ああ、楽しかった
イルカショーが始まった。
最初は笛の練習をさせられ、出来ないなら声を出してねと言われていた。笛を吹けない新ちゃんににやっと笑ってやると、睨まれた。声を出すのは恥ずかしいらしく、躍起になって笛を吹こうとしている。
声を出すことより、その方がよっぽど子供っぽいのに。困った妹である。
イルカショーはそれぞれの名前とトレーナーの名前とかを順に紹介された。基本スルーする。見分けつかないし。
最初はイルカについての豆知識みたいな感じだったけど、その中でも声には驚いた。
擦りあわせるみたいな、低めの声がしたからだ。え。こんなダミ声だったのか!? と驚くのもつかの間。高い声も出せるとのこと。きゅいきゅいという、聞き覚えのあるような鳴きかただ。
ほっとするまもなく、鳴き声にも個性があると順に鳴くと、確かに違いがわかる。力強かったり、微妙に掠れていたり。イルカにもやはり個性があるようで、喧嘩したり仲良くしたりとあるらしい。
その説明がなんだか、可愛い。今日は調子が悪いとか、やっぱり生き物だからあるんだなぁ。と、テレビとか画面で見るものと違って、ライヴ感を感じて楽しい。ライヴとか行ったことないけど。
「わぁ」
「わー」
ジャンプはイルカが元々持ってる本能みたいなものだって、野生でもするって聞いたことがある。それでもやっぱり、高く高く飛ぶのは、何回見ても声が出る。
リズムに合わせて、観客が笛をならし、イルカが続いて声をあげる。
それが一回では揃わなかったりして、もう一度、となるのが、余計に可愛い。難しいのを頑張ってるか感じが、きゅんとくる。
そして一緒に泳いだり飛んだりしてるのを見ていると、すぐにショーは終わってしまった。最後は二頭のイルカの名前まで覚えてしまった。
「うわぁ、凄かったねー!」
「そうね。子供が見るものだ、と馬鹿にすることはできないわね。何回も見たいわ」
「うん! 折角パス買ったんだし、いっぱい来よう!」
「そうね!」
テンションも高く、イルカショーの会場を後にする。
途中でショーを見に来たので、元来た道を少し戻ると、喫茶コーナーのようなところに、オオサンショウウオのぬいぐるみがでーんとテーブルの上を占拠していたことに気づいた。
「おわっ、かわっ」
「日本語でおk」
訳のわからん突っ込みをいれる新ちゃんを無視して、ぬいぐるみに突撃する。なでなですると、思いの外手触りがいい。ほうほう。まったりとして、ぬっとりとして、うーんマンダム。
堪能していると、新ちゃんも隣に来て撫でだした。
「ああ、いいわね」
「うん」
「いくらかしら」
「買う気!?」
このどでかくてどう考えても高くて、室内で場所をとりそうなものを!?
驚きで新ちゃんの顔を見ながら聞くと、新ちゃんはちょっと拗ねたみたいに唇を尖らせて、さっと撫でていた手を引いた。
「ちょっと気になっただけでしょ」
「ご、ごめんって。別に馬鹿にしたとかじゃないから」
そしてそのまま歩き出してしまうので、慌てて後を追う。喫茶コーナーすぐ隣には、四角いお手頃的大きさの水槽がいくつかある。下に白い砂が一面敷いてあって、細いものがたくさん生えている。
「あ、これあれじゃない? チンアナゴ」
「ああ、あの」
「前にパステルしんちゃんでもやってた、あのチンアナゴだよ、しんちゃん」
「何でまだ見てるのっていうか死ね」
「流れるように殺すね」
たまたまテレビつけたらやってたから見てただけだし、新ちゃんと同じ呼び方だから若干からかう意図で最後名前読んだけど、死ねは言い過ぎじゃない?
「ねぇ新ちゃん、簡単に死ねなんて言っちゃ駄目だよ? 傷つくよ」
ちょっと真面目なトーンで言うと、新ちゃんはうっとひるんだように眉をよせて目をそらした。
「……それは、まぁ、私が悪かったと言えなくもないけど、まず名前でからかって私を傷つけてることを自覚してくれる?」
「う。ごめん。って、でもそれ言ったら新ちゃんすぐ私のことデブ扱いするじゃん! めっちゃ罵倒だし、傷ついてるよ」
「は? 本当のことだからでしょ。痩せろって言う、姉から妹への優しい助言よ」
んあああ。ひどい。明らかに新ちゃんの死ねは言葉強すぎなのにぃ。でも確かに、名前をからかったのは悪かったけど。名前って大事だもんね。しかも新ちゃんって呼び方は、私の為につくったあだ名だし。
「わかったよ。可愛い妹からの助言だと思って、優しいお姉ちゃんは飲み込むよ」
「妹とか姉以前に、いちいち形容詞をつけないでよ。気持ち悪いわね」
「ねぇ、絶対新ちゃん、私は何言っても傷つかないと思ってるよね」
新ちゃんだしいいけど。まぁいいや。死ねについては謝ってもらったし、気を取り直してチンアナゴを見よう。
「ってか、チンアナゴって思ってたより長いね」
「そうね。そして背びれも長っ」
「お、おおぉ、ほんとだぁ」
新ちゃんが言うので、横からチンアナゴ見たら、長い胴体に同じだけちっさいけど長い背びれがついてる。なんか不思議だ。しましま模様で、一見可愛く見えそうだけど、よく見たら細い体にたいして目が大きいし、長すぎてなんか怖い。
「はー、変な生き物だねぇ」
「そうね。あんまり動かないし」
他の水槽へ移動する。流木みたいなのや普通の魚が泳いでる水槽で、アクアリウムっぽい感じで和む。
「見て、ガンちゃん、この海老可愛い」
「わ、ほんとだ。白く塗ったみたいだね」
新ちゃんが指差したのは、流木をそろそろ歩く海老だ。基本は普通に赤いんだけど、長い手足や触覚の先が白くて面白い。あと、触覚長いと揚げたらパリッとして美味しいんだろうな。
は! ヤバイ。今普通に美味しそうって考えてしまった。だって海老大好きだから!
「さて、次いこっかー」
「そうね」
誤魔化した。あー、もう私、デブかも知れない。
自分にがっかりしながら移動すると、売店があった。お土産として、小さなカップに色んな海の生き物を模した消ゴム積め放題があった。積め放題って言っても、星の砂が入ってそうな感じのふたつきだから、入る上限は決まってるけど。
でもどれも可愛い! 全部いれることは出来ないし、選別するか。それかいっそ、一種類に全振りするか。どれも小さい消しゴムだから可愛いんだけど、カップも小さい。値段も微妙で、2つ買うとちょっと高いかなって感じだし、うーん悩むなぁ。
「ガンちゃん、それ買うの?」
「うーん。悩む。でもこれだと、一個ずつみんなに配ったりもできるし」
「は? お土産買うの? 地元なのに?」
「そうだけど、めったに来ないし」
「いやこれから来るじゃん。毎回買うの?」
「……確かに!」
わざわざお土産買うのは、少なくとも今じゃなくてもいいや。この消しゴムも、じゃあ悩むけど、次回着てもっと全部の生き物に馴染んでから、厳選して買ってもいいかな。いつでも来れるんだし。
新ちゃんのアドバイスで、気持ちよく諦めた私は、新ちゃんと売店を一周した。したところで、出口への矢印が見えた。もうこれで、水族館全体も一周したのか。若干飛ばしたりしたけど、疲れてきたし、そろそろ帰ろう。
「帰ろっか」
「そうね」
出口に進むと、その前に大きなお土産やがあった。商魂たくましいなぁ。あんまり見ていると欲しくなってくるので、軽く流したけど、お菓子類は本当にどこでも使いまわしてるのかなってのがたまにあるよね。
後、ぬいぐるみ可愛い。さっとそのまま出た。
「あー、疲れたぁ」
「そうね、ちょっとはしゃぎ過ぎたかも。ちょっとまだ気持ち的には見たりないけど、今度の為に残したってことで」
「いいね。あ、そうだ、忘れるところだった」
帰るために歩き出して、大事なことを思い出した私ははっと足をとめる。そんな私に新ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの? 日傘なら忘れてないけど」
「そうじゃなくて。隣のミニマムストップで、ソフトクリーム買うのを忘れるところだった」
「そんな予定なかったし、ほんとデブね」
「うるさい。なら新ちゃんは食べないの?」
「食べる」
コンビニに入って注文する。色々商品があって悩むけど、ハロハロは前に食べたことがあるし、素直にバニラのソフトクリームで。コーンを注文すると、巻いてある紙にモントセレクション受賞していると書いてあった。おおっと。これは期待大だぞ。新ちゃんも同じのを注文した。
「お揃いだね」
「何真似してんの?」
「私の方が先に買ってるよ!」
「冗談よ。早く食べましょ」
外に面する窓ガラスに沿って、座って食べれるスペースがあるので、そこに座って食べる。
「ん! 美味しい!」
「んー。美味しいわね」
「ねー、なんか濃厚。よかったでしょ、食べて。私が言い出したんだよ」
「うむ。褒めて遣わす」
パクパク食べるとあっという間だ。手を洗って今度こそ帰ろう。お店を出てすぐに、新ちゃんが日傘をさしながら、あ、と声を上げた。
「帰り、本屋寄っていい?」
「あ、いいよー。なんかあるの?」
「確か昨日発売日だった本があるから」
「へー。どこの本屋行く?」
駅まではどっちみち歩くのだし、そこまでいけば複数の本屋がある。新ちゃんのご贔屓はどこかな?
「ヨルバシのとこ」
「お、いいね。私ガチャポンしよっと」
「子供か」
新ちゃんの突っ込みが入るけど、全く。最近では大人も大好きなんだから。新ちゃんたらおっくれってるー。
本屋に寄ったり、ぶらぶらしてから家に帰った。
「ねー、新ちゃん。次いつ行く?」
「ホタルが見たいから、夜6時以降で、7月までに行っておきたいわね」
「へー。明日行く?」
「疲れたから嫌。夜ならいつでもいけるし、そのうちね」
「それ、絶対忘れちゃうパターンだと思うんだけど」
絶対忘れないように、行かなきゃ!




