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本当の親子愛

翌日の午前中、居間に宏明以外の全員と谷崎警部と田村刑事が集まった。

昨日の夜遅くに宏明は自分の考えをまとめた後に、広次と春美に、“事件の真相がわかった”と伝え、ケ―タイて谷崎警部にも伝えたのだ。

宏明が指定した時刻から十分が経って、春美がソワソワし始めた。

「宏明君、大丈夫かしら?」

不安そうな春美は、二階に続く階段の様子を窺いながら呟く。

「大学生ですよ。二葉君は毅然としながら推理しますから…」

春美の不安を打ち消すように、谷崎警部は春美に言った。

「いつも事件を解決する時は、毅然としてるんですか?」

広次は谷崎警部に聞いた。

「えぇ…。まだ一回だけしか事件を解決してないんですがね。初めてですか? 二葉君の推理してる姿をみるのは…」

「はい。痴漢騒ぎと社長さんが殺害された話は本人から聞いていたんですが、なかなか見る機会がありませんでしたから…」

「そうでしょうね…」

谷崎警部がそう答えた後、居間のドアが開いた。

「犯人がわかったって本当なのかよ?」

宏明の姿を見ると、すぐに明が聞いてきた。

明の問いかけに無言で頷いた宏明。そして、宏明は今回の事件の真相を話始めた。

「まずは恵子さんの事件からだ。恵子さんが殺害されたあの日、朝食後にやらなければいけないことがあると言っていた。そのことを知った犯人は、恵子さんを殺害するチャンスをもらった。犯人は恵子さんの部屋まで行き、話があるとでも言い、中へ入った。そして、あることを話題に出して口論となり、あらかじめ用意していたロ―プで恵子さんを殺害して、自殺に見せかけた」

広次や春美がいるせいか、少し緊張している宏明。

「殺害するチャンスって、前々から恵子さんを殺害するつもりだったってわけ?」

「そうだ。いつ頃から恵子さんに殺意を抱いたかはわからね―けど、最近抱いたってわけではないみたいだ」「アリバイはどうするんだよ?」

明は腕組みしながら聞いているが、リラックスしながら座っている。

「あの日、オレらは別々に行動していた。疑われるが、一人でいた場合、部屋に一人でいたと言えば、他にも一人でいた人物はいたはずだ。もし、誰かと行動していれば、殺害時刻に何かしら理由をつけたら、とりあえずのアリバイは証明出来る。何しろ、オレや叔父さん達からこの家は身内だらけの家だからなんとも言えないけど…」

宏明はまだ少し緊張している口調で話している。

全員は互いに顔を見合わせている。

「しかし、誰かと行動していて犯行時刻に何か理由つけたとしてもバレるんじゃないですか?」

田村刑事は身を乗り出して聞いてくる。

「例えば、トイレに行くという理由で犯行をするとしましょう。トイレなんて五分もあれば用が足せる。そんな短い時間で人を殺害することが出来ない、というのが、頭の中にあるのが普通だ。五分以上かかったとしても、お腹の調子が悪いとでも言えば疑わないでしょう」

田村刑事は宏明の答えに妙に納得してしまっている。

「姉さんを突き落とした件についてはどう説明するの? もし、居間にいた人達が恵子さんを殺害しても、姉さんを突き落とすのは無理なんじゃない?」

夏美の質問に、宏明は頷いてから、

「では、次に叔母さんが階段から突き落とされた件についてお話しましょう」

そう言うと、全員の顔をゆっくりと見た。

「犯人は叔母さんも殺害するつもりでいた。最初は殺害せずに脅かすつもりでいた。ちょうどそんな時に自分の部屋から一人で出てくる叔母さんを見つけ、階段から突き落とした。そして、急いで部屋へと戻り何食わぬ顔でみんなと合流したってところだ」

宏明の推理に、春美はソファに座っている谷崎警部と田村刑事以外の全員を睨み付けた。

「叔母さんに聞きましたが、恵子さんには子供がいるんです。だけど、家庭の事実でやむを得ず施設に入れてしまったそうだ。時は流れて、今から十年前に旦那と離婚し、山崎家に家政婦としてやって来た。初めは分からずにいた恵子さんも山崎家に来てすぐに全てを悟った」

「全てを悟った…?」

「恵子さんを殺害し、叔母さんを突き落とした犯人は…あなたでしたか、博文さん」

宏明は博文のほうを見て、静かに答えた。

犯人の名前を聞いた全員は驚いているが、広次と春美のほうが何十倍も驚いている。

「まさか…博文が…?」

「そうよ。この子は病弱で、人を殺すなんて無理よ」

広次と春美は交互に驚きの声をあげる。

「病弱だと思わされていたんだ。確かに山崎家の養子に来た時は病弱だった。でも、この五年で病気は完治してしまったんじゃないですか?」

宏明の問いかけに、何も答えずにいる。

博文の反応を見て、そのまま続ける宏明。

「恵子さんを殺害した日、あなたは部屋にいる恵子さんに自分は恵子さんの子供だと伝えに行った。恵子さんは施設に預けて今まで会いに行かなかったことを詫びた。しかし、あなたは許すことが出来ずに、ロ―プで殺害した後、そのロ―プで恵子さんを自殺に見せかけた」

「一人じゃ大変じゃない?」

紀美は博文を横目に宏明に聞いた。

「博文さんは大体170cm程の身長だ。恵子さんはもう少し低い160cm程だ。成人男性で少々大変だが出来るはずだ」

「鍵はどうするんだ? オレが行った時、恵子さんの部屋は鍵がかかってたからこじ開けて入ったんだぜ?」

明は発見当時のことを思い出しながら聞いた。

「部屋に入る時はそのまま入ったんだ。恵子さんは自室の部屋の鍵を必ず閉めるらしいから、部屋の鍵を閉めたのは恵子さん自身でしょう。恵子さんを殺害後、もう一本長いロ―プを用意しベランダから出て玄関から入ったんだ」

「ベランダの鍵はどう閉めるの?」

京子の問いかけに、

「恵子さんの部屋のベランダの鍵だけ前から壊れてたんだ。私が修理しようって言ったんだが、恵子さんは修理しなくてもいいって言うもんだからそのままにしてたんだ」

宏明の代わりに広次が答えた。

「恵子さんを殺害した後、博文さんは自室にこもったんだ」

「証拠はあるのか?」

今までずっと黙っていた博文は、ふてくされた口調で口を開いた。

「恵子さんを殺害したロ―プとベランダから逃げたロ―プの日本だ。恐らく、探せば博文さんの自室にあるはずだ」

「見つかったって当たり前じゃないですか? 僕の部屋なんだし、指紋がついていたっておかしくない」

「確かにそうよ、宏明君」

春美も同感している。

「じゃあ、台はどこ行ったんです? もし、恵子さんが自殺したのなら、ロ―プを天井に吊るすために台に乗ったと思うんです。だけど、恵子さんの足元には台はありませんでした。それで、早いうちから恵子さんは殺害されたんだと思ったんです」

「それで恵子さんが殺害されたって言ってたのか」

茂はなぜ宏明が自殺ではなく他殺だと言っていたのか、ようやくわかったように納得した。

「もしかして、その台も博文さんの部屋に…?」

「そう。叔父さん、押し入れとかに台は入れてなかった?」「物置き場には入れてたよ。恵子さんが亡くなってから物置き場に用があって言ったんだ。でも、置いてあったはずの台が無くなっていたんだ」

広次は即答した。

「その台は博文さんの部屋にあるはずだ。その台の脚には、恵子さんの自室のカ―ペットの毛がついてるはず」

「…バレてしまったか…。そうだよ、僕が全て仕組んで殺ったことだ」

うつむき加減で認めた博文。

「博文、なんで恵子さんを…?」

明が信じられないという口調で聞いた。

「母さんは僕を捨てたからだ。物心ついた時には、施設にいた僕は、両親は僕を捨てたんだと思いながら、ずっと生きてきたんだ」

博文は立ち上がり答えた。

「十二年前、この家に引き取られた時、義父さんと義母さんが本当の両親だと思い、生みの両親の事を忘れようとした。そんな時、中一の時に母さんが山崎家の家政婦としてやって来た。当然、僕は母さんだとは知らなかったけど、今から五年前の二十歳の誕生日に部屋に呼び出されて、僕の本当の母親だと告げられたってわけだ」

二十歳の誕生日のことを思い出しながら話す博文。

「その時から恵子さんを殺害しようと思ってたの?」

「いいや、その時はそんなことを思ってなかった。母さんを殺してやろうと本気で思ったのは、アルバムを見た時。母さんは僕の施設の友達と撮った写真をもらってたんだ。写真をもらって来てるのなら、なぜ僕を引き取ってくれなかったのか? そう思うと、苛立ちと殺意が自分の中で押さえきれないくらいに大きくなってた」

博文は両手の拳を強く握り、怒りを押さえている。

「春美さんはなんで突き落としたの?」

京子は博文のほうを見ながら聞いた。

「宏明さんの言うとおり、殺害しようとも思っていた。でも、今まで育ててくれたのかと思うと、殺害なんて出来なくて突き落とすだけになってしまった。義母さんを殺害する理由はないんだ」

「遺書はどうしたんだ? 遺書には恵子さんの指紋しかついてなかったが…」

気になっていたことを聞いてみた谷崎警部。

「インターネットカフェで遺書を打ち、自分の指紋がつかないように手袋をして、カバンの中に入れたんだ。母さんを殺害した後、ロ―プで吊るす前に母さんの指紋をつけたんだ」

博文は遺書の指紋について説明した。

「そうだったのか…」

谷崎警部は納得しながら頷いた。

「博文君、さっき姉さんを殺害する理由なんてないって言ってたけど、本当はちゃんとした理由があるんじゃないの?」

「理由なんて本当にないんだ」

「理由がないと殺したいなんて思わないじゃない?」

夏美はさらに追及する。

それは姉妹だからだろうか。

博文は本当のことは何も答えないままでいる。

「博文さん、本当の事を言ってもらえませんか? このままじゃ、育ての親である叔父さんと叔母さんに申し訳ない。それに、生みの親である恵子さんにも…」

宏明は博文に近付きながら説得した。

「義母さん、恵子さんが僕の本当の母親だということを知ってたんだろ?」

「それは知らなかった。さっき初めて知ったんだから…」

「ウソだろ?! 義母さんと恵子さんが、僕に本当のことを言わないでおこうと相談して隠してたんだろ?! 義父さんだって!!」博文は広次と春美に激しい口調で問いただす。

そんな博文に動揺してしまう二人。

「博文が恵子さんが息子だと知らなかったんだ。隠してなんかいないんだ。これだけは信じて欲しい」

広次は必死に否定する。

「叔父さんの言ってることは本当だぜ、博文さん。恵子さんの日記帳に全ての想いが全て書かれているんだ」

そう言うと、宏明は博文に恵子の日記帳を渡した。

博文は宏明があらかじめ開いていたページの日記帳を読んだ。

「これは…」

「あなたが自分の子供だと気付いた時、誰にも言わなかったんだ。この山崎家で幸せな家庭を築いているあなたのことを思ってね!!」

宏明も内心必死になりながら、博文に恵子の想いを伝える。

「母さん…」

宏明の想いが届いたのか、博文は一粒の涙を流した。

「恵子さんの息子だと知って、叔父さんと叔母さんのことを、未だに“義父さん、義母さん”と呼んでいるあなたを見てると、叔父さんと叔母さんには言えなかったんだ」

宏明の言葉に、倒れ込むように泣いた。

宏明は博文を見据えていたが、その他の全員は、心なしかどこかホッとした様子だった。


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