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さまざまな恋の短編集:ノーマル版

いやよいやよと思っていても

作者: 道乃歩

 私と彼の身長差が羨ましいとよく言われる。

 特に、包み込むように抱きしめられると嬉しいでしょ、守ってもらえてるみたいでいいよね――そういったセリフを何度浴びせられたかわからない。

 でもね、現実は憧ればかりがつまっているわけでもないんだ。



「相変わらずの不機嫌顔だねえ」


 学校から家までの道を、いつものように並んで歩く。百八十を超える身長の持ち主である幼なじみの恋人はずっとにやにやしっぱなし。腹立つ。彼の頭ひとつぶん低い私の歩幅にちゃんと合わせてくれているのがまた、悔しい。


「『私も見下されたい!』とか『背中から包み込んでほしい!』とか言われまくったらね。憧れるほどでもないけどって口酸っぱく反論したいわよ」


 実際したこともあるが、照れちゃって~! とツンデレ扱いされて終わってしまった。面白がっている隣の恋人しか理解してくれていないというのが、実に悲しい。


「俺は好きなんだけどなぁ。お前、ほんとすっぽり抱きしめられる大きさなんだもん。心地いいっていうか」


 言いながら抱きしめられて、慌てて身じろぐも全く動けない。しまった、完全に油断していた。


 ……別に、こうされるのが嫌なわけじゃない。ただ、こういう「小さくてかわいい」みたいな扱いを全面に出されるのは性に合わないだけで。

「まあでも、お前はうんと女の子扱いされまくるのいやだもんな。うんうん、わかってるって」

 子どもにするみたいに頭をぽんぽんとされて、顔が熱くなった。こいつ、まさか……。

 彼の服の裾を握りしめると、ふいに抱擁が解かれた。短く名前を呼ばれて反射的に顔を持ち上げてしまい――すぐ、後悔するはめになる。


 その「目」だ。

 普段つけている仮面をいっさい取り払って、ただひたすらにまっすぐな視線を注ぎ込まれてしまうと、私はとたんに身動きができなくなってしまう。


 お前が大好き。誰にも渡せない。これからもお前だけを想い続けるから。


 直接そう囁かれているような気持ちになってしまって、身も心も預けてしまいたくなる。

 真正面から向き合うときとは違う。ずっと高い場所から見つめられることで、「男」と「女」を意識して、普段の私が行方不明になりそうになる。

 思えば、昔から「目は口ほどにものを言う」タイプの人間だった。だから、私もこうしてやられてしまったんだろう。


「かーわいい」


 触れるだけのキスをされても、いつもの抵抗はできなかった。今の私は、いつもの私じゃなくなっている。


「なあ、俺んち……寄ってくだろ?」


 確信に満ちた笑みさえ、素直に格好いいと思ってしまう。返事まで素直に返すのだけはためらって、服を握りしめたままの手に力を込めて、俯きがてらうなずく。


「お前さ、急激にかわいくなんのやめてよ。俺も大変だよ」


 意味わかんない。私はそんなつもり全然ないんだから。

 服を掴んでいた手は、いつの間にか彼の大きな手のひらに包まれていた。そのぬくもりを噛み締めながら、「女」もいいかもしれないと、少しだけ素直に思った。

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