フラグ13 好奇心は猫をも
あれから数日が経った。
まだ女はしぶとく生きていた。
初日──探索エリアを広げたため、いくつか部屋を挟んだ先に異様な光景を目にしていた。
通路の先に、白亜紀を思わせるような広い密林があったのだ。
空間的にありえない。それでも女にとっては天の助けだった。
川や、果物を発見できたので餓死は避けられそうだ。
さらに現実味の無い小型の恐竜もいたのだが、なぜか女に対しては襲いかかってこない。
そこで水浴びをしてから落ち着いて──飲料水の確保、食料調達、ついでに大きな葉で靴や衣服を作った。
さすがに恐竜がいる場所で寝るのは怖いので、あの最初の黒い部屋を拠点とすることにした。
出入り口を草などで塞ぎ、断熱と、誰か来たときに葉擦れの音で咄嗟に気がつけるように。
何か変化が起きないかと時間が過ぎていくのを待ったのだ。
女は生活にこなれてきて、黒い部屋で自家製ドライフルーツをかじりながら呟いた。
「う~ん。今日でもう7日くらい経ったにゃ……」
壁に傷を付けて印としようとしたのだが、いつの間にか修復されて消えてしまう。
別の手段で記録しようとも考えたが、飽きっぽく面倒になってしまったのだ。
「そろそろ別の通路にも行ってみるかにゃ」
白亜紀の部屋とは別に、まだ探索していない黒い通路があった。
今のところは生き残るために向かう必要はなかった。
だが、好奇心というものが人間にも──猫にもあるのだ。
その好奇心は猫になった女を殺すのか。
それは未来を視る者にしかわからない。
女は冒険者になったような高揚感と共に歩き出した。
装備は、葉っぱの防具と、石斧だ。
石斧は、岩と岩をぶつけ割り、適度な大きさの鋭いものをチョイスして、木の薄皮などを編んで作った縄で、木の棒に括り付けたのだ。
普段はちょっとしたナイフの様にも使える。
これで小型の恐竜を狩ってみることも考えたのだが、反撃されたら怖いので武器としては使った事が無いが。
かなり心細いが、素手よりはマシだろう。
だが、こちらに敵対する何かがいたら、一目散に逃げるのを選択すると心に決めていた。
この状態では少しでもケガをしたら致命傷に繋がる。
未知の通路を用心しながら進む女。
2部屋ほど移動したが、黒い風景にあまり変化は無い。
次の3部屋目──それはあった。
「地面が光ってるにゃ……。いや、これは……」
地下への階段だった。
青い光でここにあると主張するような異様な光景。
これを降りてみるか? そう思考するも、単純な疑問が浮かんできた。
「下への階段があるなら、もしかして上への階段もあるにゃ?」
この場所が地下かどうかはわからないが、両方の可能性を見つけておいた方が今後のためになる。
……いや、本当はただ怖かったのかもしれない。
魂すら飲み込んでしまいそうな、未知の地下へ誘う穴が。
女はブルッと身震いしながら、まだ続いている通路の入り口へと移動しようとした。
だが、その時──階段が青から赤に色を変化させた。
「にゃにゃっ!?」
本物の猫のように飛び退き、毛を逆立てながら警戒。
赤……何か危険な感じがする。
ジーッと階段を見つめ続ける。
……しばらくすると、階段はまた青に戻った。
「にゃ、何だったのにゃ……。って、今のニャーの状態が何にゃのにゃ!?」
気が付いたら、飛び退いた先は壁だった。
いや、正確には──高い位置の壁にピタリと張り付いていたのである。
それも両手と尻尾だけで。
一瞬でここまで跳躍して、不思議な力で壁に張り付く。
たぶん以前の自分にはできなかったと思えた。
とりあえず高いところは怖いので、ストッと地面に降り立つ。
「ニャーの身体はどうにゃっているのにゃ……」
その疑問と同時に、どこかから呼ばれた気がした。
「……にゃ? 誰にゃ?」
まだ探索していない場所は、この通路の先だけである。
疑問を持った猫は、好奇心に突き動かされて進むのであった。