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気持ちが暴風雨。

入学式の次の日は早朝から生憎の大雨であった。

昨日一番乗りでは無かったのがやはり悔しかったのもあり、早々に家を出た。

しかし、今日はお車で送られてきてしまった。


恰幅のいいメイド長のカーユから止められたのだ。

カーユはみんなのお母さんのような侍女さんであった。

今日の朝も「お嬢様いけません!!こんな大雨の中で歩いて学校に行こうだなんて!!お車ですら危ないというのに…わかりました!!今日はお休みさせてもらいましょう!!」

なんて典型的なこと言うのもだから頑張って隠したが思わずにやけてしまった。


お嬢様思い(私思い)で厳しく時に優しい皆のお母さんのような性格の典型的な侍女さん。

しかし、雨に濡れて風邪の心配をするカーユとは裏腹にロゼリは実はこの暴風雨と呼ばれるような雨風が大好きであった。理不尽なまでに降る大粒の雨と制御できない風、それに吹かれて濡らされるのが堪らなく好きであった。


今度こそ一番だと内心思いながらラインを飛び越える。

そして、渡されていた傘を閉じてクルクルと舞い踊りながら校舎へ向かう。

この時間なら「急に雨に降られちゃって。」と教師へ言い訳もできる。

閉じた傘を剣に見立てて演武したり傘をさして某オカリナを吹くお化けのんーぱっ踊りをしたり暴風雨を楽しんだ。最後に靴も靴下も脱いで水たまりでパシャパシャ遊んでいると視界の隅に何か黒い物が入った。


動きが止まる。


ゆっくりと左を向くと黒い傘をさした細身で長身の黒髪長髪イケメンが首をゆっくり横に振りながら「ありえない。」という顔でこちらを見ている。

あの男性は佇まいから察するに昨日王子と話していた男性…。

私は知っているとはいえ、容姿が整っているからとはいえ初対面の女性に対してそんな顔は無礼だと自分の姿を持っていた手鏡で見てみると髪も服もビショビショおまけに足は裸足で少し泥がついている。


確かに…令嬢とは…というか、15歳とは…思えない姿だ。


特別にあの憐れんだような蔑んだような目を許そうと決める。

イケメンが普通に立ち去ろうとしたので止める。


「ちょ、ちょっと待って!!」


「…ッ!!それ以上寄るなよ!?濡れるし…アホが移りそうだ。」

今の状況だとぐぅの音も出ない。ひとまず用件を伝えるのだロゼリ…。

あ、あの…今回の事、他言無用と言いますか特に家とかには内密にしてほしいといいますか…。」

なんとなくくねくねと身体を揺らし上目遣いで見てみると「水が飛ぶ。やめろ。」と言われてしまったこんちくしょう。


「なるほどな…内密にしてほしいと、…タダで?」

イケメンはニヤニヤとこちらを見てくる。


くっ、これは美少女の私に性的嫌がらせを…セクハラをしてくるのではないか!?


「へ、変態ッ!」


「は?何を本気にしているんだ。俺はただお前からかっただけだが?なんだお前、イヤらしいことでもされると思ったのか?この変態。」

またニヤニヤと笑われた為「なー!!」と顔を真っ赤にして叫ぶと今度はハハハと笑われる。

しかし、こちらにはまだ切り札がある。

フフフ、吠え面をかくなよ…。


「そういえば貴方は昨日もこんなに朝早かったんですか?今日こそは私が一番だと思ったのに…。」

後半は聞こえるか聞こえないかくらいの小声で言った。


「…まあ、そうだな昨日と同じが今日は昨日より早く来た。」

その言葉でロゼリは勝ちを確信した。


__勝った!これでおあいこ、いやそれ以上にこの意地悪マンをこき使えるかもしれない!!

使わないけど。


「ふぅん…じゃあ、貴方ですね?」


「…何がだ?」


「私、偶然聞いちゃったんですよね昨日…」


「…何をだ?」


「貴方が秘密裏に留学してきた他国の王子様だということを!!」

ロゼリはここぞとばかりに高笑いをする。

勝った!!完全勝利だ!!


「__は?なんだそれ?俺はただの特待生だぞ?秘密裏に留学?ファンタジー小説の読み過ぎか?アホか?両方か?あ、アホか。」


「____え。」

なん…だと…!?昨日見たイケメンと同じ背格好だったし…まさかドッペル!?いや、しかしそんなこと…。


「おいアホ、名前は。」


「え?あ、ロゼリ。」

思考が停止していたので思わず本名を名乗ってしまった。


「よし、ロゼリ。お前、今日の事しゃべられたくなかったら俺の言うことはこの先しっかり聞くようにな。」


「え、い、いや!!違うんだ!!誤解なんだよ!!」


「は?何が。」

自分でも言っている意味が分からなかったがとりあえず否定してみる。

「じゃ、またな。ロゼリ。」とイケメンは振り向かずに校舎の方へ歩き、ひらひらと右手を振っている。


「い、いやだ!行かないでくれ!べ、弁解させて!!」

完全に見えなくなり、そろそろ時間も危ういことに気づいたので走ってトイレへ向かい、タオルで入念に身体と髪を拭き、替えの制服に着替えてトイレの個室に籠り絶望する。


__そ、そんなことってないよ!あんまりだよ!!入学式の次の日から極悪非道なイケメンに弱みを握られるなんて!!お先真っ暗闇だ!!暴風雨だよ!?みんな遊びたくなるじゃん!!でも、それが弱みになったよ!!クソ…これがゲームなら「うへへ、〇〇ルート入ったぜ」とかあるかもだけど現実だもん!あれはただのいじめっ子だ!やだなーもー!!


てか…あれ?あの人が“スイスク”の攻略対象なら最初にちゃんと出会った(ちゃんととは言えないけど)攻略対象キャラはあの人になるの?…え、最愛の王子じゃなくて?…なんか!!腑に落ちないッ!!個室のドアに頭をガンガンとぶつける。

ドアの向こうから「こわッ…」とドン引かれる声がした。


…なんかもう…おうちかえろ。


ロゼリは初っ端から今日あった授業をサボった。

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