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フラグ12 ダンジョンの持たざる者

 東京の中心に突如、出現した大穴。

 その事故に巻き込まれたのは5人。

 内、行方不明者は4人。──それと魔術師として覚醒した1人。


 政府は大穴内部に偵察ドローンを送り込んで調査しようとした。……が、電波の類などは一定距離で消失。

 ケーブル式に切り替えるも、一定タイミングで入り口の境界で断線してしまう。

 調査したところ、10分ごとに内部構造が何らかの手段で変化しているとわかったのだ。


 この事から、ミノタウロス迷宮の神話から名前を取って“不確定領域(ラヴィリンソス)”と呼ばれるようになった。

 もっとも、命綱(アリアドネの糸)すら許されない名称詐欺だが。


 次の段階。

 それならば自力で戻ってくる機械で対処すればいいと考えた。

 NASA提供の自立型無人探査機を送り込む──。

 結果は地形変化に対応できないのか未帰還で終わった。


 それからも様々な手段を試したが無駄だった。

 もう残された最後の手段は、有人探査によるもの。


 しかし、それは特攻隊と同じ意味だ。

 ここ日本においては許されるものではない。

 ……はずだったのだが、各国からの圧力もあって、超法規的措置を執り、死刑囚を送り込んで調査することになった。


 まずは1人──。一週間経っても戻ってこなかった。


 次に2人、結果は同じ。

 3人、同じ。

 4人、同じ。


 深淵は人を飲み込み続ける。


 業を煮やした政府は、刑務所で“未来死の魔眼(バッドエンドアイ)”の実証実験中だった男に協力を求めた。

 人の死が見える天然の魔術師。

 彼の協力の下、死刑囚の死の瞬間から内部構造が掴めてきた。


 それは──まさしく幻想世界のダンジョンであった。




* * * * * * * *




 女は目覚めた。

 頬が触れている地面は若干柔らかい。

 固まりかけの黒いコールタールのようだが、圧力を加えても反発してきて沈み込みはしなかった。その素材で壁も作られていた。


 周囲を見回すと、どうやら四角い部屋だ。

 天井は巨人が通れるくらい無駄に高く、横の広さは一般的なリビング程度だろうか。

 ドア無しの出入り口が一つだけあるが、構造からして人工的に作られたとは思えない。


 そこで思考は止まった。


「あれ……ここはどこ……ニャーは誰?」


 月並みな言葉だが、記憶喪失をあらわすには一番だろう。

 女は、自分の名前はおろか記憶全てを失っていた。

 知識としてあるのは辛うじて言語や、身体に関するような基礎的なものだけだ。


 焦った。焦りに焦った。

 記憶喪失で、周りに誰もいない異常な場所に放り出されているのだ。

 荷物は何も持っていない。衣服すら身につけていない。全裸だ。


 羞恥心……というものもあるのだが、これは気にしている状況ではない。

 まずは身体にケガなどが無いか確かめる。

 腕、胴体、脚。外見的には問題はなさそうだ。ついでに意外とスタイルが良いと自負した。


 次は見えない部分を触っていく。

 背中、顔。特に問題は無かった。

 次に髪……ショートカットだ。一本抜いてみると茶色い。

 ──と、髪をいじくっていると違和感に気付いた。


「なんだニャ? これ?」


 頭頂部に2つ、何かがあった。

 触ってみると、同時に触られている感覚もある。

 おかしい、人間の身体にこんな部位はなかったはずだと混乱する。

 形状的に……猫のような耳だ。

 嫌な予感がした。

 そーっと臀部(おしり)にも触れてみると……尻尾があった。


「にゃんてこった……いや、そもそも、何か口調も猫っぽいニャ?」


 記憶喪失によって、元からこんな身体だったのかすらわからない。




 自分は持たざる者だ。

 名前も記憶も所持品も無く、自分の顔すらわからない。

 この未知の場所での行動は、慎重におこなった方がいいと女の本能が警告している。


「ま、まずはここがどこにゃのか確認にゃ……」


 この部屋を中心として、周囲を調べる事にした。

 部屋を再度確認。壁には窓はなく、まるで地下室のようだ。

 出入り口は、やはりさっきの一カ所のみ。


 意を決して、そろりそろりと外へ向かう。

 足だけはケガをしないようにと、素足の慎重さ。

 ……足元がはっきり見えるということは、明るいのだろうか? いや、たぶん実際は暗い。夜目に慣れたとはまた違う。不思議だが、そういう感覚と見え方なのだ。


 女は混乱してきた。

 だが、ここで時間を取ってしまってはいけないと思い、歩いた。

 ──部屋の外へ。


「……ここ、なんなのニャ」


 目に映ったのは、同じ素材で作られた室内──いや、もっと広いダンジョンであった。

 一室が区切られており、狭い通路によってどこかに通じている。

 異様な場所だと察した女は、探索と同時に生き残るための準備も始めようと決心したのであった。


 まずは飲み水の確保である。

 人体は食べなくても何日かは平気であるが、水はそうもいかない。

 すぐに衰弱へと繋がる。


 次に食べ物。

 これも結局は無くては死んでしまう。


 そして……衣服だろうか。

 あの部屋から外に出たら結構寒い。

 足をケガしたら終わりなので靴も優先的に欲しい。


 他にも色々とあるが、結局は有用なものがあるかどうかだ。




 一方その頃──送り込まれていた死刑囚達はダンジョンの中をさまよい歩いていた。

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