やっぱり転生者でした。
「ええ、どうぞ。」
リリアンは優雅にお茶を飲みながら言う。
「猫の反対、これなーんだ。」
同胞か見分けるためにはこれに限る。これはかなり軽いジャブだ。「意味がわからない。」とか「イヌ」と言われても「正解はこねです。」とかいうしょうもない答えで返せばいい。
「あ、わたくし腐ってないんですの…。」は完全に転生者の証だ。
さあ、どう答えますか?リリアン様。
リリアンはさっきまでの鈴の音のような美しい声ではなく少し低いドス声で「タチね。」という。顔はイヤらしい笑みを浮かべる同族の顔をしていた。
「確信しました。リリアン、貴方転生者ですね?」
「ええ、なかなかエグイ質問だったわ。でも、こっちもはっきりしたわ。ヒロイン…貴方も転生者ね?」
「いえあ。それで?王子の婚約者リリアン嬢は誰推しなのかしら?」
これが一番大事な問いであった。
もしここでリリアン嬢の推しが王子だとわかった場合リリアン嬢はこのまま婚約者として王子に嫌われぬように過ごし、くっつきたいはずである。
彼女がこのゲームを未プレイとなるとまた話は別になるのだが…。
「もち、王子推し。故に神に感謝。」
私に向かって親指を立て、向けてくるのでその親指を曲がらない方向にへし折ってやりたくなった。
「はーあ、でもさ、私って立場的に悪役令嬢じゃん?てことは、ヒロインである貴方がとんでもないぶりっ子か悪女で卒業式に爵位を剥奪されて国外追放、結局王子は私を選んでくれてヒロインにざまぁっていうのを期待してたんだけどな…。現実のヒロインはいい子ちゃんか…。それで?ロゼリの推しは?」
「あ、王子ですぅ~。」
「マジで?」
「マジマジ。」
「私、婚約者、略奪、ダメ絶対。」
「わかってますぅ~大丈夫ですぅ~諦めますぅ~」
口を突き出して「すぅ~すぅ~すぅ~」と連呼しているとリリアン嬢がフフフと笑う。
「どうして笑うの?」
「安心したの。ロゼリがまともなヒロインで…。ほら、私って完璧な令嬢じゃない?友達もいなくて、こんな本音で話したのなんて久しぶり…王子はあげられないけど、ロゼリならきっといい男をガッチリ捕まえてきそうなきがするわ。これからも良い友達で居ましょうね、ロゼリ。」
「うん。リリアン。」
二人がお互いを見合い
「キャラクターが目の前にいるのって変な感じ」と笑いあったところでお茶会が終了した。
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家に帰り、私は情報を整理した。
悪役令嬢役の彼女が王子推しで性格の良い転生者であったということはこの先に起こる私を侮蔑するような目で見てきたり変な噂を流してきたりお勉強会という名の王子とのデートで邪魔を入れてくることも足を引っかけるなんて幼稚なことをしてくる全てのイベントは起こらないということになる。
起こらないと婚約破棄にはならないし、あの性格のリリアンでは本当に完全無欠パーフェクト美女だ。
まず勝てない。
そして私もどうしても王子を手に入れたいからと「リリアン許せない!!どんな汚い手を使っても絶対ジョシュア王子と結婚してやる!!」みたいな自分から転落人生を歩んでリリアン側からしたら≪ざまぁみろ≫な展開をするような過激な性格ではないし、普通にあの質問に「タチね。」とドス声で答えたリリアンの性格が気に入りつつあるのでこの先良き友人としてかかわっていくことになるだろう。
と、いうことで私は“スイスク”最推しであるジョシュア王子とは恋人同士になれず、単にこの学園生活を可愛らしいお転婆娘として過ごすというおかしなことになってしまった。
他のキャラのことなど名前すら憶えていないし本当に一からのスタートだ。
「…解せぬ。」そうつぶやきながらも「ま、いっか。美少女なのには変わりないし、私性格悪いほうじゃないし、明日は明日の風が吹くぜ!!」と楽観的な気持ちでふかふかのベッドでスヤスヤと眠りについた。
ようやくあらすじのところまで終わりました。
次から本編(?)ですね。