラヴィリンソス)が近いとはいえ、この日本で銃撃戦があったり、巨大ロボットを倒したり。


 なぜかビルから落とされたはずの子猫も無事。

 ブレイカーさんは、まるで相手の動きがわかっていたかのようだった。


 現実感の無い、夢のようだった。


 それにあの後、エレクトラさんが──。


『事後処理は全てやっておきますので、今夜は安心してお休みください。警察なども介入はしないでしょう』


 と言ってくれたのだが、本当にあれだけの大ごとでも家に警察はこなかった。

 それどころか死者が多数出たはずなのにニュースでも流れていない。


「夢……だったのかな?」


 レイネの常識と照らし合わせると、もうそれくらいしか答えを出せなかった。

 現実だと証明するには、その場にいた人間に確認するくらいだ。


「よう、レイネ!」


 休み時間の教室でまどろんでいる中。

 丁度良く声をかけてきたのは──昨日の3人組のリーダーである少女。


「あ、桃花(ももか)さん。お身体は平気ですか?」


 ──クラスメイトの伊藤桃花だった。

 背はレイネより若干低いが、バストやウェストなどのスタイルは桃花が(まさ)っている。

 髪型はポンパドールという、前髪を後方に引っ張ってセットしたもの。おでこがピカリと出ていて、軽いリーゼントをしたニワトリのトサカのようになっている。


 いつもはきつい目付きの印象だが、今に限っては伏し目がちに遠慮がちといった感じだ。


 今日は手下の2人を連れていない。


「平気に決まってんだろ。あたしより、レイネの方が殴られてたじゃねーか……」


「あはは、平気ですよ。ちょっと倒れた時にあごをすりむいたくらいですから」


「ちょ、ちょっと待ってろ……」


 慌てたそぶりの桃花は、自分の席へ戻ってゴソゴソ。

 何かを探し当ててから、レイネの席へ戻ってきた。


「こ、これ貼り付けてやるから動くなよ」


 ぶっきらぼうに言い放ち、レイネに顔を近づけた。

 意外にも白く繊細な指が、こわれ物を扱うように丁寧に作業をしていく。


「わわ、ありがとうございます」


「た、ただの絆創膏だ。これで昨日の借りを返したなんて思っちゃいねーからな!」


 それは擦りむいたアゴに貼り付けられた、可愛いピンクのハートマーク付きの絆創膏。

 乱暴な印象だった3人組のリーダーには似合わない。


「あの……桃花さん、つかぬ事をお伺いしますが……」


「なんだよ?」


「昨日のこと、現実ですよね……?」


 一拍おいた後、溜め息と共に桃花は返事をした。


「ああ、ありゃ現実だろうな……。両親の仕事柄、アレがなんなのか知ってるよ」


「アレとは、魔術師という方々ですか?」


「そうだ。横流しされた軍用ナノマシンをクスリと呼んで、それを使って魔術師になった奴ら。

 ……と、ナノマシンを使わなくても魔力を精製できる、世界に少数いる本物の魔術師」


 田舎に住んでいたため、そういうことに疎いレイネ。

 情報通の桃花を尊敬の眼差しで見つめた。


「そんなことを知っているなんてすごいです!」


「ま、まぁな。昔、本物の魔術師に助けられたことがあってな。

 昨日のブレイカーってやつも悪くはなかったが、あたしの中じゃ一番の魔術師じゃない。

 ……そういえば、昨日アイツからすごいことを言われてなかったか、レイネ?」


「あ~……言われましたね」


 レイネは今思い出しても赤面してしまう。


「『お前、俺のモノになれ』だったっけ?」


「で、ですね……」


「それでどうなんだよ? んん?」


「もちろん、お断りしましたよ!」


 昨晩、レイネは恩義を感じながらも、すぐにブレイカーに対してノーで答えた。

 恋愛に疎いレイネにとっては、そういうことは結婚を前提にするものなのだ。


「結構、顔は良かったと思うけどなぁ。なんか良いスーツ着てるくせに、妙に着こなしがだらしなかったけど」


「た、確かに格好良いですけど、それとこれとは別です! 男女がお付き合いすると言う事は、すごくすごく真剣で大切な営みなんですから!」


「お、おう……。なんかあたし、レイネのことを誤解してたわ……。

 もっと海外風に誰でも食っちまう感じなのかと」


「あの、私は生まれも育ちも日本ですからね……。しかも田舎から出てきたばかりで、東京が異世界に思えます。実際に魔術師とかもいましたし──」


 すると突然、桃花は頭を目一杯下げた。

 謝罪である。


「悪かった! 誤解していた! 許してくれ!」


「い、いえ。あの、ただ色恋に疎いことを誤解されていただけなのですし、そんなに謝られても……」


「ちげぇよ! 昨日のこととか、今までのことを全部だ!

 許されないかもしれねぇけど、あたし以外のふたりは責めないでやってくれ!」


 その謝罪は豪快で男らしいとも言えた。

 頭を深々と下げて、心からの言葉を真っ直ぐ相手に向ける。

 普通なら、あれだけの事態に発展したのだから許されないのかもしれない。

 だが──。


「元々、怒っていませんでしたが、許しますと言っておきます」


「ほ、本当か!?」


「だって、あなたは子猫ちゃんを気にして、見に来ていたのを知っていますし。

 それで私があそこに通っていると知ったのでしょう?」


「し、知るかよそんなこと……」


「それに何だかんだ言っても、実際に暴力を振るわなかった。

 実際に目の前にいて殴ることと、殴るぞ! と言うだけは果てしなく大きな違いがありますから」


「で、でもよ……あたしは……。レイネに殴られたっていいくらいの……」


 桃花の震える声に、レイネは気が付いていた。

 たぶん自分が怖いのだ、許せないのだ。


 ──なぜ、あんなことをしてしまったのか理解していなかったのだから──。


「じゃあ、わかりました! 桃花さん! あなたを今からグーで殴ります!

 全力で! 精一杯! 手加減無しで!」


「お、おう!」


 桃花は頬を差し出し、覚悟を決め、ギュッと目をつぶった。

 歯を食いしばって衝撃を待つ。


 ……待つのだが、いつまでたっても拳が飛んでこない。


 恐る恐る目を開けると、そこには目を細めて微笑んでいるレイネがいた。


「どうですか? 言葉の暴力というのは、意外とビクッとしてしまうでしょう?」


「な、殴らないのか?」


「はい。言葉で殴られたのなら、言葉で殴って、おあいこです。

 それに……ふふ。

 目をつぶって待っている桃花さんが可愛らしかったので、いくらでも許します」


「んなッ、何を言ってるんだよバカ! あたしが可愛いはずねーだろう!」


 頬を桃のように染めてしまい、言い訳をしている場面すら微笑まれてしまう。

 桃花は、こいつには敵わないと心底思った。


 そんな和やかな雰囲気の中、がらりと開く教室の扉。

 担任の男性教師が入ってきた。


「おー、おー。お前ら友達になったのか。

 仲良きかな……というか、それ以上の関係まで行ってしまうか?

 まぁ、それより授業を始めるぞ~」


 優しい表情の男性教師は笑いながら2人を茶化していた。


「そ、それ以上の関係ってなんだよ! 先生!」


「はっはっは、何を勘違いしてるんだ。かけがえのない親友ってことだよ」


 気の良い先生と評判の彼は、ウィンクをしてから教壇に立って授業を始めた。




* * * * * * * *




 放課後、3人組は学校に残っていた。

 男性教師から頼まれごとをされていたためである。


「ねぇ、(あね)さん。あたいら、なんでレイネに突っかかっていたんでしたっけ?」


「んん? そりゃあ、お前……アレ? なんでだっけ?

 ええと……確か、男を取られそうになったからとかお前らが……」


「そのことなんですけどね、まーくんに聞いたら、レイネのことを知らなかったみたいで……。なんでうちが勘違いしてしまったのかわからないんですよ」


 3人組は話しながら体育倉庫に向かっていた。

 男性教師は用事を済ませてから来るという。


「なんだよそりゃ。勘違いであんな大ごとになったのかよ」


「それに、あの偽ブレイカー先輩とも親しくなかったはずなのに……なんで電話なんてしたのか……」


「むしろ姐さんは、転校してきたレイネのことを気にかけて、最初は色々と世話を焼いてましたよね。よく先生に相談もしてましたし」


 桃花はレイネとのことを思い出して、顔を再び赤くしてしまう。


「ば、ばか! 別にあいつのことなんて気にしちゃいねーよ! ……けど、確かに悪くは思ってなかったはずだよな……あたし達……」


「です……よね……。何か不気味に思えてきましたよ」


 体育倉庫に辿り着き、持っていたカギで扉を開ける。


「ま、まぁ、あいつも許してくれたし、これからは仲良くやっていこうぜ!」


「ですね!」


「うんうん!」


 中に入った3人は、いつの間にか鞄に入れていた家庭科室の包丁を取り出した。


 そしてそのまま、お互いを刺した。


 腕を。腹を。首を。


 死ぬまで刺した。


 血液が飛び散り、密室だった体育倉庫はジメジメと湿気が酷い。


 最後に生き残った桃花。


 表情の無い顔で外に出てから──腸をまき散らして自殺した。


 あまりにも唐突な死であった。




* * * * * * * *




 後日、葬儀がとりおこなわれた。

 言い争いから発展した殺人として処理され、桃花の父親はマスコミに追求されて職を辞した。


 レイネは、綺麗に死化粧(エンバーミング)された桃花を見下ろしながら後悔した。

 不審な点に気が付いてあげられなかったこと。

 助けられなかったこと。


 先生が言った通り、これから親友として共に歩んでいけると思っていた。


「それなのに……なんで……桃花さん……。

 こんなことになるのなら、私はなんだってしてあげたのに……」


 溢れでる大粒の涙。

 いくら死者のために想っても、もう時間が巻き戻る事は無い。

 死者は蘇らない。 




 これを過去から見ていた男──ブレイカーは呟いた。


『だから、先に死を視ておくのさ』


 彼は時間を巻き戻した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ