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東京ダンジョンを最速攻略した引退魔術師は、未来視で少女たちを助けるのが趣味なようです  作者: タック
過去研究者編

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2/16

フラグ2 俺のBADEND

 この東京に魔術師モドキはいるが、本物の魔術師はいない。


 俺が昔、幼なじみの少女と少年に言った言葉だ。




 あるとき小学校で幼なじみのふたりが、絵本を見て魔術師の実在性を聞いてきたのだ。

 だからこう答えた。


『身体に穴を開けて装置を通して、そこから火を出したり、電流を流したりするトリック使いの手品師(マジシャン)は実在するぞ?』


 ──と。


 その答えを聞いて、幼なじみ2人は笑っていた。

 もっと本当に夢のような、奇跡のような、本物の魔術師のことだよ。と言われてしまった。

 俺はやる気の無い表情で返事をしてやった。


『つまり、この東京に魔術師モドキはいるが、本物の魔術師はいない。ってことだ』


 それが俺の答えだ。

 ──といっても、それも昔の話。

 俺達は既に成人して、研究者になっている。


 まぁ、俺達3人が在学時に作り上げた“ナノマシン理論”が発展すれば、もうちょっとマシな魔術師モドキができるかもしれないが。


 元は難病の子を救うために、大学の共同論文として3人で……俺は雑用だったけど3人とカウントしておこう。とにかく3人で作り上げた画期的なナノマシン理論。


 使い方は人工臓器発電用(バッテリーチャージ)と、体内検査(スキャン)を兼ねる非万能型微細機械(ライトナノマシン)なのだが、副産物としてデンキウナギ的なこともできるとわかったのだ。


 簡単にいうと、指先からパチッと静電気を出せるのだ。

 出せたところでどうなるって?


 ……科学的なものは理論だけ説明してもつまらない。

 そこで実験をして目の前で効果を見せると『デンジ○ウ先生! オモシロイ!』みたいになって、興味が拡がって……だな……。


 ……はぁ……。


 とどのつまり、今日も地球はノーファンタジー。


 学校で共同論文を出した後のナノマシンは俺達の手を離れた。

 もう俺達は夢を手放して、学校卒業して、就職して大人になったのだ。





 今日も超常的なことなんて起きないで、俺は今プレイ中のスマホゲーのガチャをにらみつけ、SSR1%を引ける奇跡でも起こった方が何百倍もマシだと思っているわけである。


「無課金プレイヤーの俺が挑む最後の石だ! 頼む! SSRこい!」


 元々、貧乏学生だった俺。就職した今でも金が無い。

 以前、ガチャにハマって生活費……家賃まで使い込んでしまったことがあるため、幼なじみ2人から課金禁止令を発動されてしまっているのだ。

 ダメ人間な俺の事を思ってなのは嬉しいのだが……ガチャの誘惑が……だが課金するとリアルで瀕死になってしまう。


 そういう悲喜こもごもな感情を込めた、究極の無課金ガチャなのだ──!

 結果は──!?


「……なんてこった……ハズレのノーマルレアかぁ」


 脱力……ッ!

 当たり前すぎる結果に圧倒的脱力……ッ!!


 悲しみを紛らわせるため、スマホからSNSに書き込むことにした。


『ノーマルレアをゲーム運営に投げつけたい』っと。


 俺のハンドルネームは“ブレイカー”だ。

 昔からゲームでも使っていたため、幼なじみからもそう呼ばれている。


 正直、ちょっと恥ずかしい。

 中肉中背、黒眼黒髪の日本人なのにブレイカーと呼ばれると、何かゲームのオフ会的な雰囲気を(かも)し出すことになる。

 思い出すだけで赤面ものだ。


 よし、色々と精神的にダメージを受けたので今日はもう、ふて寝しよう。

 やる気が出ない。


 あー、大学出て研究者になって、一番良かったのは個室がもらえたことだな。

 研究所内のせまい一室だが居心地は良い。

 こうやって気兼ねなくふて寝でき──……ん? SNSで速攻イイネが付けられた。

 俺ってもしかして人気者なんじゃ?


『そんな事をしてないで、早く仕事しに来なさいよ!』


 イイネに続いてのダイレクトメッセージ。

 ……例の幼なじみの少女──エレナだ。

 怖くてガクブル、という感情と、もう一つ複雑な気持ちがアイツへあった。


 以前は幼なじみで、クラスメイト。


 現在は同僚であり……なぜか初々しい恋人である。

 数日前、突然の告白をされて、俺は訳もわからずオーケーをしたのだ。


 本当になぜ俺なんかに告白してきたのかは分からない。

 長い付き合いだし、嫌いでは無いのだが……。

 いまさら幼なじみとの距離感が掴めないでいる。


「さてと、エリート様達のところへ雑用係の俺が行きますか」


 本当はグータラしてたい。

 だが、お仕事をしなければクビになってパンの耳生活に直行だ。

 俺は研究所のユニフォームである白衣に袖を通して、機密区画ブロックへ向かう事にした。




* * * * * * * *




 大学で俺は、正直言って落ちこぼれだった。

 いや、小学校、中学校、高校と落ちこぼれだったと言った方が正確だろうか。

 何事にもやる気が出ないのである。


 そのため勉強も、良い成績と悪い成績が極端に並んでた。


 いつもお勉強ができる幼なじみのエリート様2人にくっついて、なんとかこの研究所に就職できた。

 我ながらよく“お祈り”をされなかったと思っている。


 面接で趣味の話が出たときも『あ~、そっすね。趣味はノベルゲームのバッドエンド回収っす』とか言ってどん引きされたというのに。

 無難に読書とか言っておけば良かったかも知れない。

 ラノベくらいは読むし。


 そんなわけで“歴代で最も優秀な新人ふたりのオマケ”とか“雑用のエリート”と言われている。

 俺としては言い返す気も起きない。

 やる気の無い俺は、まったくもってその通りだからである。


「もう、遅い! 私達はともかく、所長を待たせるとかあり得ないでしょう!」


 現場に入った途端、恋人となったはずのエレナに怒られてしまった。

 公私混同しないタイプなのだろうか。

 だが、さすがの金髪ハーフ。怒った顔も凜々しく可愛い。

 揺れるサイドポニーを手で触りたくなる。


 ちなみに今いる現場。

 東京のど真ん中から発掘された“巨大な黒い石版”──とかいうのを調査するために作られた建物だ。

 ……まぁ建物といっても、発掘現場に壁と屋根をつけただけの簡素なものだが。


「まぁまぁ、彼──“ブレイカー”は大器晩成の天才肌なんですから。

 我らがマサチューセッツ工科(MIT)大学でも異端中の異端児だったのですし」


「俺の事を“ブレイカー”言うなよ、導賢(みちまさ)。それはSNSのハンドルネームだろう。

 ……ったく、普段は本当にやる気が出なくて、ゲームのボタン一つ押すので気力を使い果たすんだぞ……ふぁ~あ」


 これがもう1人の幼なじみの導賢(みちまさ)である。

 俺とエレナと導賢(みちまさ)で、もう十数年の付き合いだ。


 ……それとブレイカーという俺の呼び方は止めて欲しいが、何度いってもブレイカーと呼ばれてしまう。気に入っちゃってるのかコイツら。


「ブレイカー。いつもあなたは、ワザとギリギリの成績を保っていましたね。

 ナノマシンの共同論文のときも、難病の少女のために偶然を装って起死回生のアイディアを──」


「ないない。いつも雑用の俺を買いかぶりすぎだろう」


 フォローをしているのか、親しい故の嫌みなのか。

 笑いながら丁寧口調でそう言ってきた。


 この導賢(みちまさ)は、エレナに負けず劣らず美形である。

 しかも長身。

 やつら2人並ぶと理想の美男美女だ。


 幼なじみの俺からしたら、絶対にこの2人が将来結婚すると思っていたのだが。


「さて、それでは機材を運び込んで準備した後に、予定されていた第一フェイズから始めよう」


「分かりました。所長」


 エレナの父親である所長。

 彼は日本人なので、エレナの母親の方が地中海美人なのだろうか?

 あと、室内にいるのはお偉いさんのお坊ちゃんらしき見学者くらいだ。

 こんな少ないギャラリーですまないな、大昔の石版さんよ。


 これが未知の物質なら数百人、数千人が関わる大プロジェクトになっていただろうけど、ただの硬い石にギリシャ文字が彫られただけのものなのだ。


『全知全能 神の代理 星の中心 力を与えよう Ἄτλας(アトラス)


 内容は短い言葉の羅列。

 偶然、既に建っていた研究所付近から掘り起こされたとはいえ、こんなものを研究すると決めた上の連中の気が知れないくらいだ。


 まぁ、俺は雑用で適度に手を抜けるので助かっているが。


「ああ、そうだ。ブレイカー君」


「所長までその呼び方……」


 中二病ハンドルネームを現実でバラされるとこうなる。

 もうちょっとマシな名前にしておけばよかった。というか本名で呼ばれたい。


「娘がお世話になっているようだね。これからも宜しく頼んだよ」


「は、はい」


 なぜ、所長に俺達の関係が知られているんだ。

 もしかして、エレナ本人が話したのか。

 いきなり父親からの先制パンチとか、緊張と気恥ずかしさで震えてしまう。


 これって、もしかして後々はお義父さんと呼びなさいみたいな流れになっていくのだろうか。

 そう考えると、先に父親公認というのは心強いのか……?


 俺の方を見て、エレナが笑っていた。

 たぶん未来の家族像でも想像していたのだろう。




 ……今後の事を考えれば、この時が一番幸せだったのかもしれない。

 まだみんな生きていたのだから。




* * * * * * * *




 あれから一日が経った。


 昨日の実験は、つつがなく進行した。

 アクシデントがあったとすれば、スキャン中に石版が一瞬だけ“光を放った”かのように見えた程度だろうか。

 たぶん何かが反射したのだろう。

 データ上は特に異常もなかったし。


「はぁ……それにしても変な夢を見ちまったなぁ……」


 ──その達成感の安堵からか、昨日はおかしな夢を見た。



……


…………


………………



 神様みたいな視点から、俺自身を見下ろす夢だ。

 その中で俺は、“朝の日課である缶コーヒー”を自販機の前で飲んでいた。


 一本を飲みきる前に、所長からメールが入る。


『忘れ物をしたから、昨日の実験場所へ取りに行ってきてくれないか?』


 ──と。

 俺は快諾し、昨日行ってきたばかりの実験場所へと移動した。

 すると突然、地面が崩れ去っていき、それに飲まれそうになる。


 ……地面が崩れ落ちるなんて現実感が無い? そりゃそうさ、夢だからな。


 さらに現実感無く、何かの爆発によって吹き飛ばされて、壁面にぶち当たって俺は死んだようだ。

 まさか自分自身のバッドエンドを見るとは、夢にも思っていなかった。



………………


…………


……



 ──いや、そうだ。だから夢なんだよなアレは。


「鬱ゲーのやりすぎだろうか。いや、でも自分が死ぬのを見られるのは面白い経験だったな」


 その通りで、目覚めは最悪──とまではいかない。むしろ楽しいまでもある。

 割とバッドエンドというのはフィクションで見慣れているというか、その最悪の人生最後というのが、人間の価値であるとも考えていたからだ。


 俺のバッドエンドに点数を付けるのなら、死に際に(なげ)かなかったけど、あっさり死にすぎたので50点というところか。

 良くもないし悪くもない死に方だ。


「さてと、起きるか」


 俺は物思いにふける頭を切り換えて、ベッドから降りた。

 そして……部屋を出て、研究所内の廊下にある自販機に向かい、“朝の日課である缶コーヒー”を飲み始める。

 特にコーヒーにこだわっているわけでは無いが、何となく続けているだけである。


 たぶん朝にコーヒーがなくても平気だが、あった方がいいかなという程度。

 こうして最後まで飲み干すと、今日も一日が始まったという感じが──。


「……ん?」


 ヴヴヴヴ、とスマホが震動する。


 ──缶コーヒーを飲みきる直前に。


 少し嫌な予感がした。

 来ていたのは一通のメール。


「まさかな。さっきの夢じゃあるまいし……」


 もしこれで“忘れ物を~”という話が出たら……。

 恐る恐る内容を確かめた。


「忘れ物をしたから、昨日の実験場所へ取りに行ってきてくれないか? ときたか……マジかよ」


 デジャヴ……というやつだろうか?

 いや、違う、はっきりと夢に見ている。

 となると、予知夢というやつだろうか?

 いやいやいや……まさかな。


 いくら俺が社会人として不適合者だからって、そこまで非現実的な妄想を信じたりもしない。

 ……しないのだが、こういう論文が出ていたことがあった。


『予知とは、人間が取りこぼしてしまうような些細な情報を無意識のうちに蓄積させ、つなぎ合わせること。

 そして未来を予測しているにすぎない』……とか。


 つまり無意識の内に、視界の隅で所長が忘れ物をしていたのを見ていたり、地盤に違和感があったりしたから、それっぽい夢を見てしまったのだとも考えられる。


 だが、大々的にそんな事を言って、予想が外れてしまったら奇人扱いされて社会的に終わりだ。


 謎の黒い石版の光に当てられて、未来がわかるようになりました! とでも言えというのか? 頭がやばすぎるだろう。


 ……真面目に仮説に対する検証が足りない。

 次に起こる可能性があるのは、あの実験場の崩落と爆発だ。


 幸いな事に、あの場所での次の実験は二日後。

 それまでは誰も立ち入る事は無いだろう。

 俺はメールの返事を書き込んだ。


『ちょっと用事があるので無理です! 本当にすみません!

 でも、二日後に行くんですし、その時に取りに行けばいいのでは?』


 つまりお断りだ。

 本当になにか起こると確証はない。

 だけど気味が悪くて行きたくもない。


 それに所長にも、それとなく“二日後にいけばいい”と提案することによって最悪の場合でも被害者0だ。あらゆる面からベターな答え。


 所長からメールの返事はすぐに返ってきた。


『そうだな。確かに急ぐほどの物でもなかった。

 いつも暇をしてそうな君に頼むか、何かのついでにでもと思ってね。

 次の実験段階(フェイズ)まで待つとしよう』


 完璧である。

 これで予知夢の妄想という、ちょっとした後味の悪さからも解放された。

 あんなへんぴな実験場、普段は人が入らない。

 二日後まで実験場の使用予定が無いのだから、本当に今日なにかが起きてもこれで安心だ。




 ──だが、その数十分後、所内に大きな震動が響き渡った。


 俺はもしかして……と思いつつ、胸騒ぎがしてエレナに電話をかけてみた。


「もしもし、エレナ? 地震があったようだけど、大丈夫か?」


『た、大変なの! 石版の場所が突然崩れて、所長と導賢(みちまさ)君が──!』


 気が付いたら、俺は走り出していた。




* * * * * * * *




 どういう事だ!?

 もし俺が見たのが予知夢なら、それは回避したはずじゃなかったのか!?

 二日後まで、地下崩落と爆発が起きる実験場には、立ち入り予定は無かったはずだ……!

 なぜエレナ達が巻き込まれている!?


 もしかして、下手に運命を変えてしまったのか……?


 俺はそんな思考を振り払いながら、現場に向かいつつ、関係者に重大事故が起きたと伝えた。

 もうこの際、奇人だとか変人だとか思われても良い。

 今はエレナ達の安全が第一だ。


 ぜぇぜぇと息を切らしながらの全力疾走なんて、いつぶりだろうか。

 既に繋がらなくなった彼女のスマホ。何度かけ直すも無意味だった。

 永遠とも思われる通路をひた走り、やっと辿り着いた実験場の扉。


 パスを入力し、生体認証を済ませて開閉させる──と──。


「なんだこれ……」


 予知夢で見た光景が、本当に広がっていた。

 地面に開いた底の見えない大穴。

 何かの爆発が起きたかのように滅茶苦茶に荒れ果てた室内。

 いや、それだけならまだ良かった。


 予知夢では居なかった存在──エレナが倒れていたのである。

 白衣を血の赤に染めて。


「なんだよこれ! エレナ! エレナ!?」


 俺は呼びかけるも、無意味だと気が付いた。

 おびただしい出血に加え、首が折れて変な方向へねじれている。


「エレナ……どうしてこんなことに……」


 涙で歪む視界を必死に堪えながら、一歩一歩エレナの死体へ向かう。

 恋人という関係になったばかりで、お互いにどう接して良いのかわからなかった2人。

 それが一瞬で引き裂かれ、もう声すら聞けなく──。


「キテクレタノ……?」


「え?」


 エレナが……折れた首で喋っていた。

 声は……確かにエレナだけど、色々とおかしい。


「エレ……ナ?」


「ゴメンネ……ゴメンネ……」


 ギギギと油の刺していない機械のように骨格を振るわせながら、そのエレナは立ち上がった。

 そして、飛び掛かってきた。


「う、うわッ!?」


 正直、俺は混乱していた。

 明らかな致命傷のエレナにどう対処して良いのか。


「もう手遅れなの……ごめんね……ゴメンネ……コロシテ」


 尋常では無い力で、こちらを組み伏せてきているエレナ。

 一瞬、意思の戻ったような悲しげな眼と声だったが、すぐに声帯を震わせているだけの無感情なモノに戻った。

 俺は……全てを理解できたわけではなかったが……本能で理解した。


 何故か、頭の中で分かってしまった。

 もうエレナは二度と元には戻らないと。


 こんな俺でも、幼なじみだ。

 頼まれたのなら、殺してやらないといけない。

 狂気に満ちた考えだろうか?


 だが、愛……故だ。


 失ってから今更気付いた、エレナへの愛という感情。故の殺人。


 俺は、エレナだったモノを撃ち砕いてやりたい。


 ──そのバッドエンドを──。


 狂気のような感情が頂点に達したとき、俺の身体から何かがバチッと(ほとばし)った。

 それはエレナの身体を吹き飛ばし、地面に開いた大穴に向かわせた。


「──エレナ!!」


 俺は女々しい奴だ。

 自分でエレナを殺してやりたいと願ったにもかかわらず、何故かそれができてしまうとわかると後悔して、ありもしない希望に飛びついてしまう。


 エレナが大穴に落ちる直前、手を伸ばして腕を掴んでいた。


 なぜ間に合った……?

 吹き飛ばした相手に追いついて、それを掴めた……?


 やはり俺の身体が何か変だ。

 現代化学では説明できないレベルで身体能力がおかしい。

 例えるなら、自分で投げたボールに追いつくような俊敏さ。


 以前の俺はそんなもの持ち合わせていなかった。

 さっきの未来視といい、俺の身体はどうなってしまったんだ?


「優しい……んだね……。やっぱり……世界初の魔術師は、アナタのような人がなるべき……」


「魔術師とか、何を言ってるんだ! 今、引き上げ──」


「石版の近くに……さっき私が創った人形があるの。

 ……本当は妹にって思ってたんだけど、そんな泣きそうなアナタを見てると、アナタに渡した方がいいかなって思っちゃうじゃない……」


 何を言っているのか分からないエレナは、優しく笑いながら腕を振り払った。


「さようなら、私がずっと好きだった人──私だけのステキな魔術師──」


 底の見えない大穴に吸い込まれていくエレナ。

 俺のバッドエンドだろうか、それともエレナのバッドエンドだろうか。




 ……これが地球の魔術師による、人類最初の未来視の結果である。


 それから数年経ってもエレナの死体は、“不確定領域(ラヴィリンソス)”と呼ばれるようになった大穴から発見されていない。

 導賢(みちまさ)も、教授も……。

 この不確定領域(ラヴィリンソス)の発生事故に巻き込まれていたのか、行方不明のままだ……。


 あの黒い石版によって俺やエレナが変異したのだとしたら、同じ存在になっていたのかもしれない。


 俺は現場に残されていた、不自然な球体関節の魔動人形(オートマタ)を形見として受け取り、“世界初の魔術師”として政府から公認された。


 それから政府の元で働いた。


 テロ組織を装った他国からの首相一家の暗殺阻止。

 ダンジョンのように変質した不確定領域(ラヴィリンソス)の最短踏破。

 そこで手に入れてきた遺物(アーティファクト)を研究、解析して世界の技術水準を大幅向上。


 ──世界をノーファンタジーから、ローファンタジーにシフトさせた──。


 魔力という新たなエネルギーを精製できるようにした進化型ナノマシン。

 魔力を利用した魔銃や電磁アーマー。

 大小問わずの人型機械の開発。


 ほぼ俺一人でそれらをやり遂げ、国家に軽い(・・)貸しを作り──退職。


 それなりの自由と権利を超法規的に保障された後で、魔都と呼ばれるようになった東京で“探偵事務所”を構えている。


 名前はバッドエンドブレイカー。


 これから少女達の──非業の結末を撃ち砕く存在の呼び名だ。

本日は一区切り付く4話まで投稿予定です。

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