ドッペルゲンガー?
僕は僕を見た。あれは絶対僕だと思った。
ある日の学校の帰り道、いつも通る公園の前を通った時だ。楽しそうに話をする"ボク"と母さん。話しかけられるはずもなく横目で見ながら早足でその場を過ぎて行く。
ーーちらりとこっちを見たことにも気づかなかった。
「ただいま」
玄関を開けると母さんの声が聞こえる。
「修斗、おかえり」
なんて幻聴だと思った。何も聞いていない。自分にそう言い聞かせながらリビングへ入る。そこにはさっきまで公園でもう一人の"ボク"と話していた母さんが居た。
「た……だいま? 母さん?」
「なによ、早く手を洗ってらっしゃい。ご飯できてるわよ」
机を見るとまだ油がしゅわしゅわ立っている唐揚げに綺麗に飾り付けられた野菜。そしてもう一品。僕の大好物のポテトサラダが置いてあった。こんな手の込んだ料理を10分あったとしても作れるはずもない。それに唐揚げも出来たてのようだった。不思議に思った僕は母さんに聞いた。
「母さんさ、今日の夕方頃公園に行った?」
そう聞いた時の母さんの顔を見るとすぐに分かった。キョトンとした顔に首まで傾げた。そして僕を恐怖に追い込むかのように答える。
「夕飯作らなきゃいけないのに行く時間あるわけないでしょ。見てみなさいこの豪華な夕飯を」
なんて威張りながら言った。
「たしかに」
一言そう言うと、母さんが用意してくれた夕飯を食べはじめる。うまいうまいなんて言いながら世間話をする。食べ終わると僕は二階にある自室へと入った。
ため息をつきながらベッドに寝転がる。目を閉じあの公園を思い浮かべる。なにを話していたのかは全く分からないが、楽しそうに笑っていたことだけは覚えている。
「あれはいったい誰なんだ」
居ても立っても居られなくなり、僕はパソコンでこんなことを検索していた。
《自分を見た》
出てきた単語は『ドッペルゲンガー』と呼ばれるものだった。自分のドッペルゲンガーを見るのは死が近づいていることを示すと書いてあった。
「僕は……死ぬのか?」
そう呟いた時だった。
ゴンゴンゴンッ! とドアを叩く音。
「……だ、だれだ!!」
怖がりながら枕を持ちゆっくりドアを開けると、母さんが呆れた顔で僕を見た。
「なにやってんの。お風呂できたから入りなさい」
それだけ言うとスタスタと階段を降りていった。
「なんだ……脅かさないでくれ」
ホッと息をつくとお風呂の準備をし、そこへ向かった。
お風呂にゆっくり浸かっているとなんだか怖くなってくる。もしかするとここで殺されるんじゃないかとそんなことを思うとじっとはしていられなかった。
お風呂場で歯磨きまでを済ませ、リビングへ戻った。
母さんがタバコを吸いながらテレビを見ている。
『オススメ! 心霊スポット! 貴方も霊が見えるようになります』
なんて不気味な番組を見ているんだ。僕はため息をつき、冷蔵庫からお茶を取り出し自室へ行こうとした。
「そいえばあんた」
「ん?」
「母さん公園にいったかって聞いたわね」
「それが?」
「母さんのドッペルゲンガーかもしれないわね」
「そんなはずない」
そう言い残すと僕は自室へ戻った。どうせあの番組でやっていたんだろう。
お風呂で散々考えたのに、母さんまであんなこと言い出したら決定じゃねえか。
あれは僕らの……"ドッペルゲンガー"だったんだ。