ツェークラブの日常
*会話過多です。(いつも)
ツェークラブができ、私たちが生徒会へ入ってから一か月、つまりは入学式から二か月余りがたった。
授業に勤しみ、生徒会の雑用(主にノアのパシリ)に追われ、クラブを楽しんでいるとあの変な噂もなくなり次第に気軽に挨拶ができる友達もできてきた。何故か授業ではいつも自由席であるはずなのに隣にノア座るのだが、気にしないでおく。
というか、ノアは私と全ての授業がかぶっていた。解せぬ…。
本日生徒会活動はお休みでクラブ活動がある。扉を開けるとビスケットをポリポリと食べるリリアンの姿が見える。ナターシャは掃除当番なので後で来るという。
「うぃーっす。ロゼリ。」
「うぃす。リリアン。」
リリアンの目の前に座り、世間話が始まる。
「そういやリリアンは前世日本人だよね?」
「当り前じゃん?あのゲーム発売してたの日本だけなんだから。いやでも、まさか自分が悪役令嬢になるとは思わなかったわー。」
「私もヒロインに転生するとは…しかも、こうやって悪役令嬢とだべることになるとはねー。」
「あと、ナターシャ、あの子の前世は乙女ゲームシナリオでのリリアンでしょ?現世ヤバい。」
「現世ヤバいはわかりみが深い。もう、数名がシナリオブレイカーになっちゃったせいで、私どうしたらいいか分かんなーい。あーあ、イケメンと恋したーい。」
そこまで言うとロゼリはビスケットをつまみ、自ら紅茶を入れに行く。
この部室と生徒会室には簡易的なキッチンが付いている。
生徒会室の隣と言うのは不服だが、キッチン付きという点は良いと思う。
というか、正論でボコボコにたたかれたのでここ以外の選択肢はなかったのだが割とと言うか結構、大分気に入っている。
「アンタにはノア殿下が居るじゃない。」
「殿下……ん?リリアンがなんでそれ知ってるの!?」
あの場で聞いたのは私一人のはずだ。王子がそんな機密を漏らすとは考えにくい。私は目を見開いた。
「何言ってんのアンタ、攻略キャラじゃない。」
なんてことないというように笑っているリリアンに対し、私にとっては衝撃的すぎる事実だった。
確かに顔は前世で言う二次元出身の王子やキールに引けを取らないなーとは思っていたけれど驚くべき事実だった。
「待って、その反応…ロゼリ貴方知らなかったの!?」
「うん…私、“スイスク”は王子ルートしかやったことなくて…。」
「それでよく難易度の高い隠しキャラだしたな…」
リリアンの声が小さすぎて聞こえなかったので「え?なんか言った。」と聞き返す。
「ううん。なんでもない。てかさ、ノアも満更じゃなさそうだし付き合っちゃいなよ。」
「えー?あれはただの友達だよ。アイツ私の事アホな犬程度にしか思ってないんだから。」
「マジかよ…。」とリリアンに何故かため息を付かれたところでナターシャが「ただいま戻りましたわ。」と入ってくる。
「おかえりナターシャ。」
「おかおかー。」
こうしてまた3人でお茶をすすりながらくだらないことをしゃべる。至福の時だ。
「そういえばナターシャ、友達出来た?」
「ええ、何名かご学友ができました。けど…。」
「けど?どーしたナターシャ。いじめか?ソイツ殴りに行ってやるよ。」
「リリアン、粗暴。」
「…お2人以上に仲良くできる気がしませんの…お2人は飾らないし…お話も面白いですけれど…新しくできたご学友のお話はつまらなくて、なんだか刺激が足りないの…。」
彼女は顔をポッと赤くしながら言う。可愛い。
それはもう「2人が大好き!!」って言っているようなものなのではないか?とは私は口にしなかった。
「んもうナターシャったら可愛い!!そんなの遠回しに私たちに大好きって伝えてるようなもんじゃん!!」
私は口にしなかったがリリアンは口に出した。
「そ、そうですわね…」
ナターシャは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにモジモジとしている。可愛い。食べてしまいたい。
「と、ところでお2人とも、このクラブの名前どうしてツェーというんですの?」
「あーね。妥当な質問だよね。」
「それな。んとね、ツェークラブって【TUEEクラブ】になってるじゃん?」
ナターシャはウンウンと頷く。
「この名前で申請してるしツェークラブであってるんだけど、本当は【俺TUEEEEEEクラブ】を略した名前なの。」
「おれつえー?」
ナターシャは眉を顰め、考える。
「あー、俺TUEEEEEっていうのは私とロゼリが生きてた前世の言葉なんだけど…まあ、無双?俺最強みたいな言葉なのよ。」
「本当はもう少し複雑なんだけど、まあその辺は知らなくてもいいし…で、そんな名前のクラブ何するかわからないし意味不明じゃん?だから、創設者および入部者には本当の意味【俺最強】っていうのを明かすけど、普段はお茶のティーをツェーにした少し可笑しなクラブってことにしてこの名前になってるの。」
「だから、ツェークラブなんですのね…。いや、正確にはつえークラブですわね?」
「そうそう。そんな感じよ。…ところでナターシャ、あんた美人なんだしモテないの?」
クラブの創設話に飽きたリリアンは突然恋バナに展開させる。
「え、えぇえええ…わ、わたくしまだそういうのは…」
「私も知りたーい。ナターシャ好きな人いないのー?」
「わ、わたくし、今はお2人が居れば幸せで…」
「ダメだよそんなんじゃ!!で?気になる人とかは?」
「ドキッと最近した?」
「ムラッとは?」
「え、えぇえええ…」
あれよあれよという間に下校時間となり、ナターシャは恥ずかしさで目を回してしまい、従者の方が迎えに来た。リリアンは逆にすっきりした顔をしていてスキップしながら帰って行った。
私も何事もなく家に帰ると、そこには家とは全く縁もゆかりもないただの同級生ノアが居た。




